『地面師たち』のモデルになった2017年の「積水ハウス地面師詐欺事件」を解説――被害額はなんと55億円！ 大手ハウスメーカーを陥れた巧妙な手口
今回紹介する動画は、ニコニコ動画に投稿された『積水ハウス地面師事件』というゆっくりするところさんの動画。
2017年3月から6月にかけて、積水ハウスが地面師グループに騙された詐欺事件について、音声読み上げソフトを使用して解説しています。
■被害額は55億！ 一体何が起こった？
きめぇまる：
今回は積水ハウスのとある事件について解説します。1960年に積水化学工業のハウス事業部を母体にして独立しました。戸建てや賃貸の建築を請け負う事業や、サブリースの事業、開発事業など幅広く行っています。
霊夢：
いろいろやっているんだね。
きめぇまる：
累積建築個数は250万戸と世界一を誇っています。
霊夢：
つまり超大手企業ということね。
魔理沙：
それでこの超大手企業を普通に解説したいわけじゃないだろ。
きめぇまる：
地面師って知ってますか？土地の所有者になりすまして売却を持ちかけて代金を騙し取る詐欺行為を行う人たちのことです。地面師は戦後に誕生したと言われています。戦争の爆撃で土地の所有者が一家で命を落として、さらに役所も戦火にまみれて十分に機能しませんでした。
魔理沙：
そんな状態だったら所有者が分かりにくいな。
きめぇまる：
それで土地に縄を張って書類を偽造して土地の所有者になりすまして土地を転売しました。80年代後半に土地価格が暴騰し、地面師たちが再び増加しました。
魔理沙：
土地の値段が上がれば儲けが大きくなるからな。
きめぇまる：
リーマンショックの影響で景気が悪化して地価が下がりきった後、東京オリンピックで再び上昇基調に。
霊夢：
そういえばオリンピックが決まってから、めっちゃ都内の開発が進んだよね。
魔理沙：
ということは再び地面師が現れると。
きめぇまる：
それで積水ハウスが地面師の被害に遭いました。
霊夢：
いくら騙されたの？
きめぇまる：
55億円。
魔理沙・霊夢：
えー！
きめぇまる：
高い勉強代でしたね。事件の経緯を解説します。舞台となった土地はJR山手線の五反田駅から徒歩3分の老舗旅館・海喜館。所有者は海老澤氏という高齢者で、旅館は両親がやっていたものを1975年に相続。土地の広さは約2000平米あったそうです。
霊夢：
で、でかい。
魔理沙：
山手線の駅近くでそれだけでかい土地だと不動産業者はよだれもんだな。
きめぇまる：
リーマンショック前ぐらいから、不動産会社の営業マンやマンションデベロッパーの社員が寄っていったようです。海老澤氏はこの土地を断固として売却しようとしませんでした。その海喜館は2015年3月に、海老澤氏の高齢のためか、経営が悪化したのか不明ですが、廃業となりました。
魔理沙：
ということは、旅館を売る気になったのか？
きめぇまる：
いえ、海老澤氏は板前と一緒に旅館に住み続けたそうです。
魔理沙：
都内の旅館に数人で住むって、なんて贅沢な。
きめぇまる：
多くの不動産屋はこの好物件を狙っていました。ここで登場するのがこの事件の仲介役を務める経営者で、この人を中海さんと名付けましょう。
魔理沙：
また変な名前にしたな。
きめぇまる：
地面師グループは知り合いの不動産関係者から、中海が海喜館の土地の購入に前向きと聞きつけました。仲介は地面師と偽海老澤氏と話を進めて、売却先の不動産会社を探すことにしました。ここで出てきたのが積水ハウス東京マンション事業部営業次長、中海は次長に話を持っていきました。
それで2017年3月27日、中海は次長に対して海喜館の物件情報を送付して、不動産購入を持ちかけました。その土地の売却が不動産業界で噂になっていて、次長も聞いていたようです。
霊夢：
こんな話題になるほどすごい土地なのか。
きめぇまる：
4月3日に中海は偽海老、地面師グループと面接して売買契約を締結。さらに交渉役場において偽海老が海老澤氏本人であることを確認した公正証書が作成されました。それで中海は偽海老に対して申込証拠金2000万円を交付します。
魔理沙：
ちょっと待て、公証役場が偽海老を海老澤氏本人と認証したのか？
きめぇまる：
どうやらパスポートを偽造して区役所で実印を変更。それで印鑑証明書を不正に取得。これで公証役場で認証って形になったようです。翌日、中海が次長に対して売買契約書や重要事項説明書などの資料を送付。売買契約は総額60億円。
霊夢：
と、とんでもない金額だ。
きめぇまる：
事業開発室課長や関係者に情報が共有されて、偽海老が海老澤氏本人であると信じて疑わなかったみたいです。
霊夢：
確かに公証役場で認証されたら信じちゃいそう。
きめぇまる：
話は進み、4月13日に中海と積水ハウスの次長・課長で条件面を打ち合わせ、売却額は70億円に。それで同日に海老澤氏の財務担当を自称している地面師を加えて打ち合わせをすることに。
