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第2譜『覚悟』 金井恒太六段―高見泰地六段:第3期叡王戦 決勝七番勝負 第2局 観戦エッセイ

 今期から新たにタイトル戦へと昇格し、34年ぶりの新棋戦となった「叡王戦」の決勝七番勝負が2018年4月14日より開幕。
 本戦トーナメントを勝ち抜き、決勝七番勝負へ駒を進めたのは金井恒太六段と高見泰地六段。タイトル戦初挑戦となる棋士同士の対局ということでも注目を集めています。

 ニコニコでは、金井恒太六段と高見泰地六段による決勝七番勝負の様子を、生放送および観戦記を通じてお届けします。

(画像は叡王戦 公式サイトより)

■第3期叡王戦 決勝七番勝負 観戦記
第1譜『後悔』 金井恒太六段―高見泰地六段:第3期叡王戦 決勝七番勝負 第2局 観戦エッセイ(鈴木大四郎)

『save your dream』第1譜 金井恒太六段―高見泰地六段:第3期叡王戦 決勝七番勝負 第1局 観戦記(白鳥士郎)


第3期叡王戦 決勝七番勝負 第2局 観戦エッセイ
第2譜 『覚悟』

鈴木 大四郎

 4月28日
 第3期叡王戦 決勝七番勝負 第2局 当日

 朝7時45分にロビーに集合ということで寝坊してはいけないとあまり眠れず3時間程度寝ただけで準備をし部屋を出た。ロビーに着くと記録係の宮嶋初段が緊張の面持ちでスタッフの方と立っていた。「眠れましたか?」と聞くと「2時とか4時とかにちょこちょこ目が覚めちゃって……」まさに僕も同じ状況で何だかホッとさせられたのも束の間、スタッフの方が「鈴木先生も一緒に行かれるんですかね?」「え、はい、そのつもりなんですが……」なんだよ、聞いてないのか。と、ちょっとムッとしたら「いや、あの靴……」その瞬間自分の足の感覚に顔が真っ赤になった。

 なんと部屋のスリッパのままロビーまで降りてきていたのだ。今時漫画でもこんな失敗はネタにしない。昨夜一通り皆さんとお話しも出来て少しは慣れたかなと思っていたのに何のことはない……よっぽど宮嶋初段の方が冷静で落ち着いていた。

 宗像大社に着くと中継のリハーサル中。渡辺棋王や村田智穂女流が念入りにチェックしていた。

 僕が控え室で一人時間を潰していると声を掛けてきたのが白滝呉服店の白瀧幹夫さん。第1局の観戦記にも登場していた将棋ファンなら知らない人はいない方である。折角なので色々聞くと博多にも年に何度か来るそうで博多織の職人さんとの繋がりも深いとか……タイトル戦で記録係が着物を着るようになったのも白瀧さんが関わっているそうで、流石の一言である。お話してるだけで自然と背筋が伸びた。しばらくするとその記録係の着付けへと行かれた。

 9時30分頃……立会人と 記録係、そして観戦記者、少数の関係者は先に対局室に入り両対局者が来るのを待つ。

 昨日の検分の時とは明らかに違った緊張感に包まれた対局室……

 先に入ってきたのは高見泰地六段。

 更に空気が張り詰める。 気だるそうに座ると落ち着かないのか着物を直したり目をかいたり……。そして金井恒太六段が入室。

 高見六段に比べると流石に着物の着こなしも慣れているのか座る時も非常に慣れた様子に見えた。

 昨日までの優しいお二人はそこにはなく、すっかり『覚悟』を持った
〝将棋指し〟の顔である。

 将棋は年功序列に厳しい世界、基本は段位が上のものが上座に座り、駒を並べ始めるのも上位者だ。金井六段から並べ始め高見六段と交互に並べていくのに二人の人柄が出ていた。全ての駒を並べ終わりあとは対局開始時間午前10時までをただ待つのみ……10分弱だったでしょうか。しかしこの10分が今回2日間見てきた中でとにかく一番長くて途方もない時間に感じた。キックオフを待つ間でもこんな緊張感はないだろう。

 30分にも1時間にも感じられる気の遠くなるような時間の後、対局開始の午前10時となり立会人の深浦九段の掛け声とともに一礼し対局開始。先手は高見六段。初手▲7六歩。前日の戦型予想、矢倉囲いというのは先手番である高見六段の三手目、銀が上がれば矢倉の流れ確定という渡辺棋王の言葉を覚えていたのでそれだけに注目していると予想通り▲6八に銀が上がり矢倉確定。これを見たところで立会人と脇八段は退室。僕もそのタイミングで出ようかと思ったのだが足が痺れて動けずもう少し見てから出ようと対局室に残る。対局室には両対局者と記録係、観戦記者の4人しかいない。またさっきとは違う空気が流れ出し緊張は最高潮に達する……しかしここで前日に両対局者に言われたことを思い出す。

