将棋名人戦開催の舞台裏──「コロナの影響は?」「開催地はどうやって決めてるの?」朝日新聞社の”中の人”にタイトル戦運営の裏側を聞いてみた
なぜ技術系社員が囲碁将棋に関わろうと思ったのか?
──それではここで、どうして桑高さんが囲碁将棋に関わることになったのかをおうかがいしたいと思います。最初から企画部にいらっしゃったわけではないんですよね?
桑高:
そうですね。入社したのは、技術職としてなんです。
──技術職?
桑高:
技術者の枠には、いろいろあるんです。たとえば印刷機を扱ったり、編集システムを作ったり。それ以外にもいろんなシステムがあるんですが、私の場合はその中でも社内の経理システムとか人事とか。いわゆる『管理』に関するものですね。
──へぇぇ~!
桑高:
今でこそ様々なパッケージが……たとえばサイボウズさんとかありますが、そういうのを自社で作っていた時代でした。IBMのサーバー室に入って作業する……みたいなことをやったりしていたんですよ。
──我々がイメージする新聞社のお仕事とは、かなりかけ離れています! そういえば、桑高さんのツイッターでは囲碁AIの話題なんかも出てきますよね? それはやっぱり技術畑出身だから?
桑高:
と、いうのもありますし……私はもともと大学のときに情報工学をやっていたものですから。ニューラルネットワークを扱っていて。
──え!? まさにそれ、前回のインタビューで囲碁棋士の大橋拓文六段からお話をうかがったとこですよ!
※ニコニコニュースオリジナル「いま囲碁界で起きている”人間とAI”の関係──「中国企業2強時代」「AIに2000連敗して人類最強へと成長」将棋界とは異なるAIとの向き合いかた」2021年2月25日掲載。
桑高:
当時は並列計算といっても、CPUがそんなにたくさんあるわけではないので。どうやって並列化するかというところからでした。そこでGPUを使うと、画像処理にはいいので、それを使えないのかな? みたいな話が出てきていた頃でしたね。
──へぇ~! へぇ~! へぇ~!!
桑高:
私個人としては、CPUを500個くらい積んだ特殊な『ニューラルネットワークの学習専用コンピューター』みたいなのがあって、それを任されて、シミュレーションを走らせて……みたいなことをやっていましたね。
──そうだったんですね! ではそういった技術を活かせる職場を選ばれた中で、朝日新聞社さんに?
桑高:
昔から、活字も好きだったんです。だから活字媒体と関わることができて、さらに技術も活かせて……というところです。
──そこで経理のシステムなどを作っておられたのに、どうしてまた囲碁将棋の企画をする部署に移られたのですか?
桑高:
たまたま……なんですけど、社内で公募があったんです。将棋の名人戦を毎日さんと共催することになったから、そういうのに興味がある人いませんか? という。
──将棋界における平成最大の事件『朝日・毎日名人戦問題』が、桑高さんの人生にも影響を与えていたとは……!
桑高:
その頃、私も技術者として10年くらいやっていて……。
──ひと区切りついた感じですか?
桑高:
囲碁にハマッていたんです。『ヒカルの碁』で囲碁を覚えて。
──ヒカルの碁で!?
桑高:
いろんな人と対局するのが楽しくて。『こういう世界も面白いな』と。しかも技術者って、棋士と似たところがあるとも思ったんです。一つのことにのめり込むところとか、探求していく姿とか。
そういう人々と関わり合いが持てるのであれば……それはとても貴重な経験になるのかなと。そういう部分で、社内公募に応じたということです。
──ヒカルの碁で人生が変わったわけですね! それで……いかがでした? 飛び込んでみた囲碁将棋の世界は?
桑高:
ぜんぜん別の会社に転職したって感じでしたね。
──以前の部署では、記者の方々ともそんなに関わっておられなかった?
桑高:
実は……村上記者ってご存知ですか?
