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なぜ国連から日本のマンガ・アニメは敵視されるのか? 外圧から見える日本の児童虐待問題の裏側 【山田太郎と考える「表現規制問題」第2回】 

日本は「子ども庁」を設立し、子どもに関する問題に対処していくべき

山田:
 日本は里親が少ない。世界の常識ではアメリカやイギリスは7割くらいが里親なのですが、日本は16~17%ほど里親が引き取り、8割以上は施設に入れられてしまう実態がある。施設に入ってしまうと愛情障害に陥ってしまったりする。本当は家庭的な経験をきちんと子どもたちに送らせてあげなけれないけないんです。世界の常識ですから、里親法の制定を早い段階から言い続けていました。私が議員を辞めた後に福祉法が改正になったことは聞いていますが、そういったことを訴えていたわけです。官邸の窓口である当時の世耕内閣官房副長官(現・経済産業大臣)とも直接やり取りも行っていたわけですね。実は官邸は菅官房長官をはじめ、この問題に対する意識は元々高かったんです。特に居所不明児童の問題に対しては非常に問題としていた。

山田:
 小学校以上になると子どもの数というのは行政が把握できるようになります。ところが、本来は義務教育で小学校に上がってくるはずの子どもがいないことも分かってしまう。文科省を中心に「なんでいるはずの子どもがいないんだ?」ということが問題になるわけです。この十数年の累計で何万という居所不明児童数にのぼるため、きちんと対策を講じなければならない。その背景に虐待問題もあるでしょうから、問題意識としては高かったようです。菅さんとしても思うところがあった矢先に、先のような質疑があったので急展開で「やる」という動きになったという次第です。あの対応を見て、私は「日本の政府も捨てたもんじゃないな」と思いましたね。

山田:
 この問題は国家行政組織法の改正(改正前は所管ではないことはやってはいけなかったが、改正後は所管を越えて行ってもよいとなった)に基づいて、厚労省を中心に取り組むようです。ですが、個人的には「子ども庁」という専門所轄を作って取り組むべきだと思っています。

荻野:
 (頷く)

山田:
 マンガ・アニメ・ゲームが子どもに影響があると言われているけど、だったら根源である虐待や性虐待についての議論も交わさないといけない。避けている、のかもしれません。たしかに里親は誰が受けもつんだ? 地方自治体はどうするべきなのか? など相当な労力と整備が必要になります。ケアするべきはお金だけではありませんから非常にデリケート。それゆえパンドラの箱を開けたくないという人も少なくないでしょう。その一方で、「マンガ・アニメ・ゲームは問題だ!」と言う。それはおかしくないですか!? って話になるのは当たり目です。

荻野:
 ブキッキオさんと山田さんが会ったときに、山田さんがやるべきこととして約束してくれたことは、山田さんは全部やってくれたよね!?

山田:
 そのつもりはあります(笑)。彼女が言っていたことを徹底的に葬り去るのではなくて、「なるほど」と思う部分に関しては冷静に受け入れて実行しないといけないと思いました。それができないとなると、ただのイデオロギー論争にしかならない。右だ左だ、与党だ野党だってそんなことではなくて、正しいものは正しいし、間違っているものは間違っている。なるほどと思うことがあれば、そこは汲み取らないといけません。国連からの外圧にしても、最初から国連を全否定するようなポジションや考え方ではいけません。国連がないと世界がめちゃくちゃになるのも事実です。国連は人権に関しては非常に貢献度が高いところもあるわけですよ。だからと言って、国連が言っていることすべてが正しいかと問われれば、必ずしもそうじゃないだろう、と。緊張と信頼を持って、お互いにきちんと言える間柄になるということは、“対国連”にもあって然るべきということですよね。

原則論で話していてもらちが明かない。世界のオタクを巻き込むことが重要

山田:
 国連を含めた国際社会の論点は、マンガ・アニメ・ゲームで架空の児童の虐待が描かれると、児童への虐待行為を社会が容認するようになってしまう、ということなんです。これが日本の中でも、論拠になっている節があります。僕は上記とは別の機会に、麻生さんに児童ポルノ規制法のときに質問したことがあって、「だったら小説は良いんですか?」と聞いたことがあります。