「緊張されるとそれが伝わってきてこっちまで緊張しちゃうんで堂々としてて下さい」

 そうだ、堂々としておかねば……自分に言い聞かせるように腹を括り、30分ほどじっくり二人の表情や対局室の空気を味わって邪魔にならぬよう対局室を出た。

 控え室に戻るとさっきまでの緊張感が嘘のようにリラックスした室内。既にこの後の展開を検討している。ここで気付いたのだが、自分の描いた将棋×サッカー漫画『ナリキン!』の中に矢倉囲いも棒銀も登場させていた。もしかして高見六段……それも知っていてこの展開に……なんてことは当然ない訳だがそう思わせるほど高見六段の気遣いは前日から凄かった。「第1局は後手番でしたので先手番で初めて指すことの出来る第2局は自分の好きな矢倉で戦いたいと決めていました」と後に教えてくれた高見六段。しかし相手の出方によっては相矢倉(同じ戦型になることを将棋では(相)矢倉や(相)掛かりなどと呼ぶ)にならないこともある。前夜祭での戦型予想の時にも後手番の金井六段は乗ってこないのでは? なんて話も出ていた。ただ「金井先生は格調高い将棋で相手の作戦を真っ向から受けることも多い印象ですので相矢倉は可能性はかなりの確率であると思っていました」とも教えてくれた高見六段。相掛かりの展開にも見えたが結局、相矢倉の展開となった。

 矢倉囲いといえばサッカーでいえば守備的な戦術でじっくり守りながら攻めていこうといった展開かな……とか思っていると深浦九段が「説明しましょうか?」と初手から教えてくれるという何とも贅沢な時間。「矢倉囲いは非常に古い戦型で『将棋の純文学』なんて呼ばれてて江戸時代から指されてるんですけど、金二枚、銀一枚で王将の前を固めて強固に守る陣形です。サッカーでいうと3バックでゴール前を固めてしっかり守るような感じですかね」とサッカーに絡めて教えて頂き、「この三枚が連携して守ることで非常に強固な守りでなかなか崩すのも難しいという感じなんですけど、共に相矢倉なのでこれをいかに崩すかがポイントになってきます」という僕にとっては何ともわかりやすい例えで瞬時に盤面がピッチ、駒が選手に見え始める。

 そんな話をしていると深浦九段が「そういえば昨日の続きなんですけど、二人をサッカー選手に例えたらって話なんですが……」「え! まさか本当に考えてくれたんですか!?」将棋好きの友人はこう言っていた「深浦先生は期待を裏切らない」

「金井くんはイニエスタですかねー」
【アンドレス・イニエスタ】
 サッカーファンなら言わずと知れた長年FCバルセロナの中盤の要としてチームを牽引し、W杯でもスペイン代表として初の世界一へと導いた立役者。創造性豊かなパスセンスと卓越したボールコントロール、プレーの流れを読む能力にも優れた選手。

 理由を聞くと「いろいろ出来るというところですかね。それは将棋を離れた場面でもそうなんですがとにかくちゃんとしているというか、まさに王道。格調高い指し回しや大局を見ているという視野の広さも似ていると感じる部分」とのこと。なるほど、わかりやすい。

「高見くんはハメス・ロドリゲスって感じでしょうか」
【ハメス・ロドリゲス】
 コロンビア代表にしてドイツの強豪FCバイエルン・ミュンヘン所属の攻撃的MF。W杯ブラジル大会で日本を相手にゴールしたミドルシュートは記憶に新しい。

「高見くんも金井くんに似ていていろいろ出来る感じですし将棋を離れても器用にこなすイメージ。ただ高見くんの方が若さもあるので多少攻撃的なイメージからハメス・ロドリゲスですかねー」見事に二人をサッカー選手に例えてくれた深浦九段。丁度この辺りでハーフタイム(昼食休憩)となった。

 あっという間に午前終了、昼食休憩後再開時にまた対局室へ。

 金井六段は休憩中少しでもリラックス出来ればと着物を脱ぎたかったらしく、事前に着付けの白瀧さんにお願いしていたそうだ。一日中着物で対局というのは考えてる以上に気を遣う。慣れてないと尚更だ。ふと、ハーフタイムにシャワー浴びて裸になってたガンバ大阪・MF遠藤保仁が脳裏に浮かんだがあそこまでの開放感ではないか。

