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辺野古基地問題に取り組む沖縄の若者たちの動向を宮台真司・仲村清司らが語る「“恨みベース”か“希望ベース”かで運動の性質が変わる」

 社会学者・宮台真司氏とラジオパーソナリティーでライターのジョー横溝氏が政治・経済・司法・国際情勢から、映画・音楽・芸能、サブカル、18禁にいたるまで、様々なジャンルのテーマを独自の視点で徹底的に掘り下げる「宮台真司とジョー横溝の深堀TV」。

 今回のテーマは、7月27日に米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画を巡り、翁長雄志知事が前知事の仲井眞弘多氏による辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回すると表明し、話題となっている「沖縄」。作家で沖縄大学客員教授の仲村清司氏、沖縄県在住の建築士の普久原朝充氏をゲストに迎え、熱いトークが繰り広げられました。

 一時、市民運動の現場は疲弊していたと語る仲村氏ですが、12月に予定されている県民投票について20代の若者世代が積極的に参加したことにより、必要な2万3000筆の署名を締め切り前のわずか2週間で10万筆集めたことにより盛り返したと、沖縄における市民運動の動向について語りました。

左からジョー横溝氏、宮台真司氏、仲村清司氏、普久原朝充氏。

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声明は8月17日からの土砂投入予定を阻止するのが狙いか?

翁長雄志知事。
(画像は沖縄県公式サイトより)

ジョー横溝:
 沖縄と言うと、先週末に動きがありました。7月27日だったと思うのですが、県知事の翁長さんが辺野古埋め立ての承認撤回をする手続きに入るという表明をいたしました。

 まずはこのニュースをとっかかりに、入っていこうかなと思うのですが、東京の新聞でもさすがに一面で報道されていたりはしたのですが、とは言えユーザーの方が沖縄で見ている方がどれくらいいらっしゃるか分かりませんが、内地の方も多いと思いますので改めてこのニュースを仲村さんから解説をしていただければなと思います。

 なぜこのタイミングで、そしてどんな理由で翁長さんは辺野古の埋め立ての承認を撤回するという表面に至ったのか、その辺をまずはお話しいただければなと思います。

仲村:
 8月17日の土砂投入というのは政府側の意向です。なので、今、承認を撤回しないと土砂を入れられてしまうことになりますから、それが撤回表明にいたった大きな理由のひとつです。もうひとつは、翁長さんはオール沖縄の潮流を作るなかで、辺野古新基地建設の反対とともに承認撤回を訴えて知事に当選したこと。つまり、仲井眞さんが埋め立て承認したものを取り消させるのではなくて、あくまで撤回することが本線なんですね。

 沖縄で住民運動をされている方、辺野古で座り込みをされている方を含めて、いつになったら知事は撤回するんだと突き上げられていた経緯があります。先般、ついに撤回表明となりましたが、ここまでくるまでに3年半かかっています。しかも土砂導入が間近に迫っています。ここで撤回しないと翁長さん自身の政治生命に関わってくる問題になります。

ジョー横溝:
 ある意味、翁長さんとしては公約を果たすべきというギリギリのタイミングで今回の手続きに入るように表明を行ったと。

宮台:
 少し補足すると、沖縄防衛局による辺野古埋め立て申請を仲井眞知事(当時)が承認したのが2013年12月ですが、翌2014年11月16日の沖縄県知事選で翁長さんが仲井眞さん10万票以上の大差をつけて勝ちます。ところが、仲井眞さんの任期が同年12月9日までで、バトンタッチまで若干の時間があるというので、その時間をついて12月5日に仲井眞さんが一挙に沖縄防衛局による埋め立て工法の変更申請を承認したのですね。

 工法変更は、(1)キャンプ・シュワブ内の辺野古崎に3本の仮設道路を敷設し、(2)埋め立て工事の通路となる中仕切り護岸を敷設する、というもので、辺野古基地建設に反対していた当時の名護市との協議を迂回して手続きを進めるという狙いがありました。だから、工法変更の承認で埋め立てに向けて一挙に弾みがついたわけです。

