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本戦最大の注目カード・山崎叡王 対 羽生九段:第2期 叡王戦本戦観戦記

プロ棋士とコンピュータ将棋の頂上決戦「電王戦」への出場権を賭けた棋戦「叡王(えいおう)戦」。2期目となる今回は、羽生善治九段も参戦し、ますます注目が集まっています。

ニコニコでは、初代叡王・山崎隆之八段と段位別予選を勝ち抜いた精鋭たち16名による本戦トーナメントの様子を、生放送および観戦記を通じてお届けします。

叡王戦公式サイト

左から、羽生善治九段、山崎隆之叡王
左から、羽生善治九段、山崎隆之叡王

 1回戦屈指の好カードが前期優勝者の山崎隆之叡王と、今期初エントリーの羽生善治九段であることは間違いない。
 10月1日に行われた本局は山崎の振り歩先。叡王だから当然なのだが、それを知らされたとき、山崎は一瞬、意外そうな表情を見せた。
 羽生を相手に振り歩先となる(=上座に座る)という機会は実に少ない。序列で上回るか、自身の持つタイトルに羽生が挑戦してくるか、そのいずれかしかありえないのだ。今年度、羽生の上座に座ったのは本局の山崎が初めてである。振り駒の結果はと金が3枚で、羽生の先手となった。

鬼門を避けない羽生  

 本局は横歩取りに。羽生にとって最近の先手横歩は鬼門とされている。今年度の先手横歩取り成績が、ここまで3勝5敗と負け越しているからだ。横歩を取る直前に羽生は一瞬、天を仰いだ。
 先手が横歩取りを避けるならば、本譜順の▲3四飛に代えて▲2六飛などは考えられる。だが、公式戦における該当の局面で、羽生は▲3四飛以外の手を指したことがない。本局も当然の如く、そうなった。

 しばらくは定跡ともいうべき前例のある進行が続く。先に変化したのは山崎で、第1図からの△8二歩がその一着だ。手の意味としては角交換後の▲8二角を消したものだが、△8六歩の攻め味を無くすマイナスもある。
 感想戦で羽生は「そうか、△8二歩ですか」と感心するように言った。対して山崎は「(▲8二角の)キズをどこかで消す必要はあるが、(この歩では)悔しい意味もある」と語った。
 △8二歩には▲3三角成△同桂▲6六角もありそうだが「後手に何かありそうだからやりにくい」と羽生。実戦は▲7六飛と拠点の歩を払った。
 対して次の△2四飛では、△8八角成▲同銀を入れてから△2四飛もあった。以下の一例は▲7七桂△2八角▲7三歩△同銀▲6五桂△6四銀▲7二角△6五銀▲6一角成△同玉▲7一金△5一玉▲7二飛成(A図)。これは竜を作った先手が良さそうだが、後手にも△6六桂(▲同歩は△9四角)の狙いがあるので、難しい。

 「先に角を換えるべきでしたね。実戦は換えるのを忘れました」と山崎はおどけるように言った。先手から角を換えてもらえれば、労せずして3三へ桂を跳ねることができる。これは将来の△4五桂が楽しみとなるため、角を換えるのも善し悪しとは言える。

山崎の後悔

 進んだ第2図は△7六桂に▲7七歩と打った局面。△7六桂の狙いは銀取りというよりも先手の飛車の横利きを消して、△3六歩を実現することにある。しかし第2図ですぐに△3六歩は▲7六歩△3七歩成▲同銀△9四桂▲8四飛△同角▲4六桂(B図)で先手良し。先手陣には飛車を打たれる隙がなく、後手は△9四桂の働きが弱い。

 △6八桂成は仕方がないところだが、▲同金に対する△4四銀を「ひどかった」と山崎は悔やむ。▲2四桂△3一金▲2三桂が見た目以上に厳しかったからだ。「▲2四桂は打たせてと思ったけど……」と山崎はうなだれる。

