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「なんとなくヤバそう」で漫画もフィギュアも写真集もダメ!? 表現の世界に吹き荒れる「自主規制」の問題【山田太郎と考える「表現規制問題」第4回】

規制する側だけ行動を起こせるのはヘン。受け手側の声をすくい上げるシステムを

永山:
 民間の自主規制に関して少しお話させてください。「私的検閲」などと呼ばれていますが、それを抑制していかなければいけないと思っています。私的検閲は、民間企業が勝手に行うことなので、それが大企業であっても法的には問題にならないわけですが、私的検閲に対してどう対応していくか……その辺はどう考えていますか?

山田:
 作り手と受け手の中で、受け手側はギャーギャーと文句こそ言えるものの、実はほとんど力を持っていない。どんなものであっても規制されずに観れる・聴ける・知れることを保障するために、もう少しきちんとした団体を作ったり、力を持つべきだと思うんですよね。言葉が見つからないので、消費者団体みたいな存在というか。

智恵莉:
 消費者団体のような?

山田:
 食品などは分かりやすいんだよね。どういった経緯で何を食べているのか分からないと危険ですから、メーカーや流通者に対して情報を開示しましょうということでトレーサビリティ(追跡可能性)がある。これをしっかり監視している消費者団体なんてのもある。

 一方、表現・コンテンツに関しても、ただ単に楽しんでいる、与えられているだけではないんだから、しっかり受け手が受け止める責務として、流通(を支配できるプラットフォーム)や民間で行う自主規制に対して、「これは不明瞭だ」「どうしてそうなったんだ、おかしい!」と声を挙げられる消費者運動というか、民間団体を立ち上げる必要があるんじゃないかなと。

智恵莉:
 なるほど。

山田:
 規制する側だけ声を挙げられるのはおかしい(笑)。私が議員のときに秘書を務めていた坂井崇俊さんがAFEE(エンターテイメント表現の自由の会)という団体を立ち上げました。自分たちが守りたい人たちを中心とした情報誌なども作っているのですが、私はどちらかというと、オールドファッションの政治家や経済人が今後10年20年経ったときに、今の20代が政治や経済の主人公になっていくにもかかわらず、その人たちとの信頼関係を壊していいんですか? と考えるんです。

永山:
 うんうん。

山田:
 「今の10代20代は何を考えているのか分からない。スマホに侵されすぎだ」なんて言われているけど、私から言わせてもらえれば、彼らにとってスマホは体の一部だから!(笑) どう使いこなすかということが大事なのであって、時間制限や内容で規制していくのはナンセンス! スマホが使えないということは、彼らにとっては話せないってことに匹敵するわけですよ。

智恵莉:
 (笑)

山田:
 若い世代に対して、もう少し捉え方を変えていかないといけないのに、政治でも経済でもプラチナ社会とかシルバー社会とか高齢者のことばかり議論している。

 シルバー世代を支えなければいけない若者たちに対して、「将来の年金は大丈夫なの?」ということに関しては誰も回答を出せない。車に関しても、自動運転など技術革新については議論するけれど、そもそも免許や車を持っていない若者は蚊帳の外。

 そういった議論はエゴなんじゃないの? って。高い技術やテクノロジーが将来を切り拓いていくと考えるのは、オールドファッション。我々50歳以上のおじさんおばさんが持っている強烈な価値観に過ぎない。

永山:
 私、60代でございます!

山田:
 今の映画や同人なんかも、かつて若者だった人たちが切り拓いてきたわけですよ。自然発生的な時代の中で、若者が作っていった文化。そういうことを考えると、今の10代20代の生き方とOVER50世代との融合を図っていかないと、ただの世代間闘争で終わっちゃう。

 表現の自由にしても、おばさまたちが「こんなものよろしくない」と青少年健全育成の文脈の中でどんどん規制していくと、若い世代の自由をさらに奪うだけ。信頼関係が築かれない中で、年金問題をはじめとした世代間に横たわる諸問題を議論しても、解けないと思うんだよね。だって最初から信用してないんだもん(笑)。

