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TRPG動画の歴史をニコニコ動画の投稿データをもとに振り返ってみた

 TRPG動画いうジャンルをご存知だろうか。

 TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)とは、複数の人間がテーブルを囲んで、さまざまなキャラになりきって会話しながら楽しむゲーム。そしてそのTRPGを遊んでいる模様を物語仕立てに編集したものをTRPG動画(リプレイ動画)と呼ぶ。

 TRPG(TRPG動画)を知らない方は、上記の「実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」を見ていただければ、このジャンルがどういうものか掴めるだろう。ルールや用語など丁寧に説明されており、TRPG初心者でも見やすい動画になっている。

 ニコニコ動画において、「TRPG」タグがついている動画の投稿数は44,179件【※】。2019年に投稿された動画に絞ってカウントしても8,325件、1日に平均20件以上のTRPG動画が投稿されている計算になる。

※動画についているタグをソートし集計したもの。記事内以下同。(データは2020年2月13日集計)

 1日で20件程度ならそこまで多くないのでは? と思うかもしれないが、動画制作に時間のかかるTRPG動画は同投稿者において週1で投稿されれば早い部類に入る。動画時間をコンパクトに抑え、短いスパンで更新する投稿者もいるが、それでも動画が3日で更新されれば投稿者の体調を心配するレベル(一部の例外を除けば)だ。

 そんなTRPG動画は、2007年より続く長い歴史を持ち、2018年11月には「MMD」や「バーチャル」とともに「TRPG」がニコニコ動画の新カテゴリに追加されるなど、ニコニコにおいて多くのユーザーに愛され、育まれてきた人気ジャンルのひとつと言える。

 本稿では、そんなTRPG動画の歴史を、再生数や投稿数などの動画データをもとに振り返っていく。各時代において、どのようなジャンルが人気だったのか、どのような人気動画が投稿されてきたのか、その変遷を見ていこう。

 なお、後日、TRPG動画投稿者のダニエルさん(「ゆっくりクズどものクトゥルフ」「ゆっくりみなぎってくるクトゥルフ」投稿者)、まにむさん(実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」「笑い過ぎて一生忘れられないTRPG」投稿者)へのインタビュー記事も掲載される。本記事と合わせて楽しんでいただければ幸いだ。

TRPG動画 連載企画
1.動画データをもとにTRPG動画の歴史を振り返る(本記事)
2.ゆっくり動画投稿者インタビュー ダニエルさん(記事はこちら
3.肉声動画投稿者インタビュー まにむさん(記事はこちら

※本記事においては、ゆっくりボイスを使用したTRPG動画をゆっくり動画、肉声を使用したTRPG動画を肉声動画と表記。また、実卓リプレイ、リプレイ風含めてTRPG動画と総称している。

TRPG動画でメジャーなジャンルは「クトゥルフ神話TRPG」

 さまざまなジャンルが内包されているTRPG動画の中で、もっとも投稿数が多いものは「クトゥルフ神話TRPG」だ。その数、じつに37,669件にのぼる。

同ジャンルながら別表記のタグである、「ソード・ワールド2.0」=「SW2.0」(3,734件)、「ソード・ワールド2.5」=「SW2.5」(536件)も存在するが、重複でタグつけされている動画も多いため、ここでは対象数の多い表記のほうをカウントしている。

 「ソード・ワールド2.0」「ダブルクロス」「シノビガミ」など、ほかのジャンルの投稿数と比較してみても、その多さは歴然だ。

 また、「TRPG」タグのついている動画を再生数の多い順でソートして見た際も、上位100動画のうち9割以上が「クトゥルフ神話TRPG」であり、TRPG動画と聞き、「クトゥルフ神話TRPG」を連想する方も多いかと思う。

 この「クトゥルフ神話TRPG」だが、動画投稿数が伸び始めたのは2011~2012年ころ。

 2011~2012年に何があったのか? ひとつの説として、2012年に放送されたアニメ『這いよれ!ニャル子さん』がきっかけで“クトゥルフ神話”への注目が高まったことが要因だというのがある。

 それに関して、クトゥルー神話研究家の森瀬繚氏は、電ファミニコゲーマーのインタビューにて、アニメ放送前、2010年代に入るころにニコニコ動画ではすでに「クトゥルフ神話TRPG」が盛り上がっており、クトゥルフ神話に関連する商品の売り上げを伸ばす要因になっていたこと、そのうえでアニメの影響で手を出す人が増え、ブーストがかかったという、見解を述べている。