 △4四銀では△9四歩がまさった。感想戦で示されたのは以下▲3六飛△9五歩▲同歩△4四銀▲8八角(C図)。この変化については「角を引かせたなら後手の得だが、好位置に行かせた可能性も……」と山崎は首をかしげる。羽生も「よくわからないです」とつぶやいた。
 本譜は73手目の▲3六歩が痛い。△4四銀は▲2四金がある。早逃げの△5二玉に▲3五歩と銀得して、先手がハッキリ優勢になった。

決め手があった

 駒得を果たした羽生は寄せを目指す。後手玉が風前の灯火となっているのが第3図。感想戦でこの局面が現れたとき「明快な手順があれば…」と両対局者。すぐに「▲7一飛で決まっていましたね」と納得の表情。▲7三竜を受けるには△6二銀打くらいだが、▲9一飛成で「一番ハッキリしていました」と。
 だが本譜の▲8六歩も、生放送で解説を務めた郷田真隆王将が第一感で示した手だった。以下△同桂▲同角△8三桂に対する▲9五桂を「ここからおかしくなっている」と羽生。△9四歩▲8三桂成△同銀が竜当たりになったからだ。以下は羽生の攻めに対し、山崎の頑強な粘りが続く。

勝負手を逃す

 最終盤の第4図。直前に王手角取りを掛けて勝負形に持ち込んだ山崎だが、ここでの△4五角が敗着か。「何か勝負手を放つしかなかった」と、終局後、即座にこの局面を後悔していた。
 図では△6七桂ならば勝負はどう転んだかわからなかった。後手玉はまだ詰まないので▲同金と取るが、そこで△4五角打(D図)が継続手である。

 先手に桂を一枚渡しているが「これで詰まされたら仕方がない」と山崎。実はきわどく後手は詰まない。対して先手玉もまだ詰めろではないが、次の△6七角成に▲5八飛以外の応手だと詰まされてしまうのだ。
 △4五角打には▲7四歩△6二玉▲7三銀で、7二の角を取る保険を掛ければ先手が残していそうだが、一分将棋では何が起こるかわからなかった。
 △4五角以下の本譜手順は、▲7四歩△6二玉▲4二飛△5二歩▲4三飛成が王手角取り。角取りは△5三桂で受かるが、▲7三銀△7一玉と後手玉を下段に落として勝負ありだ。

戦場へ臨む

 羽生九段が前回優勝者を破って2回戦進出。そして本局の4日前には王位戦で木村一基八段を破り、本局の3日後には王座戦で糸谷哲郎八段を降し、2タイトルを立て続けに防衛。相変わらずの強さとタフネスだ。
 最近の将棋界におけるトレンドが、羽生夫人の理恵さんが始めたツィッター。基本的にあひる情報で埋まっているが、時折つぶやかれる羽生情報を拾うために、将棋ファンが目を光らせている。
 ツィッターには王位戦と本局の間に、スーツを新調したという情報があった。本局にはおろしたてのもので臨んだのかと局後に確認すると「いえ、すみませんが、違います」と。
 対して山崎のスーツは「1年ほど前に買った、よれよれのだぼだぼ。(大盤解説などの)仕事にはとても着て行けるものではないです」と自虐的にいう。
 対局は仕事ではないのか、と突っ込みを入れたくなったが、棋士にとって対局は戦いである、ということに気がついた。
 普段は着ない、とっておきの一張羅姿で戦場に現れる戦士はいないだろう。それがなんであれ、着慣れたもので戦うのが最善のはずである。
 そして、観戦者の目からすれば、おろしたてでなかろうと、だぼだぼのスーツであろうと、真剣な表情で盤に向かう棋士の姿はやはり絵になるのだ。次の戦場に現れるのは、どのような姿なのだろうか。

(観戦記者:相崎修司)

叡王戦公式サイトより引用
叡王戦公式サイトより引用

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