智恵莉:
 たしかに(苦笑)。

山田:
 自主規制を怖がらずに、特に民間の中で我々が何を守っていかなければいけないのか……声をあげて運動していくことが求められていると思います。

東京都の青少年健全育成条例。審議会のよく分からない審査

智恵莉:
 若い人を守っているつもりが実は自由を奪っていくだけになりかねない……山田さんが今お話をされた部分とリンクすると思うのですが、青少年健全育成条例というものがあります。

山田:
 各都道府県における青少年健全育成条例が、非常に民間の自主規制のもとになっているんですね。エロ・グロ・暴力の中の特にエロの部分であれば、刑法175条という秩序系の法律の影響が大きい。都道府県の条例に関しては、永山さんの詳しいところだと思うのですが。

永山:
 東京都は、まず東京都の職員が本を月130冊ほど買うんです。その中から2~3冊選んで審議会で審査し、アウトなものに対しては不健全指定が行われ、いよいよ販売が規制されていくという流れになるのですが……事実上、青少年課でセレクトした段階でほぼ100%指定されたも同然になる。

智恵莉:
 う~ん。

山田:
 審議会はあまり関係ないんだ。選ばれた時点でクロ扱いに?

永山:
 審議会の議事録が公開されているので見たら分かると思うのですが、平均すると審議会の議員が集まっておおよそ30分ほどで決まります。ほとんど意見はありません。審議会のメンバーには都議なども入っていて、否定的な意見は出るものの、匿名で自由な発言ができるはずなのにあまり発言がなかったりする。はっきり言いますけど、30分間座ってジュースを飲んで、お金が出る!

山田:
 なんだかなぁ。

智恵莉:
 都議の他にどういうメンバーがいるのですか?

永山:
 出版倫理団体やコンビニチェーンの偉い人、PTAの人や母の会メンバー。それから東京の児童関係の職務についている方々とか。まぁ、そういった人たちが集まって、その場でエロマンガを見て「けしからん!」と判を押す。

智恵莉:
 完全に「けしからん!」と言いそうな人たちが集まっている気がするのは気のせい!?(笑)

永山:
 必ずしもそうではないんですよ(笑)。出版側の委員もいますからね。ただ、「これはちょっと過激だよなぁ……」という作品が多いことは事実として否めない。反面、「なぜこれはいけないのか」という意見はもうちょっと出してほしい。たった30分の間に、これまでの報告などもするのですが、面白いのは東京都が推奨する優良映画というのがあって、そのときだけは「素晴らしかった!」「感動した!」とか活発に議論する(笑)。

山田:
 はっきり言って、また議員に選ばれたいからヨイショしているだけじゃないの?(苦笑)

永山:
 わかんないですね~(笑)。「小学生にはまだ早いけど中学生には推薦でしょ!」とか熱く語り出す。でも、マンガに関しては割とスルーなんですよ。

智恵莉:
 スルーなんですか。

不健全指定図書に選ばれるとどうなるの?

山田:
 そういう場に集めてこられた時点で、すでにそのマンガは有罪確定みたいな感じ?

永山:
 ほぼそうですね。

山田:
 審議会なのに不健全指定ゼロってわけにはいかないから、「仕事してる」という体裁のためには必要がなくてもどんどん摘発しているんじゃないの?

永山:
 これはすごく微妙な問題で、もし今の基準で厳密にやり始めたら月2~3冊じゃ済まなくなる。それに無い月だってあるはずなんですよ。

山田:
 うん、そのほうが自然だよね。

永山:
 無い月と大量指定の月があるはずなのに、コンスタントに毎月ノルマのように2~3冊が挙げられている。

山田:
 選ばれるとどうなっちゃうの? 出版社なり作家からすれば大変なの?

永山:
 作家は呼ばれないけど、出版社の編集者は都庁に呼ばれます。僕も一度、執筆している本が不健全指定を受けたので……。

山田:
 え? 永山さん、不健全……図書作家なの?(笑)

永山:
 いや、違いますよ!(笑) なぜか文章は除外って書いてあって、マンガだけが引っかかるんです。

智恵莉:
 おお~間一髪というか。

永山:
 いい機会だと思って、青少年課に編集者が行くので付いて行った。で、「不健全作家が来ましたよ~」とご挨拶をした(笑)。

山田:
 ほほぅ!

