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「売国奴ばばあ」「スパイの子ども」…日本の“ヘイトスピーチ”の歴史を5分で解説したら闇が深すぎた件

イラク日本人人質事件に見た同胞へのヘイトスピーチ

江川:
 それともう一つは、韓国、あるいは朝鮮に対する流れとはちょっと違うんですけど、確か2004年にイラク日本人人質事件がありました。これは他民族に対するヘイトスピーチじゃなくて、同国人に対するヘイトスピーチだったんですね(笑)。

鵜飼:
 いわゆるバッシング。自己責任論ってやつですね。

江川:
 これがやっぱり大きな転換点だったと思うんです。つまりあのときは武装勢力に拘束されて、殺されるかもしれないっていう立場ですよね。ものすごい弱者なわけです。それまではやっぱり「大っぴらに弱い者いじめをするっていうことは恥」とする、ある種の文化みたいのがあったと信じていたのかは分かりませんが、あのときに人質を公然と非難をしました。

鵜飼:
 一種の言葉によるリンチみたいな。

江川:
 それをテレビがやったんですよ。

中沢:
 江川さんの指摘は二つの意味で重要で、とてもよいご指摘をいただいたと思うんですが、一つは弱い者をみんなでリンチする。それから、それはネットというものを使用している。実はヘイトスピーチの発生の大きな要因は「弱い者いじめ」の発想。だって小学生や中学生をいじめるのよ、大の大人が。それから、もう一つはそれをネットを使ってやる。

 この二つは大きな特徴で、江川さんにご指摘していただいた2004年のイラク人質事件というのは、対象になったのは日本人ですが、ある意味では非常に特徴のよくあらわれた事件でしたよね。

江川:
 そのときは今ほどネットが広がっていたわけではなかった。だから主にバッシングをしたのはテレビのコメンテーター。あるいは一般の人だと、手紙、あるいはファックスですよね。つまり、わざわざ住所を調べて書いて投函するっていう、めんどくさいことまでやって。

中沢:
 あのときはYahoo! JAPANの掲示板に住所とか電話番号とかファックス番号が掲載されて、それを取り下げてくれって裁判所に仮処分の申し立てをするんだけど、裁判所は仮処分を出すんです。ところが別の人がまた同じことをやるから、また同じ申し立てをしなきゃならないって事態になって、裁判所はあのときいったいどのくらい仮処分を出したか。

鵜飼:
 もぐら叩きになっちゃいますね。

江川:
 それまでは人を罵倒するっていうことっていうのは特殊な人たちだと思っていたのが、そうじゃなくて日本人の中にこんなにも弱者を罵倒する人たちがいたのです。

中沢:
 イラク人質事件ってとても典型的にあらわれているいい例をご指摘いただいたと思います。左派リベラル、左翼リベラルに対するものすごい反発があそこへ集約的に出ちゃっているところがありました。だからこの人たちがヘイトスピーチをやれたのは、「自分たちは右派だ」と、「日の丸を振り回せるからやれたんだ」と思うのです。

 アンチ左派、アンチリベラルの感情がここへ集まっていったというところがあって、イラクの事件はそれが顕著に出た例でした。私は個人的にはこの人たちが日の丸を振り回すのはとても嫌いです。

角谷:
 あのときを僕もよく覚えていますけれども、自己責任論っていうのがあって、それでなくても「政府が行くなって言ったところに行った」とか、昨今でも似たような事例があって、やはり同じような声が必ず出ます。それから街頭のインタビューで「行くなって言っているところに行ったんだから、それは自分で責任を」とか、「そんなもののために税金は使えない」とか、そういう声があふれ出ました。

 そこで大きな特徴なのは、そこはどこまで考えたか分からないけれども、その街の声はたぶん、右とか左とかとほとんど関係ない、感覚的に「自己責任じゃないんでしょうか」って思う街の人だったんじゃないかと思うんですね。そうすると、果たしてイデオロギーはその背景にあったんだろうかと思います。

中沢:
 そこはさっき言った、NHKと朝日新聞、それに対しての自民党の安倍さんと中川さんのゴタゴタっていうのをもう一度、丁寧に検証してみてもいいと思うんですね。街の中に薄く広がっていたある種の気分を、上手につかまえられるから政治家でしょう。民意が分かっているということだから。

江川:
 例えばさっきのイラクの事件でも、人間は好き嫌いがあるし、相性っていうのもあるから、あの人たちやあの家族を嫌いだと思う、あるいは相性が合わないと思う人がいても全然おかしくないわけですよ。だけどそれまでは恐らく、お茶の間で話したり、あるいは井戸端会議みたいな感じのレベルだったと思うんですね。

 だけどあのときに特異だったのは、それを公言して公のメディアで言う、あるいは相手に送りつけるということが広く行われたっていうところだと思う。だからそこがかなりの質的転換だと思うんですよ。

中沢:
 私はあのときはYahoo! JAPANの掲示板をずっと見ていて、今のTwitterやFacebookのような高い機能性はないんですが、それでも世の中には親切な人もいて、外国の報道なんかを丁寧に翻訳して流してくれたりする人がいるので、Yahoo! JAPANの掲示板を見ていると、いろんなことが分かるわけです。一方で、そうした人質になっている人の実家の住所とか電話番号とかを探して、それでいろんな攻撃をかける。これは安田さんが「ネットリンチ」っていう表現を使っていました。

鵜飼:
 正確な表現ですね。

中沢:
 そういう現象が一番最初に起きてきたのは、まさにあの事件でした。

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