森瀬氏:
 よく『ニャル子さん』のアニメ化によって、クトゥルー神話、あるいは『クトゥルフ神話TRPG』が流行ったという話がされますが、それだけではないんです。
 アニメがスタートする前──2010年代に入るころ、すでに『クトゥルフ神話TRPG』はニコニコ動画で盛り上がっていて、クトゥルー神話に関連する商品が売り上げを伸ばしていたんですね。

 ですので、『ニャル子さん』の影響で手を出した方も当然いらっしゃるでしょうけども、因果関係としては、どちらかというとニコニコ動画の影響が大きく、そこにブーストをかけたのが『ニャル子さん』のアニメなんです。
 言ってみれば相乗効果ですよね。

電ファミニコゲーマー:クトゥルー神話って日本でどう広まったの?『デモンベイン』が安心感を与え、現代怪奇としての『クトゥルフ神話TRPG』がニコニコ動画にマッチし、『ニャル子さん』がブーストさせた【インタビュー:森瀬繚】より引用

 『這いよれ!ニャル子さん』アニメ化の影響というのはもちろんあるだろうが、ここまで爆発的に人気が高まったのは、もともと愛されていた下地があったこと、そして後述する「ゆっくりTRPG」の広まりなども、要因のひとつとなっていたのかもしれない。

ゆっくりボイスを使用した動画が圧倒的に多い

 現在の「TRPG」動画は、ゆっくりボイスを使用した「ゆっくりTRPG」、セッション【※】中の声を収録してそのまま使用する「肉声セッション」、おもにこの2種類に分類される。

※セッション……TRPGを遊ぶこと。その集まり。

 そして、それぞれのタグにて動画投稿数をカウントしてみると、「ゆっくりTRPG」が38,218件、「肉声セッション」が1,775件と、圧倒的に「ゆっくりTRPG」のタグがついた動画が多い。

 2011年以前のTRPG動画は、「ゆっくりTRPG」「肉声セッション」に該当する動画はほとんどなく、多くがボイスなしのテキスト動画であった。それが、2012年より「ゆっくりTRPG」動画が急増。テキスト動画に代わりTRPG動画の主流になっていく。

 そして2015年、まにむさんが投稿した「実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」をきっかけに、「肉声セッション」動画の投稿も活発になっていく、というのが大まかな流れだ。

再生数のポテンシャルが高い肉声動画

 動画投稿数で見ると、TRPG動画の主流は「ゆっくりTRPG」であり、「肉声セッション」はマイナージャンルに見える。

 しかしながら、とくに再生数の多い動画に絞って見てみると、別の景色が現れる。

100万再生超えのTRPG動画。

 100万再生超えのTRPG動画(「TRPG」「ゆっくりTRPG」「肉声セッション」タグつきの動画)をカウントしてみたところ、その数は53件であった。うち、ゆっくりボイスを使用しているゆっくり動画は37/53、肉声を使用している肉声動画は16/53と、総数から見ると非常に高い割合で肉声動画の姿が見られた。

 また、ゆっくり動画の最大再生数はファミキチさんの「慧音「フリーダムってレベルじゃねぇぞ!」ゆっくりクトゥルフTRPG Part 0」約249万、肉声動画の最大再生数はまにむさんの「実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」約436万と、いち動画における再生数の最大値は肉声動画のほうが多い。

 まにむさん(「実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」投稿者)やコウノスケさん(「ちょっと噛み合わない初心者たちのクトゥルフ」投稿者)など、“投稿者の人気が要因”とひと言で片づけるのは簡単ではあるが、再生数の最大値のポテンシャルは肉声動画に軍配が上がる見かたもできそうだ。

人気動画で振り返るTRPG動画の歴史

 ジャンルとしては「クトゥルフ神話TRPG」がメジャーであること、ゆっくりボイスを使用した「ゆっくりTRPG」動画の投稿数が多いこと。ひと言で述べてしまえば、これがニコニコ動画におけるTRPG動画の特徴である。

 それを踏まえつつ、続いては各時代における人気動画を軸に、TRPG動画の歴史を振り返っていこう。

『アイドルマスター』の創作ものが多かった2010年以前

 2010年以前においては、ボイスなし動画がほとんどであること。ジャンルを見ると、「クトゥルフ神話TRPG」を遊んでいる動画は少なく、「ソード・ワールド2.0」を取り扱っている動画が圧倒的に多いことが特徴だ。

 また、中の人がロールプレイして遊んでいるセッションの模様を届けるというより、『アイドルマスター』のキャラクターたちがTRPGを遊ぶストーリーを描く『アイドルマスター』の二次創作ものとして動画が作られていた傾向にあった。

2010年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。『アイドルマスター』の二次創作もの的な動画が主流であった。

