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なぜ沖縄に基地が置かれたままなのか? 安全保障と向き合う必要をジャーナリストらが提言「沖縄がどのような経験をしてきたか歴史を知ることが大切」

トランプ大統領があけた「パンドラの箱」は基地問題を見直す絶好の機会となるのか

堀:
 『誰も知らない基地のこと』【※】という映画は非常に興味深いものです。米軍と日本だけの問題じゃないんです。世界中に米軍は展開しているんです。かつての第二次世界大戦では、同じく敗戦国であるイタリアの米軍基地の問題を取り上げるなど、非常に興味深い内容でした。まずは神保さんに米軍の世界戦略の概略ということについて、お話を頂きたいなと思います。

※誰も知らない基地のこと
40カ国以上、700カ所以上に展開されるアメリカ合衆国軍基地を扱ったイタリア制作のドキュメンタリー映画。

神保:
 かいつまんで言ってしまうと、もともと第二次世界大戦後というのは、アメリカが西側の名手として共産圏を対峙するということで、ヨーロッパではNATO【※】を下に、アジアでは日米安保条約【※】を中心として、ある種の対共産圏の防衛体制を作ったわけです。

※NATO
正式名称は北大西洋条約機構。アメリカ合衆国を中心とした北アメリカおよびヨーロッパ諸国によって結成された軍事同盟のこと。

※日米安保条約
正式名称は日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約。日本国とアメリカ合衆国の安全保障のため、日本に米軍が駐留することなどを定めた二国間条約のこと。

神保:
 ロシアとは緊張関係にありますが、いわゆるイデオロギー的な対立だった冷戦というのは終わって、その後アメリカは政策転換という意味では、ヨーロッパはイギリスとの同盟を中心としたシフトを繋げました。それがブッシュ大統領のときのイラク戦争とか、アフガンへの介入とか、そういった中で、特にイラク戦争であれは間違った戦争にイギリスを引っ張り込んで、イギリスから見ればそれに乗っかってしまったということで、国内で非常に厳しい批判を受けて、イギリスが若干アメリカとの距離を置き始めたんですね。

 同時にその一方で、アメリカは、ヨーロッパは経済的にあまり良くないので、アジアの成長を取り込みたいということで、アジア重視のシフトに変わってきた。その中で軍事という意味では、今は日本とオーストラリアとの同盟が、アメリカにとっては最も重要なアジアシフトという意味になっているんですね。

 この映画にあるように、「米軍基地」という名前だったり、「NATO基地」という名前だったり、韓国みたいに「国連軍」という名前だったり、名前は違うけれどもアメリカの基地があります。ただ、沖縄ほど酷く集中しているところは世界にはないとも言われている。確かにアメリカが冷戦の名残で世界中に基地を持っていますし、やはり外国の軍隊が来るというのは、いろいろな摩擦が起きるわけです。自国の主権が及ばない、しかも武装した人たちがいるというのは、これはとても大変なことですよね。その中でも特に沖縄というのは極端に酷い事例だと言って良いと思います。

堀:
 米軍の展開数なのですが、沖縄を含む日本の駐留米軍兵指数は53,082人です。

 次いで多いのはドイツなんですね。これは先ほどのNATO軍の枠組みになっています。そして、先ほど国連軍というお話もありました韓国。そして、韓国は、日、米、韓で対中、対北朝鮮、アジア太平洋地域の安定の要ということです。そしてイギリス、イタリアとなります。映画では、イタリアに建設計画が持ち上がった米軍基地に対して反対運動をする様子であったりとか、太平洋にある島にもともと住んでいた方々が立ち退かされる形で米軍基地が展開していく様子等、そういったことが『誰も知らない基地のこと』では描かれています。

なぜ日本だけ基地負担が大きいのか? 日米地位協定の影響

神保:
 特に日本には横須賀の米軍の海軍基地と嘉手納の空軍基地、この二つがアメリカにとっては、アジアのみならず、世界戦略の要所として非常に重要なものになっています。その二つが日本にあるということですね。