──はい。村上耕司さんですよね。朝日新聞さんの将棋の署名記事でよくお名前を拝見します。
桑高:
村上は私の先輩なんですが、同じ技術職だったんです。もともと将棋部なので、技術職から取材記者になっていて。だから『村上さんもいるし、大丈夫だろ』と(笑)。
──とはいえ、棋士の先生方はどなたも個性的というか、キャラが立ったというか……。
桑高:
当時はまったく知らなかったんですが、どなたも本当に魅力的な方が多いですよね。
──将棋界全体としても、独特の仕来りというか、なかなかそういうものに慣れるのは大変だったのでは……?
桑高:
とはいえそれは技術者も同じようなものですからね。
──なるほど! 確かにおっしゃるとおり(笑)。
桑高:
大学の頃から接していた技術者の世界に、とてもよく似ていたんです。だから違和感はあんまりなかったですよね(笑)。
そもそも囲碁将棋の世界に興味を持っていたので。知識は後からいくらでも付けることができますから。
──ではそうやって桑高さんが囲碁将棋に関わるようになられてから、ファンの変化というのはお感じでしょうか?
桑高:
それはもう! 私は2007年からこの業界に入りましたが、その頃はやっぱり、大盤解説をしていても、いらっしゃる方々は高齢者の方が多かったです。ご夫婦でいらっしゃっても、奥様は『外で待ってますよ』『あなた勝手にやっててね。私は食事でもしてくるわ』みたいな感じで。
──なるほど。
桑高:
それが、いつの頃からか……女性のファンが増えてきて。今やそれこそ、名古屋の朝日杯なんかは半分くらい女性なんじゃないかと。そういう意味ではすごく変わってきていますね。
──ファンの年齢はいかがですか?
桑高:
いろんな世代がいますね。若い世代や中年、高齢の方々もいらっしゃいます。幅広くなったという感じですね。
──昔は高齢者の、しかも男性だけだった。しかし今は老若男女が訪れるイベントに変わったわけですね。ではその変化したファン層に合わせて、イベント内容も変えたりなさっているのでしょうか?
桑高:
ファン層が変わったからといって、大盤解説会でやれることといえば『次の一手クイズ』とか、そういうことになりますし……そもそもお客様が求めてくることは変化していないと思います。ただ、次の一手クイズでも、問題を少し易しくするとか。
──昔は高段者が多かったから、難しい問題にしないと文句が出たんですよね(笑)。
桑高:
そうそう(笑)。簡単すぎると『そんなのわかってるよ!』と言われちゃいましたが、今は初心者の方々でも楽しめるように考えています。それこそルールもわからないような方もいらっしゃっているので、じゃんけん大会にするとかもアリなのかなと。
──囲碁と将棋で、ファン層の違いはあるんでしょうか?
桑高:
確実にあると思いますね。
──確実に……!
桑高:
将棋のファンって、プレーヤーじゃなくてもいいんです。『観る将』の皆さんがそうだと思うんですけど。
──確かに。私もそうですもん。
桑高:
囲碁のファンって、プレーヤーが多いんですよ。明らかに。なので、なかなか増えない。
──プレーヤーじゃないと、盤面を見てもわかりづらい……ということなんでしょうか?