「クトゥルフ神話TRPG」&「ゆっくりTRPG」動画の台頭し始めた2011~2012年

 そんなTRPG動画だったが、2011年、2012年と時を過ぎるごとにとある大きな変化が現れる。 

 ひとつが「クトゥルフ神話TRPG」というジャンルが流行り始めたこと。そしてもうひとつが、ゆっくりボイスを使用した「ゆっくりTRPG」動画が増え始めたことだ。

  なんとかかんとかさんが投稿した「ゆっくり達のクトゥルフの呼び声TRPG」、[二人組を作る]さんが投稿した「本当にあったSAN値が下がるクトゥルフTRPG」などが、この時期の代表的な人気動画。TRPG動画の視聴者はもちろん、現在TRPG動画を作っている投稿者の中にも、これらの動画を見たことがある方は多いのではないだろうか。

 また、投稿者本人により動画はすでに削除されているが、「ゆっくり妖夢と本当はこわいクトゥルフ神話」も、この時期のTRPG動画を触れるうえで欠かせない動画だ。

2011年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。ゆっくり動画の元祖と呼ばれることの多い、なんとかかんとかさんの「ゆっくり達のクトゥルフの呼び声TRPG」が投稿されたのもこの年。
2012年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。[二人組を作る]さんの「本当にあったSAN値が下がるクトゥルフTRPG」が、シリーズ通して高い人気を誇っている。
2013年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。パッと見でわかるレベルで、ファミキチさんの動画シリーズの人気の高さがすさまじい。
2014年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。ファミキチさん、[二人組を作る]さん、ダニエルさんなどの動画シリーズが人気を博していた2014年。人気シナリオ「毒入りスープ」の姿も。

「肉声セッション」動画の人気に火がついた2015~2016年

 2015年4月11日、まにむさんが「実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」を投稿したことで、それまでゆっくり動画ほぼ一色であったTRPG動画界隈に新たな動きが起きる。

 肉声をそのまま使用した肉声動画の投稿数が激増。2015、2016年に投稿された動画それぞれを再生数の多い順にソートして見てみると、そのほとんどが肉声動画になるほどに、多くの視聴者を獲得した。

2015年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。2014年以前から一変、多くの肉声動画の姿が。
2016年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。2015年に続いて、肉声動画が数多くランクインしている。

大きな変化なく安定期に入った2017年以降

 2015、2016年にて人気に火がついた肉声動画だが、その後、かつてのゆっくり動画のように爆発的に動画投稿数が増えていくことはなかった。ゆっくり動画も特段大きな変動なし。

 純粋に再生数だけ見ると、ジャンルとして下火になりつつあると見えるが、動画投稿数には勢いがあるので、再生数に関しては、ニコニコ動画じたいの勢いの変化による影響が大きいのかもしれない。

2017年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。シリゴミ卓の動画シリーズが数多く見られるのがこの年。また、2015、2016年に比べて肉声動画の数が格段に減っている。
2018年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。 「【クトゥルフ神話TRPG】あくりょうのいえーい」は、酔っぱらい卓、シリゴミ卓、日本語読めない卓によるコラボ動画だ。
2019年に投稿された人気動画(画像の検索ページはこちら)。2015年に「実はめっちゃ面白いクトゥルフ神話TRPG」を投稿したまにむさんが本格的に動画投稿活動を再開し、再生数上位を独占している。

 さて、現存する“タグ”をもとに(動画を視聴しつつ)データをまとめていくなかで、気づいたことがある。それは、ゆっくり動画と肉声動画、このふたつの手法はそれぞれ独自の文化を持っているということだ。

ゆっくり動画と肉声動画それぞれの大まかな傾向。あくまで体感ではあるが、キャラクター絵に関しては、ゆっくり動画においてもオリジナルイラストを立ち絵に使用するケースが増えつつある気がする。

 あくまで、動画内容や投稿データを見ただけでもこれだけ異なる。

 では、実際に動画を投稿している投稿者の視点ではどのように見えていたのだろう。データから読み取れない歴史が眠っているのではないだろうか。

 その疑問に迫るべく、ニコニコニュースオリジナル編集部では、ゆっくり動画、肉声動画の投稿者それぞれへのインタビューを企画。どのようにTRPGに出会い、動画投稿を始め、どんな想いで動画制作に取り組んでいるのか、に迫る取材を実施した。そんなインタビュー記事は後日掲載予定。ご一読いただければ幸いだ。

TRPG動画 連載企画
1.動画データをもとにTRPG動画の歴史を振り返る(本記事)
2.ゆっくり動画投稿者インタビュー ダニエルさん(記事はこちら
3.肉声動画投稿者インタビュー まにむさん(記事はこちら

文/竹中プレジデント

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