岡田斗司夫がオススメする“Amazonビデオにて配信終了間近の映画名作選”『時計仕掛けのオレンジ』や『シャイニング』も
ラストまでドキドキの緊張感『時計じかけのオレンジ』
岡田:
スタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』も7月14日にAmazonで配信停止になってしまいます。皆さん見ました? スタンリー・キューブリックが描く21世紀のロンドンの話なんですけど、とにかく目が離せないです。キューブリックという人は映画を同じジャンルで2回撮らないと言ってるんですけども、『2001年宇宙の旅』を撮った後に、SF映画というジャンルじゃなくて、地上を舞台にした未来ものということで撮ったんですけども、僕はこれ好きなんですよね。一番最初、アレックスという奴が主人公なんですけども、このフレームから始まるんですよ。
岡田:
このフレームから始まって、ゆっくり画が引いて行って、引いていくとこいつの顔がもう全く瞬き1回もしないまま、ゆっくり引いていって、ここですよ。まわりに仲間がいて、両端に立っているやつがいて、変な女の裸の彫刻みたいなのがあって、これ現代芸術なんですけども、その現代アートのテーブルみたいなものもあって、みんながゆっくりミルク飲んでる。これがゆっくり引いて、アレックスたちが小さくいるだけで……キューブリック特有のシンメトリーですね、左右完全対称の構図で、ここまでずーっと引くところまで見せられるんですね。
岡田:
アレックスのモノローグが入るだけで、あとはクラシックの音楽がかかるだけなんですけども、顔のアップから瞬き1回もしない俳優がここまで引くところまでで、本当に目が離せないんですよ。動きもほとんどない、写真みたいなものを見せられてるだけなんですけども、見ている人間はすごいドキドキして緊張感が映画の最後まである。
構図がキマっている綺麗な画というのは、美しいは美しいんだけども、映画を撮る時って、退屈になっちゃう場合が多いんです。けれどキューブリックの映画はいろんな形でドキドキさせながら、お話をつないでいくので、退屈せずに見れます。これはちょっと大きい画面で見た方が、このドキドキ感というのがわかる。逆に小さい画面で見ると、シンメトリーの画面の凄い緊張感と圧迫感がわかんないまま、つまんなく感じちゃうんですよね。映画自体は21世紀のロンドンで、今主役で映ったアレックスという奴が、ギャングなんですね。ホームレスを襲ったり、あと女の人をレイプしたりするとんでもない悪い奴なんですけれども、ベートーベンの音楽だけが好きだっていう設定なんです。
岡田:
これが捕まって矯正施設に入れられて、首相肝入りのイギリスを不良から守るという精神医学の実験台にさせられるんですね。ルドヴィコ療法というやつに志願したら、無罪放免にされるということでアレックスは、ルドヴィコ療法に志願します。ルドヴィコ療法というのが、両目の瞼をクリップで固定させられて、残酷な映画をずーっと見せられるというやつなんですね。
岡田:
この医者の手は何をやっているかというと、目薬なんですよ。この目薬を10秒間に1滴ずつ差してですね、ずーっと瞬きできないまま前の映像を見なければいけない。最初は暴力シーンとかナチスドイツの映像とかが映って、「いいねいいね」とか言いながら見てたんですけども、ある限界を超えたところから、このアレックスが、気持ち悪くなってきてですね。気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がなくなると、おまけにその映像にBGMでベートーベンを使われて、自分の一番好きなベートーベンと、吐き気がする感情とが関連するようになって、以後ベートーベンを聞けなくなってしまうんですね。この治療法を受けたアレックスは釈放された後、あらゆる暴力的な行動を起こそうとしたら吐き気がするようになっちゃう。昔の仲間たちに、絡まれて殴られても仕返しができない。
昔はさっき一緒に映った仲間たちをガンガン殴ったり蹴ったりしてたんですけど、そういうことが全然出来ない身体になった。一人一人昔自分がいじめた人とかですね、無力なホームレスを蹴ってたんですけど、そのホームレスにも見つかって、一人一人復讐されるという話なんですよ。復讐されてそれだけの話かなと思ったら、最後にはルドヴィコ療法の効果が切れて、コイツの復讐が始まるという、とんでもない映画になるんですけども、そういう映画でありながら、スタンリー・キューブリック映画の左右対称の美しい画面が続くから、とんでもないものを見たような感じになるんですね。すごく面白い作品なので、7月14日までに是非見ておいてください。
ワンシーンだけでわかるキューブリックの天才性『シャイニング』
岡田:
『シャイニング』も7月14日にAmazonで配信が終わってしまいます。僕の大好きなスティーブン・キングの原作をスタンリー・キューブリックが映画化したんですね。有名なんですけども、キューブリックの映画を最初はスティーブン・キングがすごい喜んだんですよ。けどキャスティングの段階から、ちょっとトラブルがあって、まずスタンリー・キューブリックは、ものすごい癖のある演技をするジャック・ニコルソンを主役に選んじゃった。最後に狂ってしまう役なんだけど、ジャック・ニコルソンは最初っから狂ってるじゃんか、と。
なので映画を見てる奴は、こいつ頭がおかしくなるなと、見てわかってしまう。次に嫁さんのウェンディという役なんですけども、原作を読んでみるとすごいしっかりしてる人なんです。けれど映画用に選ばれた俳優さんがですね、すごいね神経質そうな顔をしててですね。
岡田:
この人も見るからに夫が狂ったら叫びそうな感じなんです。いい感じで映画の中で、きゃあきゃあ叫んでくれるおかげで、『シャイニング』の有名なシーン、ジャック・ニコルソンがドアをガンガン斧でぶち割って、顔をにやーっと出したら、奥さんが「きゃあー!」というシーンが撮れたんですけども、スティーブン・キングにしてみたら、こんな顔の役者を使っちゃったら、映画見てる人間は最初からわかっちゃうじゃん、と。大げんかになって、未だに仲が悪いというか、映画関係とかのインタビューを受ける度にスティーブン・キングは、『シャイニング』のことをものすごい悪口言ってます。
どれくらい悪口言っているのかっていうと、後に『シャイニング』がテレビドラマになったんですよ。スティーブン・キングが、『シャイニング』というとみんなキューブリックのバージョンの方を思い出してしまうから、あれは嫌だ!とテレビドラマにしようとした時に、映画製作会社がキング側に出した条件が、これ以上映画版の『シャイニング』の悪口を言わないという条件を出して、キングは涙ながらにそれにサインして……そのかわり俺の『シャイニング』をちゃんと作ってくれると思って作ったんですよ。それでテレビ版の『シャイニング』できたんですけども、不幸なことに、スティーブン・キングが思う通りに作ると、映画が面白くないといういつもの法則が発動してですね(笑)。相変わらず、『シャイニング』といえばこっちの『シャイニング』の方が有名だっていうやつですね。