堀:
 実際、どうしてここまで日本が歪んだ形で負担が大きいのでしょうか。よく日米地位協定【※】のあり様というのが取り上げられると思います。他の世界に展開している米軍とその各国間とで結んでいる協定を比べてみると、非常に日本の方が割を食った協定になっているなと思います。そのあたりはどうお考えですか。

※日米地位協定
1960年(昭和35年)1月19日に、新日米安保条約(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約)第6条に基づき日本とアメリカ合衆国との間で締結された地位協定。

神保:
 確かに地位協定はそういった要素があるにしても、日本が一番酷いというのはその通りだと思います。ただアメリカの世界戦略ということで、アメリカだって日本に対しては戦勝国です。最初はもともと進駐軍として来ているわけだし。もちろん向こうが一方的に来たものだったんだけれども、途中からねそれを沖縄ではなく日本側の特に権力を持っている、自民党政権の意思として「米軍にいてもらわなければ困る」というような政策にシフトしてしまいました。

 今はどちらかと言うと中国のこともありますし、アメリカがグアム、あるいはハワイまで撤退しようとしているときに「お願い行かないで」といった状態に日本がなっている。つまりアメリカが押しかけて、力で無理やりというよりも、どちらかと言うと、日本の今の統治システムの仕組みが、米軍がいて米軍をある種の後ろ盾として防衛戦略から何から何まで作るというようになってしまったため、それがいなくなるとどうしたら良いのか分からないんですね。

神保:
 トランプ大統領が、突然「日本の防衛は自分でやれ」、「お金を払え。そうでなければ引き上げるから自分でやれ」と言いました。トランプ大統領の言い方は暴論なんだけれども、実は日本にとってはこの70年間、何とか考えないで逃げてきた。逆に言うと沖縄に押し付けてきた問いを、あまり安全保障の知識がない大統領が暴論の一環として、いきなりそこのパンドラの箱をあけたようなところがあって、見ているとメディアもあんまりその話をしたくないですよね。本当はその話をする良い機会なんです。だけど若干黙殺しているような感じがあってもったいないなと、僕なんかは思っているところなんですけどね。

堀:
 前泊さんは、いかがですか?

前泊:
 そうですね。ちょうど資料を持ってきたんです。

前泊:
 1967年にアメリカは、沖縄から基地を全部撤退しようとしたんです。つまり沖縄が日本に返還されるとどうも使い勝手が悪くなるという意味だったんです。それからもっと大きな理由はこれに書いてありますけれど、中国が核ミサイルの開発に成功したので、沖縄は近すぎるから危ないというので、グアム、サイパン、ケニアに移ろうとしていた。今ちょうど進めているグアム移転の問題というのは、実は1960年代にアメリカが構想していたのですが、これは2013年になってアメリカの機密文書が開示されて、何故これをやめたかと言うと、アメリカに対して日本が「いてください」ということになったというのが、アメリカの資料の中にあるのです。そうするとアメリカが強制しているのではなく、日本が好んで基地を置いているんだということを前提に議論を進めなければならなくなるのです。

堀:
 ちょうど1967年にそのお願いをしたというのは……。

前泊:
 佐藤栄作政権です。沖縄返還をお願いしてそのときに返還の条件としてですね、「核は置いといてね」って言ったら、「だめ」と言われた。それを佐藤さんは「核抜き・本土並み」【※】と言ったけれども、実は彼の引き出しの中からその密約が見つかったわけです。そういうことをなぜ国民に知らせないんだろうと思います。日本の政治家というのは主権者に黙って裏工作をしてしまう。これが日本の民主主義の問題点だと思いますね。

※核抜き・本土並み
1969年11月の日米首脳会談で合意した沖縄返還に関する基本方針のこと。米軍の核兵器はすべて沖縄から撤去する、日米安全保障条約と関連する取り決めを本土並みに適用するという意味。

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