なぜ国連から日本のマンガ・アニメは敵視されるのか? 外圧から見える日本の児童虐待問題の裏側 【山田太郎と考える「表現規制問題」第2回】
マンガやアニメなど「表現の自由」を守る活動に取り組む「表現の自由を守る会」の山田太郎氏を案内人として、「著作権の非親告罪」「有害図書指定」「国連勧告」「児童ポルノ禁止法改正」など表現規制のアジェンダを考える連続企画(全五回)がスタート。
第二回目は、「漫画・アニメはなぜ国連から敵視されているのか?」と題し、海外からの“外圧”にフォーカスを当て、表現問題をひも解いていく……。
ゲストに、表現の自由を守るために外圧と戦い続ける「NPO法人うぐいすリボン」の理事である荻野幸太郎氏を迎え、大きな話題を呼んだ国連報告官・ブキッキオ氏の“トンデモ発言”の真相と背景、そして海外が問題視する“日本の性的虐待や性的搾取”と日本の児童ポルノ規制法の矛盾点まで語りつくします!
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・「なんとなくヤバそう」で漫画もフィギュアも写真集もダメ!? 表現の世界に吹き荒れる「自主規制」の問題【山田太郎と考える「表現規制問題」第4回】
・「必要な議論を飛ばして表現規制で全ての問題を解決しようとしている」東京五輪を控え本格化する“青少年健全育成基本法”の議論が抱える、そもそもの問題点とは【山田太郎と考える「表現規制問題」第5回】
「児童の性的搾取に反対する世界会議」から始まった戦いの歴史
山田:
全五回にわたってお送りするこのシリーズですが、第二回目の今日は、「漫画・アニメはなぜ国連から敵視されているのか?」について議論を深めていこうと思います。前回の第一回目は主に「著作権の非親告罪化」について話してきましたが、本日はマンガ・アニメ・ゲームに対する「外圧」にフォーカスを当てて話していこうというわけです。
智恵莉:
最初に、これまでにどんな流れがあったのか……専門家として長年見続けてきたうぐいすりぼんの荻野さんからご説明いただけますか?
荻野:
まず前提として国連が敵視しているというよりは、敵視している方々が色々と上手に国連のシステムを使っているということが言えます。
山田:
日本の極端な表現をしているマンガやアニメをBANしろ……所持すら許さない、発禁(発行禁止処分)にしろという、海外からの外圧がある。もし仮にこのような厳しい勧告が出れば、それに対応する形で日本は法規制、この番組でも扱った青少年育成基本法も絡めて規制の圧力は強まります。とりわけ昨年は大きな外圧があった1年だったんです。マオド・ド・ブーア=ブキッキオさんというオランダの法律家であり、国連の報告官を務める人物が来日して、「日本の女学生の30%(13%)は援助交際している」などなど、記者クラブでとんでもないことをぶちまけて大変なことになりました。
智恵莉:
う〜ん。
山田:
「そんな根拠ないじゃないか」ということで、私も国会や外務省に噛みついて、国連に訂正・撤回させるという事態にまで発展しました。海外からの外圧というのは、今回のブキッキオさんのケースに限らず、これまでにも何度もあったんですね。日本のマンガ・アニメ・ゲームに対する国連の物言い、特に「児童の性的搾取に反対する世界会議」というのがありまして、ストックホルム、横浜、リオデジャネイロと開かれてきました。
荻野:
1996年に、第一回目の「児童の性的搾取に反対する世界会議」がストックホルムで開かれました。この時代は、世界の流れとしてポルノをどんどん解禁する流れにありました。それまでは「猥褻だからダメだ」と規制されていたものが、だんだん解禁されていく……その中で、「全部解禁するとマズイよね」「規制するものは規制しよう」という方向で世界が動き始めたトレンドの時代でもありました。“解禁するわけにはいかないもの”の筆頭として、子どもを虐待、強姦してビデオに撮るというものがあり、世界中が一丸となってなんとかしなきゃいけないという話になっていたわけです。
荻野:
その上で会議に参加した日本の代表、官僚の人たちがかなり世界中から批判を浴びることが起きてしまったんです。というのも、ポルノ全般、あるいはマンガ・アニメも含めて規制したい海外の方々が、国際的な会議や国際法をうまく利用して規制を進めようという流れがすでに本格的に進められていたんです。
そういう動きがある中で、「日本には子どもが出ているエロマンガやアニメビデオがけっこうある」ということが事前に会議に参加している他国のメンバーに伝えられていた(ロビングされていた)ため、日本政府の代表団は批判を浴びる形になってしまったわけです。横浜・リオの話もしますか?