桑高:
だと思います。パッと見たときに、将棋だと『王様を詰ます』ゲームなので、王様が攻撃を喰らってるかどうかでだいたいわかるじゃないですか。詰みがあるかどうかはわからなくとも、なんとなく形勢はわかる。
──はい。
桑高:
それに対して、囲碁は陣取りゲームなので、パッと見てもよくわからない。しかもコウがあったり……盤面が行ったり来たりするし。『あれ? こっちで戦ってたんじゃないの!?』ってなったり、後から『ここが勝負の分かれ目だった』とか言われてもよくわかんないし!(だんだんテンションが上がってくる)
──はぁ~……(この人、ほんと囲碁好きなんだな……)。
桑高:
あと、もう一つゲーム性の違いがあるんです。将棋は終盤に行くに従って、手の価値が大きくなるんです。
──終盤に行けば行くほど、一手でも間違えれば詰みが生まれる。なので将棋は時間の経過と共に緊迫感が増していきます。
桑高:
そうそう。でも囲碁は、最初に打つ手の価値が一番大きい。最初にだいたい(価値の大きい手は)終わっちゃってるんです。そして最後に行けば行くほど収束していく。
──はい。
桑高:
その収束が、接戦なら面白いんですよ。でもその面白さを理解するためには、知識が必要なんです。
──だから囲碁のファンはプレーヤーが多いと。
桑高:
そこの違いかなとは、昔からよく言われてることですね。
──イベント事として見た場合、盛り上がるのは最後までハラハラできるほうですよねぇ。
桑高:
ですね。だから囲碁でも最後まで接戦なら盛り上がりますし、あとは大石を殺し合う場合。それは将棋とも似たような感じになりますね。でも……目数計算だけしてるような場合は……。
──大盤解説でも、会話が止まっちゃうような感じに……。
桑高:
そこでじゃあ、どうやって盛り上げたらいいのか? というのは……難しいところはありますね。
──十五年くらいやってても、そこをどうにかするのは難しかったと。
桑高:
それに大盤解説会というのは、棋士の方々にやっていただいている世界ですから。我々から口を出すのは……。
──はばかられますか。
桑高:
『こんな感じでお願いできますか?』と方向性を示すことはできるんですが……『そうは言ってもねぇ』となることもあります……。
──私は囲碁のイベントにお邪魔したことはないんですが、大盤解説はたまにネットで拝見しています。けっこう将棋とは雰囲気が違うんだな、と感じました。
桑高:
でもトークは両方とも面白いですよね!
──そこは異論がありません(笑)。
ネット時代を先取りしていた朝日杯
──これまで企画してこられた中で、これはいい企画だったというものはありますか?
桑高:
成功例というと、やはり朝日杯ですね。私が入ったのはちょうど『朝日オープン将棋選手権』の最後の年で。
──当時は準タイトル戦という扱いで、決勝は五番勝負でした。藤井二冠の師匠である杉本昌隆八段が決勝まで進んだこともありましたね。
桑高:
当時の棋戦は、長時間しっかり戦うものがメインでした。しかし朝日杯をリニューアルした頃って、ちょうど棋譜中継の黎明期でもあったんです。
──『日本将棋連盟モバイル』が2010年からですが、それより前に朝日杯は2次予選から全局ネット中継という革新的な試みをしていらっしゃいました。
桑高:
これからは確実にネット中継が盛り上がるだろうと。だから『ネットで見ていて楽しい棋戦』というのが、朝日杯のコンセプトになりました。
──当時すでにネットでの盛り上がりを想定していたんですか!? そういえば昔の朝日杯の観戦記って、無料で全文読めましたよね。
桑高:
そうです。紙面に掲載する観戦記は、順位戦と名人戦のものがありました。となると朝日杯はネットで掲載しようと。ネットで中継が楽しめるものとなると、やはり持ち時間は短い方がいい。
ただ当時、早指しというとNHK杯のように秒読みが30秒のものが多かった。30秒だと間違える確率が大きくなりすぎるので、そこは1分にしようと。そうして生まれたのが、今のバランスです。
──そこまで考え抜かれていたんですね……。
桑高:
しかも、公開にしたいというのもありました。そうすると……人間の集中力は映画1本分くらいしか続かないだろうと考えると、1局だいたい2時間前後。それでちょうど終わるような感じで設計しました。
──指すほうではなく、観るほうのことを徹底的に意識して作られた棋戦が朝日杯だったんですね! 今のお話をうかがうと、藤井二冠が朝日杯で注目された理由が、よくわかります。必然だったんですね……。朝日杯というと、アマチュアと若手プロが一斉に対局するところも見所です。
※朝日新聞デジタル「藤井五段初優勝、朝日新聞が号外 朝日杯将棋オープン戦」2018年2月17日掲載。
桑高:
あれもコロナ禍で公開できなくなってしまって悲しいんですが……ああいうプロとアマの対局が身近に観られるというのは、見た人にとっても印象に残ります。そして何より対局者にとっても『あれは緊張しました!』『あれは憶えてます!』と後になってからもプロから言われますし。
──それこそ、今期の名人挑戦を決められた斎藤慎太郎先生も、朝日杯でアマチュアに敗れたことがトラウマになり……翌年はそれを克服するために、ヨーグルトしか食べずに体調を整えてリベンジを果たすと。そこまで追い込まれる棋戦というのは、なかなかありませんよね?
