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「人智を超えし者」佐藤天彦 叡王―将棋ソフト PONANZA:第2期電王戦 二番勝負 第1局 観戦記

 プロ棋士とコンピュータ将棋の頂上決戦「電王戦」。

 電王戦への出場権をかけて初代叡王(えいおう)・山崎隆之八段、羽生善治九段らが出場した「第2期 叡王戦」を勝ち上がった佐藤天彦叡王と、第4回 将棋電王トーナメント優勝の将棋ソフト・PONANZAとの対局の様子を、生放送および観戦記を通じてお届けします。

電王戦公式サイト

 電王戦。将棋の棋戦において初のプロ棋士VSコンピュータ戦。5対5の団体戦を経て、現在は棋士の代表一人と世界で最も強いコンピュータが唯一相見える場。

 コンピュータが人智を超えてしまう時―。見たくなかった現実なのか、それとも新しい時代との出会いなのか。将棋を通じて様々な事を考えさせてくれたのが電王戦。

電王戦公式サイトより

 棋士代表は佐藤天彦叡王。昨年、28歳にして当時の羽生名人から名人位を奪取した、将棋界の若き横綱。作法や美を重んじ、人柄は明瞭さを伝える。15歳で己だけを信じて福岡から東京に上京してきた熱い血と、クラシック音楽のような優雅なモノが彼の中には流れているようにも感じる。

 対するコンピュータソフトはPONANZA。通称「ポナ」と可愛いニックネームからは想像できない、圧倒的な強さを誇る最強ソフト。世界コンピュータ将棋選手権2連覇、対プロ5戦5勝、そしてプロ棋士から初の勝利を挙げたコンピュータである。

 その相手こそ私だったが、当時はまだ怪物級ではなく、数ある強豪ソフトの一角に過ぎなかった。しかし開発者の山本一成さんの飽くなき研究と繰り返す失敗は糧となり、下山晃さんとの共同開発も大きな成功を収め、成長を続けた怪物は人間界に降り立った。

 激戦必至の両者の二番勝負の第1局は、4月1日に「日光東照宮」でPONANZAの先手で行われた。佐藤叡王が駒を並べ終わると、伝達された将棋の駒を動かす為だけに生まれた(こう書くと何だか可哀そうな気もあるが)電王手一二さんが丹念に駒を並べ終わり、10時に佐藤叡王が「お願いします」と深々と頭を下げ、視界の先の開発者の山本さんも深々と頭を下げる。無数の取材カメラの閃光が走る中で対局開始となった。

22分の1、ランダムと運命

 PONANZAの初手は22手の選択肢からランダムに選ばれるように設定してあるという。

 これは練習用に佐藤叡王にソフトの貸し出しを行った為、特定の作戦をたてられないようにするという、開発者側の作戦だ。しかし作戦と言っても初手をランダムで選ばせるとは大胆であり、人間ならあり得ないことだ。人間は決断をするとき、何らかの理由がないと行動に移せない。

 例えば22人の内、一人が犠牲にならなければならないときに、その一人をランダムで選ぶなんてことは人間にはできない。できたとしたら非情な独裁者にもなれるだろうか。そして選ばれてしまったその人は、抗えないものに、それが運命だと云うしかない。コンピュータにプログラムされたランダムは、人間の言葉で言うなら運命になる。

 選ばれた初手は▲3八金という手だった。
 佐藤叡王は深くため息を吐いた。

 「これは運命で決められた手」

 そう思ったかどうか―。
 この▲3八金という手は棋士の公式戦では出現したことがない。正真正銘の未知の手だが、悪手かと言われればそうでもない。必然、定跡からは外れ未知の将棋となり、佐藤叡王も序盤から一手一手創造していくよりない。1分間、何かを悟ったようにしていた佐藤叡王は2手目△8四歩と力を込めて突き出した。

「名人に定跡なし」を地で行くモノ

 将棋界には「名人に定跡なし」という言葉がある。これは名人クラスは定跡を指さなくても圧倒的な力で相手をねじ伏せるという意味で使われる。佐藤叡王、当の名人に対して定跡を外して戦う怪物。20世紀までは空想の話だった。

 本局は互いに飛車先の歩を交換する「相掛り」のように進むが、先に動いたのは佐藤叡王だった。△3六飛と飛車で横歩をかすめ取り、「相掛り」と「横歩取り」をミックスさせたような手順を見せる。当然読み筋のPONANZA、▲3七銀から▲4六銀と飛車取りに銀を繰り出し悪くないとみている。共に自信ありの互角の序盤戦となった。

