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ノーベル文学賞すごい「受賞すれば何もしなくても年収8000万」作家・冲方丁さんが高校生に小説家の“夢と厳しさ”を指南

文章上達のために、「他人の書いた文章を写す」のは効果的!?

冲方:
 N高生からの質問です。

 小説を執筆する際に、自分の好きな作家さんの小説を読んで文体などを学ぶのはありですか」ありですよ。これは大事なことですよ。美術でも音楽でも、模写をしたり練習曲があったりするわけじゃないですか。

 小説も是非、文体を学びたいなと思ったら学びたい文体を書き写しましょう。月に2、3冊は書き写すといいと思います。すると、自分ならこういう文章にするとか、現代だったらこういう文章のほうが読みやすいなとか、文章の濃密さとか性質も学べます。なんであれ、物事を学ぶ上で重要な行為の一つは模写です。これはしっかり頑張りましょう。

 続いての質問は、「効果的な予想の裏切り方の法則を教えてください」、裏切り方の法則……。裏切り方じゃないの? これはただのテクニックの話になりますけれども、「これはしまった」「裏切られた」「お前の話を聞いていて、まさかそうなるとは思わなかった」って思わせたいのでしたら、偽の予想を相手に教える。

 これは必ずこうなるよってことを全体に出す。そして全く違う結果になることをその人に知らしめる。それが裏切り方の一番簡単な方法です。

 法則というのは、こういうときに使う言葉なのかな。方法ですね。あるいは予想もつかないことがしたいって言うのであれば、予想させることを前提にして、その予想を覆す結果を与えることのほうがいい。

 あるいはその予想と全く関係ないことをする。小説だとそういう感じになりますね。ミステリーなんかだと、ある程度ミスリードと言うんですけれども違うことを予想させておいて、「じゃじゃーん! 実はこうでした」みたいな、そういう使い方ができるといいですね。

 ちなみに人間は全ての予想を裏切られ続けると、自分が何を見ているのか理解できなくなりますので、そういう心情や混乱を利用した幻想文学や不条理文学なんて言うものもあります。

「文章の向こう側にいる人に何を伝えたいのか」

冲方:
 続いての質問です。「小説を書くときプロットをどこまで作りますか。文章を書くときどこまで考えながら書きますか。自分の場合、推敲作業も同時進行的にやってしまい、なかなか筆が進みません」、当たり前だ(笑)。

 文章を書くというのはいろんな要素を同時に扱うということであって、綺麗に書かれたものを見ると、最初から最後までずっと続いているように見える。けれども、文章や小説というのは常にいろんな要素を並行して作っているわけですね。

 音楽で言えばオーケストラみたいに、こっちの楽器のパート、あっちの楽器のパート、この楽器のパートと、全部総合したときに一つの印象が生まれるわけです。なのでもちろんプロットをどこまで作りますかというのは……終わりまで作るということかな。もちろん結論ありきです。

 一回自分がどこに向かっているのかを知らなければ、何を書いているのかがわからない。書いてみないとわからない感じになってしまいます。もちろんそういう書き方もあります。

 何も考えずに書く人ってなかなかいないし、自分が何を書こうとしているのかを考えながら書くし、文章を書くときに大事なのは、その文章そのものを完成させたいのか、その文章の向こう側にいる人に何を伝えたいのか。

 文章だけを完成させようとすると、文章は綺麗だけれども何を言っているのかわからないということになるんですよ。文章を書くときは誰がそれを読んでいるのか。どういう目的でそれを読むのかということをはっきり意識して書くことが多いです。

 たとえば誰に届くかわからないけれども、手紙を書こうとかあまり思わないわけでしょう。でも最近はTwitterとか掲示板とか、誰が読むのかわからずに書いているパターンが多いんですかね。そうするとこういう質問が生まれるわけか。現代的だな(笑)。

 目的のない文章を書く習慣が現代的かもしれないけれど、基本的に文章は目的を持って書くものだと思ってください。そうしないと結局なかなか筆が進みません。何のために書いているのかがわからなくなってしまう。なのでしっかり、どこまでも考えるくせがつくといいですね。

「先生、ライトノベルは儲かりますか」

冲方:
 続いての質問です。「どうすれば作家のみで食べていけますか。純文学、現代小説、ライトノベルなどを分けたときに、どれが一番儲かりますか?」
そうですね……端的に言うけれども、大好きなものを仕事にすると、それはそれで苦しいということを理解しましょうね。大好きなものを毎日朝から晩までやらなければいけないことは苦痛だということを覚えておいたほうがいいかもしれません。

 単純な答えとして、「あらゆるものが書けるようになる」。これが一つの答え。なぜかと言うと、その時々、その社会、その風潮、その流行によって求められるものが変わるわけです。ある時期は大変求められていたとしても、次の時期に求められなく可能性があるんですね。そうすると、その時代に移行できなくなって食えなくなるというパターンもある。これに対応できるかどうかの柔軟性。何でも書ける、何でも吸収できるようにするということがまず一つ。

 もう一つがあまりにも何でも吸収できて、あまりにも何でも人の言うことを聞くと、誰が書いても一緒になってしまうので、そこで自分なりのスタイル、自分しか書けないもの、自分だけが持てる視点というのが大事。それが感性ですね。
だから技術を培い、知識を吸収し、感性を磨く。そうすることによって、食べてはいけるんじゃないのかな。どこまで金持ちになりたいのかっていう話もあるよね。どれが一番儲かるかって、極めた人は儲かるんだよね。

 たとえばノーベル文学賞を取ると毎年8000万円のお金が貰えるんだよね。何も働かなくても年収8000万円。だから文学を極めるとそこまでいける。現代小説なんかも極めれば、たとえばスティーブン・キングとか映画化権だけで億とかね。ライトノベルは、とにかく昔は書く人がいなかったから、割と儲かったんです。

 今は書く人がめっちゃ多いから、相当頑張らないとそんなに儲からないかな(笑)。なぜかと言うと国内のニーズになってしまって、あまり海外で売れない。断言してはいけませんね。まぁ、売れているものもありますよ。もちろん人気があるものもたくさんあるんだけれども……。

 どれが一番儲かりますかという質問はひっくり返してください。自分だったらどれが一番儲かるかを考えてください。自分の感性がどれに適合しているか、どうすれば自分は他者を喜ばせることができるのか。それを考えてください。 

 だから一つ重要なのは作家になりたいんだったら環境に合わせて自分の道を決めないこと。どんな環境であっても自分が揺るがず適用でき、失われない、戦えなくならないようにするということを大事にしてください。

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