プログラマー小飼弾氏が選ぶ、2017年を総括する3つのキーワード「前原」「凍結」「ビットコイン」
ドワンゴ川上量生会長退任、CTO就任に言及
山路:
SNSの関連で言うと、ニコ生というのも、広い意味でのソーシャルネットワークなので、niconicoについても言及しておきましょうか。最近niconico(く)という新しいバージョンが発表されて。
小飼:
苦しみ紛れの(く)というやつ。
山路:
発表会でユーザーが期待していた機能ではなかった、あるいは画質とか、そういう止まることがあるというのが全然なっていなかったから、発表会が炎上しちゃって、意見交換会が開催され、さらには最近川上量生会長が退任、というかCTOになったということですよね。
小飼:
CTOはおかしくない?
山路:
どういうことなんですか?
小飼:
いや、CTOのTは、間違いでなければChief Technology Officerでしょう。
山路:
それを川上さんは、CTO、技術のほうを見ることに専念するよみたいなことでは?
小飼:
いやだから、今まで見ていたの?
山路:
そこか(笑)。
小飼:
技術に関して、そもそもCEO兼CTOという、これまでの役職もかなりふざけたものではありますけれども。
山路:
それはそんなふうに簡単に兼任できるようなもんじゃないよと。
小飼:
簡単に兼任できるものではないはずです。兼任できなくなったので、わざわざCTOというような役職が出てきたということが背景にあるので。
山路:
弾さんはオン・ザ・エッヂでCTOをやっていたわけじゃないですか? ちょっとよくわからない人もいると思うんですけれども、結局CTOはなにをやる仕事なんでしょうか?
小飼:
技術に関する責任を持つということです。技術の親玉なわけですよ。
山路:
それは今のIT企業では片手間にできるようなことじゃないんだよと。
小飼:
片手間にできる規模ではないと思うんですけれどもね。どこにどんなデータセンターを置くだとか、そういったことというのも基本的にCTOマターなので。
山路:
「パヤオに叱られていたので」(コメント)
これは宮崎駿にNHKスペシャルで、川上さんが叱られていたということを指しているのかな?
小飼弾が見るniconicoの技術的側面
山路:
結局、niconicoの事実上の責任者は栗田さんと言う方に移って、その方がユーザーと意見交換をしながらサービスの改良を進めているといことなんですけれども、今のniconicoの開発の状況というのが、弾さん的に見てどうですか? それは体制的には大丈夫ですか?
小飼:
見えてこないよね。ニコニコ動画がテイクオフしたというのは、YouTubeにはぶられたときだと思うんですよ。
山路:
要は、YouTubeの動画みたいなことをパクってというか、その上に文字を乗せるみたいなサービスから。
小飼:
それで自前で動画サーバーを作ったあたりから、技術会社としてのドワンゴというか、ニコニコ動画というサービスが始まったと思うんですけれども。
山路:
だけど今は、その延長ではちょっといかなくなっていると。
小飼:
いや、その延長ではというよりも、そのときにちゃんとカチッとしたCTOを設けるべきだったと思うんですけれどもね。
山路:
ちょっと今は遅きに失したという感じになっている。
小飼:
だから、技術が見えない。
山路:
niconicoの配信のためのインフラみたいなものであるとか、そういうような。
小飼:
ただ動画を受け取って、ただ動画を配信するというのだって、ニコ動の規模になれば大変なはずなんですよ。実際に大変で、AbemaTVとか大出血しているわけですよね。
山路:
209億円の赤字なんでしたっけ?
小飼:
血まみれになるものなんですよ。とてもじゃないですけれども、エンジニアに焼きそば焼かせている場合じゃないんですよね。
山路:
そういう炎上事件ありましたね。これはただ、そもそもこういう動画配信みたいなものは、YouTubeもそうですし、Amazonなんかも、あるいはNetflix。とにかくお金の殴り合いみたいなところに。
小飼:
なっちゃいましたからね。
niconicoがYouTubeに成り代わっていた未来
山路:
「niconicoがプロバイダをやればよくないですか」(コメント)
「栗田さん胃が痛いだろうな」(コメント)
ともコメントが流れていますね。でも、なんだかんだniconicoは、ユーザーにまだ愛されているところはあるような気はするんですけれどもね。
小飼:
あるとは思いますけれども、愛だけで、愛ばかりと言っていると、愛想尽かされることも。
山路:
niconicoには、私たちもチャンネルをやっている関係上、ぜひ本当にがんばってやっていただきたいんですけれどもね。
小飼:
もう天に唾感はあるんですけれども。
山路:
課金の仕組みとか意外にniconicoと同じようなユーザーのコミュニティを作ってみたいなカタチは、世界的に見ても、あまり似たようなものというのがないですよね?
小飼:
なんですけれども、本来であれば生主という言葉がユーチューバーの代わりに使われるべきだったというよりも、ユーチューバーという言葉の前に生主という言葉がありましたよね。
山路:
うまくいっていたら、そこのところで世界的なリーダーシップをとれたかもしれない。「弾さんドワンゴ入って」というコメントが来ていますよ。弾さんは、もうVALUのリードエンジニアになっちゃいましたからね。
小飼:
ちょっと遅きに失するという感じはありますしね。それに実は、マーケットというのは寡占化が進んでいくと、技術的にいくらあがいても、どうしようもないところまでいっちゃうものだな、というのはいろんなところで感じて、悲しくはなっています。
話がちょっと飛ぶようですけれども、かつてはスーパーコンピューターというのは、専門のメーカーが、専門のチップから、筐体からなにもかも設計してというのをやっていたんですけれども、今はもうx86とGPUのクラスタですよね、ものすごい乱暴な言い方をしちゃうと。
山路:
ハードウェアの技術が、差別化ポイントではなくなってしまった。
小飼:
ちょっとやそっとの努力だと、もはや勝てなくなっちゃうんですよね。
山路:
結局、最終的に勝負を決するのは、技術者ではなく、資本の多寡ということなんですか?
小飼:
でも、そこに至る前には、ちゃんと技術的な切磋琢磨があるわけですよ。
山路:
そこでうまく勝ったところが。
小飼:
勝ったというより、生き残ったところですよね。x86が生き残るというのは、intelにとってすら意外だったんですよ。intelは元々のx86が32ビットのままでは、64ビット自体は生き残れないと踏んだ、まったく新しいCPUアーキテクチャを設計したんですよ。
山路:
IA-64、アイテニアム。
小飼:
でも、そっちは鳴かず飛ばずで、x86をそのままというと語弊がありますけれども、使えるような形で拡張したAMD64のほうが生き残ったんですよね。結局ライセンスを、よりにもよってAMDから買うというすごく屈辱的なことを。
山路:
intelのx86の互換チップを作っていたメーカーが作ったアーキテクチャを本家が買ったと。
小飼:
技術で切磋琢磨できるというのは、古き良きと言っちゃいけないけど、いい時代なんですよね。ビジネスになって、普通の人が使うようになるのは、そういった時期を過ぎて、ここが勝者だというのが決まったころなんです。だから、そこにズレがある。
山路:
普通の人が、今競争していると思ったときには、もう勝負はついていることが多いと。
小飼:
ユーザーコンテンツを売りに出すという点でニコ動はがんばれたはずなんだけれど、結局YouTubeに土俵を取られてしまった。ユーチューバーという言葉は、それを象徴していますよ。
山路:
世界的に、もしかしたらローマ字でnamanushiと言っていたかもしれないのに。
小飼:
本当にそれはあり得た未来なんだけれども。
山路:
「Emojiみたいだね」というコメントがあります。そう聞くとniconicoファンは残念ですね。