佐藤叡王が先攻

 1図は7筋の歩を突き捨てた局面で、ここから佐藤叡王は△9五歩▲同歩△9七歩と持ち歩を使って端攻めに出る。私が意外に思ったのは後手の佐藤叡王から動いていったことだった。後手番であり、受けに回るのを苦にしない佐藤叡王ならば、本局はじっくりとした将棋で受けに回るのではと思っていたが、相掛りの戦型では玉の守りが薄く、PONANZAの攻めを受ける展開は避けたかったようだ。

 しかし△9七歩に▲6五歩がうまい切り返しで、△同銀には▲5五銀と中央で銀ばさみのような形にされると端攻めがぼやけてしまう。△7三銀とバックさせれば▲9七香と一転受けに回り、佐藤叡王のジャブをPONANZAは軽いフットワークでかわしていく。PONANZAの評価値はここで動いたようだ。

蝶のように舞い、蜂のように刺す

 攻めているのは佐藤叡王だがその表情は苦しげだった。▲9七香と堂々と取られてみるとはっきり優位になる攻めは難しいのである。そこで△9八角▲2九飛△8八歩と苦心の手順を尽くしたのが2図。▲同金なら△8七角成で8筋が突破できて後手が良い。▲7七桂と逃げれば△8九角成としておいて難しい形勢―。これが、佐藤叡王が苦心して到達した読み筋だった。

 しかし、図から▲7四歩という一撃で、その全てが崩れ去る。△同飛は▲8八金があるので△同銀と取るが、そこで▲7七桂と逃げられた局面は驚いたことに後手に指す手がないのである。とはいえこの手順は高度すぎて難しい。検討している棋士も気づかなかった手順であり、わたし自身も5分、10分と経たなければ真意がわからなかった。そして何より局後に佐藤叡王が「見えてなかった」と称賛した手順だった。

 佐藤叡王が△9五歩と攻めて行った以降のPONANZAの手順は「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と言われたボクシングのモハメド・アリ氏のような、綺麗でいて一撃の重さがあるカウンターだった。アリ氏のパンチはあまりにも早く、観戦者は何故相手の選手がダウンしたのかわからなかったという逸話があるが、まさに2図からの▲7四歩がそれだった。

 ▲7七桂とした局面で夕方の休憩に入ったが、佐藤叡王は折れそうになる心を奮い立たせるのに必死だったのではないか。それ程今まで見たことのない厳しい顔をして、日常の彼が嘘のように悲壮感すらも感じさせた。

 休憩明け後、佐藤叡王が△8九角成と攻めを続けるが、▲6六角と反撃されて劣勢は明らかだった。以下△8二飛▲7五歩△7六歩▲7四歩△7七歩成▲同金△9八馬▲5五角(3図)と進んだが、佐藤叡王の攻めは標的を見失ったように空を切り、PONANZAのカウンターはことごとくクリーンヒットしていった。そして以降も為すすべなく71手にてPONANZAに軍配が上がった。

100%勝てない訳ではない

 局後の記者会見では、勝ったPONANZAの開発者の山本さんは喜びを表現し、敗れた佐藤叡王も完敗を認めるも、次局での巻き返しを誓った。お互いにリスペクトしている様子や、真摯に将棋に向き合っている二人の姿は清々しいものだった。

 また局後に山本さんにどの局面(どの手で)でPONANZAの評価値が上がったかと問うと、1図の「△9五歩です、PONANZAは△6二金で互角と見てました」と答えた。△9五歩からの端攻めが無理なことは初めから計算されていたこと、△6二金としても佐藤叡王が優勢になるわけでもなく、やはり勝機を見出せなかった佐藤叡王の完敗だった。

 コンピュータ将棋は人智を超えているのだろうか-。

 コンピュータ同士で将棋を指すと平均手数が200手近くになると言う。人間同士なら120手前後なのでコンピュータの方が断然手数が長い。本局では71手という短手数の決着となったが、無限の思考力を持つコンピュータにとってはまだ序盤の3、4ラウンドだったのかもしれない。それを裏付けるようにPONANZAの本局の消費時間は1時間21分。5時間の持ち時間の内3分の1も使っていない。(佐藤叡王の消費時間は4時間59分)。本当に恐ろしいのは、まだ半分以上の力を残していたということだ。もはや人智は超えていないとする方が難しい。

 果たして5月20日に姫路城で行われる次局、佐藤叡王に勝機はあるだろうか。あるとすれば、PONANZAとPONANZAが対局すれば必ずPONANZA が負けるということ。負けることがあるということは、相手側からすれば僅かでも必ず勝機はあるということ。

 難しいことだと十分承知しているが、次局では僅かでも勝機を見出せることを願っている。

(佐藤慎一)

※棋譜はこちらから

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