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はあちゅうさんの“ #MeToo 騒動”はいったい何だったの? 世界的なセクハラ告発から見る「ハラスメントが持つ構造」を解説してみた

 去る12月17日、欧米で広がりを見せているというセクハラ告発キャンペーン「#MeToo」に便乗し、電通時代にセクハラを受けていたことを告発したはあちゅうこと伊藤春香さんですが、自身もツイッターにて童貞をいじる投稿を頻繁に行っていたことを指摘され、炎上騒ぎとなりました。

 これを受けて、12月25日放送の『小飼弾のニコ論弾時評』では、小飼弾氏山路達也氏が、世界的なセクハラ告発の流れやハラスメントが持つ構造などについて解説しました。

左から、小飼弾氏、山路達也氏

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日本でも広がる#MeTooの訴え

山路:
 次、最近のニュースで1番話題になっていて、今日の番組のタイトルにもなっている#MeTooですね。

小飼:
 それは最近なの? 昔からそうだけれども。

番組の放送日がクリスマスだったため、サンタクロースの格好をする小飼弾氏

山路:
 アメリカのほうで1番話題になったのは、ハリウッドの映画プロデューサーなんかが女優たちにセクハラをしていて、それを告発されて大変な騒ぎにり、「私も被害を受けた」と名乗り出る人がどんどん出てきた。

小飼:
 詐欺でないオレオレですね、#MeTooというのは。

山路:
 今まで被害を受けていた人が訴えるというようなムーブメントというのがハッシュタグの#MeTooで広まっていって、それが日本にもやってきた。それで日本でもセクハラ被害を訴える女性たちが出てきたと。

小飼:
 女性だけじゃないと思うけどね。

はあちゅう氏のセクハラ告発を語る

山路:
 その中で、例えばブロガーとして有名なはあちゅうさんが。

はあちゅう氏 (画像は公式ブログより)

小飼:
 伊藤さんね。

山路:
 元電通の、伊藤さんですよね。電通時代にこういうふうにセクハラを受けていたということを告発した。

小飼:
 いかにもという感じもありましたけれども。

山路:
 そのセクハラをしていた側の人というのがかなりつるし上げ……というか糾弾されて、その人は謝罪をしてTwitterアカウントなんかも削除しちゃったと。

小飼:
 例の相撲の話題も構造は同じですよね。本来であれば公衆の面前で同じことをやったら絶対にだめなわけじゃないですか。でも内輪の世界ではそれがまかり通っちゃっている、という意味では。

山路:
 やっている人というのは、多分罪悪感も無かったんじゃないかみたいな。

小飼:
 それがもう業界の掟だと。

山路:
 ややこしいのが、そういうふうにセクハラを告発したはあちゅうさん。

小飼:
 清廉潔白じゃないとセクハラを告発してはいけない、というわけではまったくないんだけども、そこで嚆矢(こうし。物事のはじめ)になるのが、よりによってハラッサー(嫌がらせをする人のこと)かという。

山路:
 結局、セクハラを訴えたはあちゅうさんが、過去に童貞をネタにして……童貞いじりと言えばいいのかな、そういう記事をよくツイートしていて、それが結構男性の反感を買っていた。

小飼:
 童貞かどうかというのは、自分から言う必要もないし、そもそも他人に聞く事自体が失礼なことですよね。

小飼:
 でもそんなことは「あんたの知ったことか」なわけでしょう。あなたの金の玉は左が下がっていますか? 右が下がっていますか? みたいなことで。

山路:
 そこまで具体的に言わなくてもいいですよ(笑)。

小飼: 
 その時点で失礼ですよね。

山路:
 そういうふうに炎上して、いったんはあちゅうさんは自分の過去の記事は失礼だったというような謝罪をしたと。

小飼:
 あんまり謝罪になってないと思いますけどね。

山路:
 だけどその謝罪もまた撤回したわけなんですよね。

小飼:
 でも、本当に謝罪って難しいなとは思いますよ。

山路:
 そういう意味で、セクハラをしていたと告発された方の、逃げっぷりが鮮やかだったという。

小飼:
 いや、あれ逃げられているのかな?

