トランプ自身によって封印された問題作、25年の時を経てついに配信――『トランプ:人気ビジネスマンの裏の顔』
ドワンゴ エグゼクティブプロデューサー 吉川圭三
ドナルド・トランプ。2016年のアメリカ大統領・選共和党候補であるとともに、ニューヨーク5番街のティファニー宝石店の横に高層ビル「トランプ・タワー」を所有するなど、全米屈指の大富豪である。
今回配信する「トランプ:人気ビジネスマンの裏の顔」が描くのは、事業家としてのトランプの「表の顔」と「裏の顔」である。不動産業者の息子として生まれ育ったトランプは、持ち前の自己顕示欲とプロレスラーの様な意表を突くハッタリでみるみるリッチな男にのし上がって行く。合法・非合法なあらゆる手段を取りながら……この作品は、アメリカンドリームの体現者の様にも見えるトランプの華燭(かしょく)の仮面を容赦なく剥がしてゆく。
しかもこの作品は、1991年、つまり25年前にイギリスで制作され、トランプ氏へ与える影響力の凄まじさから同氏自らによって封印され、お蔵入りにされた、いわくつきの作品なのである。
1983年に建てられた「トランプ・タワー」は彼のトロフィーとも言える恐るべき建造物であった。女優オードリー・ヘップバーン主演の映画「ティファニーで朝食を」で有名なNY5番街のティファニー宝石店の横に建てられた「トランプ・タワー」の豪華なエントランスは一般客にも開放され、オフィス・アパートからなるこのある種異様な黄金のビルはドナルド・トランプを一躍世界の有名人物に変貌させた。
この作品では、その裏に不法移民労働者や高価な割に安普請(やすぶしん)なビル内部までを抉(えぐ)る様に写し出す。それはまるでトランプ自身の表面の顔と内面を現わしているかの様である。トランプはさらに航空会社・ゴルフ場経営・投資などのビジネスを展開。美人妻とセレブ生活を送り、アメリカンフットボールチームを持とうとし、当時世界最強のボクサーであるあのマイク・タイソンをも得ようとする。そのたびにマスコミが騒ぎたて世間を騒然とさせてゆく。
彼の豪華クルーザーは大きすぎてヨットハーバーに入らないし、何軒かある豪邸の一部映像も写るがカメラに収まりきらない程、広大だ。やがてカジノ業界にゴリゴリ交渉し参入。豪華カジノ・タージマハールを完成……しかし、資金の回転が上手く行かず経営難に陥る。これがまるで乱気流の中を激しく上下しながら飛行する様な、彼の1991年までの人生とビジネスである。
そして、私は確信的に思うのだが、この作品の制作者たちはこの当時ある種、規格外な人物が25年後、共和党唯一の大統領候補になることなど想像も出来ないであろうと言うことである。「人間は変わるのか?変わらないのか?」これは永遠の謎であるが、もし「人間不変説」が正しいならば、ここで描かれた1991年までの彼のアウトローな生き方が大統領候補から大統領になった後も続くことになる。それはまるで「冗談の様なSF小説」が現実化されることにもなるとも言えるのではないだろうか。その時アメリカはどうなるのか? そして、世界はどうなるのだろうか?
そういう意味でこの作品は、25年の時を経て封印が解かれ異様な光を放つのである。これが「予言ドキュメンタリー」とでも言うならば私はそれが的中しない事を祈るのみであるが、皆さんはこの不思議なドキュメンタリーをどうご覧になるのであろうか。