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トランプはただの頭の悪い泡沫候補ではない――『トランプは本当に勝てるのか?』が解き明かす異様な大統領選の真実

ドワンゴ・エグゼクティブ・プロデューサー 吉川圭三


 『トランプは本当に勝てるのか?』。この作品からは、共和党の最大支持母体であるキリスト教福音派をも懐柔していくトランプの姿に、ただの頭の悪い泡抹候補には感じない喧嘩慣れした狡猾さとパワーとふてぶてしさが滲みでている。

 今回の極めて異様な選挙戦を客観的に観る最高の1本だと、私は思うのである。


トランプ氏は本当に公約を守るのか?

 皆さまもご存じのようにトランプ氏の選挙公約はかなり破天荒だ。
・イスラム教徒の入国禁止
・不法移民の流入を防ぐためにアメリカとメキシコの国境に高い壁を建設する
・税金無駄使いのオバマケア(医療保険制度改革法)を撤回させる
・アメリカを再び偉大な国にする

 トランプ氏の言葉は実にシンプルで支援者の胸に突き刺さる。そして、SNSやメディアで炎上するたびに、逆に異様な光を帯びトランプ氏の威光は不思議にもさらに増幅していく。その姿はまるで悪役レスラーがヒーローになっていく様でもある。

 そして、この番組は最後にこんな問いかけをする。

「彼が大統領になったら本当に『選挙公約』を守るのか?」
・イスラム教徒を全米の空港で振り分けて入国禁止にさせられるのか?
・メキシコとの壁の建設費用・不法入国者強制送還の費用はどう捻出するのか?
・移民の労働力に頼っているアメリカ経済はどうなってしまうのか?

 前言撤回も辞さないトランプがこんな漫画のような公約を守れるのかと番組は問う。そして、ある種アンチヒーローとも言うべき候補者を生んでしまったアメリカ社会の「異様さ」すらも炙り出されて来るのである。

©PPS通信社
写真提供:PPS通信社

英国の制作者が見せる「毒」

 この作品はイギリスの民間放送チャンネル4で放送され、ITNと言う伝統ある実力派ニュース制作会社が制作した。チャンネル4はかつてかなり毒を含んだドキュメンタリーを放送する、タブーを打破する放送局であった。

 近年その先鋭性が無くなったと言われているが、この作品を見る限り、今回の米大統領選挙とトランプ候補に対し、かなりシニカルな視線で迫っていることがわかる。

 このドキュメンタリーは今回の選挙とトランプ氏の主張をたっぷりと描きながら皮肉な描写も織り交ぜる。冒頭のトランプ反対派の全身コンドーム姿の抵抗、元トランプ執事の語る彼の意外な実像等々……。

 今回の選挙とトランプ氏を、英国の制作者たちは表面上はオーソドックスな選挙戦リポートとして描きながらも、ときどき得意の「毒針」でチクチクと刺している様子が、この作品を見るとよくわかるのだ。

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