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人間にうまく負けるためのゲームAIはいかに開発されているのか。将棋、囲碁、麻雀などの定番系ゲームを手掛ける開発会社に聞いてみた

 どんどん強くなる将棋AI。
 あの藤井聡太二冠ですら「ソフトと対戦することはありません」と発言し、人類VSコンピューターという構図は過去のものとなった観があります。

 ですが一方で、人間と戦い、そして負けることを目的とした将棋AIもあります。
 それはゲームソフトとしての将棋AIです。

 弱すぎてもダメだし、強すぎてもクリアできないから面白くない……そんなユーザーの要望に応え、家庭用ゲームソフトとしての将棋AIを20年以上作り続けている会社が、なんと岐阜にありました。私の実家から車で40分くらいの場所に……。

 『超速3七銀戦法』で升田幸三賞を受賞したプロ棋士の星野良生五段を正社員として登用した会社と言えば、ピンとくる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 しかもその会社は……12月17日に発売となる『りゅうおうのおしごと!』のゲームにも将棋エンジンを提供してくれているというではありませんか! これは話を聞くしかない!

 そんなわけで今回は、株式会社シルバースタージャパンさん(以下SSJ)の山本成辰社長にインタビュー!

 将棋だけではなく、囲碁、麻雀、ポーカーなどなど『定番系』といわれるゲームを幅広く扱うSSJさんからうかがった話は、どれも衝撃的でした。

『発売初月よりその後のほうが売れる!?』
『藤井ブームで囲碁ソフトが売れた!?』
『一発ネタで出した将棋ゲームがなぜかeスポーツに!?』

 超ニッチな定番系ゲームの世界で何が起こっているのか!? そもそも将棋ゲームって儲かるのか!? 約2万字のロングインタビューで語っていただきました。

取材・文/白鳥士郎

定番系、とは?

──本日はよろしくお願いします! 実は以前、別件でお打ち合わせさせていただいた際にうかがったお話が非常に面白かったので、こうして記事にさせていただけるタイミングを探っていました。

山本:
 こちらこそお願いします。

──あの、しょっぱなから恐縮なんですが……将棋のゲームソフトって儲かるものなんですか!?

山本:
 そ、そう……ですねぇ。うちはいわゆる『定番系』のソフトを扱っていまして。

──定番系?

山本:
 将棋だけではなく、囲碁、チェス、麻雀、リバーシ、ポーカー、花札等々ですね。そういった定番の中では、将棋ゲームというのは1~2番目のシェアを持っています。

──その定番系といわれるソフトを買われる方々は、かなり多いんですか?

山本:
 正直、多いとは言えないです。定番系という言葉のゆえんがですね、『一定数のファン層が必ずいる』という意味合いになります。

──ほうほう。

山本:
 なので将棋のゲームソフトは、発売すればその層の方が必ず買ってくださるというような感じのソフトになります。

──要するに、発売さえすれば一定の売り上げが見込めるということでしょうか?

山本:
 そうですね。他の大きなゲームのように、たとえばミリオンセラーとかそういう売れ方をする市場ではないんですが……一定の数は買っていただけるので『損をしにくい市場』といえるかと思います。

──たとえば、任天堂さんが新しいハードを作るとしたら、『じゃあ定番系はSSJさんに作っていただいて……』となるわけでしょうか?

山本:
 おかげさまで会社設立からもう24年目になり、将棋ソフトだけでも20年以上やってる関係でですね、そういうお話はあります。

 うちがSSJ製のソフトとして発売している商品の他に、他社さんからのご依頼で作ったりするソフトもありまして。コンシューマー機に関しては、将棋ゲーム全体の8~9割方はうちが作っております。

──じゃあ、新しいハードが出るたびに必ず儲けが出るシステムなんですね!

山本:
 100パーセントというわけではないんですが、その可能性が高いと……でも、儲かるというよりは『損をしない』という表現のほうが正しいと思います(苦笑)。

──最近もPS5とか出ましたし、お忙しいんじゃないですか?

山本:
 いやいや。ただ、昨今の将棋ブームほど……いわゆる『藤井ブーム』ほど、いろんな会社さんからソフトの開発を依頼されたことはないですね。

──うちの作品(『りゅうおうのおしごと!』)もお世話になってしまって……。

山本:
 ふふふ。

──やっぱり藤井ブームは大きかったですか?

山本:
 そうですね。20年の中で、これだけ空前の将棋ブームだと思ったのは初めてです。

──既に発売していた銀星将棋の売り上げも増えたんですか?

