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【猪瀬直樹×東浩紀×夏野剛】トランプが勝ったので言いたいこと言ってみた 「アメリカ人は自分を承認してくれる強い父を求めていた」

そもそも米大統領選は政策の争いではなかった

東:
 クリントンとトランプの争いが政策の争いだと思った。ここに大きなミスがある。これは最初から政策の争いではなかった。承認の争いだった。あと、分析だけの問題ではなくて、調査の段階での方法を変えないと行けないのかもしれない。まさに出口調査をするってこと自体に問題があるのかもしれない。

猪瀬:
 各選挙陣営はネットでターゲットをかなり絞って、かなり個別の個人情報を把握して、選挙活動しているとは言われてるよね。世論調査というのは意識の表層だけが出てくるってことでね。祝祭空間なんで、無意識の撹拌されたものっていうのは、建前上の言葉には現れてこないってことなんだよね。

東:
 これが怖いのは、無意識を捕まえるって身体の問題だったりするわけ。トランプ陣営って、ここは無理って言われていた接戦州にも結構行ってるでしょう。統計的に見たら、ここってもう絶対クリントンが獲るにきまってるから無駄だって言われたところに行ってる。それができるのは肌感覚で動いてたからなんだけど、結局はそっちが正しかったってことでしょ? これはヤバイと思うんですよね。あれだけ一生懸命ビッグデータ分析とかやったのに、結局トランプの肌感覚のほうが正しかったんだとすると、なんだったのって話。

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夏野:
 今回は当たったけど、当たらないときもあるって。ただ、投票直前まで態度を決めてませんっていうのが三分の一以上いるんですよ。そこがまさにあずまんの言う肌感覚で、ギリギリの雰囲気を見て、やっぱりこっちかなぐらいのいい加減な気持ちでやったんです。

猪瀬:
 だけどさ、結局そういうことが民主主義の本質だから。

夏野:
 まさにその話題をしたいんだけど、Brexitの話やトランプの話を見てくると、民主主義っていいんだっけって。ちょっとその辺の話をしたい。

今は民主主義の過激な実験の時代

東:
 僕は民主主義には大きな問題があると思っていて。いまは長期的に見れば、フランス革命から始まる200年から300年の壮大な実験の時代なんだけど、フランス革命のときの理想というのは実は全然実現していない。万人が情報を集め、発信し、みんなが対等な立場で投票できるっていうのは、本当にインターネット以降に実現したわけですよね。だからこの10年から20年が初めて、本当に民主主義をやっている。ところが初めて民主主義をやってみて、結果がこれなわけですよ。Brexitと、トランプですよ。だから、これからこそ民主主義の真価が問われてくる。個人的には、どうも民主主義は結局はうまくいかず、未来から見たらあまりにも過激な実験の時代だったって言われるんじゃないかって気がしますけどね。

猪瀬:
 ヒトラーの時代に、ゲッベルスがすごくうまかったわけですよ。宣伝大臣が。一体感を作り上げていったわけで、方向が違って行っちゃったけど、ある種の理想形を作り上げていったわけね。

東:
 20世紀後半の人文系の連中が口をそろえて言ったのは、あれは全体主義の問題であると。一箇所から情報を発信して、みんながコントロールされてるのが問題だったんだと言っていたわけです。裏返せば、みんながばらばらで、情報を発信すれば多様性が実現されるはずだし、いけるはずだと思っていたわけですよ。ところがこれなんですよ。だからもう、ダメなんですよ。

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夏野:
 つまり、民主主義は機能しないと。

理想の政治体制とは

東:
 ちょっと妄想みたいな話だけど、人間にとって安定的な政治形態は、極めて完成された官僚主義プラス時々のお祭りによって持ち上げられる無能力な王という組み合わせなんじゃないかな。で、そのまわりをリアルタイム・ウェブの無意識がとりまく。官僚主義っていうのは、言い換えればエリート主義。本当は自分たちで全部決めてるくせに、すごくネットもチェックしてるし、すごく大衆のことも気にしているような状態。

夏野:
 俺は違うことを思っていて、人間は都知事を10年やろうと思ったら腐敗するんですよ。やっぱり長いことその地位にいられるって時点で腐敗しちゃう。なので、俺が思うのは、一律に抽選でいいから、裁判員裁判と一緒。

東:
 それだと正当性が担保されない。その話をするなら世襲制だと思いますね。25年交代の世襲制。

猪瀬:
 日本は世襲制じゃん。

夏野:
 政治も官僚も8年任期制にしたら、それでいいと思ってるんですよ。8年でいい、8年しかできない。

「王=生贄」?

猪瀬:
 ちょっと、わかってないのよ。王というのは、生贄なるんだよ。王は生贄になるわけ。

東:
 生贄ですね。いま韓国の大統領がなっているみたいに。

猪瀬:
 そう。韓国なんか、5年ごとの生贄だよね。

東:
 ああ、まさにそうだ。

猪瀬:
 王というのは、そういうものなんだよ。生贄と同時に存在しているんで。

東:
 シャーマニズム国家なのかもなあ。基本的に王は飾りで、周りにちゃんとした人がいればいい。官僚制をいかに回すかとか、いかに才能を抽出するかとかってことに関しては、いろんな手があるわけですよ、やっぱり。

夏野:
 今中国の歴史を見ても、日本の歴史を見てもそう思って。みんな世襲するんだけど、長く続いたのは徳川くらいで、後は全部失敗したけどね。それはなぜかと言うと、途中でどうしようもないアホな後継者が出てきて、でもそれをどかすための社会的コストはものすごいでかくて、その社会的コストを払ってもいいっていうんだったら、僕は世襲でいいと思うんだけど。