 13時30分対局再開。

 この日はゴールデンウィーク初日ということもあって宗像大社に参拝に来た方が多く、拝殿や本殿から離れた場所とは言え、朝よりは家族連れの声が多少聞こえてきていた。

 高見六段の手番。

 ジーーーーっと自陣ゴール前付近(矢倉囲い)を見つめじっくり手筋を考えている……

 しばらく考えた後「うーーーーーん……」と唸り、今度は相手のゴール前付近(矢倉)を見ながら同様 に考える……そしてまた「うーーーーーーん……」そしてまた違うサイドを見て……と言った感じでゴールを目指すものの手詰まりになってまたボールを戻し組み立て直す……といった感じに僕には見えた。

 この間、金井六段は微動だにすることなく目を閉じ、じっと考えている。よく頭の中に俯瞰でピッチを想像するというサッカー選手がいるがそういう感じか。

 控え室に戻るとニコ生の中継は幕張で行われていたニコニコ超会議での大盤解説会場と中継を繋いでのやり取り。

 しかも画面にはアイマスクをして目隠し解説をしているひふみんこと加藤一二三九段と今期A級に昇格した糸谷哲郎八段。とにかく画力が半端なくさっきまでの緊張感とのギャップに気持ちの整理に困る……。

 ここまでの対局はほぼ互角、評価値と呼ばれるコンピュータによるどちらが現状有利かを数値で教えてくれる『電王ぽんぽこ』の評価もほぼ互角で深浦九段曰く「二人の持ち味がよく出ている、ここから堅い守備をお互いどう崩していくかの駆け引き」

 そんな話をしていると先に仕掛けたのはハメス・ロドリゲスこと高見六段。

 ゴール前をしっかり固めた金井六段に対し揺さぶりをかけるため、逆サイドにFW(歩)を打ち込む。

 深浦九段はこうも言った。

「この▲7二歩を打った局面辺りからやることがはっきりしてサッカーで言えばゴール前にくさびのボールを入れてゴールを奪うような展開を高見くんは狙っています」

 ▲7二歩が功を奏したか、若干高見六段が優勢、評価値にも多少ではあるが差がつき始める。

 サッカーでも試合の流れというものがあって、この流れを逃さず得点に繋げればより勝利に近づく。▲7二歩を口火としてゴール前をこじ開け、一気に高見六段ペースかと思いきや、当然それは金井六段もわかっている、そうはさせじと最善手を探す。金井六段はじっと我慢の時間帯。これもまたサッカーでもよくある展開。いわゆる相手の時間帯だ。すると慎重になり過ぎるあまり高見六段が少しミスを犯し、また評価値が互角に……そういえば午前中、深浦九段が言っていた「将棋は良い手を指した方が勝つのではなく、悪い手を指した方が負ける」という言葉を思い出した。それは終盤になればなるほど決定的なものとなる。たった一つのディフェンスのミスが致命的となるように……。

 後日メールで高見六段に質問したら「夕食休憩後こっちに少しミスが出て苦しくなったので徐々に差を詰める方針に切り替えました、サッカーで点差がある状況に似ていたかもしれません」との回答。「慌てずじっくり攻めていこう」と声を掛ける日本代表キャプテン長谷部誠のようだ。

 夕食休憩後、僕は対局室に戻るタイミングを見計らっていた。実は今回の観戦エッセイが決まった時、これだけはこの目で見るという瞬間を決めていた。それは投了(降参)の瞬間。今まで何度か取材をさせてもらったりテレビ等でも将棋を見てきて当然投了する瞬間は見てきたが、目の前で見たことは一度もなく今後もきっとそういう機会はないだろうから是非とも見届けたいという気持ちだった。

『覚悟』を持って三度、対局室へ。

 外へ出ると辺りはすっかり暗くなり誰一人いない。静寂が宗像大社を包む。対局室に入ると朝とも昼とも違う重たい空気。部屋も妙に広く感じるし、ただ座っているだけでも体力を奪われる。

 読みを繰り返しては違う……違う……と言わんばかりに首を横に振る金井六段。

 対局開始時、割と遠目に座って全体を見渡せるように座っていた高見六段だが天井カメラからの映像に映り込む程身を乗り出し読みを巡らせる。

 記録係の宮嶋初段も何度も座り直すのを見るとさすがに疲れているようだ。

 この世の中にこの4人しかいないんじゃないかと感じる程の静寂……最後まで見届けると決めて入った『覚悟』が揺らぐ。あまりの緊張に吐き気とともに胃液が逆流してくる感じがわかる。しかしここでもやはり昨日の二人の言葉「堂々としていて下さい」という言葉が僕を支えてくれた。

