【猪瀬直樹×東浩紀×夏野剛】トランプが勝ったので言いたいこと言ってみた 「アメリカ人は自分を承認してくれる強い父を求めていた」
既成メディアも個人も全部間違えた
夏野:
今回のトランプ現象というものもネット社会が影響しているように感じるんですけど、どうですか?
猪瀬:
ワシントン・ポストとかニューヨーク・タイムズとか、既成メディアが全部間違えたってことはなかったと思うよ。今まで。
東:
今回は個人も結構間違えてますね。そもそも有権者も、トランプが問題だということは百も承知なんだけど、しかしなんとなくトランプに入れちゃったということで、それが積み重なってこうなったわけですよね。これはなかなか怖いというか、ちょっとまだよく分析できない現象ですね。トランプを批判することは簡単にできるし、実際延々とされてきた。彼がまずいのは自明なんですよね。にもかかわらずこういう結果が出るというのは、単に保守化って話でもないだろうって気がするんですよ。
猪瀬:
それはグローバル化で国家の枠組みが壊れてるからよ。
東:
僕としては、むしろこれは承認の問題だと思うんです。国家のすごい重要な機能として、国民ひとりひとりの承認という機能がある。アメリカ人だからアメリカに誇りを思うってやつです。承認がなくなると人は不安になる。ところがポリティカル・コレクトネスは、アメリカ人の多くからまさにその承認を奪ったということではないか。だから彼らはもう一回承認を求めるようになった。象徴的に言えば父を求めるようになった。強いアメリカ、強い父が自分たちを承認するっていう、そのメカニズムを求めるようになった。それがトランプ現象では現れてる。これも政策以前ですよね。承認がちゃんと提供されたうえでしか、人は合理的な議論はできないんですよ。
猪瀬:
所属感だよね。アメリカという国民国家に所属しているという意識だよね。個人では生きられないから、国民国家というアメリカに所属しているという意識が、所属感がなくなってきている。みんなで思いっきり所属先を求めたわけですよ、今回は。クリントンは与えてくれそうにないわけですよね。
夏野:
今までの延長ってことが唯一のウリだったからね。
ブログ社会からTwitter社会に
東:
オバマの時代は今の時代と違ってまだリアルタイム・ウェブがない。リアルタイム・ウェブって本音の部分がドンドン出てくるってことなんですよ。オバマが当選したころは、ネットが使われたといってもみんなブログを書いてる。ブログって一時間とかかけて書くから、みんなちゃんと真面目にやるわけ。一応理屈作らなきゃいけない。でも、ツイッターとかフェイスブックのようなリアルタイムのSNSってのは、身体的な反射で本音だけが出てくるから、全く機能が変わるんですよね。ネットは初期はリベラルの道具だと思われてたんだけど、技術が進むに連れて保守が強くなった。これはアーキテクチャの問題としては当たり前で、要は即レスが可能になったからなんですよ。即レスっていうのは身体反応だから。じゃあ改善策があるんですかって言われても思いつかないんだけど。
夏野:
そういう時代だと思うしかないんですけど。
猪瀬:
いわゆる基本になる共同体が壊れている。地域とコミュニティとかあったからね、昔はね。
夏野:
ただね、日本に比べるとアメリカはまだ残っていて。でいま実は、アメリカって3分の1しかパスポート持ってないし。3分の1は国外に出たことないし。3分の1は州外に出たことないんですよね。
猪瀬:
まだ天動説がいるからね。
夏野:
テキサスの田舎に住んでるおじいちゃんなんかテキサス以外知らないからテキサスが国だと思っているっていう。
国家から国民への「承認」
猪瀬:
国民国家の原型っていうのはあるんだよ。それがグローバリズムで壊れかけてるから。「承認」っていうのは、そこにいる所属感とか、自分の考えがイコール国の考えであるという風な連続性みたいなものがどこかにあったんだよね。それが壊れてる、壊れかけてるってことが、トランプの登場だと思うんだけどね。
夏野:
もしかしたらトランプで良かったかもしれないと思うのは、ヒラリーは既存の政治家の延長ということはみんなが認めていて。新しいことは何も起こらない。絶対に。
猪瀬:
まあ、官僚機構と変わんないからね。
東:
しかし今回はトランプ勝ちすぎましたね。上院も下院も共和党が過半数でしょ。最初の半年か1年間くらいなんでもできますよね。だから結構いろんなこと、公約してた極端なこともやっちゃうんじゃないかなあ。豹変する必然性が、あまりない気がするけどな。
猪瀬:
まだそれは分かんないんで。やっぱり祝祭空間みたいのが欲しかったんだよ。クリントンだと昨日と今日と明日は変わらない。
夏野:
祭りと一緒ですよね。
猪瀬:
そう。結局そのために1年働いてるわけよ。諏訪の御柱は7年に1回だけど、そのためにみんな働いてる。東京オリンピックは2020年で、これ祝祭空間作るってことだからね、本来。そうやって祝祭空間があるから、安倍政権が退屈でも保ってるわけよね。そういう祝祭空間みたいなのは、実はそれ自体が国家の目的なんだよ。
夏野:
ちなみに、このトランプの勝利が日本の政治家、および国民にどういう影響を与えるか?
