ヘイトスピーチは巨大メディアの意図しない刷り込みで助長された? “ネットが是正する可能性”にジャーナリストが言及
ある特定の民族や人種をターゲットに憎悪をあおる「ヘイトスピーチ」。この問題を取り上げた番組『「ヘイトスピーチ」を考えよう』がジャーナリストの角谷浩一さんとタレントの松嶋初音さんの司会で放送されました。
スタジオには大学院教授の鵜飼哲さん、ジャーナリストの江川紹子さん、作家の中沢けいさんが登場し、巨大マスメディアが意図せず助長してしまったヘイトスピーチをネットの力で是正できるのか、という論点について語りました。
※本記事は、2015年8月に配信した「「ヘイトスピーチ」を考えよう」の内容の一部を再構成したものです。
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世論の7割は「ヘイトスピーチは不快」
松嶋:
毎日新聞が2014年の8月に行ったヘイトスピーチに関する世論調査がございます。その一部を紹介させてください。
松嶋:
「あなたは在日韓国人、朝鮮人をののしるヘイトスピーチをどう感じますか」と。単位が記されていませんが「不快だ」と答えた方が全体で67%ってことですかね。
江川:
全体の人たちの数字と、それから答えてくれた人のうち、男性の回答者のうち「不快だ」と答えたのが67%、それから女性の回答者で「不快だ」と感じたのが67%と、こういうことじゃないでしょうか。
角谷:
なるほど。
松嶋:
でも、100にならないですよね(笑)。
江川:
アンケートで100にならないのは答えない人もいるからです。
中沢:
圧倒的にみなさんは「不快だ」と思っていると。
松嶋:
そうですね。毎日新聞が47都道府県と20政令市にアンケートを実施したところ、約9割が「恥ずべき行為」、「差別意識を助長させ許されない」などと問題視しました。また、毎日新聞が先月実施したこちらの世論調査で「ヘイトスピーチをどう感じますか」と聞いたところ、7割近くが「不快だ」と回答したということです。
ネット上ではあまりポジティブじゃない意見が多いですが、一般としてこのようにアンケートをすると、一応9割の方が問題視をしています。
中沢:
在特会【※】も「ヘイトスピーチ賛成」とは言ってないんですよ。「お前らの方がヘイトだ」と私たちに言っているんであって、「ヘイトスピーチ賛成」とは言っていない。私たちの方が、「日本人を差別して、日本人に対するヘイトをしているんだ」って言っているのです(笑)。
※在特会
在日特権を許さない市民の会。在日韓国・朝鮮人に対する入管特例法などを在日特権と定義し、その廃止を目的として設立された。
角谷:
「そうです」って、たくさんコメントをいただいています。
一同:
(笑)
中沢:
珍しいよね(笑)。
松嶋:
ちなみにですが、いわゆる在特会に対するカウンターと言うか、反対勢力みたいなものがあると思うのですが、そういった方たちっていうのは、どういう人たちなんですか。
中沢:
普通の一般の日本人、老若男女、多様です。
松嶋:
それは何の違いでそういった意見の分裂が起こってしまったんですか。
中沢:
人生観です。というより、意見の分裂っていう考え方自体がおかしい。比喩で言うと、隣の空き地で悪ガキが悪さをしているところを見た近所のおばちゃんが「あんたたち、やめなさい」って怒鳴っているのと同じなので(笑)。
松嶋:
なるほど。
鵜飼:
出てきた人たちはヘイトスピーチがあまりにひどいので、初めて出てきたっていう人が大半だと思いますよ。
松嶋:
たしなめるために?
鵜飼:
そうです。
中沢:
最初の段階で「どうして警察が取り締まらないんだ」って言われたんですよ。その意見はすごく強くて、いわゆる暴走族が暴走行為を繰り返していたら、警察は道交法を改正してでも取り締まったでしょう。
同じような感覚を一般の人は最初の段階で思ったんです。ところが、「取り締まる法律はありません。警察には取り締まる根拠がありません」と言われたら、自分たちで「やめてちょうだい」と言うしかないじゃないか、っていうことなっていったんです。
日本人は排外的に差別を受けている?
松嶋:
では、ここでユーザーからのメールを読ませていただきたいと思います。
(メールを読む)人種や民族を排他的に差別することは、いかなる理由があっても許されないのは確かです。そのような状況が我が国に存在することは、日本国民として恥じなければいけないとは思います。しかしながら、中国、韓国においてもいわゆる反日無罪【※】という状況があることは周知の事実です。
我々日本人が排外的に差別を受けていると感じていますが、日本政府は両国に対して是正を求めるなどの対応をしていないように思います。国内のヘイトスピーチ法規制は当然必要と考えますが、日本人に対する排外差別を解消する取り組みも同時になされなければ国民は納得できないと思います。
※反日無罪
反日における愛国無罪。「国を愛することから行われる蛮行に罪はない」を意味する中国語の言葉。主として中国における反政府運動の際に用いられてきた言葉だが、2005年4月に反日デモで掲げられ、日本で注目された。
中沢:
「日本人に対する排外差別」って何ですか。具体的に関係する省庁に運動するなら、どうぞご自身でやってください。
江川:
それも私はマスメディアの問題が大きいと思うんです。中国ですごいデモがあったときがありましたよね。あのときは本当にそこにいる人たちも恐怖心を感じるような、そういう状況だったしいろんなものが破壊されました。
でもそういうときに、例えば向こうで言うTwitterにあたるWeibo(ウェイボー)では、もっと全然違ういろんな意見があったのに、大きなメディアっていうのは、画になるものでもなく字の羅列だから、ということで取り上げなかった。
江川:
報道がやっぱり画になる激しいとこばっかり行ったじゃないですか。そのときの刷り込みっていうのはものすごいと思うんですよね。だから、そういうようなことがやっぱり被害者意識を生むし、被害者意識が生まれるから差別を正当化しようっていう、そういう動きにもなりかねないということで。
中沢:
中国で起こった反日デモのときには、日本政府は中国政府にきちっと抗議しています。そういう部分は見ないで理屈をつけるんです。本当にそうお思いであったら、関係省庁に条件をつけて言えばいいんです。
角谷:
でも、これはやっぱりたぶんメディアの悪いところで何度も繰り返していると刷り込みで毎日攻撃を受けている気持ちになってくるんですよ。それはもちろん、そういうふうに感じるいろんな状況もある人もいるだろうし、それから情報が足りないから、それだけが出て見えてくる、自分の目に入ってしまうという人もいるでしょう。
だから、僕は情報をできるだけたくさん出していかないといけない。中沢さんの仲間の人たちは中沢さんの話を聞いたことがあるかもしれないけど、中沢さんの話を初めて聞いた人も多いし、それからある意味ではびっくりした人も多いと思うのね。「そうか、中沢さんはこういう理由で闘っていたんだ」ってことを知った人も多いと思うんですよ(笑)。
中沢:
そういう仕事を丁寧にしてくださっている人がいるのは分かっていますよ。