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再生数以上に大事にしたい「出すからには自分がおもしろいと思うものを」というこだわり。あくまで趣味として楽しむTRPGとの付き合いかたとは【ゆっくり動画投稿者・ダニエルさんインタビュー】

肉声動画が流行ったことによるゆっくり動画界隈への影響

──TRPG動画で大きい出来事と言えば、2015年、まにむさんが投稿した「実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」【※】の登場でしょう。いま振り返ってみても、TRPG動画の歴史のうえで大きなターニングポイントだと思うのですが、投稿者視点ではどう見えていたのか教えてください。

※ニコニコ動画内で「TRPG」タグがついている動画でもっとも視聴されている動画。2020年3月現在440万再生を超えている。

ダニエル:
 リアルタイムで見ていましたが、衝撃的でしたね。TRPG動画と言えばゆっくりボイスがほとんどで、肉声というだけでもかなり珍しかったですし、なにより自作のイラストに漫画的な絵をつけた見せかたが非常に斬新でした。

まにむさんが投稿した動画は、それまでのTRPG動画で定番だったアドベンチャーゲーム式の見せかたとは一線を画し、自作イラスト&吹き出しで物語が進む漫画的な演出であった。
(画像は「実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」より)

──まにむさんの動画がきっかけなのか、2015年から肉声動画の投稿数もどんどん増えて、TRPG動画界で肉声動画ブームみたいなものが巻き起こります。

ダニエル:
 それまでにない斬新な見せかたが現れたことで、新しい流れが生まれて、似たテイストの動画がたくさん投稿されていきましたよね。

 個人的には、ゆっくりか肉声かではなく、漫画的な演出が大きいのかなと思っていました。肉声なだけなら、その以前から動画や生放送で見たことがあるのですが、あのイラストでの見せかたは本当に斬新で。

 その結果かもしれませんが、その後に出てくる肉声動画を見ていくと、手書きのイラストがあって漫画的な見せかたでと、まにむさんの動画を参考にしたものが続いていきましたよね。

2015年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。
2016年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。

──ゆっくり動画サイドからすると、それまで自分たちが育んできた遊び場に新顔がデデンと現れたようにも捉えられると思うのですが、なにか思うところはなかったんですか?

ダニエル:
 全然気になりませんでした。むしろ、肉声動画おもしろいなと思って見ていました。出ている方はよくこんなにおもしろいことをつぎつぎに言えるなって。僕だったら絶対無理。すごいと思います!

──大絶賛ですね。肉声動画が登場したタイミングで、肉声動画を投稿する選択肢もあったと思うのですが、肉声へ舵取りしなかった理由ってなにかあったのでしょうか。

ダニエル:
 少なくとも僕は、肉声ではおもしろい動画は作れないと思います。作るだけならできるんですが、それがおもしろい動画にできるかというとすごく難しいです。

 ゆっくり動画は、実際のセッションでうまくロールプレイをできなくても、編集である程度補えるんですが、肉声だとそれはできないので。なので肉声動画に出ている人たちはすごいと思っています。

──肉声動画が流行ったことで、ゆっくり動画界隈でなにか影響があったりとかは?

ダニエル:
 どうなんでしょう……僕自身、TRPG動画投稿者との横のつながりがないので(笑)。ただ、肉声動画が流行ったことで、投稿者やいわゆる中の人に焦点を当てて見る人が増えたとは思います。

 ゆっくり動画だと、中の人要素ってほとんど表に出ないのですが、肉声動画ですと、しゃべっている人に注目して見ることになるので、そこから中の人に着目される文化が進んでいった気がしています。

──あー確かに。「〇〇の人のロールプレイ好き」「このキャラは〇〇の人か」などのコメントを見かけることも多いですし、2015年以前に比べて、最近のほうが視聴者が中の人に注目している傾向は強い気がします。

ダニエル:
 投稿者どうしがコラボするケースも増えていったのもその派生なのかなと。僕自身がコラボをしたり交流があるわけではないので、あくまで想像レベルの話ですが。

2018年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。「あくりょうのいえーい」シリーズは、シリゴミ卓、日本語読めない卓、酔っぱらい卓のコラボ動画。ほかにもTRPG動画投稿者どうしがコラボしている動画を見かける頻度が増えているようにも思える。

理想はなにも考えずに見て楽しめる動画

──続いては、ダニエルさんご自身の動画制作に対するこだわりについてお聞きしていければと思います。

ダニエル:
 こだわりというわけではないですが、なるべくなにも考えずに見られるようにはしたいと思って作っています。ずっと画面を見ていなくても、ボイスを聞いているだけでなんとなくわかるのが理想です。

──耳だけで情報が完結する的な?

