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「売国奴ばばあ」「スパイの子ども」…日本の“ヘイトスピーチ”の歴史を5分で解説したら闇が深すぎた件

 特定の民族や人種をターゲットに憎悪をあおる「ヘイトスピーチ」。この問題を取り上げた番組『「ヘイトスピーチ」を考えよう』がジャーナリストの角谷浩一さんとタレントの松嶋初音さんの司会で放送されました。

 スタジオには大学院教授の鵜飼哲さん、ジャーナリストの江川紹子さん、作家の中沢けいさんが登壇し近年の日本における主に在日朝鮮人・韓国人をターゲットにしたヘイトスピーチが広がっている現状を挙げ、ヘイトスピーチと呼ばれるものが日本で広がっていった歴史を解説しました。

左から松嶋初音さん、角谷浩一さん、中沢けいさん、鵜飼哲さん、江川紹子さん。

※本記事は、2015年8月に配信した「「ヘイトスピーチ」を考えよう」の内容の一部を再構成したものです。

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日本が“嫌韓”ムードに転じたターニングポイント

角谷:
 ちょっと年表を出しましょうか。

松嶋:
 これまでどういった経緯があったのかという関連の年表を作成いたしました。

中沢:
 これは私の記憶で作ったものなので、いろいろご批判はあると思うんですが、2001年という年がとても興味深い年です。安田浩一さんの著書『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』だと、「2002年の日韓ワールドカップのころから韓国に対する嫌韓と言われているような行動が目立ちだした」と書かれています。

 実際そうだったところもあるんですが、その1年前を見てみると、1月に新大久保駅乗客転落事故というのがありました。たまたま記憶しているんですけど、寒いみぞれ模様の日暮れの事件で、日本人のカメラマンの男性と韓国人の留学生の男性が線路下に転落した乗客を助けようとして三人とも亡くなられているという事件で、今新大久保の駅に記念碑が残っています。

 同じとき、NHKの『戦争をどう裁くか』第2夜で「問われる戦時性暴力」という国際戦犯模擬法廷の番組があって、そこで安倍首相と、亡くなられた中川昭一さんからクレームがついたという「NHK番組改変問題」【※】があって、朝日新聞とNHKの間で相当なやり取りがありました。

※NHK番組改変問題
放送前の段階で主催者側から問題点が指摘されたり、また放送後、数年たって朝日新聞が「政治家による政治圧力があった」と報道し、それをNHKが否定するといった騒動や、NHKが提訴されるなどの動きがあった。

中沢:
 当時は日韓関係が非常にうまくいっていて、ご子息を亡くされたご夫妻が留学生のための基金をつくられたりして、日本政府がそれを表彰したりしている。一方で、NHKでこの事柄があったから、いわゆる行動保守と言われている政治運動、社会運動をする人の中から、韓国を罵倒したり街宣をする人が出てきたんですね。どうもここがポイントだったらしいということを最近いろんな方が指摘しています。

 翌年が日韓ワールドカップで、これはみなさんご承知のように、サッカーってナショナリズムが燃え上がりやすいスポーツで、野球のように見通しがつかないところがある。ちょっとお水を飲んでいる間に1点入れられて「何だ!」って言って興奮したくなる。安田さんがご指摘のように、この辺からいろいろな嫌韓に関する表現が出てきます。

 2006年12月に、桜井誠氏が会長となって今は元会長になっていますけど、「在日特権を許さない市民の会(通称在特会)」が発足する。チャンネル桜などに桜井誠氏が出て、嫌韓的な発言を繰り返していたと聞いています。

 2009年の同じ12月に、後に裁判でいろいろな結果を出す京都朝鮮学校公園占用抗議事件があって、先ほどのフィリピン人のお嬢さんは中学生でしたけど、これは初級学校で小学生ですよ。小学生相手に「スパイの子ども」とか「キムチ臭い」とか、めちゃめちゃなことを言っているんですよね。

 その後11年、これは在特会とはちょっと違う系統ですがフジテレビへの抗議デモで「韓流番組ばかりを流すな」というデモがありました。これも一つの節目になっていたように思います。

 さらに翌年の8月になると、李明博(いみょんばく)大統領が竹島に上陸したことをきっかけに、新大久保などのヘイトスピーチデモが非常に激化しました。その中でも腹が立ったのは「散歩」と称する嫌がらせ。デモを解散した後に新大久保の韓流スターのブロマイドなんかを売っているイケメン通りに入って、「朝鮮人の店で買い物をするな」とか、「この売国奴ばばあ」とか言って歩いたんですね。

