再生数以上に大事にしたい「出すからには自分がおもしろいと思うものを」というこだわり。あくまで趣味として楽しむTRPGとの付き合いかたとは【ゆっくり動画投稿者・ダニエルさんインタビュー】
本企画は、ニコニコにおけるTRPGの歴史を振り返るべく全3回に渡っておくる連載企画だ。前回の記事では、ニコニコ動画に投稿された動画データをもとに歴史を振り返ったが、本稿では、実際にTRPG動画を投稿している投稿者へのインタビューをお届けしていく。
TRPGとの出会いや、動画を投稿するようになったきっかけや動画制作へのこだわりなど、ゆっくり動画サイドと肉声動画サイドでどのような違いがあるのか。そして、ゆっくり動画投稿者は肉声動画を、肉声動画投稿者はゆっくり動画をどう見ていたのか。
ゆっくり動画、肉声動画投稿者それぞれのTPRG動画との歩みを振り返ることを通して、ニコニコにおいてTRPG動画がいかに愛され育まれてきたのかを紐解いていきたいと思う。本記事では、ゆっくり動画投稿者であるダニエルさんへの取材の模様をお届けする。
TRPG動画 連載企画 |
1.動画データをもとにTRPG動画の歴史を振り返る(記事はこちら) |
2.ゆっくり動画投稿者インタビュー ダニエルさん(本記事) |
3.肉声動画投稿者インタビュー まにむさん(記事はこちら) |
取材・文/竹中プレジデント
TRPGとの出会い
──本日は、ダニエルさんとTRPGの歩みを振り返ることを通して、ニコニコ動画におけるTRPG動画という文化がどう育まれてきたのかを、ゆっくり動画サイドの視点から紐解いていければと思います。まずは、ダニエルさんがTRPGと出会ったきっかけを教えてください。
ダニエル:
2012年くらいでしょうか、ニコニコ動画のランキングでクトゥルフ神話TRPG【※】の動画を偶然見つけたのが最初のきっかけです。
※クトゥルフ神話TRPG……クトゥルフ神話の世界観を体験するホラーTRPG。
──最初にご覧になった動画って覚えてらっしゃいますか。
ダニエル:
BGB([二人組を作る])さんの「本当にあったSAN値が下がるクトゥルフTRPG」です。ちょうどそのころ『這いよれ!ニャル子さん』を見てクトゥルフ神話という題材を知ったばかりだったので、気になって見てみたらすごくおもしろくて。いまの動画制作において、BGBさんの動画の影響はかなり受けていると思います。
──2012年におけるTRPG動画の代表作ですね。動画の投稿数(下記表)を見ると、クトゥルフ神話TRPGが2012年から顕著に増えているのは明らかなのですが、ここまでクトゥルフ神話TRPG動画が流行ったのかが少し不思議です。TRPGのジャンルとしては、セッションの時間もかかるし、プレイするための知識もある程度必要でハードルが高めだと思うのですが。
年 | TRPG | クトゥルフ |
2011 | 2,100件 | 102件 |
2012 | 3,151件 | 1,725件 |
2013 | 3,787件 | 2,832件 |
2014 | 3,883件 | 3,598件 |
2015 | 4,162件 | 5,571件 |
2016 | 4,765件 | 6,941件 |
2017 | 4,373件 | 5,597件 |
2018 | 5,956件 | 5,621件 |
2019 | 8,325件 | 5,134件 |
※TRPG(「TRPG」タグ)、クトゥルフ(「クトゥルフ神話TRPG」タグ)がついている動画を年別でカウント。あくまで動画についているタグをソートし集計したものであるため、該当する動画がカウントされていない(逆もしかり)ケースも少なくない。(データは2020年2月13日集計)
ダニエル:
ハードルが高く感じるのはプレイする側の感覚で、動画の視聴者として、クトゥルフ神話TRPGは見やすいジャンルだと思うんです。
クトゥルフ神話TRPGは、プレイヤーどうしの会話を中心に進んでいくゲームなので、ルールを知らなくても状況を掴めますし、プレイ中に飛び交う専門用語も少ないので、たとえ初見の人が見てもなんとなくの雰囲気で楽しめるんです。
僕自身もルールを知らない状態で動画を見始めても楽しめたので、システムがかっちりしていないところが、動画として多くの人に見られている要因なのではないでしょうか。
──2012年ですと、テキストのみの動画からゆっくりボイスを使用した動画に流行りが移り変わっていった時期だと思うのですが、よく見るのはゆっくり動画だったんでしょうか。
ダニエル:
自分の好みとしてはゆっくりボイスがついているほうが好きで、よく見ていました。当時は、ゲームを遊びながらお菓子を食べて動画を流すだらけた生活をしていたのですが、ゆっくりボイスがあるとちょっと目を離しても内容がわかるので、ゲームをしながらでも鑑賞しやすいんです。似たような感覚で見ていた方はけっこういると思います。
──作業用BGMに近いかたちですよね。「本当にあったSAN値が下がるクトゥルフTRPG」以外ですと、どのような動画をご覧になっていましたか?