ダニエル:
 というよりも、なにも考えずに見てもなんとなくわかる、しっかり見てくれたら、散りばめている伏線に気づいて作中のつながりをわかってもらえる。そういう両方の楽しみかたがある動画になればいいなと。

 シリーズが続いていった結果、物語性が強くなり、なにも考えずには見にくいものになってしまったので、つぎに動画を作るときには最初の動画のように単発でサクッと見られるようにしたいです。

動画開始30秒で人ひとりが死んでしまう急展開。このスピーディーさこそ、ダニエルさんが見たいと感じたTRPG動画のかたちなのだろう。
(画像は「ゆっくりクズどものクトゥルフ 『山猫館』編 第1話」より)

──ダニエルさんとしては最初の動画が理想に近いと。

ダニエル:
 そうですね。最初の動画がいちばんおもしろいと思います。なのでそこに戻りたいです。

─なるほど。動画投稿活動の中で、ダニエルさんがもっとも脳汁が出るタイミングっていつなんでしょう

ダニエル:
 動画ができあがった瞬間でしょうか。たくさんの方に見ていただけたり反応をいただくのは非常にありがたいことなのですが、基本的にコメントを見返すことはしないですし、再生数もときどき眺めるくらいでそこまで意識してチェックはしていません。

──コメントを見ないようにしている理由はなんですか?

ダニエル:
 僕の中では、セッションの結末でしたり、書いたプロットでしたり、変わらない未来が存在していて、あとはどう見せるかだけなんです。

 ただ、もともと考えていた演出をコメントで書かれているのを見てしまうと、違う演出のほうがいいんじゃないかと考えてしまう気がして(笑)。コメントで動画内容が左右されないように見ないようにしています。

シリーズ通してのキーパーソン“リーゼロッテ・キング”。彼女に対する考察はよくコメントに書きこまれており、もしダニエルさんがコメントをチェックしていたなら、ストーリーの結末は変わっていたかもしれない。
(画像は「せっかちクズどものクトゥルフ神話TRPG #07」より)

──セッション中の発言をそのまま使用する肉声動画に比べて、プレイヤーの発言をゆっくりボイスに打ちこむゆっくり動画は、演出における自由度は高いと思います。

 たとえば、キャラクター発言のみを描写したり、プレイヤー発言含めて動画に組みこんだりと、どのシーンを、どのように見せるのか。投稿者によってスタイルが異なる部分だと思うのですが、ダニエルさんはどのように意識して動画に落としこんでいるのでしょう。

ダニエル:
 演出過多にはしていないですが、実際のセッション内容とまったく同じかというとそれは違います。迷っている部分やグダっている部分はもちろんカットしていますし、なによりセッションの内容をすべて聞き直すこともしないんです。

──というと、動画で描写するシーンはどのように選定しているんでしょうか。

ダニエル:
 僕の場合、記憶に残っている部分を中心に描写していきます。記憶の残っているシーンは、セッションの中でもとくにおもしろかったところなので、そこを中心につなげていくことでコンパクトにまとめていけるんです。ですので、実際のセッションと比べると別物に近いかもしれません。

──短くまとめるためにあえて聞き直さないと。

ダニエル:
 その意図もありますが、人数が多いとみんな一斉にしゃべっていて聞き取れない部分もありますし、なにより発言のすべてを書き起こすのは大変ですよね(笑)。

──(笑)。

ダニエルさんの動画では、プレイヤーが8人にも及ぶものも。すべてを書き起こし、ゆっくりボイスに打ちこんでいこうとすると、かなりのハードワークになりそうだ。
(画像は「せっかちクズどものクトゥルフ神話TRPG #07」より)

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