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形勢が揺れる終盤戦 小林裕士七段―近藤誠也五段:第3期 叡王戦本戦観戦記

 「叡王戦」の本戦トーナメントが11月25日より開幕。3期目となる今回から新たにタイトル戦へと昇格し、ますます注目が集まっています。

 ニコニコでは、佐藤天彦 第2期叡王と段位別予選を勝ち抜いた15名による本戦トーナメントの様子を、生放送および観戦記を通じてお届けします。

画像は 叡王戦 公式サイト より

本戦トーナメント開幕

 近藤誠也五段は棋士歴3年目の新鋭で、通算勝率7割台を誇る。本戦トーナメント開幕の本局に対して「新鮮な気持ちで臨みたい」と意気込みを語った。相手との初手合い局であること、そして予選と違って持ち時間が1時間から3時間に増えること、そのふたつを意識している。
 その前に立ちはだかるは小林裕士七段。第2期に続いて2期連続の本戦出場である。段位別予選七段戦の自身3日目では、関西若手俊英の菅井竜也王位と斎藤慎太郎七段を下した。次も勢いある若手が相手だが「僕と同様、近藤さんもだいぶ攻め将棋だそうで」と、「攻め」をキーワードに準備を進めてきた。

 11月25日15時、関西将棋会館「水無瀬の間」で対局が始まった。

左から、近藤誠也五段、小林裕士七段

相掛かり研究変化

 戦型は相掛かりへ。小林は「先手番なら主導権を握りたいなと。角換わりだと、近年は後手から先攻されることもあります。なので、練習将棋でもよく指す相掛かりを予定していました」という。その中でも△7五歩(第1図)は想定内。記録係に空調の変更と、茶のおかわりを依頼して、万全の状態で近藤の作戦を迎え撃つ。

 両対局者との対戦経験がある船江恒平六段、宮本広志五段、藤井聡太四段に話を聞いた。小林の印象は「非常におおらかで、後輩の面倒見がよい。将棋は早見え、早指し、力強い」とのことで、宮本五段からは「研究会だと毎局、ズバッと斬るか、ズバッと斬られるかしかないですね」と笑顔まじりの回答もあった。

後手リード

 第2図は銀を7四から6三に引いたところ。近藤は扇子を開閉しつつ読みのリズムを刻み、この一手に本局最長となる34分を投入した。ちなみにこの扇子は、目標の棋士である谷川浩司九段の紺染小振り扇子「飛翔」だ。かなり使い込んでいる。

 前述3棋士による近藤の印象は「バランスのよい将棋。攻めに出ると切れ味鋭い」。また、対近藤戦の準備期間に棋譜を研究した藤井聡四段は「よくなってからのまとめ方がうまい先生」だと感じたという。それらの長所すべてに、目指してきた大棋士の特徴が重なる。

 第2図以下、▲7六歩△7四飛▲6六歩で夕食休憩に入った。明けて△5四歩▲同銀△同飛▲9一角成△8四飛まで互いにノータイムの応酬。最後の△8四飛が小林の軽視していた一着だった。この手を見てから5分後、ぼやき声とともに中空を見上げる。しばらく頭に手をやったあと、ため息をつきながらスーツの上着を脱いだ。

 「△8四飛をうっかりしたのがひどいですね。場合によっては△7三歩で馬筋を止められて、そんなことされたら……。感覚的な判断もあって、仕方なく▲4六馬(第3図)と引きました。形勢はだいぶ悪いです」(小林)

 第2図に戻って、▲7六歩△7四飛に「▲5四銀と出るしかなかったですか」と小林。以下△同歩▲9一角成△8六歩▲同歩(変化A図)が進行の一例だ。

 後手は△8八歩▲同飛△7六飛といった筋を交えて手を作っていく。「自陣が好形なのでやれそうです」と近藤は後手持ちの見解を示すが、本譜と比較して「こちらは不利でもそうやるしかなかった」と小林。

