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『シン・エヴァンゲリオン』の背景が“あまり美しくない理由”。新海誠・細田守に逆行し「二次元風景」に回帰した技術的意図を解説【話者:岡田斗司夫】

 3月8日に映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇(以下、シン・エヴァンゲリオン)』が公開されました。公開日延期などもあった中、驚異の大ヒットとなった同作は、同シリーズ過去最高の興収となることが確実視されています。

 この大ヒットを受け、ニコニコ生放送『岡田斗司夫ゼミ』では、『シン・エヴァンゲリオン』の特集が行われました。

岡田斗司夫氏

 この放送の中で、パーソナリティの岡田斗司夫氏は、ネタバレなしで『シン・エヴァンゲリオン』の「ここがすごい!」というポイントを紹介。「ストーリーを無視しても余りあるほど面白い」と評した岡田氏が、映画制作における技術を解説します。

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岡田斗司夫:
 作り方がアニメの歴史の中でも新しい。過去にやったことがないことをやっているんですね。
 冒頭映像の12分をAmazonプライムで公開してるんですけど、映画館に行く前にモニターで見るじゃないですか。モニターで見て、そのあと劇場で見ると全然意味が違うんですね。

 映画館のスクリーンサイズいっぱいの画角で見ると、全然意味が違って、予告映像を何回見た人も驚いたはずです。とにかく見え方が違うんです。

作品を芸術の域まで高めた「プレビズ」とは?

岡田:
 『シン・エヴァンゲリオン』どのカットを見ても、構図が圧倒的に決まってるんですよね。
 その理由は何かというと、プレビズです。まず絵コンテより前にプレビズを作っているんですね。プレビズというのは「プレビジュアライゼーション」というもので、セットの模型を組んで、その中にミニチュアを入れたりして、それを動かすことでビデオカメラで絵コンテを作ることです。その場でセリフも効果音もバンバン入れちゃうんです。

岡田:
 『シン・エヴァンゲリオン』のパンフレットの中で鶴巻監督のインタビューが載ってるのですが、その中で「まず強調したいのはプレビズを今回使って成功した」と。「アニメというのは最初に絵コンテを描く。この絵コンテというのは動きやレイアウトを指示してるもので、実はアニメーションっていうのは絵コンテで8割が決まる」って鶴巻さんは言ってるんですね。

 アニメ業界でも確かに、これまでにプレビズっていうのはあったんだけども、絵コンテを描いて、その絵コンテの精度を上げるためにプレビズを作る。つまりその絵コンテを描いたら、それを簡単な3DCGで作って、中に人物とかを配置してかっこいい構図を探したりとか、そういう使い方をしてた。
 あくまで絵コンテのクオリティを上げる。絵コンテ以降のクオリティを保つためのものでした。

 アニメっていうのは、絵コンテで面白さが決まってて、その絵コンテの面白さにいかに近づけるのかってことにプレビズが使われていたわけですね。
 しかし『シン・エヴァンゲリオン』では絵コンテの前にプレビズが使われました。つまり脚本が上がったら、すぐにそこからプレビズを作り出しちゃうわけですね。完璧な構図を決めるためなんです。

 これは『シン・ゴジラ』でも庵野監督がやったことですね。『シン・ゴジラ』ではプレビスの段階で、たとえば会議室の中で人が動くシーンでも、CGで会議室を作り、その中に人を配置して、その中でカメラの位置を完璧に決めました。

 カメラの位置はミリ単位で指定、役者の演技はセンチ単位で指定、役者のセリフの長さっていうのはコンマ3秒単位で指定するぐらい厳しくやらせた。
 そのおかげで『シン・エヴァンゲリオン』というのは、圧倒的な密度の映像ができたわけです。これって何かって言うと、もう商業作品の作り方じゃないんですよ。実はこれってアートの作り方、芸術の作り方なんですよ。現代芸術のものすごいクオリティで商業アニメを作ることができたのは、プレビズのおかげです。

『シン・エヴァ』の構図は超二次元的

岡田:
 プレビズ最大のメリットは、最初に話した「構図を完全に決められること」なんですね。アニメの美しさっていうのは、書き込みとか演技とか色彩設計だといつの間にか僕らは思っているんですけど、まず第一に何よりも構図・レイアウトなんですよ。

 これを説明するために『富嶽三十六景』を使います。『富嶽三十六景』とは葛飾北斎が70歳を過ぎてからの連作で、有名なのはこれですよね。
 富士山が後ろにあって、波がドーンときているという、『神奈川沖浪裏』っていう作品ですね。

 もうひとつはこれです。『尾州不二見原』っていう作品ですね。

 この『尾州不二見原』を見てもらうと、これは桶職人なんですけども、桶は斜め向きになってるんですよ。でもこの桶の丸は完全な真円になってますよね。桶職人の体っていうのは真っ正面を向いてるんですね。
 肝心の富士山がすごい小さいんですけども、この丸い樽の枠がフレームのようになってるため、富士山は小さいんだけど強調されてるんですね。

 遠近法を逆手にとっているというか、大胆で奇抜な構図なんですけども、遠近法というのを絵画革命だと思い込んだ西洋絵画では絶対手が届かない。
 なんでかと言うと、これは手前から奥まで全部ピントが合ってる完全な二次元の絵だから可能なんですね。西洋絵画というのは三次元の絵であって、近くのものは近くっぽく描いて、遠くのものは遠くっぽく描くというのを、構図から色の使いから空気のぼやかしまでやってるんです。こういう絵の発想が出てこないですね。

 この世界に影響を与えた日本の浮世絵の技法なんですが、三次元の現実をそのまま表現しようとする遠近法ではなく、徹底的に二次元のものとして見せることで、より面白く強調するということです。
 肉眼ではさっきも言ったように、遠くと近くは同時にピントが合わないから、この絵って見えないんですね。完全に人間の頭の中にしかない風景を、まるでこれが真実のように描いている。これが日本人が持つ二次元の面白さだと思いますね。

 今現在のアニメーションの主流っていうのは疑似3Dなんですよね。3Dに見せようと描いているんですけど、『シン・エヴァンゲリオン』って逆行したんですよ。あえて逆行させた。現代アーティストの村上隆が、スーパーフラットという概念で、「日本人のやってるアートというのは超二次元なんだ」って言ったんですけど、『シン・エヴァンゲリオン』は完全にニ次元だからすごいんですよね。

新海誠・細田守とは異なる背景の描き方

岡田:
 『シン・エヴァンゲリオン』を見てびっくりしたのが、田舎の風景も都会の風景もさほど綺麗に描いてないんですね。その意味では、この5年間ぐらいの新海誠とか細田守作品の描く風景の方が綺麗なんですよ。

 最近のアニメは新海・新海監督が作ったアニメの表現に慣れて、どんどん現実より美しく描く方向にいってるんですよ。
 『シン・エヴァ』は、はっきり言って古いアニメの背景、古いアニメの絵面なんですよね。そういう意味ではジブリの古さに似てるんですけども、これもやっぱりこれからのアニメっていうのはどっちのほうへ行くべきかっていう、新海・細田派の美しい背景ではなくて、俺たちが作る二次元のアニメの背景は、これぐらいじゃないの? っていう問いかけになってるんですね。

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ニコ生岡田斗司夫ゼミ

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