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なぜ沖縄に基地が置かれたままなのか? 安全保障と向き合う必要をジャーナリストらが提言「沖縄がどのような経験をしてきたか歴史を知ることが大切」

 8月15日は第二次世界大戦が終結したことによる、日本の終戦記念日です。これを受けてニコニコニュース編集部ではニコニコ生放送の過去放送分から終戦・戦後を扱った内容をピックアップ。

 今回お届けするのは、ジャーナリストの堀潤さんの司会で行われた「どうして米軍基地はなくならないのか」という問いにスポットライトを当てた討論番組『“アメリカの軍事戦略”と“沖縄史”から考える沖縄 ~基地問題の本質とは?~』。

 スタジオゲストにはビデオ・ジャーナリストの神保哲生さん、沖縄国際大学大学院教授の前泊(まえどまり)博盛さん、沖縄の戦後史を描いた映画『沖縄 うりずんの雨』(以下、うりずんの雨)の監督、ジャン・ユンカーマンさんを迎え、「戦後史」という縦軸、「世界情勢」という横軸から読み解くことで見える沖縄の姿と基地問題の本質に迫りました。

(画像は映画『沖縄 うりずんの雨』予告編YouTubeより)

 ※本記事は、2016年5月に配信した「“アメリカの軍事戦略”と“沖縄史”から考える沖縄 ~基地問題の本質とは?~」の内容の一部を再構成したものです。

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沖縄米兵少女暴行事件の犯人の証言を映像に記録した意味

左から神保哲生さん、前泊博盛さん、堀潤さん、ジャン・ユンカーマンさん。

堀:
 ユンカーマンさんの映画『うりずんの雨』は、基地の問題を語る上では欠かすことが出来ない非常に大きな事件である少女暴行にかかわる元米兵のインタビューを私も初めて聞くことが出来まして非常に衝撃でした。どうしてあのインタビューを撮れたのでしょうか。

ユンカーマン:
 映画の企画の段階からインタビューを撮ろうと思っていました。1995年の事件【※】が歴史の流れを変えた事件だったということなのですが、それが一つの図式のようになっていることもあります。95年の米兵の事件、イコール普天間の返還というようなことで、レイプ事件自体が見えなくなってきていました。本土やアメリカから見ている沖縄と、沖縄にいる人たちの経験とは違いますから、登場人物からそういう話を聞くしかないということなんです。

※1995年の事件
沖縄米兵少女暴行事件のこと。

 それはこの映画で一貫して言えることで、僕たちのアプローチが沖縄戦に参加していた元兵士とか、歴史を生きてきた人たちの話だけだったので、解説する人ということではなくて、本人から話を聞くことを狙ってこの映画を作りました。レイプ事件が繰り返し沖縄であった中で、それにかかわった人の話も聞くべきなんだと判断しました。

堀:
 様々な立場の方の一次情報や一次証言が盛り込まれているというのが映画の最大の特徴で、番組が始まる前に「これは左翼番組なのか」とかコメントが出ていましたけれども、そういった左右を超えて事実を知る、事実を知って次の一手をみんなで考える、そういった時間になれば良いかなと思っております。元米兵の証言は非常に私も印象的だったのですが、前泊さん、神保さん、それぞれどうお聞きになりましたか。

神保:
 僕はこの映画の後、ユンカーマンさんと一緒にインタビューをさせてもらったのですけれどもやはり衝撃を受けました。ただ同時に思ったのは、「何でこれまでこういう映画がなかったんだろう」と思いました。つまり70年たって、本当はとっくに顧みられていないといけないものが、まだまだたくさんある。

 今回ユンカーマンさんはその中でも沖縄戦という一番激しいものをメインにフォーカスされたわけだけれども、大きな宿題をもらったなと思いました。つまりまだまだ本当はやらなきゃいけないことがいっぱいあるのに、手つかずになっていることがあるということを突きつけられたような気がします。

堀:
 前泊さんは、いかがですか。

前泊:
 沖縄戦についての文書の中で24万人の人たちが亡くなっているんです。三カ月の間にこれだけの人たちが亡くなって、沖縄本島の南部で「死体の絨毯が敷かれている」という表現が使われていました。爪先立って歩いても死体を踏まずに避難するのが難しいというような、そういう証言が出てきます。それから実際に米兵の中に、泥だと思って踏んだらそこに死体があって死体を踏んだブーツの臭いはずっと消えなくて、本当に気持ちが悪かったという話も出ていました。