智恵莉:
 あ~なるほど。

山田:
 マンガ・アニメ・ゲーム以外でもあるわけですよ。すると、麻生さんは「子どもは小説は読まない」と答えた。それっておかしいでしょ!? 子どもが子どもに性虐待するんですか? 子どもを虐待・性虐待しているのは誰ですか? 「大人」ではないんですか? と、「?」が延々と続く議論になってしまう。マンガ・アニメ・ゲームの過激な表現は、子どもの心理に影響があると言っているんだけど、果たして犯罪率を増やすのか……。いや、育成段階では問題があるかもしれない……。このような具合で議論が無茶苦茶になるんですね。

荻野:
 表現の自由において原則論や原理論で戦うだけではなくて、前述したように「アニメ・ゲームはそういう性質のものではないよね」という文化的な話を国際社会の場で展開できるようにならないといけないんですよね。そういうことを書いてくれるジャーナリストって文化部にいるので、政治問題について記事は書けないとか言われたりする(苦笑)。国際的な文化会議ではそういった話がされているのに、政治や行政に関わる会議だと専門外だということで踏み込んでもらえない。オタクは世界中にたくさんいるわけですから、垣根を越えて動いてくれると、先に山田さんがいったようなまとまりのない議論そのものが海外で受け入れられるような状況になっていくと思うんですよね。

山田:
 「英語で世界に発信していかなければいけない」というコメントが流れていましたが、確かにその通りなんです。CNNやBBCは、荻野さんが説明したように“変なこと”が話題になると取り上げるんですよ。かつて「秋葉原が犯罪の巣窟だ」みたいなニュースが流れたときに、私は「それはまったく違う」と海外のメディアなどにも言ってきたつもりなのですが、やっぱり日本は海外のメディアに弱いなぁと感じました。外圧の力を利用するときは利用するのに、間違った報道があったときは迅速に否定できないところがある。だからこそ、ブキッキオ発言の際などは直ちに「違う」という意思を示さなければいけなかった。すぐ対処をすることが大事なんです。じゃないと、間違った情報がどんどん拡散されていく。

智恵莉:
 ブキッキオさんの発言も1週間足らずでどんどん広がってしまいましたもんね。

山田:
 いずれにしても“すぐやる”という瞬発力は国際社会の中では大事なんじゃないかなと思うわけです。

荻野:
 はい。

ろくでなし子だけじゃないCGポルノ問題

山田:
 あともう一つ旬な話題として、このタイミングで取り上げたいことが「CG児童ポルノ」について。昔って児童ポルノが平気で……平気で言ったら怒られちゃうけど(笑)、女性誌なんかでも掲載されていた時代があって、恥部が晒されていたわけです。それを参考にしてCGで同じようなものを作って販売したところ、児童ポルノに該当するということで訴えられ、逮捕、そして裁判になってしまった。CGは実在じゃないんだから、アニメの延長だという考え方もできるし、精巧に似てしまうなら写真と同じ扱いだろうと言うこともできる。

智恵莉:
 う~ん……。

山田:
 CGは児童ポルノに当たるかのどうか? 児童ポルノはあくまでも「実在である」ということが大前提ですから、CGポルノが是か非かというのは大きな話題を呼んだ。そんな中、一審の地裁では有罪になるんだけど、たくさんあるCGの中から3点だけが有罪になったんだっけ?

荻野:
 ですね。

山田:
 それ以外の20数点がどうだったのか気になるところで、この裁判の最大の問題は、我々もそうなんだけど“中身が見れない”ってことなんですよ。

智恵莉:
 はい。

山田:
 裁判の背景というか、世論というものは大事だと思うんです。CGがどこまで精巧なのか、どこまで実際のものに近いか……世間の声や意見として「これはあり」「これはなし」と判断する基準があればいいんだけど、見ることができないとなると基準となる意見が集まらない。捜査官に聞く限りでは、「かなり似ています」と(笑)。いずれにしても一審では懲役1年、執行猶予3年だったかな……その後、二審は罰金刑という形で、どちらかというと減刑になった。そしてCGポルノの件と言えば、ろくでなし子さんの件を忘れてはいけない。