山田:
どうぞどうぞ。
荻野:
その5年後の2001年、第2回目の会議が日本の横浜で開かれます。日本のマンガ、アニメ関係者、そして専門家である学者や法律家も集い、「誤解を解かなければいけない」いうことで立ち上がったのが横浜の会議です。精神科医の斉藤環さん、哲学者の東浩紀さん、社会学者の宮台真司さんなどが横浜会議の中でシンポジウムを行い、「マンガ、アニメの性表現の話と、実在・実写の児童ポルノの話は区別できるものであり性質が違う」ということをかなり頑張って主張してくれたわけです。ストックホルムの状況を盛り返したというか、イーブンというか両論併記的なところも含め、さまざまな人が頑張って外圧に対抗していたわけです。
山田:
はい。
荻野:
ところが、その7年後のブラジル・リオデジャネイロの会議では、規制推進派がかなり切り返してきた。準児童ポルノ、つまり「“マンガやアニメも含めた実在児童でないもの”も規制すべきだ」という意見が宣言として出されてしまった、と一般的には解釈されるようになってしまいました。繰り返しになりますが、実際に世界中の人が日本のマンガやアニメの性表現に接したことで怒り、規制しなければいけない! と立ち上がったというよりは、日本国内にいる「マンガやアニメの性表現を規制したい」と思っている方々が、上手に国連のシステムや国際会議を使って規制の枠組みを用意した……そういった背景があったように思います。
山田太郎vsマオド・ド・ブーア=ブキッキオ
山田:
その流れを受けながら、2015年10月19日にマオド・ド・ブーア=ブキッキオさんが来日します。この方は国連の児童買春等特別報告者、いわゆる人権理事会の報告官です。その方が、「私(山田)のところにも会いたい」ということで、来日された次の日に、参議院議員時代の私の議員室で面会をすることになりました。この国連の報告者というのが、実は相当力を持っているんですよ。国連の人権委員会の各報告書をまとめる人でもありますから、最終的に国連の正式な勧告をまとめる役割も担うわけです。この人たちが誤解をしたまま、あるいは一つの固執した考え方を持ったまま帰国されてしまうとエラい目に遭う……。そんなことを思いつつ、ブキッキオさんと会うことになったわけです。
智恵莉:
ふむふむ。
山田:
会うにあたり事前にブキッキオさんからの質問事項が書かれた紙が届いた。「ITと性的搾取との関係」「被害者の社会復帰に向けた法律」、それから「児童ポルノ規制法の改正」に関する云々も書いてきました。一つひとつに対して、私も回答できるように前日までまとめていたんです。
で、いきなりブキッキオさんが通訳の人を含め部屋に入ってきたと思ったら、ケンカ腰に「山田議員はどうして児童ポルノ規制法改正案に対して反対したんですか!?」と向かってきた! 普通だったら、「やぁ元気?」とか「日本は最近どう?」といったニュートラルトピックスから会話って始まるじゃないですか? 私も外資系に勤めていましたから、それこそオランダにいた時期もあったのでオランダ人はよく知っているつもりだったんですが……いきなり単刀直入にケンカ腰で話されるとは思わなかった(苦笑)。
智恵莉:
(笑)
山田:
それに、私は児童ポルノ規制法改正案に対して反対していません。付帯決議までつけた立法に絡んだ張本人の一人として、法律全体が不完全だということで棄権こそしましたが、決して反対はしていない。ところが、誰かから山田は反対したとでも吹き込まれたのか、私のことをポルノ推進議員とでも言うような口調でブキッキオさんは絡んできたわけです。
智恵莉:
はい。
山田:
