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映画『万引き家族』は是枝作品の集大成。『そして父になる』『誰も知らない』…これまでの作品と連なるテーマを評論家が解説

 第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督作品の『万引き家族』が6月8日から全国公開されます。リリー・フランキーさん、安藤サクラさん、松岡茉優さん、樹木希林さんなどの出演者が、東京下町を舞台に血の繋がりがない家族の“家族を超えた絆”を描いた感動作です。

 映画解説者の中井圭さん、女優の岡村いずみさん、放送作家の鈴木裕史さんが出演する映画情報番組「シネマのミカタ」では本作品をピックアップ。中井さんは本作品について、あらすじ、俳優陣、脚本、撮影方法などの視点、さらには是枝監督がカンヌ映画祭を経て綴ったメッセージについても詳しく解説しました。

『万引き家族』。
(画像は『万引き家族』公式サイトより)

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賛否両論ある『万引き家族』。実は脚本上はフェアに作られている映画

左から中井圭さん、岡村いずみさん、鈴木裕史さん。

中井:
 メディアが今、バンバン取り上げまくっているので、このニュースを聞いている人は非常に多いとは思いますけれども、カンヌ映画祭のパルムドールを受賞したということでございます。

 どういう話かと言いますと、東京の下町にある家族がいるんです。どういう構成かって言うと、おばあちゃん。おばあちゃんは樹木希林さんですね。夫婦がいるんですけど、リリーフランキーさんと安藤サクラさん。安藤サクラさんの妹に松岡茉優ちゃん。

鈴木:
 この座組、すごい役者だな(笑)。

中井:
 さらにリリーさんと安藤サクラの子供にある少年がいて慎ましく暮らしています。平屋みたいなところに住んでいるんですけれど、この家は樹木希林さんの貰っている年金で暮らしているんですね。

(画像はニコニコ生放送より)

 保護者的な人がいると、受給が難しくなる。ひとりで住んでいるというふうに騙していて、実は家族がいっぱい住んでいますよと。さらにその家族はタイトルにもあるように、万引きをしているわけですよ。

 リリーさんはお父さんなんですけれど、リリーさんが長男の男の子と一緒に万引きをしているんですね。

(画像はニコニコ生放送より)

鈴木:
 家業が万引き。それで生計を立てている。

中井:
 ご飯を盗んできたり……。

岡村:
 まぁ、年金だけじゃ足りないだろうよ。

中井:
 それこそシャンプーを盗ってきたりとか。もちろんリリーさんも日雇い労働とか工事現場でやったりとかしているんだけれども、それでは全然足りないからそういう形でやっていたと。

 安藤サクラさんも近所のクリーニング屋で働いているんですけれども、そうやってみんな身を寄せ合って暮らしているんですけど、実はこの家族は血が繋がっていない。

(画像はニコニコ生放送より)

鈴木:
 なるほど。是枝監督のテーマ的なところだな。

中井:
 疑似家族ですよ。そうやってある種の犯罪行為をしながらも、どうにかなんとか楽しく仲良く暮らしているんだけれども、そこにある日リリーさんたちが夜歩いていると、帰り道にアパートの玄関みたいなところに女の子がひとりでちょこんと座っていて、家から追い出されたのかはわからないけれども、座っている。

 寒そうにしているのを見かねて、家に連れてきちゃって。まぁ、ある種の誘拐なんですけれど、虐待されているから家に連れてきて、そのお家で新しい家族として、妹として面倒を見はじめるよ、という話なんです。

(画像はニコニコ生放送より)

鈴木:
 新しい家族のメンバーが。

中井:
 増えたよっていう、そういうお話でございます。

 だからこの作品って、「是枝作品の集大成」と言われることがあるのですが、何が集大成かと言うと、その血の繋がりと育ちの繋がりはどっちが重いのかというテーマは、『そして父になる』という作品でやったんですよね。取り違えの話があったじゃないですか? その絆はどっちなの? って。