仲井真弘多前知事。
(画像はなかいま弘多後援会Facebookより)

 もちろん合法手続上の正統性があるとはいえ、道義的に言えば、知事選で仲井眞さんの方向性が民意によって否定されたにもかかわらず、バトンタッチまで若干の任期があるからということで民意が否定した方向性に一挙に踏み出したわけで、内容的な正当性、つまり民主政の本義から言えば、まったく考えられない展開になりました。

仲村:
 しかも仲井眞さんは「これで良い正月を迎えられる」という発言をしました(笑)。これが県民の怒りに火をつけた。埋め立て容認している人たちの間でもこれは恥ずかしい、節操がないと指摘されましたからね。これで一気に翁長熱が高まって、オール沖縄の潮流がグッと固まるというか、熱を帯びたわけです。

ジョー横溝:
 そうですね。今回の埋め立て承認撤回の手続きに入るという7月27日の声明。沖縄県民はどんなふうに受け止めているのか、仲村さんそして普久原さんにも教えていただけたらと思います。

仲村:
 知事に就任してから3年半ですから、やっとかという感じですね。辺野古の現場で座り込みをされている方、あるいは各地で支援運動をされている方にとっても、ようやく翁長さんの後押しができる段階にたどり着いた。同時並行的に県民投票に必要な署名を集める運動もありました。これにも拍車をかけたというか、県民投票条例の制定を直接請求ためには2万3000筆が必要なんですけれども、終盤のわずか2週間で10万筆に達しました。予想をはるかに上回る集まり方でした。

 というのも、当初は署名活動があまり盛り上がらなかったんです。なので「必要署名数に達するのは難しいんじゃないか」ということも言われました。承認撤回の表明を誘発する動きを作ったともいえます。名護市長選ともつながるんですけれども、工事が強制着工され、現実に護岸工事進むと、反対してももう駄目じゃないかという意識が生まれるんですね。その上、さらに土砂が投入されるとなると沖縄全体が諦めのムードに包まれてしまいます。 

 事実、そういう空気が支配的だったのに、県民投票の運動や知事の承認撤回表明で、少し動きが変わってきたような感じがします。

県民投票運動に積極的だったのは20代の若者世代

ジョー横溝:
 8月17日の土砂投入を前に県民投票をするというために必要な署名の数が集まり、もう一度「基地、ストップ」というものが可能になるのではないかなという勢いが高まってきて、その中で翁長さんとして、自分の公約を果たすべくギリギリのタイミングでこの声明が発表された。

仲村:
 ただ、もうひとつはややこしい問題があるんですよ。辺野古の運動に参加している人の中には県民投票に反対している人たちも多いんですよ。要するに大きい選挙では全部勝っていますから、沖縄の民意はきちんと出てんですね。それにもかかわらず、また県民投票をするべきなのかという声ですね。

 でも、今になって思うのは、県民投票運動をしていなかったら、それまでの沈滞ムードがどうなっていたかちょっと分からない。

 翁長さんがすい臓がんであることを自身で発表し、任期を含めて次の選挙に出馬できるのか、ものすごい危機感がありました。さらに諦めの空気と、運動の方向性が見出せないというところで、非常に悩んでいたのがつい最近までの状況でした。が、結果的にオール沖縄がバックアップをして翁長さんの承認撤回を後押しする県民大会を8月11日に実施することが決まりました。

