岡田斗司夫がオススメする“Amazonビデオにて配信終了間近の映画名作選”『時計仕掛けのオレンジ』や『シャイニング』も
サメが出てきて大暴れ『ディープ・ブルー』
岡田:
Amazon見放題が7月14日に終わっちゃうのがですね、『ディープ・ブルー』という映画があります。サメが出てきて大暴れする映画なんですけども、バイオ技術で作られた巨大でおまけに賢いサメが、アルツハイマーの治療のために脳髄液をとられることを嫌がってサメが反乱を起こすんですね。なんせ賢いサメですから、人間がいる海の基地みたいなところでの戦いが始まる。
映画的にどうやって撮るのかと思ったら、その基地の中が半分水浸しになって、サメがガンガン入ってくるんですね(笑)。その当時はギャラさえ払えばどんな映画にも出てくれる、サミュエル・L・ジャクソンという俳優がいるんですけども、この俳優の感動的な大演説と、その後のビックリするようなオチがあって本当に好きな映画なんですよね。
モーガン・フリーマンとサミュエル・L・ジャクソンはなんでも出てくれるよね、金払えば(笑)。この『ディープ・ブルー』も7月14日で配信終了してしまいますので、本当に気軽に見れる映画なので、どれくらい気軽かというと、仕事しながら見て差支えないくらいです。見れば面白いからぜひ見ておいてください。
コメディー映画好きにおすすめ『裸の銃を持つ男』
岡田:
あと、これもね、くだらない映画なんですが、7月14日に配信が終わってしまうのに、『裸の銃を持つ男』というのがあります。本当にくだらない映画好きにおすすめで、ゴッドタンやアメトーーク!よりくだらないって言えばわかるかな(笑)。基本的には刑事モノなんですよ。もともとは、アメリカで4話しか作られていないドラマで『フライング・コップ 知能指数0分署』(原題:POLICE SQUAD!)というめちゃくちゃ人気が高かったドラマがあったんですよ。あらゆる刑事モノのパロディーだけで出来てる、『最終絶叫計画』の刑事版みたいなものを1980年代にやったのかな。
何がくだらないのかっていうと、例えば、『裸の銃を持つ男』はテレビシリーズの頃から何でも知っている情報屋というのが出てくるんですよ。大体情報屋というのは、靴磨きかなんかやってるんですけど、靴磨きをやってると、ドレビン警部があらわれて「マフィアの何とかという奴を知っているか?」と言うと、「そんな奴は知らねえな」と靴磨きが言う。隠れてそーっと金を渡すとですね。「何とかという奴は、コルレオーネファミリーの奴で、こんなことがあったぞ」ってすっごい細かい情報を言ってくれるんですね。で、警部は「ありがとう」と言って、去って行く。
そしたら次の客が来て靴を磨くんだけども、次の客がもう体中血まみれのですね、外科医なんですよ。「心臓バイパス手術の時に第6動脈が破裂した場合の復元方法はどうしたらいいんだ?」「なんのこっちゃわかんねえ」って靴磨きが言ったら、外科医は靴磨きにポケットから金を渡す、すると靴磨きは「バイパスで一番大事なのは、静脈と動脈と血が混ざらないことだ。まず第2バイパスはこういう風にして……」っていうのをベラベラと言って、「ありがとう」って言うと、次には女が並んでいて……っていうですね(笑)。
岡田:
こういうのがチャキチャキ出てくるんですよ。確か「アメリカで一番背が高い俳優」というのも出てくるんですよ。その「アメリカで一番背が高い俳優」というのが、新人の刑事の役で、いつもカメラに顔が映らないというですね、全員が部屋の中で取り調べしている時も、そいつは背が高すぎて、顔が映らないんです。
最終回まで顔が映らないままなんですけど、彼の見切れ芸が好きなんです。この『裸の銃(ガン)を持つ男』は、映画版の方が入っているんですけど、映画版もいい感じで今言ったテレビ版のニオイを残しています。今話した情報屋もちゃんと出てきますので、7月14日までなので、見てあげて下さい。