桑高:
そうなんですよ! プロ入り直後にある対局で、しかも公開で、相手もアマチュアで……負けられないというプレッシャーのなかでプロは戦う。逆にアマチュアは、勝てば『やったー!』って感じですし、会場はみんな味方だし(笑)。
──最強アマ軍団VS若手プロ集団の団体戦みたいな雰囲気になりますよね! それこそ朝日新聞将棋取材班の記者の方々は学生将棋で活躍した方もいらっしゃいますし、『今年はアマが○勝!』みたいな感じで記事も盛り上がってます(笑)。
桑高:
その年のアマチュアとプロの力の差を確認するバロメーターのような役割を果たしているので、それを楽しみにしている方々もいらっしゃいますね。
こんな時代だからこそ
──ここからは、新聞社の変化ということについてうかがいたいのですが。
桑高:
はい。
──将棋の対局という、価値を決めづらいものに『契約金』という形で金額を示してこられたのが新聞社さんだと思います。さらに現在では、新聞紙面に掲載されない部分……ネット記事だったり、動画配信といった新しい試みにも踏み込んでおられます。
桑高:
ええ。
──どうしてそこまで囲碁将棋のために尽くすんでしょう? 言い方は悪いんですが……そこまでの利益を新聞社にもたらしているとは思えないんです。むしろ、負担になっているんじゃないかと……イベントの規模も、コロナ禍ではかつての半分以下になってしまっていますし。
桑高:
新聞社が今後もずっと囲碁将棋を支えていけるかはわからない部分があります。ただ少なくとも、我々が目指しているのは……今、藤井二冠の活躍などによってここまで大きく注目していただけるせっかくの機会なわけですから、これを少しでも広げていくことができるような活動をしていきたいと考えています。
その一環として、朝日新聞デジタルに囲碁将棋のためのページを作っていますし。あとはYouTubeで『囲碁将棋TV』というチャンネルを作って、裏側も見せられるような動画を配信して……それこそ記者が手弁当でやっているようなものなので、映像のプロから見たら足りない部分はあるとは思うんですけど……。
できる範囲の中で、我々の手が届く範囲で、いったい何ができるのか。それを日々、探しながらやっているという感じですかね。
──桑高さんは今回、在宅勤務中にリモートで取材を受けてくださいました。コロナ禍で在宅勤務なども増えていくかと思うのですが、そういった新聞社の社員の働き方そのものが変わっていく世の中で、囲碁将棋との関わり方というのも変わっていく部分が発生するのでしょうか?
桑高:
うーん……我々新聞社の者は昔から『出かけるときはカメラを必ず持て』と言われてきたんですよ。
──カメラを?
