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叡王戦史上屈指の好カード 佐藤天彦九段―羽生善治九段:第2期 叡王戦本戦観戦記

プロ棋士とコンピュータ将棋の頂上決戦「電王戦」への出場権を賭けた棋戦「叡王(えいおう)戦」。2期目となる今回は、羽生善治九段も参戦し、ますます注目が集まっています。

ニコニコでは、初代叡王・山崎隆之八段と段位別予選を勝ち抜いた精鋭たち16名による本戦トーナメントの様子を、生放送および観戦記を通じてお届けします。

叡王戦公式サイト


左から、羽生善治九段、佐藤天彦九段。
左から、羽生善治九段、佐藤天彦九段。

よみがえる名人戦の記憶

 名人の佐藤と三冠の羽生が準決勝で激突した。叡王戦史上、屈指の好カードといっていい。準決勝から和服を着用しての対局というのも実に素晴らしい。佐藤は桜色の着物に藤色のグラデーションの羽織り。羽生は薄い緑の着物によもぎ色の羽織りという出で立ち。両雄の凛々しい姿を見ていると、名人戦七番勝負の記憶がよみがえってくる。

 雄大なモーションで駒を並べている佐藤と羽生の様子は、いつも以上の緊迫感と圧迫感が混じり合っているようだった。対局室にはタイトル戦のような厳粛な雰囲気が漂う。

 記録係を務めた速水温2級の振り駒は、と金が4枚出て羽生の先手番となった。定刻の午後7時を迎えて対局開始。盤上は矢倉の駒組みが進んでいく。

 羽生の矢倉は本気の証といわれている。どんな戦型も指しこなすオールラウンドプレーヤーだが、ここ一番では矢倉を採用してきた。羽生の表情もいつにも増して気合がみなぎっているように感じるのは気のせいだろうか。終盤で残り時間を確認したときの氷のような冷たい瞳には背筋がゾクッとした。

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 第1図から羽生は▲4六歩△同歩▲4八飛△4四銀右に▲1七桂と攻撃陣を整える。以下△4五銀に▲2五桂△4四銀▲4六銀で戦いが始まった。

羽生の動向が社会現象に

 羽生が叡王戦にエントリーしたニュースは社会現象になった。中にはコンピュータとの対戦へといった先走った記述もあったが、それだけ世間は羽生の動向を気にしているのである。

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 羽生は今期叡王戦のプロモーション映像で「やるやらないは別として、理解する努力をしていかないといけない時代がきた」と語った。準決勝まで駒を進めたとなると、コンピュータ将棋ソフトとの対戦も現実味を帯びてきたといっていい。羽生は「まだこの段階では何とも……」と、あくまでも目の前の一局に集中する姿勢を貫く。

 盤上は後手が築いた厚みを巡った戦いに。佐藤が4筋の位を取り、羽生が反発した。羽生の攻め、佐藤の受けといった両者の持ち味が遺憾なく発揮される展開だ。

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 第2図から羽生は▲4五歩△同銀▲1三歩成△同玉に▲5七桂と打って後手の4五の銀を攻めた。しかし、銀を逃げずに△1八歩成とされ、▲4五桂に△3七銀不成で後手玉の上部を手厚くさせてしまう。

 とはいえ、直後の▲3五歩がさすがの一着で、△3五同馬に▲3三銀で先手の攻めが続いた。△3三同金上は▲同桂成△同金に▲1五角(A図)の金銀両取りが狙い。

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 実戦は▲3三銀に△1四玉で後手の入玉を巡る攻防が展開され、形勢は後手ペースとの評判だった。

 戻って第2図では佐藤が指摘した▲1三歩成△同玉に▲6八角が有力だった。次に▲4六角が王手飛車になる仕組み。▲6八角に後手は△3七銀不成と4六の歩を守るしかないが、▲1七香△1六歩▲2九桂△1七歩成▲3七桂△同馬に▲2六銀(B図)の妙手がある。

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 B図で△2六同馬は▲4六角で狙いの王手飛車が実現する。こう進めば先手が有望だった。

 羽生は「これ、すごくいい感じですね。なるほど▲6八角は気がつかなかったですね」と名人の読み筋に感心しきりだった。

佐藤ペースの終盤

 佐藤も羽生と同様に、コンピュータ将棋ソフトと対戦する可能性が出てきた。現役タイトルホルダーの、しかも名人ともなれば大きな反響を巻き起こすことになる。

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 佐藤は「だからといって自分のやることに違いが出てくるわけではないと思っています。それに(コンピュータとの対戦までは)まだクリアしなければいけないハードルがいくつもありますし。目の前の一局に全力を尽くすしかないのかなと思います」と胸中を語る。いずれにせよ本局の勝者が優勝する確率はふたつにひとつ。今後の動向からますます目が離せなくなった。

 盤上に目を向けよう。羽生が攻めきるのか、佐藤が入玉を果たすのか。白熱の攻防が続く。

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 第3図から羽生は▲1八銀と打って後手の成駒を攻めたが、△同香成▲同歩に△2六銀打で効果が薄かった。

 第3図では▲3三金と打ち、△1二飛に▲1八銀とする手があった。本譜のように△1八同香成とダイレクトに銀を取られない意味がある。以下△4九歩成▲2三金△1六飛▲2七香△同桂成▲同銀△同馬に▲2八銀(C図)と進む。

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 C図ははっきりしない形勢だが、本譜に比べて後手は馬が取られそうな形のため玉の守りが薄い。実戦は入玉を許してしまったために、先手が勝つのは困難になった。

名人が三冠破り決勝へ

 午後6時から始まったニコニコ生放送も、気づけば10万オーバーの視聴数を記録。あらためて本局の注目度の高さがうかがえる。

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 最終盤の第4図。後手が△4二銀と打った場面。▲1二香成△5一銀▲4四桂△3五歩▲3九歩(D図)なら、先手がよしとはいえないものの、本譜よりもアヤがあった。

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 実戦は第4図から▲4二同馬△同飛▲同銀不成に△3八玉で後手玉が捕まらず、ようやく形勢がはっきりした。将棋の駒は前に進むようにできているため、自陣に進入された相手の玉を下から攻めるのが実に難しいのである。

 午後10時11分、佐藤の△6八同成桂(投了図)を見て、羽生が投了を告げた。

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 投了図の後手玉は捕まらない格好だ。対して先手玉は入玉することができず、攻防ともに見込みがない。

 本局は相矢倉から後手番の佐藤が羽生の攻めをかいくぐって入玉に成功した。佐藤が指摘した攻めなら先手が有望だったかもしれないが、今後の研究課題としておきたい。本譜は名人が終始リードして激闘に終止符が打たれた。実戦も感想戦も佐藤の読みが上回ったといえよう。

 激戦の末に力尽きた羽生は初出場の本棋戦を「熱戦が多かっただけに残念な気持ちです」と振り返った。来期以降の出場に関しては「これから考えます」とだけ語った。

 勝った佐藤は決勝三番勝負で千田翔太五段と対戦する。佐藤は「千田さんとは初手合いになります。千田さんはコンピュータ将棋ソフトに詳しいと聞いていますので、どんな将棋になるのでしょうか。精一杯頑張りたいと思います」と最終決戦に向けての抱負を語った。

 現役タイトルホルダーとコンピュータ将棋ソフトの申し子が覇を競い合う決勝三番勝負。今年はどんなドラマが生まれるのだろうか。第1局は12月4日(日)午前10時から行われる。

(観戦記者:内田晶)

 

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