永山:
 どういう指導をするのか興味津々で。昔の編集者の話によると、いわゆる権威的に「けしからん!」みたいなタイプでおっかなかったらしいんですよ。ところが行ってみたら非常にソフトタッチで肩すかしもいいところ。「これはやはり~、青少年にはちょっと早いと思いますので……」と言われたので、「マークをつけて(エロ本として)ガンガン売っていただければ!」と(笑)。

山田:
 無理だろ!(笑)

一同:
 (笑)

永山:
 非常にソフトタッチではあるものの、そこでいろいろ指導を受けて具体的にどうなるかというと……。

山田:
 普通に流通しにくくなっちゃうんでしょ? 区分陳列しなきゃいけないし。

永山:
 いわゆる「取り次ぎ」、問屋の問題も関わってくることに。問屋も自主規制のルール作りに参加しているため、区分陳列する必要がある。それから、冒頭に説明した3回連続で同じレーベルのシリーズが指定を受けた場合は、「帯紙をつけてください」ってことになります。それ以上頑張って出し続けると、事実上、取り次ぎ(問屋)で扱ってもらえないというペナルティを課されることになっちゃうんですよね。

智恵莉:
 そうなんですね。

山田:
 なるほど。

永山:
 都の言い分は、「これはまったく検閲ではない」と。流通をお願いしているに過ぎないと。

山田:
 だから自主規制を促す。

永山:
 そうですね、「業界で努力してください」と。

規制対象を拡大されかねない青少年健全育成基本法を通すな

山田:
 東京都でこれですから、この弊害が国家レベルになれば大変なことになることは明白でしょう。まさに青少年健全育成基本法みたいなものができれば、しつこいようですが、これからネットなども対象として睨まれてくると思います。

永山:
 長崎県では筒井哲也氏の『マンホール』が有害図書になる問題もありましたよね。

山田:
 有害と認定されたページは全体の数ページのみで、そのシーンについても特別性描写などがあるわけではないのにね。びっくりだよね。マンホールから出てきた妖怪がヘドロを被っているから気持ち悪いとか、あとは「ピチャピチャ」とか「グチュグチュ」とか効果音がダメらしいとか。

智恵莉:
 へぇ〜。

山田:
 人間なんて7割が水分でできてるんだから、普通にピチャピチャもグチュグチュもあるだろうって!(笑)

智恵莉:
 ふふふ(笑)。

山田:
 乾いている方がよっぽど妖怪だろ! って言いたいよ(笑)。

永山:
 結果として長崎県では、他府県の青少年が読める本が読めない県になっているわけですよ。長崎県は厳しい県として有名ですが、これを法律にするとしたら一体どの都道府県レベルの基準になるのか分からない。これはすごく怖い話ですよね。

山田:
 青少年健全育成条例を前提として、青少年健全育成基本法のようなものをセットにすると、一番厳しいところにハードルが合わせられると思います。長崎県は春画もNGで本当に厳しいわけだけど、全部が長崎県のレベルになってしまうとすごいことになってしまう。しかも都道府県では出版物のみを対象としていたけど、国家レベルともなればネット上のものやコミケそのものも流通の対象と捉えられかねない。

智恵莉:
 今日は自主規制の話をお伝えしてきましたが、次回がいよいよ最終回……最後のテーマは何になるのでしょうか?

山田:
 最終回までは少しお時間をいただいて、いろいろと取材をしてきた上で、皆さんに報告もかねてお伝えできればと思っています。『表現規制の歴史』と題し、これまでにどのような戦いがあり、そしてその只中で表現をしていた方などのインタビューなども交えてお届けできれば。濃い内容になると思いますので、次回も楽しみにしていてください。

智恵莉:
 はい。本日は皆さんありがとうございました。

永山:
 どうもでした~。


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本記事はこの放送の内容を記事化したものになります。

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