ジョー横溝:
 そうですか。

仲村:
 はい。翁長さんも参加する3万人規模の集会です。久しぶりの大規模な県民大会ですな。

宮台:
 少し補足させてください。県民投票や国民投票を含めたレファレンダム(住民投票)は、シングルイシューを争点として、民意を問います。それに対して、知事選を含めた選挙は、マルチプルイシューズを「抱き合わせ」して、民意を問います。すると、特に沖縄の場合、交付金による土木需要がほしいかどうかと、基地新設がよいかどうかとが、抱き合わせになります。となると「本当は基地新設はイヤだけれど……」という民意が見えなくなってしまうのですね。だから、県民投票をやることによって、「本当は嫌だけれど……」という民意を目に見える化できるわけです。それを考えると、辺野古基地反対派が県民投票に反対をするのは合理的ではありません。

 たとえば、翁長さん、ないし翁長さんの後継候補が、知事選に負けた場合、県民投票で基地新設の是非を問い直せば、シングルイシューとしては辺野古基地に反対する人たちが沖縄県民の大半であることが分かって、次の運動につなげられるような気がしますけれどね。

仲村:
 それが明確になりつつありますね。知事選の後に県民投票をすることが決まりましたから。ほぼそこで決まる。そうすると知事選と県民投票を抱き合わせで、その前にどう立て直すのか、どういう問題を訴えるのかということが時間的に方向性も含め出てくるので、これは本当に大きな成果になるかもしれない。

ジョー横溝:
 県知事選が11月で、おそらく12月に県民投票が行われるということなんですけれども、「翁長さんが選挙に出られるんですか」というコメントもありましたけれど、その話にいく前に、普久原さんは今回の翁長さんの声明はどんなふうに受け取っていらっしゃいますか。

普久原:
 県民投票の話は今聞いていてもそうなんですけれど、僕はわりとニュートラルなものとして良いんじゃないかと思っています。沖縄の政治の話というのは、だいたい右に行ったり左に行ったりするのが見えると思うんですけれど、生活を取るか、自分たちの意地を取るかみたいな二者択一のフレームに持って行かれているような気がしていて。

 当然みなさんはいろいろな考えを持っていると思うので、自分たちが思っている結果にならないことは当然あると思うんですけれど、逆に数字を見てみたいというのはあります。

宮台:
 普久原くんに伺いたいのですが、つい最近になって県民投票の法定必要数2万3000を一挙に超えて10万筆までいったというその背景は何だと思いますか。

普久原:
 若手が多かったという話は僕も聞いてびっくりしたので意外だったんですけれど……。

仲村:
 このあたりは“危機バネ”が働くところではあるんですよ、沖縄は(笑)。今回は若い人たちが中心になってよく動きましたね。

ジョー横溝:
 具体的に言うと何歳くらい?

仲村:
 大学生を含めて20代の人たちですね。それまで動かなかった理由は何かと言うと、文字通り運動が動いていなかった、動きが非常に鈍かったことにつきますね。亡くなった新崎盛暉さんが、運動のクオリティは飛躍的に高まったけれど、ここ2年あたり現場が疲れているという指摘がありました。

※新崎盛暉
歴史学者であり、沖縄大学名誉教授。2018年3月、肺炎のために死去している。

 でも、結局危機バネが働いたというか、若い人たちが積極的にショッピングモールに入って署名活動を行ったりとか、沖縄が培ってきた潜在的な運動力が表出した感じがします。僕みたいなロートルばかり集まっていると、集会をするとか、そこで集めるとかそういう発想しかないんですけれど、人が集まるところに足を運んで署名を集めるという発想は若い人ならではですね。

 そういう発想の転換。動きも早かったですね。必要署名数に達しないかもしれなとなった途端に集まりはじめましたから。署名を集めたのは実質、この2週間ですからね。僕自身も、これが沖縄の運動力なんだな痛感させられました。翁長さんが次期知事選は不利じゃないかという空気がすごくあったのですが、こういう動きが出てくると意外とそうでもないかもしれない。

 誰が動くか。オール沖縄は政治家とか議員さんが動かすものではなくて、我々市民が支えるのが当たり前の話なので。そこがこれまで切れていたんですね。それがつながりかけた。民主党ではなくて市民運動が心を動かしていたということは大きいかもしれないですね。

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