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“ひふみん”こと加藤一二三氏が引退戦直後に会見を行わなかった理由は「真っ先に帰宅して長年支えてくれた妻に負けを伝えるため」だった

引退が決まった試合。明かされる家族との感動秘話

敗戦、そして引退が決まり、会場を後にする加藤氏(左奥)
画像は『第30期竜王戦6組昇級者決定戦 加藤一二三九段 vs 高野智史四段』より。

やまだ:
 引退が決まったあの試合の後、「記者会見は後日します」と言ってすぐ立ち去られたじゃないですか。

加藤一二三:
 そう。あらかじめファックスで関係者の人に「当日の記者会見はしませんが、後日します」ってお知らせしてたんです。要するに、対局前は自分が負けることを考えてませんから。負けた日に「記者会見をしてください」なんて、私からするとゴメンですよ。

やまだ:
 そもそも負けることを考えてなかったから。

加藤一二三:
 そうです。負けることもあるかもしれないけれど、「負けた時には後日、記者会見します」って、ちゃんと伝えてあったんです。

やまだ:
 負けたからイライラして帰っちゃったんじゃないんですね。

加藤一二三:
 本当のことを言いますと、長年の妻の支えもあって今があるので、負けた時は真っ先に家に帰って、妻に「負けた」と言って、共に慰めあってからにしようと思っていました。

 ところが家に帰ったら、なんと妻と娘が「お疲れ様でした」と、私にネクタイをプレゼントしてくれました。すっかり落ち込んだ気持ちは吹っ飛びました。

一同:
 素敵!

やまだ:
 若い時は奥様の腕でワンワン泣いたりした時もあったんですか。

加藤一二三:
 妻は明るい性格でして、私が負けると「次は頑張るぞ」という気持ちになるんですって。20回も連続で負けた時、もし妻の落ち込んでいる姿を見る事になったら、私も辛いですよ。でもその時、妻は「20回負けても、また次を頑張ろう!」って心から思ったらしいんです。

やまだ:
 ひふみんは、対局が終わった後、家には持ち込まない人なんですか。それとも、部屋に1人篭って何かやる人なんですか。

加藤一二三:
 娘は「負けて帰ってきた時も、いかなる時も、父親としての態度は変わりませんでした」って言っていましたね。

やまだ:
 家には持ち込まないタイプなんだね。

加藤純一:
 切り替えも早いんでしょうね。

やまだ:
 優しい家族だな~。

現役の時にできなかったことでやりたいことはありますか

加藤一二三:
 ゆくゆくは、私の指した名局を本に残します。1324勝った対局を全部、本に書いて残します。

やまだ:
 先生、名局って何が名局なんですか(笑)。

加藤一二三:
 将棋は平均125手で勝負がつきます。私の将棋は点数をつけると、控えめに言っても、勝った将棋は95点。

 例えば私のライバルであった中原誠永世名人は「加藤さんの勝った将棋は95点。負けた将棋は80点。加藤さんという人は勝っても負けても落差が小さい」と仰っています。

加藤純一:
 完敗が少ないってことですね。

加藤一二三:
 そういう事です。モーツァルトやバッハの名曲が300年経っても存在しているように、私の“名局”も100年経っても色褪せない魅力があると思います。

やまだ:
 他の棋士にも伝えられるようなね。

加藤一二三:
 そうです! 本を書いたら後輩たちが「加藤先生、よくぞ書いてくれた!」と言ってくれると思いますよ。

やまだ:
 実際、ひふみん以外の方で、そうやって本に残されている方はいるんですか。

加藤一二三:
 大山康晴名人は、全部を本に載せました。升田幸三名人は、名局だけ選んで残しています。羽生善治さんは既に全部、全局を本にしていますというように、先例はあります。

 私の対局は、本にしたら単行本で15冊分にはなるでしょう。そういった出版計画を持っていますので、出版業者の方で「ひふみんの本、出してあげるよ~」という方がいたら、どうぞ、ご連絡ください。

やまだ:
 出た出た! もう自分で営業トークできるじゃん! もう芸能人だ! 完璧(笑)!

 でも、ひふみんは先程お名前を挙げていただいた名人の中でも、タレントになられた方でもあるから、もしかしたら本だけじゃなく、DVDとか付けて、動画でも説明してくれると、面白いものになるかもしれないよね。

加藤一二三:
 なるほど! それは、本当に良いアイデアを教えていただきました。

やまだ:
 将棋ってかっちりとしたイメージがあるからね。こんなに楽しく可愛く解説してくれる人はいないと思うよ。だから、これは一気にひふみんで将棋の門戸が広がりますよ。

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