山本:
 はい。これも定番系の特徴なんですが……極端に上がったわけではないんですが普段の売り上げよりは上がってますね。

──最近はダウンロード販売もありますよね? そこも伸びてますか?

山本:
 昔と比べると、そうですね。将棋ソフトはどちらかというとパッケージで買われる方が多かったんですが。

──定番系のソフトの中で、売り上げ的に最も大きいのはどれになるんでしょう? 将棋、囲碁、チェス、ポーカー、リバーシ、大富豪……。

山本:
 会社さんによって違うと思うんですけど、うちの場合は囲碁ですね。

──囲碁が! そうなんですね。私も実は、スーパーファミコンで囲碁のソフトを買ったりしてました。『ゴライアス』とか。将棋は買ってなかったんですけど(笑)。

藤井ブームで囲碁ソフトが売れた!?

──パッケージ版を発売してから、動きがある期間(売れ続ける期間)っていうのは、どのくらいになるんでしょう?

山本:
 一般的なゲームは、発売初月での売り上げがほとんどなんですが……。

──そんなもんですよね。書籍の世界でも発売後2週間が目安です。

山本:
 初月がダメなら失敗、という感じなんですが、でも将棋ゲームはその後が重要なんです。ちゃんとしたものを作れば、その噂を聞いて買っていただけると。だから長く売れ続けるという特徴があります。

──そうなんですか!?

山本:
 ですのでプラットフォームのローンチに合わせて発売するようにして、少しでも長く売り続けるのが大事だと思います。

──販売期間が長ければ長いほどいいんですね! それは……たとえばおじいちゃんとかが評判を聞きつけて、プラットフォームごと買ってくれたりすると?

山本:
 そういうこともあるかもしれませんし、『将棋ソフトには当たり外れがあるから、評判を聞いてから買おう』という方が多いのかもしれません。

──藤井ブームの前後で、購入層の変化なんかはありましたか?

山本:
 そうですねぇ……将棋ソフトの売り上げは、うちの場合だとせいぜい10~15%くらいの伸びでしたけど、やはり多かったのは『うちも将棋のゲームを出したい!』という引き合いがものすごく増えたことですね。あとは……。

──あとは?

山本:
 囲碁ソフトの売り上げが伸びました。

──え!?

山本:
 将棋ブームが来たら『将棋はわかんないけど、囲碁はわかるから久々にやってみるか』と。特に『ヒカルの碁』を小学生の頃に読んでた人たちがいま30代なので、その人たちが『もう一度やってみるか!』と。

──もともと売れてる囲碁ソフトが、さらに売れてしまった! じゃあ今回の藤井ブームで将棋を覚えた子供たちが、20年後くらいに囲碁ブームが来たら『将棋ソフトでも買ってみるか』となるかも?

山本:
 ああ、そうですね(笑)。

──ボードゲームを両輪でやっていくのは、そういう面でも強みがあるんですねぇ……。

山本:
 ルールが不変だと、そういうことも起こり得ますね。

石の心がわかってない!?

──しかし20年で一番の将棋ブームが来たとなると……やっぱりかなり稼いでおられるんじゃないですか? 東京にも営業所をお持ちで、しかも新たに名古屋にもオフィスができたってご連絡いただきましたし。

山本:
 いえいえ。他社の方からも『儲かってるんだろ?』みたいなことを聞かれるんですが、先ほどお話しさせていただいたとおり『損をしにくい』タイトルなので。それを20年以上続けてきて、それが少しずつ少しずつ積み重なってきた……という。

──ソフト開発の技術力もさることながら、販売のノウハウだとか販路だとか、そういうものが積み重なってきたと?

山本:
 ええ。少しずつ利益が積み重なってきて、貯蓄が貯まってきたと。

──『よいゲームを作れば長く売れる』ということは、裏を返せば『よいゲームを作らなければ全く売れない』ということだと思うんです。

山本:
 そうですね。

──そしてゲームソフトとして成立するためには、やっぱり人間が攻略可能でないといけないと思うんですが……その辺りは、どのような工夫をなさっておられるのでしょうか?

