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指し直しの末の快勝劇 行方尚史八段―澤田真吾六段:第3期 叡王戦本戦観戦記

 「叡王戦」の本戦トーナメントが11月25日より開幕。3期目となる今回から新たにタイトル戦へと昇格し、ますます注目が集まっています。

 ニコニコでは、佐藤天彦 第2期叡王と段位別予選を勝ち抜いた15名による本戦トーナメントの様子を、生放送および観戦記を通じてお届けします。

画像は 叡王戦 公式サイト より

 今期からタイトル戦に昇格した叡王戦は本戦が始まっている。七番勝負の持ち時間が特殊で面白い。しかし本戦の開始時間にも珍しさを感じる。持ち時間3時間は、ほかの棋戦にもあるのだが、開始時間が15時で夕食休憩が18時から40分間あるのだ。

 開始前、両対局者に開始時間について聞いてみた。

 「同じような練習を指すわけにはいかないので、やっていくうちに対応していくしかないですね。夕食休憩のある対局はやっていますので、どういった感じで休憩に入るかわからないですが、まあ普段通りに」と澤田は答える。ほとんどが対局開始は10時で昼食休憩の12時まで、2時間ある。本局は休憩までが3時間、1時間の違いがあり、局面の進み具合は違う。

澤田真吾六段

 一方の行方は「午後開始は、むしろありがたいですね。ちょっとどんな感じになるか。休憩のタイミングとか、やってみないとわからないところはありますね」と語った。行方は夜戦に力を発揮する。開始時間は遅くなって歓迎というところだ。

行方尚史八段

 本局の解説者、山崎八段は「お昼から始まる対局はあるので、好きな人は好きだと思います。私も好きで、勝率はお昼からの対局のほうが高いと思います。行方先生は確実に好きでしょうね」と笑顔で話す。

 さて、どのような局面で休憩に入るか、興味深かったのだが、対局は意外な方向に進んでいくことになった。
 15時になり対局が開始される。澤田の▲7六歩を見た行方は、腰をスッと浮かせて、盤側にある生茶を並べ直す。
 戦型は澤田が先手で中飛車を採用した。最近は後手番で中飛車を用いることはあったが、先手でやってきたのは意外だった。

千日手成立

 ジリジリとした駆け引きが続き、銀の繰り替えによる千日手が成立。17時48分、記録係が「千日手です」と告げると、澤田は銀に伸ばし掛けていた手を引っ込め、行方は「はい」と応じた。しだいに緊張感は薄れていくが、両者は言葉を発しない。
 ややあって、関係者が対局室に入ってくる。指し直しが18時40分から行われることになった。行方は席が換わることを確認にして、部屋を出る。
 休憩中、澤田は対局室のあるフロアのエレベーターホールで腰に手を当てて、体を伸ばし、行方は自室のソファーにドスンと腰を落ちつけていた。 
 指し直しまでの時間について山崎八段に聞くと「疲れを取りつつ、前の対局を忘れるというか、引きづらないようにするというのは大事です。難しいことですが、リセットする感じですね」と話した。体力回復もポイントだが、精神面がより大きいようだ。

仕切り直しの一局

 18時40分、指し直し局が開始された。持ち時間は千日手局を引き継ぎ、行方が1時間59分、澤田が1時間15分。また先手と後手が入れ替わって行方が先手になった。指し直し局は行方が有利な条件といえる。
 千日手局に続き、澤田が中飛車を用いて、戦型は決まった。
 指し直し局も千日手含みのジリジリとした神経戦。△3三桂に行方は立ち上がって部屋の隅で目薬をさす。そして席に戻り、ネクタイの結び目を直して、▲8五歩(第1図)と動いていった。

 余談だが、行方がなぜ席を立って目薬をさしていたか。ニコニコ生放送のユーザーも気になっていたようだ。局後、「照明の下だと、明かりが気になるので」とその理由を話した。
 第1図の▲8五歩から△同桂▲同桂△同歩▲同飛△8四歩に▲8九飛△3五歩▲同銀(第2図)と進む。

 行方は「動いていけるかギリギリだと感じていました。桂交換から打開したのは、やりすぎかなと。しかし、いくしかないとも思っていた」と感想戦で話した。
 澤田は△3五歩で持ち時間を使いきった。まだ中盤戦で、このあと時間に悩まされることになった。
 ▲3五同銀に行方の読み筋は△9五歩▲同歩△9七歩▲同香△8五桂だった。「△4五歩はまったく見えていなかった」と話す。

明暗わけた残り時間

 第2図から△4五歩▲同桂と進んだ第3図が、本局最大の勝負どころだった。
 まず△4五同桂▲同銀△6五歩▲4六銀△6四桂▲5六桂△同桂▲同銀△4四桂▲4五銀左△6四銀▲3七角△7三角が検討され「銀2枚がソッポ。見えていれば違う順を」と行方。
 また△4五同桂▲同銀△6五歩▲4六銀△6六桂▲6九玉△4二角▲5六銀△6四銀▲7七桂△6二飛▲5八桂(変化図)が調べられる。「ねじり合いになりますね」と行方は話し、解説の山崎八段は「なにが正しいか1時間あっても、わからなさそう」とコメントした。

 △4五同桂から△6五歩と突く順に「一瞬見えたのですが、キズになる可能性があると思って。しかし△6五歩と突いて曲線的に指すしかなかったです」と澤田は語る。しかし時間のない中では、選択しにくいコースだったようだ。
 実戦は▲4五同桂に△4四桂▲3三桂成△同角▲4五銀△5六桂打に▲同金と応じて、行方が指しやすくなった。先手は盤上に銀を残して、のちに▲6七銀と引く味が絶品になるのだ。

着実にリードを広げる

 第4図、▲8三歩とたたいた局面。行方は着手をして、背筋を伸ばした。表情を見ると、手応えを感じた様子だった。△同金に▲4八玉と行方は力強い手つきで、盤面の右辺に玉を逃がす。この▲4八玉で「よくなったと思いました」と行方は局後、振り返った。
 優勢になった行方は着実に澤田玉を追い詰めていく。最後の▲7二金を見て、はっきりした声で、澤田は投了を告げた。以下は△7二同玉に▲6二飛成△同玉▲6三銀△7三玉▲7二金まで、後手玉は詰んでいる。

 行方は感想戦後、2回戦以降の戦いについて「多くの方に、動画で見てもらえるのは、張り合いが出ます。あまり先のことは考えていませんが、誰がきても強敵なので、いい将棋を指して、見ているかたに楽しんでいただければ。とにかく目の前の一局です」と話して、コートを羽織り、会館をあとにした。

(観戦記者:滝澤修司)


■第3期 叡王戦本戦観戦記
北浜、好機つかめず 佐藤康光九段―北浜健介八段

形勢が揺れる終盤戦 小林裕士七段―近藤誠也五段

画像は 叡王戦 公式サイト より

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