猪瀬:
単純に株価が千円下がって、円高になって1ドル100円くらいになってるでしょ。そういう形でまず現れる。
夏野:
いまポリティカル・コレクトネスという一世代前のアメリカがすごく重視していたことが、一番求められているのは日本の政治家だと思うんですよ。文春のお陰で。ものすごいポリティカル・コレクトネスを要求されていて。だからどの政治家と話しても、いま怖いことは言いませんよ。なんにも言わない。なんにも言わないことが唯一の保身になっている。この状況にかなり影響を与えるのかなっていう気はしていて。
日本のポリティカル・コレクトネスは文春砲!?
東:
そんなことはないと思います。日本のポリティカル・コレクトネスはアメリカのとはかなり違う。元々アメリカではあの言葉は80年代のものですよ。それが急に日本で話題になるようになったのは、むしろネット時代のせいなんですよね。つまりポリティカル・コレクトネスの問題と、ネットが可能にする相互監視みたいな問題っていうのが、日本ではかなり混同されている。日本でポリティカル・コレクトネスと思われてるものは、むしろ炎上するかしないかみたいな話です。見つかるか見つからないかみたいな。
猪瀬:
欧米のその話っていうのはキリスト教とかバックグラウンドがあって厳しいタブーがあるわけよ。その厳しいタブーってのを共有することによって成立しているわけね。そこにあたらしい性の問題とか入ってくるじゃない。堕胎だとか、妊娠中絶とか。それが崩れはじめると国家の崩壊と規範の崩壊とが重なり合っていくから。
夏野:
日本の場合は、ネットの炎上より文春砲なんです。日本の場合は高齢者、特に女性の票が強いので、そのへんネットなんか使ってませんからね。ネットでどんなに炎上してようが、とにかく文春・新潮に載らなきゃいい。
猪瀬:
タブーの意味が違うんでしょう。
東:
いずれにせよ、日本ではポリティカル・コレクトネスとか言っても、炎上するかしないかっていう話でしかない。最近では不倫が叩かれるってみんなビビってるかもしれないけど、それも炎上すようになったからであって、別に炎上しなければ気にしない。
夏野:
じつは僕は経済系ではトランプはメチャクチャなことはやらないだろうなって思ってるんですよ。自分の勘が。
猪瀬:
やっぱり関連企業があるからね。
夏野:
ところが在日米軍の問題に関しては、結構ドライな判断を下す可能性が強くって、つまり彼が見ている世界の憲兵としてのアメリカってのはもはや無いんです。
東:
日本では沖縄が大事でしょう。
夏野:
それでは、ユーザーメールを読みあげさせていただきます。さきほどから何回も出ているメディアの話についてです。「そもそもなぜ、世論調査は間違ったのでしょうか? ちらっと話は上がっていますが、ちゃんと聞きたいです。そもそも、この調査ができないマスメディアには、価値はないと思いますが、なぜこんなことが起こってしまったのか、みなさまの推測を知りたいです」。