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日本国憲法は戦後押し付けられたという“風潮”に社会学者・宮台真司が提言「戦争を勝手にやって負けた国が押し付けられるのは当たり前」

 社会学者・宮台真司氏とラジオパーソナリティーでライターのジョー横溝氏が政治・経済・司法・国際情勢から、映画・音楽・芸能、サブカル、18禁にいたるまで、様々なジャンルのテーマを独自の視点で徹底的に掘り下げる『宮台真司とジョー横溝の深堀TV』。

 今回のテーマは施行から71年経つ「日本国憲法」。日本国憲法と日本国民はどう向き合えばいいのか、憲法学者の木村草太氏をゲストに迎え熱いトークが繰り広げられました。

 安倍晋三総理大臣の改憲に向けた行動を踏まえて、木村氏は憲法には「最高法規」「外交宣言」「歴史の象徴」の3つの側面があると語り、宮台氏は憲法を「押し付けられた」と主張する論旨に対し、終戦当時の日本を「馬鹿すぎて押し付けられる実力もなかった」と一刀両断します。

日本国憲法原本
(画像はWikipediaより)

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改憲によって何を達成したいか不明確

左からジョー横溝氏、宮台真司氏、木村草太氏。

ジョー横溝:
 最初は無難に「憲法とは何ですか?」とか、日本人にもやっと馴染みが出てきたので「立憲主義」あたりをキーワードに……。

宮台:
 安倍さんのおかげですね。

ジョー横溝:
 安倍さんのおかげです。これは安倍さんのおかげだと思います。

宮台:
 繰り返し言ってきたよね。安倍さんは日本の立憲主義なるものがもしあるとすれば明らかに中興の祖【※】であるというね。SEALDsの頃から言ってきましたが憲法改正も、もちろん政治的な課題になるのであれば“手段”だよね。

※中興の祖
ちゅうこうのそ。とは、一般に「名君」と称される君主または統治者のうち、長期王朝、長期政権の中途、かつ危機的状況後に政権を担当して危機からの回復を達成し、政権の安定化や維持に多大な功績があったと歴史的評価を受ける者。

ジョー横溝:
 はい。手段ですね。

宮台:
 手段であるからには目的が必要だよね。つまり憲法改正を手段として何をしようとしているのか、あるいは今までにできなかった何をしたくて今までできることの何をできないようにしたいのかというね、そこがはっきりした方がいいなと。

 しかし多くの人が直感されているように安倍さんはどうも憲法改正が自己目的らしい、と。改正できるのだったらもう96条だろうがあるいは単に公明党の案通りに改憲して「自衛隊が合憲だ」と言うことだけで。言わなくたってみんな合憲だと思っているみたいな。

 面白いよね。日本の改憲論議というのは、そもそも改憲によって何を達成したいのか非常に不明確な状態で憲法という手段によって何ができるのか、憲法が誰をどういうふうに縛るのか、憲法が変わることで何ができたりできなかったりするのかということがわからないと、憲法を改正したい人達の目的もわからないし守りたい人達の目的もわからない

ジョー横溝:
 そりゃそうだ。主語と目的語がはっきりしないとね。

憲法の3つの側面「最高法規」「外交宣言」「歴史の象徴」

宮台:
 そういう意味では目的と手段についての基本的な構造がわかるようにしたいと思いますね。ということで、草太さんがうってつけの方だなと。

ジョー横溝:
 この『憲法という希望』という本も読ませていただきました。2、3冊本を読んできたのですけど、今日は直接お話もできるし皆さんもコメントの方でよかったら草太さんへの書き込み質問を送ってください。お待ちしております。さあ今のフリから。

『憲法という希望』
(画像はAmazonより)

木村:
 憲法というのは教科書的に説明すると3つぐらいの側面があると思います。

 まず日本の立憲主義を実現するための日本の最高法規という側面ですね。これは憲法の最も基本的な側面で基本的な性格で立憲主義というのはどういうものかというと、過去に国家権力がやってきた失敗というものがありまして、これを繰り返さないようなルールを作っておかないといけない。国家を創る以上は安全装置をかけておこう、これが立憲主義ですね。

ジョー横溝:
 なるほど。今まで国家がやってきた失敗のリストのようなものですね。

木村:
 そうですね。立憲主義に基づいて作られた憲法には、少なくとも三つの内容が盛り込まれます。過去の国家権力の三大失敗、つまり戦争、人権侵害、独裁を繰り返さないために立憲主義的な憲法には戦争や軍隊をコントロールするためのルール、人権を保障するルール、独裁を防ぐための権力分立、これが書かれるということになります。他にも、この国は特にここで失敗したということを書かれることはあります。

 今、お話した三つの内容は日本だから大丈夫とかアメリカだからダメというものではなくて、どこの国でも気をつけなければいけないのでこれは最低限入れなきゃいけないものだろうというものです。まずこういうルールを作って権力をきちんと抑制して使っていこうという、これが一つの側面です。

 それで憲法にはもう一つ重要な側面として外交宣言としての意味があります。今日の国際社会においては、例えば「日本は民主主義国家ではありません」と言うのは「日本はまともな国ではありません」と宣言するのと同じなのですね。

 なので、憲法に民主主義を謳っておくというのは国際社会において「日本は民主主義という価値を大事にしますよ」と発信する意味があるのですね。他にも人権を大事にするとか、あるいは第9条のように「侵略戦争は絶対にしません」というようなことを掲げておくことは国内に向けた法典としての意味とは別に外交宣言としての意味があるということですね。

ジョー横溝:
 そして3つ目は?