山本:
 ゲームってやっぱり、達成感が大事だと思うんですね。簡単にクリアできてしまっても面白くないですし、いくら頑張ってもクリアできないというのも……まあ昔のゲームはそんなのもありましたが(笑)。

──いっぱいありましたね(笑)。

山本:
 あの時代はあれでよしとされてたので(笑)。でも最近は、クリアできないゲームというのはよろしくないという風潮なので。それは将棋というゲームでも同じと考えていて。

──はい。

山本:
 たとえばリアルの将棋でも、上手(うわて。段位が上)の人がバカにしたような手を指すと、やられるほうは腹が立つじゃないですか。

──あれイラッとしますよね! わざと手を抜かれると、負かされるより腹が立ちます。

山本:
 そうなんです。明らかに『俺のことバカにしてんのか!?』くらいの手を指されると腹が立つんですが……AIも読みを浅くすると弱くなるんですけど、そうすると王将を右にやったり左にやったりと、バカにしたような手を指すようになるんです。

──玉の反復横跳び! ありますねぇ。ゲームではけっこう見る印象です。

山本:
 そうすると、遊んでくださってるお客さまも『面白くない』となってしまう。

──そうならないために、どんな工夫を?

山本:
 なので、うちの会社では、昔の将棋エンジンを大切にしています。

──弱かった頃の将棋AIを? ……あっ! そうか!! それだったら『弱いけど必死にやってる姿勢』を表現できるんですね!?

山本:
 そうそう! そうですそうです。それだと悪手を指すにしても、手を抜いてるわけじゃない。当時の技術力で一生懸命考えてる結果なわけですから。いい手も指すけど、たまにとんでもない手も指すと。

──あぁー……なるほど。そこが絶妙なゲームバランスになってるんですね。それは確かに今の技術ではむしろ再現が難しいのかも……。

山本:
 そういう昔からのエンジンを取っておいて、弱いソフトにはそれを入れたりだとか。あとは、最近はもうAIが強くなってきたので、形勢判断が非常に正確にできるようになりました。だからその形勢を見て、優勢になりすぎたら途中で少し形勢を損ねさせるとか。

──銀星将棋は、自分が指した将棋の解析をしてくれるんですよね。あと、駒落ちモードもありますが、そちらはどうでしょう?

山本:
 駒落ちはですねぇ……昔は駒落ちの定跡を採用したこともありましたが、今はAIにそのまま考えさせています。だから人間ほど(指し手に)差が付かないかもしれませんね。お客さまから要望があれば、駒落ち用の定跡を搭載することも可能なんですが……。

──お客さんからのレスポンスというのは、けっこう来るんですか?

山本:
 ありがたいことに、ちゃんと葉書でいただくことが多くて。

──やっぱり! 達筆のお葉書がたくさん来るイメージです。どんなご意見が多いんですか?

山本:
 昔はお厳しい言葉もありました。『こんな弱いもの売るな』とか。将棋だったら『将棋がわかってない』と。囲碁だと『石の心がわかってない』とか……。

──石の心が!?

山本:
 コンピューターですから石の心はわからないです(苦笑)。

──人間でも大多数はわからないですよ。石の心は……。

山本:
 そういうのもあったんですが、最近だともうそんな意見はなくて。どちらかというと感謝のお手紙をいただくことのほうが多いです。

──やはりそれは、強くなったというだけではなくて、温かみのあるソフトになっているからというか……石の心がわかりはじめたから?

山本:
 石の心がわかったかまではわかりませんが(苦笑)、やっぱり……囲碁将棋が好きな方って、自分が強くなりたいという方が多いので。『教えてもらえる』ということを非常にありがたいと思ってくださっている方が多いですね。

──私なんかだと『人間には勝てないから弱いソフトをボコボコにしてやろう!』みたいな感じでプレーすることもあるんですけど……。

山本:
 うちは廉価版で弱いソフトも販売しているんですが、そちらを買われる方は、そういう傾向がありますね。

──あっ(安心)。

コラボしても売り上げは増えない!?

──コンシューマーで発売された将棋のソフトだと、たとえば『内藤九段将棋秘伝』に始まって『谷川将棋』とか『最強羽生将棋』とか、棋士の先生方とコラボした作品が多かった印象があります。最近だと、藤井聡太先生の……。

山本:
 ええ。ありますね。

──あれ、プレーされましたか?

山本:
 もちろんです。大変面白く遊ばせていただきました。あれは普段、将棋ゲームではなく普通のゲームを作っていらっしゃる方々が出されたものなので、新鮮に感じました。

──ルールを憶えたりする部分が充実していましたよね。あとは藤井先生の声とか立ち絵とかがふんだんに使われてて……『ギャルゲーみたいだ』と話題になったり(笑)。

山本:
 話題性もあって、よく売れているとうかがっています。プロモーションにも力を入れておられましたし、開発費も相当なものだったと思うんですが……将棋ゲームの市場規模を肌身に感じてる者からすると、かなりの冒険だったんじゃないかなと。

──藤井先生が活躍することで売り上げもアップするとか、そういうこともあるんでしょうか?