日本のマンガ・アニメ・ゲーム、あるいは日本の性虐待に関して日本政府は何もしてない、とブキッキオさんは言ってくる。事前に届いた質問項目に回答する形で会談する予定だったんですが、そんな状態ですから回答するような感じではなく、なりゆきで話す形になってしまった。とは言え、はっきりとブキッキオさんに対して説明をしたことは、「児童ポルノ規制法改正案は非常に問題のある法律なんです」ということ。本来、子どもの性虐待を防止するために作った法律にも関わらず、3号ポルノ(後述)によってポルノを取り締まる部分がある、と。入口は子どもが虐待されないための目的(個人法益)だったにも関わらず、出口がポルノ規制(社会法益)になってしまっている……具体的に言うと、この法律では、ポルノを取り締まろうとしたら、子どもの性虐待を取り締まれないケースがあるということを伝えたわけです。
山田:
例えば、子どもが虐待されている。だけど、声は聞こえるけど身体は写っていない、あるいは局部などが隠されていればポルノにならない。明らかに虐待をされている記録物……映像・写真でも、簡略的に言えば「裸じゃなければいい」という法律になっているんです。こんな法律では、子どもの性虐待あるいは虐待を取り締まることなんてできない……そういう旨をブキッキオさんに説明したわけです。いろいろ言い合いになったものの、最終的にブキッキオさんは「日本にポルノ推進の議員がいると思って心配していたんだけど、そうじゃないとわかって安心したわ」と言って帰っていきました(笑)。
智恵莉:
(笑)
ブキッキオさんの無茶苦茶な置き土産で大混乱に
山田:
このように10月20日にいろいろなことを話し合ったわけです。ただ、国連報告者たちは良い意味でも悪い意味でも事前に説明を受けている。それを受けて、大変な記者会見を開くことになるわけです。
智恵莉:
その内容というのがこちらですね。
山田:
私と会談した後、10月26日にブキッキオさんは日本記者クラブで会見を開いて帰ります。国連の報告官がこういった会見を開いても通常は、ほとんど話題にならず、記事にもなりません。当然、テレビなどで放送されることもない。ですが、ネットの中継があったので、たまたま私は見る機会に恵まれた。ブキッキオさんは何を言って日本を離れるのかな? なんて思って中継を見ていたら、とんでもないことをぶちまけて帰っていった! それが画像にもあるように、
①日本の女子学生の3割(後に13%と訂正)は援助交際をしている。
山田:
日本の通訳の方がはっきりと30%と口にしていたわけですが、いくらなんでも3人に1人ってことはないだろうと!? 後に強く抗議したところ、通訳が間違えて本当は13%だった、ということになります。ただ、アメリカ人の友人にブキッキオさんの発音を確認してもらったところ、「サーティー」と言っているという(苦笑)。聞き取りづらかったのは確かですが、非常に衝撃を与えた一言でした。
②児童ポルノ法の罰則規則が非常に軽い。罰則が科されても罰金だけに留まることが多い。
山田:
これはあまり捕まらないんですよってことを伝えたわけですね。
③被害届が正式に出ないと警察は捜査を躊躇する。
山田:
こちらは被害届を出さないと警察は捜査をしない、と。そして極め付けが④ですね。
④沖縄では家庭崩壊で家出をすると生き残りのため売春産業以外にない
山田:
これは沖縄で運動をしている人たちが彼女に尾びれ背びれで吹聴したのではないかと思うのですが……こういったとんでもないことを言って帰国してしまった。後日、私はそれぞれの言説に対する確認を担当省・庁に行うことになるわけです。