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児童ポルノ規制法、有害図書指定、通信の秘密の瓦解、マンガ・アニメを規制する様々な圧力とは?【山田太郎と考える「表現規制問題」第3回】

 マンガやアニメなど「表現の自由」を守る活動に取り組む「表現の自由を守る会」の山田太郎氏を案内人として、「著作権の非親告罪」「有害図書指定」「国連勧告」「児童ポルノ禁止法改正」など表現規制について考える連続企画(全5回)。

 第三回目は、「表現の自由をめぐる諸問題」と題し、誰の、何のための法律か分からなくなっている児童ポルノ規制法の問題点をはじめ、軽減税率導入に際して議論された有害図書指定問題、意外な落とし穴”通信の秘密”などにクローズアップ。

 また、ゲストには、CGポルノ事件やろくでなし子裁判の担当弁護士である山口貴士氏を迎え、表現問題の最前線、芸術とわいせつの境界線についても、根掘り葉掘り伺いました。

 知らないところで脅かされ続ける日本の表現の自由……。もはや「知らなかった」では済まされないところまできているのではないか?

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山田:
 本日は児童ポルノ規制法とその周辺、有害図書指定問題、通信の秘密、そして山口弁護士にお越しいただいているのでCGポルノ事件についても、後ほどお話ししていこうと思います。

智恵莉:
 まず、「児童ポルノとは何なのか?」というところから、お話していただければと思うのですが。

山田:
 2013年頃から改正案が話されていたのですが、当時なぜこれが表現の自由を巡る問題になったのか、簡単に説明しましょう。
 児童とは18歳未満の子どもたちのことを意味し、児童ポルノ規制法【※】とは、児童買春、児童売春、子どもの虐待を防ぐための法律として制定されました。改正案に際して新たな要素がプラスされるのですが、この改正案の中の附則第2条の中の「漫画・アニメ・ゲームと児童ポルノとの関係性について調査研究する」という条項が議論の的になりました。

※児童ポルノ規制法
性的虐待や性的搾取から児童(18歳未満)を保護することを目的に、児童買春の周旋・勧誘をした者や「児童ポルノ」の制作者・提供者等への罰則を定めた法律。

山田:
 附則の中の検討事項として、「児童ポルノに類する漫画等と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進する」という旨の条項が入っていました。この文言は端的に言えば、「(一部性表現を含む)マンガ・アニメ・ゲームが子どもの虐待を助長するのではないか?」、そして「性犯罪者を作り出すのではないか?」という前提です。
 しかも、 “3年を目途に検討する”と記述されており、次の改正案の中ではそういったものを禁止する条項を入れていきましょうという流れになっていたのです。この条文を推進しようとしていた責任者が、何を隠そう自民党の高市早苗さんでした。当時高市さんは、自民党の政調会長という重責を担うポジションに席を置いていました。当時、私はみんなの党に在籍していたわけですね。

※自由民主党政務調査会
政策部会の自由民主党での呼称。政策や法案の立案・作成を行う党内機関。通称・政調会。

山田:
 高市さんは政権与党の政務調査会長にも関わらず直々に政調会に足を運び、説明をするという異例とも言える対応をします。安保法制や昨今話題の共謀罪などのレベルの法案を通したいとなっても、わざわざ自民党の三役の政務調査会長が野党の一角の会議にまで出かけて説明することはそうそうありません。それほどまでにこの法案を通したかったということが見て取れます。

智恵莉:
 絶対に通したかった!?

山田:
 (頷く)。当時みんなの党の政調会では附則第2条に関して、「なんでこんなものを付けたんだ」と異を唱えていましたから、大きな話題を呼んだ案件でした。

智恵莉:
 一つ質問があるのですが、そもそも附則というのは何なんですか?

山田:
 附則というのは、法律の本文の後ろについている注釈のような部分です。おまけのような存在とは言え本文に準ずるので、本文同様に効力を持つことになるんですね。

智恵莉:
 なるほど。十分重要な部分というわけですね!? 

山田:
 そうです。2013年5月に参議院の予算委員会がありましたので、早速、本件について私は国会質問を行いました。「政府はクールジャパンを謳っておきながら、一方でマンガ・アニメ・ゲームの表現を規制するのはおかしいじゃないか!」 ということを質問したわけです。
 当時副総理だった麻生さんとも質疑をしたのですが、私が「麻生さん、なぜマンガとアニメはダメで小説はいいんですか?」と聞いたところ、麻生さんは「子どもはマンガを読むだろうけど、小説は読まないだろう」と言ったわけです。大人だってマンガを読みますし、そもそも虐待の原因がマンガによるということであれば、子どもが子どもを虐待するんですか? ということになる。子どもを虐待・性虐待しているのは誰ですか? 「大人」ではないんですか? と。