桑高:
デジタルカメラになる前から言われてきたんです。写真というのは、その場にいないと撮れない。そして、事件の現場に出くわすのは、いつ誰がそうなるかはわからない。もしそれを撮影したら、近くの支局に飛び込んで、それを渡せと。それが大きなニュースに繋がるかもしれないからと。
──ははぁ……。
桑高:
記者じゃなくてもそう言われてきたんです。今やそれが世の中みなさんスマホに搭載されたカメラを持っていらっしゃる。だからそういう意味では……ようやく世界が追いついてきたのかな、と(笑)。
──はははは! でも確かにそう考えると、新聞社の方々が最も輝ける時代が来たと捉えることもできますね。
桑高:
あんまり言うと不遜な感じがしますけど(苦笑)。
──桑高さんはSNSでイベントの裏側の写真や、棋士のイラストをアップしておられます。しかし囲碁将棋以外にもたとえば大河ドラマの『麒麟がくる』や『青天を衝け』のイラストをアップしたりリツイートしたりと、別の世界とも繋がろうとしておられますよね。
桑高:
ああ、はい。そうですね。
──そういった囲碁将棋以外の世界と繋がり、そこで何が求められているかを感じ取られて、これまでとは意識が変わってきた部分はあったりしますか?
桑高:
う~ん……フォロワーが増えてくると、ヘタなことは言えないなという緊張感はありますけど(笑)。
──はははは!
桑高:
もともとそんなに変なことを言ってないと思うので、大丈夫ですけどね。
──何を申し上げたいかと言うと……これまで新聞社さんが開いておられた将棋のイベントだと、運営側の顔がファンからは見えないというところがあったと思うんです。
桑高:
ああ、そうですね。
──けど、SNSを始められたことで、囲碁将棋の関係者だけではなく、ファンと直接繋がることができるようになった。そういう変化があったのではないかなと思ったんですが……。
桑高:
もともと私は、基本的に現場主義というか……大盤解説にいらっしゃったファンの方とはできるだけ喋るようにしているんです。たとえば下見に行っているときに、よく大盤解説に来られる方が通りかかって『おっ! 何してんの?』と声をかけていただいて……そのまま現場まで乗せていってもらったり(笑)。
──ははは!
桑高:
そういう方々との関わり合いというのは、常に大切にしてきたので。それがSNS上になっても、基本的には変わらないです。ただ、SNSにはとてもいろいろな方がいらっしゃるので、みなさん全員の声に応えることができるかはわかりませんが……。
そもそも私自身が観る将や観る碁の一人なので。そういった自分を発信していくことで『みなさんと同じ目線で運営していますよ』ということが伝わったらと思っていますね。皆さんと一緒にやっていけたら、と。
──ありがとうございます! あの……こういうインタビューって、けっこう珍しいと思うんですよ。
桑高:
そうですね。聞いたことがないので……私も、こんな中の人が出ていいんだろうかと広報にお伺いも立てたんですが……『いいよ!』って言われて。
──こんな時代だからこそ、距離を縮める方法があるんじゃないかなと思ったんです。それで企画させていただいたので。だからぜひ、桑高さんから将棋ファンにメッセージがあれば、おうかがいしたいなと。
桑高:
そうですね……私たちからファンの方々に求めることって、実はそんなになくて。様々なチャンネルがあるので、ぜひいろいろなところで楽しんでいただきたいと。そういう強い思いがあります。
──なるほど……。
桑高:
囲碁将棋の楽しみ方っていろいろあると思うので。最近すごく増えているのは、私のようにイラストを描く人。こういうムーブメントは、すごく楽しいなと。
──これまで、こういうイラストを見せ合う場というのは将棋雑誌など限られたスペースしかありませんでしたが、SNSの発達で気軽に発表できて、さらにファン同士で繋がることができるようになった。それは大きいですよね。
桑高:
どこかでまとめて発表できる場が作れたらなぁ……と思うんですけどね。クリアしなければならない問題はありますが、どこかの棋戦の1コーナーで『ここに飾るからみんな投稿して!』とかやれたら楽しいかもしれません。
──桑高さんのイラストのように朝日新聞デジタルに掲載されるとしたら、ファンも気合いが入るでしょうね!