ダニエル:
ちょうど見始めた時期だったこともあり、資料(下記画像)にある動画はほとんど見させていただきました。とくに印象に残っているものですと、「ゆっくり達のクトゥルフの呼び声TRPG」や「ゆっくり妖夢と本当はこわいクトゥルフ神話」【※】などでしょうか。
※それぞれTRPG動画の元祖と呼ばれている動画。「ゆっくり妖夢と本当はこわいクトゥルフ神話」に関しては、“TRPG認知度の向上”の役割は終えたとして、投稿者によって動画が削除されている。
「見たいけどない。じゃあ作ればいいじゃん」と動画制作へ
──ご自身でTRPGを遊ぶようになったのはいつごろだったんでしょう。
ダニエル:
はっきりとは覚えていないのですが、2014年の2月7日に投稿した「ゆっくりクズどものクトゥルフ 『山猫館』編 第1話」のセッション【※】が初めてのTRPGだったので、2013年の終わりくらいです。
※セッション……TRPGを遊ぶこと。その集まり。
──えっ、初めてのセッションを動画化されたんですか。
ダニエル:
はい。たまたま会った友人を誘って、準備もほとんどしないで臨んだので、内容はボロボロでした(笑)。グダグダした部分をカットして上手くできてるように動画化したんです。
──そんな秘密が。そのセッションを動画化しようと思ったのにはなにかきっかけが?
ダニエル:
もともと動画を作るためにセッションをしました。2012年からTRPG動画をひたすら見ていたのですが、当時はストーリーのボリュームが多い続きモノが主流で、展開もゆっくり目でした。見応えがある分、新しいTRPG動画を見始めるのに時間と気力が必要で、なかなか新しい動画に手が伸びにくかったりもしたんです。
そうやって動画を見ていくうちに、自分の中で、展開が早くサクッと楽しめる動画を見たいと思うようになって、「見たいけどない。じゃあ作ればいいじゃん」と、動画を作ろうと思い至ったんです。
──確かに、動画シリーズ1作目「ゆっくりクズどものクトゥルフ」を見てみると、動画時間は1本15分、本編は2話のだいたい30分でシナリオが完結する非常にスピーディーな作りです。自分が視聴させていただいた際も、サクッと見れていいな~と、思って見ていたんですが、もともとそういう意図があったんですね。
ダニエル:
はい。最近の動画では収まっていないのですが、目標は動画1本で15分ですね。続いても2話で30分に収めてアニメくらいの感覚で見られるような動画を作りたいと思っています。
(クズ卓シリーズ動画はこちら)
──とは言え、クトゥルフ神話TRPGのセッションって短くても2、3時間かかりますよね。それを短くまとめるって大変なような?
ダニエル:
シナリオによると思うんですが、僕の場合、1回のセッションで3時間以上はかかってしまいます。ですので動画化する際には、動きがないシーンはカットしていますし、ゆっくりボイスの速度も、なんとなく言っていることが伝わるくらいでいいくらいに、全力でスピードを上げて作りました。
──自分の見たい動画を、と作った「ゆっくりクズどものクトゥルフ」ですが、『山猫館』編の第1話は170万再生を超えるほど多くの方に見られる動画になりました。動画投稿時はどんな心境でしたか。
ダニエル:
ただ作ってみたいと思ったから作って、それを投稿してみただけなのでびっくりしました。最初のころは「投稿した動画、なんか再生数伸びてる」と眺めていた気がします。
──というと、再生数はあまり意識していなかったのでしょうか。
ダニエル:
はい。自分がおもしろいと思っているものを作って、同じようにおもしろく思ってくれる人に見てもらえればいい、くらいの感覚でした。