山本:
 どうでしょう? 昔から棋士とコラボしたタイトルはありましたが、爆発的に売れたという話は聞きません。たとえば羽生先生が本気になって開発に取り組むとかそういうことなら話は別なんでしょうけど……。

──二極化してましたよね。パッケージに棋士の写真があるソフトか、将棋駒の写真に毛筆で『○○将棋』って書いてあるだけみたいな……そういえばSSJさんはストイックというか、コラボは少ないですよね? 銀星将棋もキャラクターみたいなのは出てきませんし。

山本:
 うちがそんなに開発にお金を掛けられないというのもあるんですけど(笑)。たとえば『ハチワンダイバー』とコラボしてみたりとか、かわいい二次元の女性を使ってみたりとか、何回かやってみたことはあるんです。

──ほほう。どうでしたか?

山本:
 結果的に、銀星将棋と売り上げがあんま変わらなかったんですよね。

──ええ!? ハチワンダイバーのゲームって、けっこうプロモーションもしてましたよね? 藤田綾女流二段がメイドのコスプレして原作者の柴田ヨクサル先生と対局したり……。

山本:
 売れなかったわけではないんです。ただ、そうしたからといって倍売れるとか、そういうこともなくてですね。『将棋ファンの方ってそういうものなんだな』と。

──ストイックなんですかね? とにかく将棋エンジンの出来がよければそれでいいと。

山本:
 うちのソフトの場合はそうだ、ということなのかもしれないですけど。だから今回、エンターグラムさんが出される『りゅうおうのおしごと!』のゲームも、どれくらい売れるのかは非常に私も興味がありまして。

──私もあります(笑)。

山本:
 うちから出したら難しいと思うんですけど、エンターグラムさんはアニメゲームが中心で、そこにうちの将棋エンジンを使っていただいたわけで。それがどうなるかは本当に楽しみです!

──最近発売なさった『香川愛生とふたりで将棋』は、御社としては珍しく棋士の先生とコラボされたものだと思うんですが、そちらはいかがでしたでしょう?

山本:
 今はまだPC版のみの発売なんですけど……実は、PCでの将棋ソフトの売り上げというのは、そもそも市場として良くなくてですね。そういう状況の中ではよく売れていると思います。

変化するAIの役割

──PC版の売り上げが伸びないということは、やはり無料の将棋ソフトがいっぱいあるからなんでしょうか?

山本:
 うーん……多分そうだとは思うんですけども、無料のソフトって動かすまでが大変で。それを自力で解決できる方にとっては、無料のほうがいいんでしょうね。

──ただ、強すぎるというのはあると思うんです。対戦するにはもう人間とは比較にならないくらい。

山本:
 はい。

──少し前までは、人間とAIを戦わせるというのが大きなテーマでした。それこそドワンゴの主催していた電王戦なんか、まさにそれで一時代を築いたわけですが……そういうのはどうご覧になっていましたか?

山本:
 AIを開発なさる方にとっては、それが研究成果を世間に対してわかりやすく表現する方法だったわけですから、そういうことをなさるのは当然だろうと思いますが……。

──はい。

山本:
 ただ……私は、商売で将棋のゲームソフトを販売しています。人間に販売する以上、やっぱりAIというのは、人間の役に立ってナンボだという考えがあるので。人間の生活の役に立つためにAIが研究されるべきだと思っています。

──私が以前お話をうかがった将棋ソフト開発者の方々も、既に対人という面ではなく、これからはいかに人間の役に立つかを考えていくべきだとおっしゃってました。

山本:
 そういう意味では、AIが人間を負かして、それを喜んでいるというのは……正直、胸が痛みましたですね。将棋の棋士が涙を流したり、囲碁の小学生のプロが……。

──10歳でプロとなった囲碁の仲邑菫先生が、囲碁AIと公開対局して敗れたことですね。対局後に「強かった」とだけ語って、あとは無言だったと……もちろん開発者の方が悪いわけではありませんが……。

山本:
 『何であんなことするんだろうな?』とは思っていたんですけど。ただ、それが今度はプロ棋士が強くなったAIを研究に使って、藤井二冠のような天才が出てきたり、AIの産み出したとされる新手筋が出てきたりして、将棋のレベルが全体的に向上しているようなところを見ると、本来のAIの姿になっているんだなと。そこはよかったなと思います。

──でも強い将棋ソフトを作ってる方々にお話をうかがうと、『人間を強くするために作ってるわけじゃない』とおっしゃるんですよ(笑)。

山本:
 ははは!

──その点、御社はゲームをプレーすることで『将棋を学んで強くなる』というところにコンセプトを置いておられると思うんですが……その『学び』という部分についてはどんな工夫をなさっておられるんでしょうか?