木村:
 憲法というのはしばしばその国の歴史の物語を象徴してしまう、そういう側面があります。

 例えばですね、アメリカ合衆国憲法というのはすごくオリジナルを大事にする憲法で憲法改正する時も条文を書き換えるのではなくて附則をつけていくみたいな感じで修正するのです。それはなぜかというと独立の歴史がそこに象徴されているからなのですね。

 だから合衆国憲法を読むことによって、これはファウンディング・ファーザー【※】達がアメリカを作ったのだと歴史を思い出すのだとそういうことを思い出すための文章として機能しているわけですね。

※ファウンディング・ファーザー
アメリカ合衆国建国の父。アメリカ合衆国独立宣言またはアメリカ合衆国憲法に署名した政治的指導者、あるいは愛国者達の指導者としてアメリカ独立戦争に関わった者達。

 他にも、フランスの人権宣言だったらフランス革命の歴史を象徴しているし、ドイツ連邦共和国基本法であればナチスの反省を象徴している。こういうふうに歴史の物語を象徴した文章としての意味があるわけです。

 日本は、憲法が象徴している歴史の物語というものの理解に少しズレというか対立があるわけです。一つの見方というのは、これは戦争に負けて出来た、ここまでは共通ですが戦争に負けて憲法が変わったというのは、人権とか民主主義のための解放の歴史だったのだと捉える、そういう考え方が一つ。

 一方では敗戦の歴史を象徴した文章なのだと、押し付け憲法だというこの二つの物語が同時にというか、それぞれの陣営によって違う理解をされているというのが日本の憲法が置かれた物語としての複雑さですね。

ジョー横溝:
 なるほど。いわゆる護憲派と改憲派というのは、3つ目の物語をめぐって対立しているということですね?

木村:
 だから歴史の屈辱派は敗戦の屈辱から逃れたいわけですよ。

ジョー横溝:
 「押し付けだ」と言ってね。

日本には憲法を押し付けられる程の実力もなかった

木村:
 だから「憲法が変われば、内容が変わらなくてもこの屈辱の歴史を塗り替えることができる」というのでとにかく1条でも変えたい、と。

ジョー横溝:
 要は爽快感みたいなものを得たいということですよね?

木村:
 そうです。

宮台:
 3番目についてはね、“対米ケツ舐め国家”が何を言っているのだと(笑)。

一同:
 (笑)

宮台:
 だから重武装中立以外の憲法改正はありえないわけでね、恥は恥でもいろんなところに恥があるのでね。要は沖縄をダシにしながら日本は平和主義だと言っているのもおかしいし、それは恥だよね。あるいはアメリカに「軍隊を出せ」と言われれば出さざるを得ないみたいな空気感、これも非常に恥ずかしいことだよね。

 あるいはその安保条約第5条問題と言われているけども、アメリカはその憲法的な手続きに則って軍隊を出すか出さないか、つまり簡単に言うと議会が反対をしたら出せないということを書いてあるわけ。

 「尖閣で中国と日本が何かあったらアメリカが軍隊を出してくれるはずだ」とか言うのは結構お笑いだよね。すごく恥ずかしいよね。そんなのを例えばトランプが出すかい? とかアメリカの議会がそんなことにすぐにイエスと言うかい? 普通に考えたら言いそうにないよね。

ジョー横溝:
 そうですね。

宮台:
 だから安保条約がある以上、アメリカと緊密な関係をとか言いながら、要するに怒らせないように頑張るしかない、みたいな。そういうのって恥ずかしいじゃないの。だってトランプだよ? 何度も言うけどトランプだよ?

 トランプがどうも北朝鮮に強硬らしいということで対話をしないと言ったのだけども、アメリカは陸軍が北朝鮮と絶対戦争したくないので、つまり戦争というのは相手の首を取るところまでではないじゃない? イラクでもそうだし他でもそうだし。

木村:
 終わってからですよね。

宮台:
 終わってから平定できるか、1年経っても平定できない可能性がある、そんなの絶対やめてというのがアメリカの軍隊の立場なので、トランプさんは、戦争はできないよ、ちょっとしたことは別としてね。

 トランプさんは結局アクロバットなことをしてでも目立ちたい人だし、すごいことをやったと思われたい人だからいきなりスイングバッグして北朝鮮と和平って実現するかどうかは別として「非核化に成功した」みたいな方向に行く可能性はいつでもあるじゃない? 

ジョー横溝:
 そうですね。最近の動きを見ているとそうですね。

宮台:
 アメリカの振り子が戻ると日本だけがヒューって放り出されるというね。繰り返されてきたとても恥ずかしい図式。そういう恥ずかしさを放置している輩が何をぬけぬけと「押し付け憲法」とか言っているのだよ。これは昔から小室直樹先生【※1】がおっしゃっているように日本人には松本憲法試案【※2】もそうだけど憲法を書く力がなかったのだよ。

※1小室直樹
(1932年9月9日~2010年9月4日)社会学者、評論家。東京工業大学世界文明センター特任教授、現代政治研究所所長。

※2松本憲法試案
松本烝治国務大臣(憲法問題調査委員会委員長)が主体となって作成した大日本帝国憲法の改正私案。

 草太さんがおっしゃるように世界中の国が「日本はちゃんとした憲法が書けるな」と思えるような憲法を書く力が全くなかった。だから押し付けられる以外に、僕の言い方だと日本には押し付けられる力もなかった。馬鹿すぎて押し付けられる実力もなかった。押し付けというのは“抵抗して”押し付けられるのだよ。

ジョー横溝:
 受け入れざるを得なかった。チョイスがなかったということですね?

宮台:
 ちょっとしたせめぎ合いはあるのだけどね。大まかには押し付けられてなんかはいない。押し付けられるほどの実力もなかったのだよ。

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