山路:
 わかんないですけどね。次々とそういうセクハラの告発が続いて、いろんなところにも飛び火して。そういう「ムーブメント」というのは続くから、果たしてそれから逃げられるのかどうかは、わからないですけど。

小飼:
 ムーブメントという言い方も酷いです。普通に犯罪被害を告発したのであって、法治国家であれば、本来は交番に行って「おまわりさん、この人です」と被害届を出せば済むはずなんだけども。実情は、そうではなかったのでしょう。

 「#MeToo」のムーブメントが始まった米国でもそうですし、日本でもそうだったわけですけれども、SNSという回路を通じて告発がなされたという意味では、SNSは役に立ったわけです。

世界でも次々と上がるセクハラ告発の声

山路:
 それにしても、最近のセクハラ告発を巡る世界の状況とかも凄いですよね。私が見たのは、ラース・フォン・トリアーという映画監督が、社員とか取材する人に対して、プールで全裸で泳ぐように強要していたと。「なんじゃそりゃ」みたいな、「それが今まで表に出なかったのか」みたいな。 

小飼:
 それを表に出さない、あるいは表に出てこなかったというのが、まさにパワーハラスメント。だから実は、おそらくすべてのハラスメントというのは、パワーハラスメントに含められると思うんですよね。

山路:
 結局のところ、セクハラというのもつまり会社における……。

小飼:
 男女が平等でないので、セクハラというものが生じるわけです。

山路:
 逃げられないとか、立場的なその不均衡を利用して、圧力をかけるわけですからね。

小飼: 
 そういったものにやはり1番効果があるというのが、公開ですよね。外から資金調達をする必要がないくらい内部留保【※】がある会社もなぜ上場するべきかといったら、それで公開になるからです。

※内部留保
広義では「企業の儲けの蓄え」を指す言葉で、投資にも配当にも回していない利益のこと。社内留保ともいう。巨額の内部留保を労働者に還元すべきだという論調も見られるが、銀行から融資を受ける際に重要視されることなどもあり、企業はそれに消極的であることが多い。

山路:
 外部の目が入ることで、「ちゃんと経営しているな」とか、「ちゃんと運営していますよ」という。

小飼:
 でも日本の場合は、そういった意味での公開というのが、きちんと公開になっていないというのが、次々と明らかになっているわけですけどもね。#MeTooどころじゃねえぞと。

告発をする際は人格を見てはいけない

山路:
 そうですね。#MeTooのことでちょっと話を戻すと、はあちゅうさんの話も「はあちゅうもセクハラしとったやんけ」みたいなふうに言う人が出てきて、議論が非常にカオスな状態になってきていますよね。

小飼:
 結局のところ、告発には必ず「そういうお前はどうなんだ?」というのもあるんです。だから告発が告発として機能するためには、全人格を見てはいけないんですよ。告発者、あるいは被告発者の全歴史を見てはいけないんですよね。あくまでも告発に関連する資料だけを見るべきなんですよ。

山路:
 セクハラで被害を受けたということと、今まで自分もセクハラをしていたということは、もう別個のものとして切り分けて、これはこれ、それはそれで議論ができればいいのでしょう。

 しかし私が見るに、セクハラをしていた人への追求というのが、問題を切り分けられていない分なんとなく弱まっている。そういうことはないでしょうか?

小飼:
 それも人類史では普通のことで、告発に対する抑止力としては、お前も告発されるべきネタを持っているんだろということ。やっぱりこれが1番効くというのは全世界で証明されていたんですよ。実はアメリカの歴史の中で1番そういった力が強かったのは、FBIの初代長官・ジョン・エドガー・フーヴァーだと言われています。

山路:
 どういう話だったんですか?

小飼:
 大統領の秘密をみんな握っていたから。

山路:
 だからFBIに強い権力があったわけですか。

小飼:
 あくまでも目立たないように持っていたわけですよね。

「具体的な対象は非難しやすい」

小飼:
 恐縮なんですけど、はあちゅうさんが告発された岸さんという方を、僕はまったく知りませんでした。

山路:
 元電通のクリエイターということでしたよね。電通を辞めて、自分で独立して会社を起こして。

小飼:
 そういう人が伊藤さんを自分の家に呼びつけるだけの、権力を持っていたわけですよね。そういった、いわゆる影の実力者というのは、表に出ている人よりはずっと知られてないです。でも、実は表に出ている人達を文字通り影から操っていたのはそういう人達で、弱いところを押さえていたからですよ。

山路:
 こういうところで思うのが、「これはこれ、それ」で。例えばはあちゅうさんが、そういう童貞的なセクハラ発言をやっていることは責められるべきだ、というのに関してはその通りだと思うんです。
 けれども、結局あの事件を見ていて、“具体的な顔のある対象”は非難しやすい、ということをつくづく思いましたね。会社という組織って抽象的じゃないですか。今はどうか知りませんけど、たしか電通は公式Twitterも鍵かけちゃったりしましたよね。

(画像は電通報の公式Twitterより)

小飼:
 みたいですね。

山路:
 つまり抽象的なものだったりとか、窓口がなかったりすると、とりあえず反応を引き出せる相手に必ず非難が向かうというのは、しょうがない性質なのではないかと。

小飼:
 人間の特性としてはしょうがないんですけれどもね。

山路:
 この人類史を通じて、俺たちずっと同じことをしているよなと(笑)。

小飼: 
 それでもちょっとはマシにはなっていると思いますよ。

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