桑高:
個人的には、久保ミツロウ先生を名人戦にお招きしたいんですけどねぇ。豊島竜王ファンであることを最近隠していませんし(笑)。
──メディアにはよく出ておられますが、ガチな将棋ファンなので『ひっそり応援したい!』と思っておられそうですよね(笑)。桑高さんは今後も棋士のイラストを描いていかれるんですよね?
桑高:
イラストは、まだまだ自分はヘタだと思っています。描くたびに新しいことに気づく世界なので、今後も描き続けていきたいと……描いていると、それまで知らなかったその人の仕草や、雰囲気にも気づくことができますから。そういうところをもっと表現していきたいと思います。
──あの、私……たとえば棋士の先生の記事を書いた後、ちょっとその先生には会いづらいなと思うことがあるんですよ。
桑高:
はい?
──でも桑高さんは、佐藤会長が丸太を振り回すイラストを描いた直後に、打ち合わせとかで佐藤会長と会ったりするわけじゃないですか。そこが凄いなと思うんですが……。
桑高:
見せますもん!『これ描いたんですけど大丈夫ですか?』って(笑)。
ということで、ペン入れ&着色😆#イラスト #一刀両断 #佐藤康光 #豊島将之 pic.twitter.com/jBlYpDdo9X
— 桑高克直(くわっち) (@shallvino) February 4, 2021
──はははは! マジですか!?
桑高:
イラストを描こうと思ったときに、YouTubeとかで描き方を勉強したんです。そしたら『発表することを念頭に置きましょう』っていうのが上達の秘訣だと。じゃあ本人に見せたほうがいいな、と。
──確かにそうですけど!
桑高:
皆さんにちゃんと見せてますよ。事後だったりしますが。
──反応はいかがですか?
桑高:
撮られることはあっても、描かれることは少ないみたいで。皆さん喜んでくださいます。だから私もいい気になって……(笑)。
──今後も『くわっち』のイラストが楽しめそうですね! そうやって新たな楽しみが生まれていくのは、ファンにとって純粋に嬉しいですよ。
桑高:
そうですね。記者だけではなく、私のような『中の人』が個性を発揮して、盛り上げていく時代になったのかなと思います。読売新聞さんの若杉さん(※若杉和希カメラマン)みたいに写真集を出される方もいらっしゃいますから。
──竜王戦のあの写真は素晴らしいですよね!
桑高:
ああやってキャラクターを立てることで、それを目当てに新たなファンが来てくれる。その一助になれたらなと。
──『くわっち』に会いに名人戦に行こう!
桑高:
イベントで気軽に声をかけていただければと思いますし、SNSでも絡んでいただければと……答えづらい質問には、スルーさせていただくこともありますけど(笑)。
──そのスキルがある人には、本当に安心して声をかけられます(笑)。次はぜひ、リモートではなく名人戦で直接お目にかかれたら嬉しいです!
今年も予定通りならば4月7・8日に、『ホテル椿山荘東京』で名人戦が開幕します。
表面上は、これまでと同じ状況に戻ったように見えます。
ですがコロナ禍を経て、世界は大きく変化しました。
感染症という見えないリスクはまだ確かに存在します。
そのリスクを減らすことができるのは、運営側の対応はもちろんですが……最も大切なのは、私たち将棋ファン一人一人の意識と行動。
大げさに聞こえるかもしれませんが、そういう意味では、これまで『お客さん』であった私たちも、運営する側に立っていると言うことができます。
今回のインタビューは、桑高さんも私も、自宅からリモートで行いました。
もしコロナ禍がなければ、私が築地の朝日新聞本社まで行っていたでしょう。インタビューをするハードルはもっともっと高かったと思います。
コロナ禍を経て、世界は、囲碁将棋界は、大きく変わりました。
失ってしまったものはあまりにも大きくて、それは決して取り戻すことができないものかもしれません。
しかし取り戻すことができないからこそ……私たちは前を向き、別のものを探し求める必要があるのだと思います。
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