辛抱

 対局室にはわずかな空調音。関西将棋会館前の「なにわ筋」を走る車の重低音もかすかに聞こえる。そして軋むような扇子の開閉音。そんな中、バチバチッと大きな駒音が鳴り響いた。3二金の上部に重ねるようにして着手した△3三角(第4図)によるものだ。狙いは△2四角で、4六馬を盤上から消すことにある。

 

 小林は夕食休憩に入るまでに、協賛である「生茶」のペットボトル1本に加えて、記録係が用意した温かい茶を5杯飲んでいた。どちらもグラスや湯のみに注いだままにはせず、すぐに飲み干す。ある奨励会員によれば、茶を気に入ると対局中に何度もおかわりを頼むそうだ。夕食休憩後は、新たに用意された「生茶」で体調を整えていた。
 そうして熟考の末に出した答えは▲2五歩。飛車の利きが止まるというデメリットを受け入れて、△2四角を阻止した。ここまで小林は盤面だけを見るようにしていたが、近藤の考慮中に一瞬だけ顔をのぞき込んで様子をうかがう。続く△4二銀を見ると、首を小さく横に振った。

香連打

 近藤が軽快に攻める終盤戦。▲5八銀(第5図)の受けに対して△2七香▲同飛△4八香が、憧れの「光速の寄せ」を彷彿とさせる香の2連打だ。その破壊力は「本当は投了級の局面。1手違いにもならない」とまで小林に言わしめたほど。一方で、このコンビネーションを読むために近藤は持ち時間を使いきり、以降は一分将棋に。△2七香の考慮中に時折見せた、残り時間を確認する鋭い視線が印象的だった。
 以下▲同玉△5六桂▲同馬△同馬▲4七銀打に、△6六角▲5七香△同角成と大駒を切って決めにいった。数手後には後手勝勢となるが、将棋は最後まで何が起こるか分からない。

「ここまでは完璧だった……」

 最終盤、▲2三歩(第6図)で小林が最後の反撃に出た。結論として、ここで△5二歩と打てば近藤の勝ちだった。▲同香成△同金▲同角成の瞬間、先手玉を△4八銀成▲2八玉△3九銀▲1八玉△2八金▲同飛△同銀成▲同玉△2五香(変化B図)以下の即詰みに討ち取れる。

 第6図に戻り、実戦は58秒まで読まれてから△6三歩。しかし▲同歩成(▲4一飛以下の詰めろ)△2三金▲6二と(▲4一角成以下の詰めろ)△2二玉▲3二金(取れば▲4一角成以下の詰み)△1二玉▲4一角成と、小林がひたすら攻めて第7図に。

 形勢が逆転した。ここで前述のように△4八銀成▲2八玉△3九銀から先手玉を追っても、手順最後の△2五香に対して▲2七歩と打てるようになっているため不詰みだ。このあたりから小林の顔がハッキリと紅潮し、着手の指が震えるようになった。

小林、2回戦進出

 近藤も粘りを見せて端玉で耐え忍び、△1五桂(第8図)の攻防手を放つ。▲2三馬以下の詰めろを消しながら、2七飛に当てた一石二鳥の手である。しかしすでに小林はその局面を読み終えており、即座に▲3六銀と着手。近藤は△5六馬から王手の連続で迫るも届かない。手順中に後手玉の詰めろも復活し、勝負は決した。

 感想戦の締めくくりに「着地失敗でした」と近藤が告げると、小林も「本当に最後だけですね。こちらがずっと悪かったです」と同調。こうして、唯一のチャンスを逃がさなかった小林が勝ち上がった。

 2回戦は丸山忠久九段-藤井猛九段戦の勝者とぶつかる。
 「ほとんど勝ったことがないなと(笑)。どちらと当たっても、自分の将棋を指せればいいかなと思います」。そう言って、小林はいつもの笑顔を見せてくれた。

(観戦記者:虹)

画像は 叡王戦 公式サイト より

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