霊夢：
ここで地面師と積水ハウスが初めて顔を合わせるのか。
きめぇまる：
無事稟議の決裁が下りて20日に積水ハウスの会議室に関係者と中海・積水のそれぞれの司法書士が集合。偽海老と積水は初めてここで顔を合わせました。
霊夢：
完全に本物と思い込んでるんだろう。
きめぇまる：
同月24日に再び関係者が集まり契約を締結。司法書士は法務局で仮登録申請を行って、登記申請の受理がされた旨を確認。受理が確認できて手付金14億円のうち12億円を預金小切手で交付。
中海は偽海老に小切手を渡し、積水は残りを中海の会社の口座に振り込みました。それで取引は大分進んで待つことになるのですが、ここでいくつか妙なことが起きました。5月10日「から」内容証明郵便が届きました。
霊夢：
5月10日「から」って？
きめぇまる：
なんと4通も届いたんですよ。内容は大体こんな感じです。
私は売買契約を締結しておらず、不動産仮登記に使われた印鑑は私の実印ではなく偽造されたものだ。私は面会謝絶中で長期入院中なので、売買契約に立ち会うことができない。印鑑登録証のカードは私が持ってるし、パスポートの写真は私ではないから契約は無効だ。
霊夢：
確かに奇妙な文章だ。
魔理沙：
気になるから調べた方が良いのでは。
きめぇまる：
積水ハウスはこの郵便を無視しました。内容証明郵便の住所は売買された住所で、連絡先や代理人等の記載もありませんでした。さらに面会謝絶中なのになぜ登記を確認できたのか。書類を作れたのかと疑問に思ったみたいです。
魔理沙：
本人に会って公証役場で認証を受けてる人と、謎の郵便だったらどっちを信じるかという話だな。
きめぇまる：
後日、内容証明郵便は弟が出したことが判明しております。そして、東京法務局から連絡が来ました。
魔理沙：
もしかして。
きめぇまる：
親族から不正登記防止申出が出たため調査したところ、健康保険証が偽造だったので本登記申請は却下されました。
魔理沙：
それを聞いた積水は、偽海老が滞在していると言われた神奈川県の湯河原の旅館に向かうも見つかりませんでした。
霊夢：
担当者は顔面真っ青だろうな。
きめぇまる：
それで積水は警察署で海老澤氏名義の口座の凍結手続きを実施。さらに翌日、中海に売買代金のうち、中海の取り分を返金するように依頼。
魔理沙：
債務不履行だから当然返金する必要があるな。
きめぇまる：
しかし、借金の返済で口座には2719円しかない。それで積水は中海に取引解除を行い、現状回復等請求訴訟を起こし、刑事告訴も行いました。積水は2017年8月2日にこの事実を公表しました。
その後実行犯は次々と逮捕されました。特に大物地面師であるカミンスカス操氏は、フィリピンに高飛びして国際指名手配されての逮捕だったので話題になりました。
そしてこの事件が積水ハウスのお家騒動に発展。当時、積水の会長の和田氏は2008年に就任、同時に阿部氏も社長に就任しました。
魔理沙：
ということは、10年ぐらい仲良くトップだったのか。
きめぇまる：
2018年1月の取締役会で会長であり、取締役会の議長である和田氏から、事件の重要性を考えて執行責任者の阿部社長の退任を求めます。それで、社長解任の緊急動議が出されて決議が取られました。
霊夢：
そりゃこれだけ会社に損害が発生したんだから誰かが責任を取らないとね。
きめぇまる：
この動議は否決されました。今度は阿部社長が取締役会の混乱を招いた和田議長の解任を提案します。この提案は賛成多数で、和田会長は議長から降ろされました。
さらに阿部社長は続けて、和田会長の解任を提案します。これも賛成多数で和田会長は解任されました。こういう話がいろんなメディアから出ているのにもかかわらず、阿部氏は「地面師事件とは関係ない、解任動議は知らない」と述べておりました。
霊夢：
知らないで済まないでしょ。
きめぇまる：
それで、地面師グループの一審の有罪判決が出たので、独立した検証委員会を設置。12月に報告書を公開。
魔理沙：
これ、結局問題は何だったんだろう。
きめぇまる：
報告書では縦割り意識、牽制機能の弱さ、リスク軽視などが挙げられています。
霊夢：
いろんなアラートはあったのに、それに気づかなかったのはダメだよね。
きめぇまる：
みなさんの会社でもこういうリスクを軽視して稟議などを面倒な社内処理としか見ず、確認がおろそかになっていないか今一度見直すべきだと思います。
現在Netflixで配信中のドラマ『地面師たち』の題材にもなったといわれているこの事件。振り返ると、実に大胆で驚くべき手口です。フル解説をご覧になりたい方は、ぜひ動画をご視聴ください！
▼動画はこちらから視聴できます▼
『積水ハウス地面師事件』
https://www.nicovideo.jp/watch/sm39416304
―あわせて読みたい―