 将棋がわからない分二人の表情や仕草、気持ちの変化などを漏らさず目に焼き付けようと必死に二人を見ていた。昼間、高見六段が自陣と相手陣を見ながらじっくり読みを巡らせていたのに比べると終盤のこの状況ともなるといろんなところを物凄いスピードで視線を動かしあらゆる局面を見極めるかのごとく盤面を隅々まで見ている。

 僕は棋士の頭の中で何がどういう風になっているのかわからないままずっと『ナリキン!』を描いていた。それをどうにかビジュアルとして読者に伝えたかったのだが結局うまく表現出来たかわからない。それが今回、高見六段の視線の動きとその速さや葛藤、ため息、仕草を通して少しだけではあるが初めて棋士の脳の中を覗けたような気がした。

 金井六段も当然午前中とは違い険しい表情。目を閉じては考え盤面を睨みつけては首を振り、思考を巡らせる。ただ高見六段程の動きは感じられないので何を思ってるのか、考えているのかはわからない……そう思っていた。ところが、ふと彼の左手を見ると親指と人差し指が小さく小刻みに動いている。手順を確かめるように高見六段と同じように最善手を何度も何度も繰り返し探すように指が動いていた。

 苦しい時間帯を切り抜けた金井六段、流れが来るかと思われたその時……。
 ここで遂に金井六段が持ち時間を使いきりいわゆる1分将棋の状態(1分以内に指さなければ時間切れで負け)30秒過ぎると記録係の宮嶋初段が秒読みを始める。
 テレビで見たことある人も多いだろう。

「30秒……40秒……50、1、2、3、4、5……」ギリギリで指す金井六段。

 このカウントも始めて横で聞いたのだがまるで死へのカウントダウンかと思う緊張感。展開がわからない僕にしてみるといつ投げるかもわからずカウントが始まる度に寿命が縮む思いだ。

 更に追い込むようにノータイムで指す高見六段。相手に考える時間を与えない為だ。終盤のこの攻防がとにかく速い。僕の予想では終盤の対局室は重苦しく張り詰めた緊張感で一番長く感じるかと思っていたが、実際は真逆だった。この対局中一番時間が過ぎるのが速い。ロスタイムあと何分!? という感覚を思い出す。さすがの金井六段もこの状況では正確に指すことが出来ず、痛恨の一手となる116手目、△7五馬。タダで相手に馬を差し出し、逆転を狙ったがうまくいかず……大きくシュートが外れて万事休す。

 サッカーならばタイムアップで試合終了となるのだが将棋は更に過酷である。自ら負けを認め「参りました」と降参しなければ終わらない……すぐ参りましたと出来ないのが人間であり心情だ。不謹慎だがその表情を僕は見たくてこの場に来た。高見六段が指す度に金井六段はそれを噛みしめるように頷いている……また負けを認めるかのように、自分に言い聞かせるように頷く……その間高見六段は決して気を抜かない……後にこの時のことを聞いたら「終局30分くらい前から慣れない着物のせいもあったのか全然汗が引かず、扇風機をつけてもダメでトイレに立ったのはそういう理由もあったんですけど……とにかく勝つのに必死だった」と教えてくれた。

 そして135手目……

 金井六段、投了。

 関係者の控え室から対局室までは少し離れているので立会人らがこちらにくるまでには少し時間がかかる……先に口を開いたのは金井六段だった。しかし僕にはなんと言ってるかが聞き取れない。二人だけのやり取り……ようやく対局室に関係者らが入ってくる。

 両対局者とも僕の方をチラチラと見ながら「じゃあ感想戦しますか」という感じで始めてくれた。ニコ生をご覧になっていた方々はわかると思うが完全に僕に向けての感想戦。かなり丁寧に、そして史上初かもしれないサッカーに例えつつの感想戦。対局直後、しかも金井六段は負けているというのにこんなところまで気を遣えるお二人の心遣いがたまらなかった。

 朝10時から始まった対局……終局した時、時計は21時半を回っていた。感想戦も含めれば12時間以上の死闘は高見六段の連勝で幕を閉じた。

 ホテルに戻り、打ち上げ会場に向かうエレベーターでたまたま記録係の宮嶋初段と一緒になった。「お疲れ様でした、どうでした? 初めてのタイトル戦での記録係は?」と問うと、彼は「いやーーーー……凄く楽しかったです、良い経験が出来ました!」大役を終えた疲労と充実感に満ちた表情からはいつか自分もこの舞台で活躍したいという気持ちが滲み出ていた。前夜祭で金井六段がお世話になった先輩方の話をしたように、彼もまたこの日の両対局者の姿勢やアドバイスを聞いて強くなっていくのだろう。

