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ミニ四駆ガチ勢が集まる模型店に凸撃したら…「改造の為に水族館で研究」「会社のフロアに巨大コース作った」レーサー達の熱中っぷりがノーブレーキだった件

ミニ四駆の研究の為に水族館に通った男

――続いて開店当初からのもうひとりの常連である、おじゃぷろさんにお話を伺いたいと思います。おじゃぷろさんはフォースラボのコースでミニ四駆の研究をしてブログで情報発信をしておられるそうですが……ミニ四駆を“研究”するようになったきっかけを伺ってもよろしいでしょうか?

おじゃぷろ氏

おじゃぷろ:
 実はミニ四駆を始めた頃は僕が使用しているシャーシ……MSシャーシというんですけど、まったく勝てる気配がなかったんです。だから、まずは勝負はさておき、ゆったり走りたいなと。当時はそのほうが精神衛生上も良かったんだと思います(笑)。

 僕が研究して作ったミニ四駆の改造システム……“ホエイルシステム”には当時の僕のそんな想いが現れています。改造の参考にしたのは“雲の中をゆったりと泳ぐクジラ”のイメージです。
 とはいえ、クジラなんてそうそう見れるものではないので、代わりにしながわ水族館のイルカの水槽の前で動いているさまをずっと見て研究していました。重心の位置や体のどこを動かしているのかを観察して、それをミニ四駆に搭載したのがホエイルシステムなんです。

――ミニ四駆のためにイルカを研究ですか……。

山﨑オーナー:
 おじゃぷろさん……みんなポカーンとしてるよ(笑)。

おじゃぷろ:
 すみません(笑)。ミニ四駆って奥が深いし、勝ち負けがあるので、どうしてもくじけてしまう人がチラホラいるんですよね、僕がブログでホエイルシステムの作り方を公開しているのは、そういう人に届けたいという思いがあるんです。

――高木チャンプやおじゃぷろさんの話を聞いていると、子供が競争させていた昔のミニ四駆と大人が本気になって取り組んでいる現代とでは、かなり違いがあるみたいですね。昔と今とでは改造にはどんな違いがあるのでしょうか?

おじゃぷろ:
 そうですね……まず僕のホエイルシステムの特徴をわかりやすく表にすると、こんな感じです。

 車体の硬さ改造の特性パーツの費用公式レースで戦えるまで
従来のマシンガタツキを防ぐため固定速くする改造上限なし5年
ホエイルシステムゴムやバネを多用して柔軟コースアウトを防ぐ改造18000円7日

 まず昔から変わらずにある代表的な改造のお話をすると……“グレードアップパーツ【※】の取りつけ”があります。このようなマシンを“ポン付け”と言います。

※グレードアップパーツ
タミヤ模型が販売する、ミニ四駆の改造に用いるパーツ類のこと。マシンに取り付けることで速度が上がったり、コーナリング性能が向上することが謳われている。

“ポン付け”と呼ばれるマシンの例。(写真提供:フォースラボ)

――ここまでは、私の子供時代に見てきたようなミニ四駆ですね。

おじゃぷろ:
 ローラーをはじめとしたグレードアップパーツを買ってきたままの状態で特に加工せずに取り付けるわけですね。ただ、それだけだと現在の公式レースでは安定して走行することは難しいと思います。
 ポン付けのマシンで5レーンコースで勝負ができるレベルになるには、そうですね……毎週末ショップに通っていても5年はかかると思います。

フォースラボ店内で販売されているグレードアップパーツ。大小さまざまな物があり、それぞれの性能を熟知することがレースの勝利には不可欠である。

 ポン付けだけだとコースのアップダウンでマシンがふわっと飛んだときに、コースの壁にぶつかって衝撃を受けるとそのままコースアウトしちゃったりする。「コースアウトせずに安定して走行せよ」というのが、タミヤから出題された難問なんですよね(笑)。

 公式レースにはレギュレーションがあります。モーター、電池、競技車の仕様など大まかに6項目ありまして、ミニ四駆の改造にはタミヤから売られているグレードアップパーツしか使用できません。そこで、既存のグレードアップパーツに加工を施したり、組み合わせたものを装着することでいかに完走率を上げるか、ということが現代のミニ四駆シーンでは重要になってきます。

――おじゃぷろさんのマシンを詳しく見せていただくことはできますでしょうか?