結局は好き嫌い!? 曖昧すぎるマンガ・アニメ・ゲームの線引き

山田:
 当時、「児童ポルノ」という言い方も良くないのではないか? という議論も行われたんですね。「子どもの性虐待電子記録物防止法」などそういった名前に変えるべきなのではないか? と。ICPO(国際刑事警察機構)からの勧告も受けていました。ポルノという名前が付くと一種のそういったジャンルが成立しているととられる。この法律の趣旨は子どもの虐待をなくすことですから、そのためにそういった行為を記録したものをなくしていきましょう、というのが本来の立法動機です。
 そして、ポルノを取り締まることがこの法案の本来の目的ではなく、虐待にあった子どもを守るのが本来の趣旨であるはずです。私は、国会でもこの点に関して質問したのですが、「この呼称が定着しているから」という反応でした(苦笑)。

智恵莉:
 たしかにネーミングは大事ですよね。

山田:
 結局、児童ポルノを取り締まるようなイメージになっていく……この件に関しては後ほどCGポルノ事件にもつながるので、じっくり山口先生からお答え願えればと思うのですが、いずれにしてもこのようなやり取りが国会で行われていたわけです。附則第2条……「マンガ・アニメ・ゲームが子どもの虐待につながる」という附則は、国会上程前の激しい議論の末、衆議院段階では取り払われることになります。私も国会に上程されてからでは遅いと国会外で様々な画策を行いました。ただ、その後の衆議院の法務委員会では珍問答が繰り広げられました(笑)。
 例えば、「良いマンガというのは何なんなんだ?」というようなことを議論した際に、マンガ・アニメを規制したいある議員は、「ゴルゴ13」「島耕作」「沈黙の艦隊」を良いマンガの代表例として挙げたわけです。

山田:
 おかしいでしょ!(笑) 「ゴルゴ13」は暗殺者の話。「島耕作」は昨年から話題に事欠かない不倫の話が登場します。そして、「沈黙の艦隊」は原子力潜水艦を担保にとって政府を脅すテロリストなんかの話があるわけです。そういうマンガが良くて、エログロ暴力モノはダメと決めつけるのは筋が通らないだろうと。

智恵莉:
 うんうん。

山田:
 取り締まりたい人たちって、結局、好きか嫌いか……なんですよね。立法府で決める法律を好き嫌いで判別されてたまるかって話ですよ(苦笑)。こんな具合ですから衆議院の法務委員会では荒れに荒れていた。今度は、「なんで附則第2条を取ったんだ?」という規制派の議員が出てきた。ですから、次の参議院段階で附則第2条が復活する可能性が出てきたんです(笑)。

智恵莉:
 そんなことができるんですか?

山田:
 法律案を通すときに附帯決議【※】という方法があるんです。

※附帯決議
政府が法律を執行するに当たっての留意事項を示したもの。実際には条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込むことにより、その後の運用に国会として注文を付けることができる。

山田:
 法律を作ったものの、国会の中でその法律がきちんと運営されるようにプラスアルファで文章に決まりごとを残しておくことが附帯決議では可能なんですね。その附帯決議の中で、今後マンガ・アニメ・ゲームが規制されることもあわせて検討するということ留意事項として復活する動きがあった。そこで私は、附帯決議に附帯決議で返す“附帯返し”をしました。

智恵莉:
 !?

山田:
 復活しそうだった動きを察知していましたから、先に私の方で各党に附帯決議を提案しました。マンガ・アニメ・ゲームを規制する附帯決議文を作っても、附帯決議はその委員会各党の前回一致によるので、私がそれを阻止するために先に附帯を出したんです。これがその文書ですね。

山田:
 附帯決議を出すと各党との擦り合わせがあります。要するに規制派の附帯決議を出した方々と私、附帯決議を出した者同士による話し合いが始まるわけです。

“附帯返し”の内容
一:児童を性的搾取及び性的虐待から守るという法律の趣旨を踏まえた運用を行うこと。
二:第七条第一項の罪の適用に当たっては、同項には捜査権の濫用を防止する趣旨も含まれていることを十分に踏まえて対応すること。
三:第十六条の三に定める電気通信役務を提供する事業者に対する捜査機関からの協力依頼については、当該事業者が萎縮することのないよう、配慮すること。

山田:
 こういった本法から外れた、単にポルノが良いとか悪いとかそういったことを趣旨とした法律ではないんですよ、濫用してはいけませんよ、ということ“附帯返し”という形で立法府の中で確認した次第です。結果、何とかマンガ・アニメ・ゲームに対する規制を附則第2条から取り払うことにつながりました。非常にギリギリの段階で議論を重ねていたという背景があったんですね。

智恵莉:
 ははぁ~。

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