『そして父になる』。
(画像はAmazonより)

 実はこの作品も血縁関係と、犯罪行為だけれどそこで身を寄せ合って繋がっている絆はどっちが大きいんですか? っていうものを描いているので、非常にそこに近かったりとか、あとは『誰も知らない』という映画の時にもありましたけれど、ネグレクト【※】ですよね。

※ネグレクト
Neglect.養育すべき者が食事や衣服等の世話を怠り、放置すること。育児放棄。

『誰も知らない』。
(画像はAmazonより)

 親の虐待っていうものを描いている。親から面倒を見られない子供たちの話なので。そこも描いているので通ずるものがあったりするとか、これまでの是枝作品のエッセンスをピックアップして描いているのがこの作品になるわけです。

 メインテーマというのは家族の絆というものだと思うのですが、この作品は単純に割り切れるものではなく、コメントでもありましたしネットでもすごく荒れているんですけれど、『万引き家族』という作品が犯罪を肯定しているじゃないかみたいなご意見が多数ございます。

 実はこの作品はそういう作品ではないと見て思うわけです。もちろん万引きしたり窃盗したり年金の虚偽申告的なことをしたりとか、たかりをしたりとか、いろいろな犯罪行為が行われるわけですが、そうしながらなんとか生きてるという状態なんですよ。

 もちろん犯罪行為自体は許されることではないのは当然なんですけれども。

鈴木:
 そんなことを言っていたら、殺人事件が起こる映画は全部ダメになっちゃうじゃん(笑)。

岡村:
 確かに。

中井:
 じゃなぜ彼らはそういう行為をとっているのか? というのがあるわけですよね。そういう生き方を選ばざるを得なかった人も、実はこの世界にいるということが浮き彫りになるという構成になっている。

 それを主題として打ち出しているわけではないんだけれども、そこがなんとなく見えてくる。

鈴木:
 社会批評みたいな?

中井:
 そうなんですよ。あと是枝作品が面白いなと思うのが、是枝作品ってだいたい子供が出てくるんですけれど、子供は社会の鏡になるわけです。特殊な環境に置かれた子供。子供は純粋ですから。そこを投影していく。

(画像はニコニコ生放送より)

 子供が何を感じているのかということが、実は社会の大きなズレみたいなものを表現しているんですよ。

 この作品の中でもふたり子供が出てくるんですけれど、子供が非常に重要なポジションであって、その状況に対する疑問だったり違和感だったり。肯定するものもあれば否定するものもあるというのが、実は社会を投影していくような、そんな存在になっている。

鈴木:
 また是枝さんの子供演出は定評がある。

中井:
 そうですね。脚本がないですからね。口伝えで演出するというのは、すごく有名なお話なんですけれども、つまり大人たちのエゴとか問題が子供に投影されていくということで、我々がそこに気づくことができるというのがこの作品の魅力でもあるかなと思います。

 あとはこの作品が議論を呼んでいる部分って、犯罪の話もありましたけれども、要するにこの作品を見ていて感じるのは、弱者を切り捨てていくようなそういう姿勢。

 社会のスタンスとか自己責任ですよみたいなところのスタンスっていうものが、実は社会としては、セーフティネットとしては不十分なんじゃないですかっていうことを見ながら感じていくような作品になっているんですよ。そこも僕はすごくいいところだなと思います。

 「犯罪行為を肯定するなんてどうなんだ?」っていう話があるんですけれど、僕、これは脚本上でうまい処理をしていると思うんですよ。よくできている脚本っていうのは、実はプラスマイナスゼロになるんですよ。

岡村:
 「とはいえ……」みたいなこと?