おじゃぷろ:
 いいですよ、こちらです。

山﨑オーナー:
 おじゃぷろさんのミニ四駆は、フロントにピボットを搭載することでデルタ型の鋭角な飛び込みを実現しています。要するにいま主流になりつつあるオートトラックに近い……

――ち、ちょっと待ってください! いま4個ぐらい一気に聞いたことのない単語が出てきて頭が追いついてません。

一同:
 (笑)

おじゃぷろ:
 実際に統計を取ったのですが、コースアウトの原因の85%がジャンプからの着地の際にコースの壁にマシンが乗り上げてしまうことが原因でした。
 なので、その85%の原因を取り除くためにホエイルシステムはバネやゴムを多用して“柔らかいマシン”を作るコンセプトで設計しました。ミニ四駆は実際のレーシングカーと違い、コースは飛んだり跳ねたりグルグル回ったりしていますよね?

 それまでの“硬いシャーシのマシン”では着地したときに衝撃が大きすぎて、跳ねてコースアウトしてしまいます。柔らかいマシンであれば、衝撃をいなすことでなめらかに着地できるんですね。
 もうひとつ言うと、僕のマシンは跳ねにくい改造を施しています。それでいて重さはポン付けのミニ四駆よりも軽いです。ポン付けですと130グラムくらいですが、いまの僕のマシンで100グラムくらい。

 仮に1メートルの高さからマシンを落としても3センチ程度しか跳ねません。

――すごい、本当に跳ねない! 

山﨑オーナー:
 ホエイルシステムが出るまでは、大人たちがグレードアップパーツの選別にとんでもない時間とお金をかけてたんです。金型の番号を見て「あぁ、これはハズレだ」ってやってたときに、おじゃぷろさんは「そんなことしなくても、十分戦えるよ」っていうものを作ってくれたんです。

おじゃぷろ:
 それまでは際限なくお金をかけなきゃいけないところが、ホエイルシステムなら最初に18000円あれば大丈夫です(笑)。ポン付けマシンだと公式レースで戦えるまで5年かかるところが、一週間で完成しますし、作り方はすべて僕のブログで公開しています。

ガチ勢、ビギナーの両方に居心地の良い店舗を実現するために

――フォースラボがオープンした当初から、高木チャンプやおじゃぷろさんのようにミニ四駆に目の色変わっている人たちが大勢来ていたのでしょうか?

山﨑オーナー:
 いいえ! 「コースアウトしちゃったー、ウェーイ!」って感じの人しかいなかった(笑)。

――いわゆるガチ勢が集まってくるなかで、お店に近寄りがたい空気が出ちゃうのかなと思うのですが、今日お店を見させていただいたら、とても和やかですね。

山﨑オーナー:
 そうです。それは徹底しました。常連さんをあえて遠ざけるようにしてました。例えばレジの周りに常連が固まったりして、内輪の話を店員としていたら……僕がそれを他のお客さんの立場で聞いたら嫌な気持ちになるとおもったんです。私含め、フォースラボクルーは館内の雰囲気を作る仕事こそ、プライオリティが高いと意識しています。

 常連が踏ん反り返っちゃって、SNSなんかで「フォースラボ、行きづらい」みたいな書き込みがあったらもう辛い(笑)。この一年は必死でしたので、他の人からは僕が怒り狂っているように見えたかも……。

――常連を遠ざけるって、勇気のいることだと思うのですが。

山﨑オーナー:
 そうです、勇気がいります。でも、常連だからこそ遠くからうちを見守ってほしいと言ったり……でも高木チャンプは別ですよ。なにせゲラゲラ笑いながら1人で遊んでますから(笑)。

 今日は取材として使っていますが、この席はビギナー用の席として必ず空けておくようにしています。

 これを出したら他店舗の方々も絶賛してくれたんです。多分、常連が幅を利かせてしまってタコツボになってるところもあるんだろうな、と思いながら。

――常連さんの中にものすごい速い人がいたら、その人が初心者に優しくするみたいな関係性はあったりするのでしょうか?

