岡田斗司夫がオススメする“Amazonビデオにて配信終了間近の映画名作選”『時計仕掛けのオレンジ』や『シャイニング』も
原作者は不満だったシャイニングの名シーン
岡田:
これは売れない小説家の旦那さんがアルバイトで冬の雪山の中、雪に閉ざされて人がいないホテルの管理人というのを任されたので、自分と嫁さんと小さい息子の3人で、雪山のホテルの中で缶詰になるんですね。一冬あれば小説が書けるだろうと、ずーっとタイプライターで書いてる。書いてるうちに段々、おかしくなってくるという話なんですけども、奥さんが旦那さんの異変に気がついて、おそるおそる何を書いているのか絶対に覗いちゃいけないと言われているのに、タイプライターのところに覗きに行ったら、タイプライター一面に、「All work and no play makes Jack a dull boy」というですね、「働いてばっかりで遊ばないとジャックは今にも気が狂う」というですね、この文章だけを何百枚とタイプしていたというのがわかって、奥さんが、「あー!」となったところに後ろからジャックが、「見たの?」って言ってくるシーンがあるんですよ。
岡田:
なかなかいいじゃん、怖いじゃんと思うんですけど、ここもやっぱりスティーブン・キングの怒りが収まらずですね、その次のシーンなんですけど、さっき奥さんが読んでいるところを後ろから撮って、この物陰から旦那が出てきちゃうんですね。で、「なんだこれは!ヒッチ・コックだったらこんな初歩的なミスはしないぞ!」とスティーブン・キングが怒ったんです。ここで旦那の人影が見えちゃったら、来る来ると思っている客に、やっぱり来るんだと思わせてしまう。そうじゃなくて、いきなり来なきゃダメだろうっていうのが、スティーブン・キングの言い分なんですね。
岡田:
ところがスタンリー・キューブリックはそんな映画は撮りたくないんですよ。そんなですねスティーブン・キングが大好きな安物ホラー映画みたいなものはちっとも撮りたくなくて、スタンリー・キューブリックが撮りたいのは、SF映画だったら『2001年宇宙の旅』と、社会問題を取り上げるんだったら『時計じかけのオレンジ』とかですね、もしくは政治的なコメディを撮りたいんだったら『博士の異常な愛情』というそれぞれのジャンルのマスターピース、大名作になるような映画を撮りたい。
なのでいきなり旦那さんがヌッと現れてどうしたの? というのは全然撮りたくないというようなことで、二人は延々仲が悪いわけなんですね。僕はこのシーンは別に、旦那さんがヌッと出て来なくても、スタンリー・キューブリック特有のシンメトリー左右対称の画面の緊張感だけで充分面白い。7月14日までですから、『シャイニング』皆さん是非見て下さい。
SF映画『ブレードランナー』のラストシーンは『シャイニング』の没シーンが使われた!?
岡田:
冒頭のですね、一番最初に、コロラド山脈のロッキー山というところにそのホテルがあるんですけど、そこへですね車が上がって行くだけのオープニングなんですよ。延々空撮でヘリから撮った映像で、音楽が、ドワンドワンとかかってて、おんぼろのフォルクスワーゲンが一所懸命山道を登って行くのを撮っているだけなんですよ。ところが秋口のコロラド山脈なので、山を登って行く自動車を撮っているだけで、山の標高が上がるにつれて周りの風景の季節が変わるんですね。
一番下の方は、下の方で撮っている映画の頭の方ではですね、日差しが明るくてですね、まだ秋と言っても夏、葉っぱがいっぱいあってというような様子なんですけど、それがですね、何分も何分も続いているうちにですね、周りが全然木がなくなって、ついには周りに雪が現れてというのを、ずーっと空撮だけで撮ってるんですよ。ワンシーンでみせるスタンリー・キューブリックの天才性というのを見たら、もうこれでいいじゃんと思うんですね。
岡田:
このフッテージがあまりに格好良かったから、後にリドリー・スコットが『ブレードランナー』をエンディングを撮る時に、予算もなければスケジュールもなくて、取締役に映画を見せなければいけないのが、もう3日後か4日後だったんですよ。リドリー・スコットがああそうだ!と思って、スタンリー・キューブリックに電話して、「『シャイニング』でめちゃくちゃ格好いい空撮あったよねと。
あれ、あんたのことだから、5分くらいのシーンだけど、実は10時間くらい撮ってるでしょ」って聞いたら、「うん撮ってる。」って言われて、「どこでもいいから貸して。」って言ったら、「いいよ」って言われて貸してもらってばあーって編集してポンとつなげたら、映画会社の社長が、これだよ!って言ってOKだしてくれたおかげで『ブレードランナー』が公開できたというのあるんだけども、それくらい没フィルムでも、『ブレードランナー』のラストシーンになるくらい(笑)。まあ、すごい格好いい映像ですのでですね『時計じかけのオレンジ』も『シャイニング』もAmazonから消えてしまうので、見て下さいということですね(笑)。