 打ち上げの席でのお二人はやはり疲れた様子だが最初お会いした時のような優しい雰囲気に戻っておりさっきまで死闘を繰り広げていた棋士には思えない。僕のテーブルには金井六段、負けた悔しさもあろうがそんな素振りは一切見せずここでも気遣いを見せる。何度もこういう経験があるであろう渡辺棋王がいつも通りの感じで声を掛けていたのが印象的だった。

 本当はゆっくり食事させてあげたかったのだけど話が聞けるのはここが最後と疲れている金井六段に声を掛けると快く笑顔で話をしてくれた。

 色々話を聞いたが最後に聞いておきたかったのは第3局のこと。

 この叡王戦の面白いところは対局によって持ち時間が変わるという持ち時間変動制。

 第2局までは5時間ずつだが第3局と第4局は3時間ずつになるのだ(ちなみに第5局と第6局は1時間)

 持ち時間が変わることについてどう思うかと問うと「3時間と短くなることに有利不利があるとは思わないですね、考え方だと思います。5時間ゆっくり考えるのと短くても3時間集中して考える方が良いかもしれないし、良し悪しです」

 そんな話を聞き終えた時丁度高見六段が近くにいたのを見つけた金井六段はわざわざ自分の席を高見六段に譲って別のテーブルへ。一体どこまでいい人なんだ、金井六段!! 今、思い出しても目頭が熱くなる。

 高見六段がテーブルに着くと改めて乾杯。やはり最初に口を開いたのは渡辺棋王、高見六段が選んだおやつの一件。

 とにかく高見六段は無邪気という言葉がよく似合う。彼の周りには笑顔が絶えない。前夜祭での女性人気も頷ける。とにかくかわいい。

 隣に座った高見六段にも聞きたかった事を聞いた。盤上を見ている時の視線についての話を聞いてみると「え、そんなところ見てたんですか!?」と、照れ臭そうに笑い「それは意外と鋭いですね、盤面を斜めに見ていたのは相矢倉だったので自陣と敵陣を局面的に見てて……終盤はもういろんな所を見ないと……」

 また、金井六段に聞いた第3局の持ち時間の話も……「今までのタイトル戦に一度でも出ていれば違うかもしれませんが、タイトル戦はこの棋戦が初めてなんで比べようもないのであまり関係ないですよ」「あーじゃあいろんな持ち時間の棋戦に参加してるって感じですか?」「そうですね」と。高見六段からも逆質問「観戦記者としてどうでした?」「いや、緊張しました……とにかく邪魔だけはしないようにと……」というと「昼食休憩後だったかな……戻ってきたらいらっしゃってその時の姿が2、30年観戦記者やってるくらいの堂々とした貫禄があって、それを見て安心して指せました(笑)」もちろんお世辞だろうがそう見えたのなら良かったし、その姿勢を引き出したのは他ならぬ両対局者の「緊張は伝わっちゃうのでむしろ堂々としていて下さい!」という言葉のおかげ。結局お二人の人格のなせる技なのだ。ここで時間が来てしまいお開き……両対局者とも別れ際「観戦記楽しみにしてます!」と最後まで笑顔と気遣いを忘れることはなかった。

 最後に、今回の観戦エッセイを通して両対局者を取材し
 命懸けで指し合う彼らの『覚悟』を見ている内にとにかく彼らを描きたい! と心が躍った。
 僕は漫画家なのでその気持ちを絵で表現させてもらった。
 どこまで読者に伝わったかはわからないが将棋盤の前に座る二人は
 間違いなく〝将棋指し〟であり〝勝負師〟であった。

 第3局、舞台は宮城へ……。
 どちらが勝つかでこのタイトル戦の行方が決まりかねない大一番。
 どちらにも勝ってほしいし、どちらにも負けて欲しくない。
 中田功七段が言った通り出来るだけ長くこの二人の対局を見ていたいと心底思った。

■第3局の観戦記はこちら
千日手局・金井恒太編『貫けなかった積極性』 金井恒太六段―高見泰地六段:第3期叡王戦 決勝七番勝負 第3局 観戦記(大川慎太郎)

第2局はこちら

第3局はこちら


■第3期 叡王戦観戦記
『save your dream』第1譜 金井恒太六段―高見泰地六段:第3期叡王戦 決勝七番勝負 第1局 観戦記(白鳥士郎)

高見泰地六段が初のタイトル戦登場 丸山忠久九段ー高見泰地五段

金井六段、初のタイトル戦進出 行方尚史八段ー金井恒太六段

(画像は叡王戦 公式サイトより)

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