中井:
 犯罪行為は良い行為ではないというのは誰もがわかっている。この映画を見ていくと良くない行為によって引き起こされるプラスマイナスゼロっていうのは、脚本上正しい。倫理的、論理的に正しくなるんですよ。

 だからそもそもこの作品では犯罪行為を肯定はしていない。肯定していないからプラスマイナスがゼロになるっていうふうに描かれているので、そこを見ていくと実はフェアに作られている映画なんじゃないかなと脚本上の構成で思いましたね。そこがひとつポイントかなと思います。

松岡茉優が「絶望しか感じない」と語った別格な安藤サクラの演技

中井:
 役者勢にいきますけれど、まず安藤サクラさん。別格ですよね。

安藤サクラさん。
(画像はニコニコ生放送より)

岡村:
 知ってたけれども。まだ拝見していないですけれども。

中井:
 すごいですよ。最近お子さんも生まれまして、その影響もあるんだと思うんですけれども、さらにすごみが増しているなというのは感じますね。カンヌでケイト・ブランシェットがあるシーンで安藤サクラさんが泣くんですけれど、「今後審査委員の私たちが泣きのシーンをしたら安藤サクラの真似だと思ってください」って言うくらい。

 ケイト・ブランシェットですから。世界のトップですからね。それくらい圧倒的な芝居なんですよ。相当すごいですね。松岡茉優さんがコメントしていましたけれど、「絶望感しかない」と。

岡村:
 女優としてはって言っていましたね。

中井:
 松岡茉優さんもめちゃくちゃうまいですよ。けれど安藤サクラさんを前にすると絶望感を感じてしまうような芝居ですね。ちょっともう同年代では誰も勝てる人がいないんじゃないかと正直思うんですけれども。

 今回、主要キャスティングが演技巧者が多いじゃないですか。

岡村:
 めちゃめちゃ演技派ばっかり集めましたよね。

中井:
 樹木希林さんなんて存在自体がもう神がかってるじゃないですか。だからもういてくれるだけでオッケーみたいな状況。

樹木希林さん(右)。
(画像はニコニコ生放送より)

岡村:
 確かに。

中井:
 リリー・フランキーさんは独特の存在感がある。安藤さんは芝居がバツグンであるということがひとつあります。

リリー・フランキーさん(右)。
(画像はニコニコ生放送より)

 松岡茉優さんは、今回非常に苦労されています。松岡さんはどういう方かって言うと、緻密に練習を繰り返す秀才型なんですよ。めっちゃ練習してめっちゃ作っていってきちんとその芝居を演じるタイプの人なんです。作り込みの天才なんです。だけど是枝さんの演出は作り込みを嫌うんですね。

松岡茉優さん。
(画像はニコニコ生放送より)

岡村:
 なるほど。

中井:
 あまり作っていくんじゃなくて、その「作ったものを破壊して、素の気持ちを出してね」っていうタイプなので、松岡さんってこういうアプローチはほとんどやらない。

 『勝手にふるえてろ』はたぶん、めっちゃ作っている。めっちゃ作った満点の芝居なんですけど、これはむしろそこを一回取り払った、作っていない状態、素の状態から引き出されたものを表現している。

 でもその表現というものが、じゃ相手が誰かって言うと安藤サクラさん、リリーさんだったり樹木希林さんだったりするわけですよ。

岡村:
 これは鍛えられますね。

中井:
 凄まじい。まんま出さないといけない。相手がメジャーリーガーみたいな状態なので。

岡村:
 メジャーリーガーの前に真っ裸で出ているみたいな感じですもんね。

中井:
 そうそう。でも松岡さんはすごくいい芝居をしているんですよ。これはある種の新境地と言うか。

岡村:
 今後も……?

中井:
 さらにいくんじゃないかと感じさせるなと思いますし、あと子役がめちゃくちゃいい。実はこの作品の主役は子役だと思っていて、彼らを活かすために大人たちがすごく芝居しているなって思いますね。

城桧吏さん。
(画像はニコニコ生放送より)

 もともと是枝さんはドキュメンタリー出身なので、演出方法も先ほど言った通りで、作り込まない、させないので、子役にも口で伝えて芝居をさせているっていうのがあるので、非常に生っぽいと言うか。

 その場の感じを受け取って返すという感じがあって非常に良いのかなと思います。

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