智恵莉:
 そうですね。

山田:
 実は彼女は勾留されてるんだよね。

荻野:
 うんうん。

山田:
 なぜ勾留される点が問題かというと、勾留というのは基本的にその人が逃げてしまうとか、証拠を隠蔽する危険性がある、などそういうことが考えられるケースにおいて、刑が確定していない間もそれを理由に「勾留する」って話なんです。ですが、ろくでなし子さんの件は解釈の問題だからね。

荻野:
 証拠の消しようがないから、逃げようがないんですよ。

山田:
 否定しないで認めていますからね。「これは私のです」「私の3Dです」と(笑)。勾留は明らかに“やりすぎ”と言えます。

荻野:
 裁判の前に、罪を認めて「すいません」って言わない生意気な奴だから懲らしめてやれ、ってなってしまっているんじゃないのか!? そういう懸念があるってことですよね。

山田:
 そう。元になる実在の少女がいて、それをベースに写真のように精巧に作ると児童ポルノだとみなされてしまうのがCGポルノの問題ですね。

虐待から子どもを守れない無茶苦茶な条文の児童ポルノ規制法

山田:
 児童ポルノ規制法……これは次の回でやりたいと思いますが、そもそも児童ポルノ規制法とは以下の法律です。

「児童ポルノ規制法」
性的虐待や性的搾取から児童(18歳未満)を保護することを目的に、児童買春の周旋・勧誘をした者や「児童ポルノ」の制作者・提供者等への罰則を定めた法律。

山田:
 こういった法律なのですが大きな問題がある。冒頭でも触れたように「三号ポルノ」。ここが非常に問題になっています。「児童ポルノ」とは何かというと、実は法律の中で定義があって、児童ポルノ規制法の第2条3項の1、2、3に「児童ポルノとは何か?」と明記されている。

一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態

二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

山田:
 問題は3項。「3号ポルノ」の問題はここなんです。「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」。国会の中でも問題になったのが、服の全部を着けないというのはわかりやすいんだけど、“一部を着けない”というのが何を指しているのか? 変な話、この条文を極端に読めば、肩を晒していた場合……肩を性的な部分と呼ぶ人もいるかもしれないし、胸部・陰部・臀部って書いてある部分にしても、どこまでが陰部で胸部なのかというのは、人によりけりなところもある。「下乳は大丈夫なのか!?」って人もいるでしょう。

智恵莉:
 (笑)

山田:
 しかも、「強調されているもの」かつ「興奮するもの」と書いてある。

荻野:
 うんうん。

山田:
 この興奮の表記についても、バカバカしいようだけど国会議員のときに法務委員会でやったんですよ(笑)。普通の人は興奮しなくても、フェチの人はそうとは限らない……だって足首を見て興奮する人もいるくらいだからね。「そういう人も含めた興奮なんですか?」って聞いたら、「一般の人が感じる興奮」というわけですよ。

智恵莉:
 一般と言われても、ですね。

山田:
  その次に、「3歳以下の幼児が虐待されているビデオを見て、普通の一般人は興奮しますか?」と聞いたんです。興奮するわけないですよね!? 「これはよろしくない! と言って怒ったりするんじゃないですか?」って言ったら、みんな静まり返ってしまった。この条文は、何を言ってるかわかんないんですよ(苦笑)。

智恵莉:
 う~~~~ん。

山田:
 しかも、裁判のケースもすごいんだよ。「殊更強調されているか興奮するか」という部分にフォーカスが当たって、極小水着か何かで捕まっちゃったケースもある。一応水着を着ているんだけど、“小さすぎて強調されている”と。

荻野:
 普通の水着でないことは確かですよね。あれはそういう意図にしか使えない。

山田:
 この条文は非常に恣意的な書き方になっている。みなさんも気づいてると思うけど、要はこの法律は内容を読んでいくと「ポルノを規制したくなっちゃった」ということになっている。

荻野:
 うん。

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