猪瀬:
 アメリカはだから四年に一回交代するっていうね。そういうひとつの伝統のない国の中で南北戦争を経験値として、そのシステムを作り上げていったって言うことだよね。かなり合理的なね。そういう意味では日本はやり方が違うからね。ただ、閉塞感は同じなんだよ。グローバリズムっていうのは国家を衰退させていくからね。国家の再分配機能というのを奪っていくので。

夏野:
 ただね、若干日本とアメリカの違いがあるのは、アメリカの場合はそうは言っても、別に、この8年間のオバマがどうかは別として。結果的にはこの21世紀以降、この16年間ではかなり成長してるんですよ、結果的には。

猪瀬:
 GDP。だから、分配がついてこないってことだよね、それにね。

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日本と米国の格差

夏野:
 分配に偏りがあったかもしれない。しかし、トランプが言っていることは「分配を更に偏らせよう」ということなので。

猪瀬:
 分裂してるからね、トランプの話はね。

夏野:
 一方で日本は過去20年間に成長率がゼロなわけですよ、実質で見ても先進国中で言うと最低なんですよ。名目値ではもうマイナスで。だから、日本は失敗国家で、アメリカは一応まだうまく行っていたほうなのに、アメリカの方が先にこういうことが起きているっていうのは、どう見たら。

猪瀬:
 格差は広がってるよね、日本の方が。

夏野:
 ただ、アメリカの場合はご存知のように、失業率がたとえば8%くらいでもいわゆるセーフティネットがきっちりできてるんで、あんまり困んないですね。

猪瀬:
 でも、オバマさんの健康保険はうまく行かなかったんだよね。

夏野:
 しかしセーフティネットとしてはあるじゃないですか。だから貧困層は確実に存在するんですけど。それは日本でも生活保護を受けている人の生活保護は本当に足りているのかっていう。

猪瀬:
 アメリカは移民国家だから、順番に新しい人が入ってくるんで一番下にならなくなるんだよね。もっと下が入ってくるから。日本は下は固定化されちゃうと、流動性がなくなってくるからね。

夏野:
 ただ、今の日本の政策はどちらかと言うと固定化を促進する政策。つまり僕は非正規社員を正規社員にしろっていうのも完全な間違いだと思っていて。正規社員の禁止をすべきだと思ってるんです。

東:
 言いたいことはとても良くわかる。

夏野:
 そうすると、固定化されている人にチャンスが回るんでね。

猪瀬:
 2020年オリンピックをやろうとしたのは、希望を持たなきゃしょうがないんで。希望がまったくなかったんだ、あのとき。リーマンショックで、民主党政権になってまたダメで。そういう状況の中で2020年の希望を作ろうとしたんだよね。それは希望だから。

国民にどんな希望を見せられるか

夏野:
 トランプさんはこのあと1月20日に就任式をするわけなんだけど、そこから半年で何の希望を持たせられるかで、そのあと決まると思うんですよ。つまり、支持率がどんなに高かったとか政策だとかそういうことはあまり関係なくて。なったあとに、最初の6ヶ月で今度は議会を掌握できるかっていう話になるわけじゃないですか。

東:
 でも議会は掌握できるでしょ。共和党が変な感じで反対しなきゃ。基本的に人は勝ち馬に乗るし。

猪瀬:
 だから空気を刷新したのよ、とりあえずね。

猪瀬:
 ただね、心配なのはさあ、トランプって日本についての知識とか文化に……。

夏野:
 まったくない。関心もない。

猪瀬:
 ないわけだよね、まったくね。世界の地理とか各国の国情とか、そういうものについてのごく普通のレベルの知識はあんまりないんだよね。まあ官僚機構がやるんだろうけども、それはさっきの沖縄問題とか。

夏野:
 出てくる可能性が。

猪瀬:
 「自分で自分の国の防衛コスト払え」っていうことで。

夏野:
 それは正論なんですよ。

猪瀬:
 そういう問題が出てくるよね。

夏野:
 で、それが出てきたときに、日本側がちゃんと対応できるかどうかっていうのがすごい大事なのと。それから対応しなくてもその状況を利用するやつが絶対に出てくるので。

東:
 まずいまのリベラルは崩れる。他方で「我々は今こそ自主防衛するべきだ」っていうタイプの議論が、おそらく右翼と左翼の連合型で出てくる。半分右翼で半分左翼。

選挙結果なんて分からない

夏野:
 それが一種の納得感を持つ可能性は非常に高いなと。それでは次。「今回の選挙結果と世論調査でビッグデータや既存手法では見えてない世界が意外と広いということがわかりました。私は世論を知りそして自分の考えることを決めるタイプなのですが、どうしたら人々が何を考えているのか、どこに向かっているのかを知ることができるようになるのでしょうか」。そんなのわかるわけねえじゃねえか。

東:
 世論を知ってから自分の意見を決めるっていう、君のような「様子見」の人間がいっぱいいるからこそ、この世界はこうなっちゃったんだよ!

猪瀬:
 俺の本を読めばいいんだ、俺の本。

夏野:
 じゃあこれを最後にします。「ヨーロッパでも右傾化が進み、フィリピンのドゥテルテ、ロシアのプーチン、日本の安倍さんなどマッチョさ、強い指導者が選ばれています。このような状態が続くと世界の情勢はどういう風になると思いますか」。あともう1つが、「排他的で孤独主義なリーダーが並ぶと悪夢のような世界が起こりそうです。具体的に言うと戦争は起こると思いますか」。

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