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メッセージ(広瀬章人八段)【叡王戦24棋士 白鳥士郎 特別インタビュー vol.20】

 6月23日に開幕した第4期叡王戦(主催:ドワンゴ)も予選の全日程を終え、本戦トーナメントを戦う全24名の棋士が出揃った。

 類まれな能力を持つ彼らも棋士である以前にひとりの人間であることは間違いない。盤上で棋士として、盤外で人として彼らは何を想うのか?

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 ニコニコでは、本戦トーナメント開幕までの期間、ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』作者である白鳥士郎氏による本戦出場棋士へのインタビュー記事を掲載。

 「あなたはなぜ……?」 白鳥氏は彼らに問いかけた。

■前のインタビュー記事
なぜ木村一基は受けるのか?【vol.19】


叡王戦24棋士 白鳥士郎 特別インタビュー

八段予選Bブロック突破者 広瀬章人八段

『メッセージ』

第4期叡王戦 八段予選決勝 野月浩貴 八段 vs 広瀬 章人 八段

 北海道対決、そして同門対決になった予選決勝。
 兄弟子である野月浩貴八段は、北海道を代表する銘菓である『白い恋人』をおやつとして持参。サッカークラブ・北海道コンサドーレ札幌の応援グッズである赤黒のハンドタオルに、北国の新雪を思わせる白いズボン、そして北海道出身の女流タイトル保持者・渡部愛女流王位が『不撓』と揮毫した直筆扇子を携えて対局場に姿を現した(その他にも、靴とベルトもコンサドーレカラーの赤黒であったと対局後にツイッターで明かしている)。

 野月にとって、この日は北海道胆振東部地震以降、最初の対局となる。
 午前の対局で、強豪・阿久津主税八段を相手に意表の中飛車を採用して快勝した野月は、予選決勝の相手が決まると、

『相手に不足なし。さて、夜は北海道を盛り上げてきますか。』

 そうツイートしてファンの気持ちを昂ぶらせた。
 野月のその想いを、弟弟子である広瀬章人八段も真正面から受け止める。
 対局は序盤から難解な局面が続いた。一進一退の、まさに熱戦だった。この日の野月の気迫と集中力は、画面越しにも伝わってくるほど。
 しかし、一瞬訪れた勝機を、広瀬は逃さなかった。

「幸いなことに、親戚も友人も無事だったのですが……」

 局後のインタビューで広瀬はそう語っている。
 東京で生まれた広瀬が北海道に渡ったのは、父の転勤がきっかけだった。北海道札幌市で暮らしたのは、実はわずか4年間 。しかし出身地を北海道としているのは、棋士としてのルーツがそこにあるからだ。
 一人のアマチュア強豪との出会いが、広瀬を将棋に……プロの道へと走らせた。

「新井田さん……ですね」

 新井田基信さん。
 北海道将棋連盟の常務理事・事務局長として『1年のうち363日は北海道将棋会館に通っていた』といわれるほどに、その人生を将棋普及に捧げた人物。
 プレーヤーとしてだけではなく、将棋の技術書も執筆していたことから、北海道のみならず全国の将棋ファンからも慕われる人物だった。
 2010年2月に48歳で急逝。
 自戦記にも書いているが、広瀬は恩師の死を境に、急激に勝ち始めた。そしてその勢いのままに初タイトルとなる王位を獲得。深浦王位を倒した最終局は、千日手局と指し直し局合わせて総手数261手にも及ぶ大激戦だった。
『キミには才能がある』という新井田さんの言葉を信じ続けての、勝利だった。

 新井田さんの言葉に励まされたのは、広瀬だけではない。
 里見香奈女流四冠からタイトルを奪取した渡部愛女流王位も、
『強くなれ。強くなれば道は開ける』
 と記された一枚の年賀状を心の支えに、つらい時代を戦い抜いた。
 それは亡くなる1ヵ月前に新井田さんから送られた年賀状だった。

 熱い将棋魂が宿る大地・北海道。
 そんな北海道時代のことを、広瀬はこう語る。

広瀬八段:
 新井田さんはもちろんですが、他にもいろんな北海道の強豪に鍛えてもらいました。一例を挙げれば、清水上徹さんとか、渡辺俊雄さん……横山大樹くんともちょっと被ってて。

 新井田さんは運営もやっていて、選手兼運営という感じで。将棋は、かなり粘り強いところがありました。今もその影響が自分にも残っているのではないでしょうか。

──ご自身も含め、北海道の子供たちに大きな影響を与えた?