 私は新聞社に勤めていましたが、これまで戦争の悲惨さというのはリアルに表現出来ないものがたくさん残されるんです。例えば集団死の問題なんかも「母親が子供の首をカミソリで切る」という表現は、聞いても書けないんですね。そのことすら活字にすることに抵抗があって、しなかったんです。70年たって、そういう人たちもあの世に逝ってしまったので言えるという部分があったり、小さな村の中の話なので「誰が死の命令を出した」とか、「誰が誰を殺した」というのが分かると、その村自体、共同体自体が崩壊しかねないというようなことを未だに抱えている部分がありますね。

堀:
 そうですね。

前泊:
 そういったものをストレートに記録として残してくれたということは、重要だと思っています。

堀:
 大田昌秀元知事に昨年インタビューをさせて頂いたときに、今も各地域ごとに残っている話を収集していらっしゃる。それだけまだ出ていない話がたくさんあるんだなと実感しました。

沖縄の歴史を知らない限り、基地問題について正確な理解は出来ない

堀:
 きょうは米軍が世界で展開する中での沖縄の位置付けというものと、沖縄の戦中・戦後、その歴史を紐解く中で、改めて次の沖縄をどうみんなで作っていくのかというお話を進めていきたいと思っています。アメリカ大統領のトランプ氏が、日本に安全保障のあり様を突きつけていますよね。そのあたりを含めて議論していきたいと思いますが、なかなか沖縄の方との対話の場というのは、例えば東京にいてどういうコミュニケーションが出来るのかって言うと、そういう政治的な話を真正面を向いてやろうかっていう場が少ないと思うのですが、どうでしょうか。

前泊:
 沖縄の中でもたくさんの意見があります。基地に賛成する人もいれば、反対する人もいる。反対の声というのは、非常によく取り上げられているけれども、賛成のたちは、どうも賛成と言いづらいじゃないかという話もありますね。

 授業の中できょうは賛成の話を中心にどういう理論で賛成しているのか基地に経済効果があるのか、そして雇用効果もあるとか……。

堀:
 テーマを明確にして。

前泊:
 そういうことを言うと、授業が終わった後に90%くらいの学生が基地の賛成に回るんですね。

堀:
 あった方が良いじゃないかと。

前泊:
 そうです。それで翌週、今度は反対の人たちがなぜ反対しているのか、例えば基地の犯罪があったり、爆音被害があったり、人権侵害があったり、主権の侵害があったり、という話をすると今度は90%くらいの学生が反対に回ってしまうんです。ですから、その二つの意見を聞いても、学生たちから「先生、どっちなんですか」という話を言われたりもします。

 それをしっかりと見定めて、自分で判断するのが大事でね。右とか左とか、革新とか保守とか、そういう色分けで見ない方が良いよと思います。自分は最初から右だと左だと分けないで、両方の意見を聞いた上で、しっかりとチョイスしていかないといけませんね。日本は打たれ弱い民主主義。打たれ強い民主主義を作るためにはそうしたことが大事なんじゃないかなと思いますけどね。

堀:
 今の学生たちの話も含めて、どちらの情報を軸に考えれば良いのか。日本の一人一人として軸足の持ち難い、非常に難しい問題だなと思います。

神保:
 さっきユンカーマンさんが映画の話をしていたけれども、特に第二次世界大戦の末期からその後、どういうような思いをさせられてきたのかということを、沖縄以外の日本の人が驚くほど知らないんですね。沖縄は民間人があれだけ犠牲になりながら、その後、そのまま米軍が進駐してきて、1970年までずっとアメリカの施政下にあり、そこでは要するに沖縄の人々は日本人でありながら事実上主権がないような状態で暮らしていたというようなことは、驚くほど知らないんですよね。まず、そこが一番大事でしょうか。

 それでユンカーマンさんの映画等を観ると、まずそこがスタートで、あそこからすべてが始まったんだと。それが分からないと、沖縄問題とか基地問題とか、もちろん核の問題もそうなのですが、恐らく日本人として正確な理解というものは出来ないと思います。今だけ切り取ると様々な議論は出来ますけれども、歴史的な経緯があってそれを知ることがすごく大事。少しでも沖縄の歴史で、どういうものを経験してきたから今があるのかということを、僕は少しでも皆さんに知ってもらえたら良いなと思いますね。

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