話題の記事

辺野古基地問題に取り組む沖縄の若者たちの動向を宮台真司・仲村清司らが語る「“恨みベース”か“希望ベース”かで運動の性質が変わる」

恨みベースでは伝わらない基地問題。「耳を塞ぎたくなる」と発言する若者も

宮台:
 集団的自衛権をめぐる国民運動として 「シールズ沖縄」が結構有名になりましたよね。「シールズ」の運動は、怨念の否定性よりも、希望の肯定性を前面に押し出すものだったけれど、今回の県民投票への動きも、怨念というのを持ち出すタイプの古い運動とは違った形だったということですね。

 ある種の祝祭的な肯定性です。『これが沖縄が生きる道』で、仲村さんともお話ししたことですけれども、「恨みベース」でネガティブな運動をするのか、「希望ベース」でポジティブな運動をするのかで、運動の性質が変わり、動員の性質も変わるじゃないですか。それは傍から見ていてどうなんですか。

普久原:
 恨みベースでやられると若い世代にはまず伝わらない。恨むということ自体が何か同じ経験をしていないと共感できないので。まずは歴史を知ることも大事ですし、あとは現状の沖縄をどうしていきたいかという、これからの話でやったほうが伝わりやすいだろうなと思います。

仲村:
 角度を変えてお話します。宮台さんは僕と同じ1958年生まれですか?

宮台:
 59年だけれど同じ学年ですね。

仲村:
 沖縄戦が73年前なんですよ。1958年から73を引くと1885年。1885年ってどういう時代だったかピンときます?

宮台:
 明治憲法が出るちょっと前だから……。

仲村:
 鹿鳴館時代なんですよ。それを沖縄戦ということで押し付けるように沖縄戦があって沖縄は苦労してきたんだということを植え付けていくと、我々の世代まではなんとか沖縄闘争とか、安保世代まではなんとか通じるんだけれども、今の20代の人たちというのはどうなるかと言うと、ちょうど今の大学生から73年引いてしまうと、これはピンとこない。たとえばジョーさんはおいくつですか。

ジョー横溝:
 ちょうど50です。1968年生まれです。

仲村:
 1968年から73年引くと、どのあたりに来るかということで、これもなかなかピンとこないですよね。僕は大学生を相手におしゃべりする仕事をしていますけれども、自分自身に置き換えて、僕が大学生だった1978年から73年を引くと、1905年で日露戦争のポーツマス条約締結の時代です。その時代の空気すら想像できません。

 実は僕自身も学生たちに対してピンとこないことを上から話してるんじゃないかなと思えたんですよね。事実、沖縄戦とか基地と上からガンガンいわれると、「耳を塞ぎたくなる」と若い人から直接言われたことがあります。しゃべり方とか伝え方とか、よほど工夫しないと通じない世代と僕たちは向き会っているんですね。

ジョー横溝:
 そうですか。

仲村:
 伝え方というのはここまで難しくなっているんですね。今の大学生はちょうど普天間飛行場の全面返還の合意があった世代なんです。つまり、生まれる前に辺野古問題が勃発していたわけでで、物心が付いた時にはもう既に辺野古を巡って沖縄と政府が激しく対立していたわけです。語ったり説明したり解説してもピンとこないし、ましてや辺野古に見学に行こうかというと、「なぜ?」と返ってくる世代です。辺野古問題が共有できないのもむしろ当然かと。

沖縄に抱く疑問は安倍政権支持と同型的な構図

宮台:
 今のお話を伺うと、僕たち内地の人間にとっても他人事じゃないと思える大きな問題があります。今日は終戦記念日ですが、日本はアメリカに単に負けただけじゃありません。原爆投下後、短期間で死んだ人を数えるだけで21万人。大空襲を含めると80万以上の民間人が殺されています。

 民間人を意図して殺害することはジュネーブ条約違反です。つまり戦時国際法に違反した非常にやばい振る舞いです。なのに僕たちはアメリカに対する恨みは語らないじゃないですか。僕はそのことに大きな違和感を抱いてきました。

 僕の違和感が高まってきたのは、アメリカが何を言ってもついていくみたいな政治が、いつの間にか当たり前になったからです。トランプは「アメリカファースト」と言います。日本では「都民ファーストの会」があるくらいで「△△ファースト」という言葉に違和感を感じない人が大半です、アメリカ人やヨーロッパ人が聞けば、「これからはエゴイズムで行くぞ」という宣言と同じで、国際政治の公共性なんて考えないぞという意味になります。大国が公共性を考慮しないと宣言するので、大いに違和感を抱かれています。

 国際的に違和感を抱かれているトランプが、「右に行く」と言えば「100%賛成です」と言い、「左に行く」と言えば「はいそれも100%賛成です」と言う。そんなふうに尻を振ってうろちょろしているのが安倍政権だというのが、国際的なイメージです。それでも安倍内閣支持率は2割5分から3割ぐらいが「鉄板」になっているわけですよ。

 まあ、自民党支持率が3割ぐらいで、自民党支持者内での安倍支持率はその半分だから、安倍だから支持するという割合は2割を切る。それでも僕は不思議です。現に安倍政権は維持されているわけだから。党内で安倍降ろしの動きが起こらず、そんな自民党を3割が支持しているのは、謎です。日米安保体制の意味は、(1)共産陣営に日本を取られないことと、(2)日本の核武装を抑止することで、日本のために戦うことじゃないとキッシンジャーが周恩来に明言している。なのに「それでもアメリカについて行きます」というのは「それでも内地の政府について行きます」という沖縄と似ます。

 だからヨーロッパや中国の人たちから見ると「なんで日本人はアメリカを恨まないのかな?」と不思議なわけです。実際よくそう言われます。そのアメリカが、アメリカファースト、つまり公共性なんてもう考えないぞと言っているのに、アメリカが北朝鮮に極大の制裁を加えると言えば「賛成です!」と尻尾を振り、「北朝鮮とは対話するべきときが来た」と急転回すれば「それも賛成です!」と尻尾を振るのは、単に滑稽です。

 つまり、僕が沖縄の人たちに「なんで、それでも内地の政府のいいなりになるの?」と疑問に思うのと、同じような疑問を、実は僕たち日本人全体も抱かれているのだということです。もともとヤマトとはかなり違う文化を持つ沖縄が、ヤマトに似てしまうのは、僕には残念でなりません。

▼下記バナークリックで番組ページへ、8:58~
記事化箇所が始まります▼

―関連記事―

日本国憲法は戦後押し付けられたという“風潮”に社会学者・宮台真司が提言「戦争を勝手にやって負けた国が押し付けられるのは当たり前」

なぜ沖縄に基地が置かれたままなのか? 安全保障と向き合う必要をジャーナリストらが提言「沖縄がどのような経験をしてきたか歴史を知ることが大切」

「報道」の最新記事

新着ニュース一覧

アクセスランキング