 私がたまたまそこにいたら、間違いなく被害者になっていました。韓流の時代劇が大好きですから。ただ、渋い俳優さんが好きなので……ブロマイドは買いませんけれど(笑)。

一同:
 (笑)

江川:
 韓流で言うと、『冬のソナタ』が放送されたのは2003年じゃないですか。

中沢:
 はい。

江川:
 だから、新大久保の事故があり、そしてワールドカップがあり、『冬のソナタ』で韓流ドラマがはやり、日本が結構韓国に行ったり、そういうふうになってきた。だからどちらかと言うと、文化とかスポーツの交流、あるいは民間人の交流があって「いい方向に行くね」って盛り上がった。でも逆に、そうなると嫉妬じゃないですけども、「あいつら、気に入らない」っていう反動が来たっていう、そういう感じなんですか。

中沢:
 この辺の問題はもう少しジャーナリストに丁寧に調べてほしいです。私は最初は2ちゃんねるでそういう言動が目立っていたのを知っていたんです。例えば、一例を挙げると、旧社会党の委員長の女性の……。

鵜飼:
 土井たか子さんですか?

中沢:
 そう。「土井たか子さんは在日なんだ」なんてことを言って、これは裁判になりました。もちろん「在日だ」と言った人が負けていますが、そうしたことが90年代の終わりから既にやられていました。ネットの中で、暗いところでやっている分には、「そういう人も世の中にいるわ」だったのが、まさか道路にあふれ出るとは考えていなかった。

 ただこのNHKの問題、このときは朝日新聞もかかわっていますが、これが後になって大きな形で政権と結びついた形で出てくるので、これを挙げておきました。

角谷:
 なるほど。

中沢:
 私たちが当初考えていたより、自然にあふれ出るものと違って、ある程度意図してあふれ出させたところがあるのかな、という疑念を抱きだしたところです。そして領土問題の手前に日本のいわゆる極右の人物が韓国に行って、韓国の従軍慰安婦の肖像に「竹島は日本の領土だ」って杭を縛りつけるという事件をこの年の5月に起こしています。

 この年の7月にはロシアの首相が北方領土に上陸していますが、誰も文句を言わなかった。外務省は文句を言いましたけど。この後に李明博大統領の竹島上陸が起きて、韓国による天皇謝罪要求なども出てきます。

「拉致被害」と「慰安婦問題」が国民に与えた影響

江川:
 やっぱり日本人の人たちに影響を与えたんではないかと思われる出来事として、2002年の小泉純一郎元首相の訪朝がありましたね。拉致の被害者で生きている人と、後は亡くなっているという発表がありましたよね。あのときに相当拉致の問題っていうのが実感として、特に人が死んでいるっていう話になり、その後また遺骨問題があったりして、そういうことがものすごく世の中に、日本人の心にグサッときたところがあったわけです。それが2002年から2004年にかけてですよね。

鵜飼:
 訪朝は2002年9月ですね。要因としては大きかったと思います。

江川:
 はい。それからもう一つ、外的要因として抜けているのが、2007年だと思いますけれども、アメリカの下院で慰安婦問題に関する、日本に対する謝罪決議【※】が……。

※謝罪決議
正式名称はアメリカ合衆国下院121号決議。慰安婦に対する日本政府の謝罪を求める2007年のアメリカ合衆国下院決議案。

中沢:
 ありましたね。

江川:
 可決したんですよね。それまでは日韓の問題、国連ではいろいろ話題になったりすることもあったけれども、アメリカに飛び火したということで、この二つのことが日本の中で被害者意識みたいな、そういうものを膨らませるきっかけになったかなと思うので、この二つはやっぱり挙げといた方がいいかなと思うんですね。

中沢:
 ご指摘のとおりだと思います。それを言うんだったら、2006年に第一次の安倍政権でアジア女性基金【※】を解散しているんですよね。それがアメリカの下院での謝罪決議につながっていく一つの原因になっているんです。

※アジア女性基金
正式名称は財団法人女性のためのアジア平和国民基金。元「慰安婦」に対する補償、および女性の名誉と尊厳に関わる今日的な問題の解決を目的として設立された財団法人。

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