異色のスピルバーグ監督作『太陽の帝国』
岡田:
その他にも、7月14日に配信が終わる作品に、『太陽の帝国』という、スティーヴン・スピルバーグの映画があります。『太陽の帝国』の原作は、J・G・バラードっていうイギリスのSF作家で『渚にて』を書いた人です。この人は実際に第二次世界大戦中、日本軍に捕まって捕虜になったんですよ。捕虜になって収容所で暮らして、終戦を捕虜収容所で迎えた。そのおかげで日本人にはひどい目にあったんですね。
そのひどい目にあった恨みつらみを描いたSF小説というのが、『猿の惑星』で、白人は滅び、サルみたいな黄色人種が地球を支配する日が来るという話ですね。猿の癖に我々みたいな科学力を使うとか、猿の癖に英語まで操りやがるというのは、第二次世界大戦中の上海を支配していた日本軍のことなんですね。そのJ・G・バラードの原作小説をスティーヴン・スピルバーグがですね、かなり入れ替えて作ってるんですね。
主人公のイギリス人の少年ジミーは日本軍の零戦が大好きなんですよ。零戦が好きで好きでしょうがない。日本軍に捕まるんだったら大喜びというやつなんですけども。日本軍はイギリス領の上海を占領して、あっという間にジミー少年は、捕虜収容所行きになったんですね。ところが捕虜収容所の中で、ずーっと暮らしていくうちに日本人の生活が見えてきて、日本というのは自分が憧れているような国ではないんだと思い始めてるところに、映画のクライマックスでアメリカ人が解放に来るんですね。
岡田:
アメリカのP51ムスタングというですね、飛行機がものすごい低空から進行してきてですね、悪い日本人たちをバリバリ機銃掃射でやっつけるシーンがあって、なかなか格好いいんですよ。
めちゃくちゃ低空飛行なんですよ。高度多分5メートルくらいかな、実機のP51というのを飛ばしてですね、これがガーッと機銃掃射しながら、この手前の悪い日本人たちを撃ち殺しながら、飛んできて、捕虜収容所のジミー少年に、めちゃくちゃ余裕こいて、コックピットを開けて、うわーって、手を振ったら、ジミー少年が「P51、空のキャデラックだ!」って言うんです。
岡田:
P51というのはですね、銀色のピカピカの飛行機なんで、別名「空のキャデラック」と言われたんですね。ここでジミー少年のテンションが一気に上がって、映画のトーンもちょっと変わってくるというやつなんですけども……スピルバーグの映画としては、成功か失敗かというとたぶん失敗なんですね。
零戦に憧れた男の子が捕虜収容所の中で親がいない中で、なんとか1人前として育っていくというのは、父親が離婚して逃げてしまって母親に育てられたスピルバーグの子供時代というのを投影しています。
所謂『E・T』のお父さんがメキシコに行ってしまったというシングルマザーの家で育てられるエリオット少年一家という設定のように、ジミー少年というのは、空のキャデラックP51に助けられ、捕虜収容所から抜け出して、終戦の日を逃亡先で迎えるんですね。逃亡先の砂漠のところで、世話になったおばちゃんが死んでしまって、魂が天に召されるんだと思った瞬間に、東の空がぱーっと明るくなって、まだ夜明け前なのに、明るくなって、空一面にオーロラみたいなのが伸びるシーンがあるんだけど、それは広島に原爆が落ちただけなんですよね。
そういう視点で見た第二次世界大戦の終わり方っていうのを描いているんで、スピルバーグの作品といえどもあんまりファンはいないような映画なんですけども、これもまあ、今言ったように、とにかく飛行機がめちゃくちゃ格好良く出てくる。その時の日本兵の殺し方も、まあみんな良い殺し方(笑)。ちょっと面白い映画だと思うので見ておいてください。