山﨑オーナー:
 高木チャンプにも言ってるんですけど、初心者や子供のお客さんには「優しく教えてあげてください」って。お客さん同士が仲良くできるように、うまくプロデュースというかコーディネートしてあげるのが僕ら店舗の役割かなと思ってます。

 子供を連れてくる親御さんからは、「ミニ四駆をやらせてよかった」って感謝されるときもあります。ミニ四駆をしている子供たちを見ていると、その子が興味を持ったものにどのように対応するのかがわかるんですよね。短気だったり、じっとミニ四駆を触り続けたり、レースで負けて悔しがったり冷静だったり。
 子供と親との間のコミュニケーションツールにミニ四駆がなっているんですよね。

――大人になったかつてのミニ四駆キッズたちが、今の世代にミニ四駆を伝えているということですね。

山﨑オーナー:
 今日、実際にあった話ですが、千葉と九十九里から来た初対面同士のお客さんが、帰る頃には「ここの改造はこうしたほうがいい」とかワイワイやっているわけです。僕自身、多趣味なところがありまして、テニスやゴルフ……ガンプラに釣りに映画、色々やってたんですけど(笑)、ここまで盛り上がれるミニ四駆はコミュニケーションツールとしてすごいと思っています。

開発者、店舗オーナー、レーサー…それぞれの目標とは?

――ミニ四駆に関する、みなさんの目標をぜひお伺いしたいと思います。

おじゃぷろ:
 僕は、ひとえにみんながミニ四駆を楽しめるようにしたいです。
 いまは「レースで優勝する」ことを目指す枠組みからのパラダイムシフトを目指しています。別のミニ四駆の楽しみ方を模索するというか、レースというもの以外にも新しく人の居場所を作ることをしたいなと思ってます。

 一番速い人が勝つということだけではなくて、例えば2位の人が勝つことにしたり、チーム戦にしてしまったり、レースでコースアウトすること自体を楽しめるような。今のミニ四駆シーンがF1レースみたいなものだとしたら、バラエティ番組のような楽しくてみんなが自分の居場所を確保できる文化を醸成していきたいと思っています。

高木チャンプ:
 自分は、レジェンドというゴールにたどり着きたいな。レジェンドになれたら、今までかみさんの理解があってこういう趣味ができてるので、ミニ四駆に注いでいた時間を、もう少しかみさんに向けようと思います。「豆柴がほしい」って言ってるので、買ってあげようかなって(笑)。

山﨑オーナー:
 たまにうちの店に高木チャンプの奥さんからお歳暮が来るんですよ。なんというか、親子参観みたいな気持ちになりますよね(笑)。お客さんの奥さんからお歳暮が届くような、人のつながりとかを体感できる居場所を作って、ミニ四駆の楽しさを伝えていく。月並みですけど、僕はその一点かな……。

 ここで知り合った人と、下手すりゃ仕事まで仲良くなるような。ミニ四駆っていう、ちっちゃなマシンを通じてそれができればいいなと思ってます。本当に、それだけですね。

[了]


 全盛期のブームを支えた、かつてのミニ四駆キッズたちが大人になった今もミニ四駆を支え続けている。

 ミニ四駆に限らず、過去に流行したムーブメントのうち、現在にも残り続けているものがあるとしたら、それはジャンルの火を絶やさないようファンたちが大切に繋いできたからに他ならない。

 ミニ四駆というコンテンツとファンの間に立ち、タコツボ化しかねない中で奮闘するフォースラボだからこそ、広くファンの心を掴んでいるのだろう。

 と……本来であれば記事の結びはこの一文で終わるはずだった。

 この取材の後に、現在新型コロナウイルスの影響で多くの店舗に営業活動の自粛が要請されている。それはフォースラボをはじめとしたタミヤ公認ミニ四駆ショップにおいても例外ではない。
 事実、営業時間の短縮や座席数を減らすなどの対応にショップは追われ、このままではコロナ禍が去ったとしてもミニ四レーサーたちの居場所が失われている可能性もある。

 そんな中、フォースラボは店舗に来れない人にも自宅でミニ四駆を楽しんでもらいたいと、ニコニコチャンネルを開設するという新たな挑戦を始めた。山﨑オーナーいわく動画配信は試行錯誤の連続だそうだが、その言葉は取材時と変わらず、いやそれ以上に力強かった。

 ミニ四レーサーたちの居場所が守られることを祈りつつ、記事の締めくくりとしたい。

■info

・「フォースラボ」公式サイト

・ミニ四駆ステーション「フォースラボ」のチャンネルがniconicoにオープン! ここでしか見られないマル秘改造情報やミニ四駆バラエティ番組を配信予定です。

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