山本:
 人間とAIでは思考の方法が違うので、参考にするというのは難しいとは思います。ただ、うちの場合は、人間の指した将棋にアドバイスできるようなソフトにしたいと考えて、その部分の研究を一生懸命やっているところです。

──そこをもう少し具体的に教えていただけますか?

山本:
 いま一番やりたくて、研究してて、それでもなかなかできないのは……直接何かしら文章なり言葉なりでアドバイスできないかなと。

──AIの思考を言語化して、人間に伝えやすくするということでしょうか?

山本:
 そうですそうです。お客さまからも聞かれるんです。『いい手を指摘してくれるのはありがたいんだけど、なぜその手がいい手なのかも説明して欲しい』と。

──そういう技術は、やっぱり難しいんでしょうか?

山本:
 人間とは思考の仕方がちがうので、それを上手く言葉にできるかは……しかもそれを言葉にしても、人間が理解できるかはまた別の話で。

──やっぱり難しいんですね……。

山本:
 昔はよくお客さまと電話でお話しした際にも、話がいつまでたっても平行線でわかりあえないということがありまして。

──え!? お客さんから『このソフトのこういう部分がおかしい!』って電話がかかってくるんですか?

山本:
 そうですね。はい。

──『この定跡を使ったらソフトはこんな手を指してきたけど、それは絶対おかしい!』みたいな電話が?

山本:
 そうですそうです!『どう考えてもおかしい』と。それで『コンピューターはこういう思考をした結果、この手を指したんです』とお伝えしても『それはおかしい』と。

──そういう電話を掛けてくるのもアレですけど、その電話にそこまで丁寧に対応するというのも(笑)。

山本:
 サポート窓口がありまして、そこで対応しきれない場合は技術者に替わってと……。

──サポート窓口ってそこまでしてくれるんですか……。

山本:
 どうしても、どぉぉぉぉうしても! 納得いかないということだと。過去にはそういうことも……。

──人間同士が話しても伝わらないんですから、人間とAIの対話が成立するのはまだまだ難しそうですね(笑)。

プラットフォームごとに段位の強さが違う!?

──しかしそういうお話をうかがっていると、なぜSSJさんがプロ棋士を正社員として登用なさったかというところにも繋がってくると思うのですが。やはりそれは、言語化といった部分を期待して?

山本:
 今までも、エンジンの開発には有段者の方とかプロの先生にアドバイスをいただいたりはしていたんです。しかし直接開発に携わっていただいたということまでは、やったことがなくて。

──はい。

山本:
 現在はAIもプロ棋士と同等以上に強くなりました。そうなると、さっきの平行線の部分でも、もう少しお互いに歩み寄れる余地ができてきたんじゃないかなと思いまして。

──星野先生はどこまで開発に関わっていらっしゃるんですか?

山本:
 今のところは、エンジンの深い部分まで関わっていただいているわけではありません。アドバイスをいただいたり、詰将棋の問題を作っていただいたり、将棋教室のコーナーを作っていただいたり……あとはご本人の希望で、『将棋より麻雀のほうがいい』と(笑)。

──麻雀ソフトも定番系ですもんね(笑)。

山本:
 うち自身が、もう今よりも将棋AIを強くしようという発想がないんです。どちらかというと、プラットフォームごとにエンジンを一番強くする調整ですね。

──ほほう? 詳しく教えていただけますか?

山本:
 今は強くしようとすると、パソコンの性能を目一杯上げて、その中でどのくらい強くなるかをやるんですけど……。

──フラッドゲートの上位がスレッドリッパー3990Xで埋まるみたいな感じですよね。

山本:
 コンシューマー機で新しいものが出ると、そのプラットフォームの中で、エンジンが一番強くできるように調整するんです。そこに力を入れています。

──確かに今のコンシューマー機は画像処理に力を入れていて、CPUって感じじゃないですもんね。そういう環境でも力を発揮できるようにしないといけないと。

山本:
 まさにそうです。

──けど、コンシューマー機ごとに性能が全然違うわけじゃないですか。それなのに棋力を揃えるのって、大変なんじゃないんですか?

山本:
 ゲームの中で『四段』と書いてあっても、プラットフォームによって同じ四段でも強さが違います。

──え!?

山本:
 それ、聞かれることがあるんですけど……そういう場合は『リアルの将棋も道場によって段位の認定は違うでしょ』と(笑)。

──確かに確かに! やたら厳しい道場とかあります。

山本:
 アマ四段の免状を持ってる人の棋力がみんな同じだったんなら、うちも揃えないといけなくなりますけど(笑)。

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