広瀬八段:
 新井田さんのような熱心な指導者がいるのといないのとでは、かなり違ったと思います。新井田さんは北海道で奨励会を受ける子供にとっては、けっこう厳しい指導者で……私はまあ、人伝にしか聞いてないんですけど、子供にもかなりはっきり言うらしいんです。『キミは受かんないんで(奨励会受験は)やめたほうがいいよ』とか。

──ですが広瀬先生は、逆に『もっと早くタイトルを』と。

広瀬八段:
 それは言われましたね……。

『将棋めし』作者の松本渚さん(中央)
(ニコニコ生放送で中継された盤外企画「将棋棋士がつくる将棋めし」より)

──広瀬先生といえば、ドラマにもなった漫画『将棋めし』の監修をしておられますし、他にも『PRICE 女流棋士飛翔伝』という将棋漫画も監修しておられました。どんなきっかけで漫画の監修を引き受けられたのでしょう?

広瀬八段:
 そうですね。そういうお仕事のお話をいただいた、というのが一番大きな理由でしょうか。

──『PRICE』では、本人役として漫画にもご登場なさっておられます。

広瀬八段:
 ですね(笑)。もちろん事前にご相談いただいてますので。個人的にはけっこう嬉しかったです。

──将棋世界の巻末の4コマ漫画にもご登場なさっておられますよね。

広瀬八段:
 ええ。

──ただ、ご本人の性格とはちょっと違うキャラになっているような……。

広瀬八段:
 ははは。アレですよね? バトルさんの。

──はい。バトルロイヤル風間先生の『月刊バトルロイヤル』です。

広瀬八段:
 ま、バトルさんはそれがカラーかなと思ってますから。

──怒ったりすることはないと……。

広瀬八段:
 おおらかなので(笑)。

──そうでしたか。実は、ライトノベルの世界でも、広瀬先生の『振り穴王子』という異名から着想を得て、タイトルを決めた作品がありまして。

広瀬八段:
 あ、そうなんですか?

──アニメ化もされて、非常に人気のある作品です。作者が大の将棋ファンで、本人もアマ三段くらいあって、ツイッターのアイコンも振り飛車穴熊にしてるくらいです。将棋世界で高橋道雄先生と対談したこともあるんですが……。

広瀬八段:
 へぇー。どんなタイトルなんですか?。

──ちょっと言いにくいんですけど……。

広瀬八段:
 はい。

──(非常に申し訳なさそうに)『変態王子と笑わない猫。』っていうんですけど……。

広瀬八段:
 ははははははははは! それは知りませんでした(笑)。

──でしょうね。さすがに怖くて言えてないって、本人も言ってましたから。

広瀬八段:
 ははははは。

『変態王子と笑わない猫。』(著:さがら総 イラスト:カントク/MF文庫J刊)1巻表紙
©さがら総

『変猫で2010年にデビューしたのですが、同年の王位戦挑決の羽生広瀬戦が、広瀬五段(当時)の振り穴王子全盛期を象徴する名局だったと個人的には思います。』作者・さがら総先生のコメント

──まぁ……それくらい、衝撃を与えたんだっていうことだと思うんです。広瀬先生が、振り飛車穴熊という戦法で、23歳という若さでタイトルを取られたということは。

広瀬八段:
 ええ。ええ。

──その時の盛り上がりというのは、生活が一変するような……。

広瀬八段:
 そうですねぇ。やっぱり変わりましたね。もちろん立場というのもそうですけど、いろんな……タイトル保持者としての役割がありますから。生活がガラッと変わりました。

──髙見叡王よりもお若いときにタイトルを取られたわけですが、その様子をご覧になって、ご自身の時のことを思い出すようなことはありましたか?

広瀬八段:
 確かにちょっとありましたね。

 若い世代の棋士が突然タイトルを取ったりすると、その同世代の棋士にも大きな刺激を与えるというか。そういう反応が起こっているのを見たので、『ああ、自分がタイトル取ったときもこんな感じだったんだろうな』って。

──その髙見叡王とタイトルを争ったのが、広瀬先生と同世代の金井先生でした。

広瀬八段:
 そうですね。普段の対局でも、年下と当たる事が増えてきてますからね。段々とそういう世代になって来たんだなと思います。

──そういう刺激があって、今期の躍進に繋がっておられるのでしょうか? 竜王戦は挑戦者に、叡王戦も本戦ですし、棋王戦と王将戦も…………複数冠になるチャンスがあるわけですが。

広瀬八段:
 まあ、竜王戦以外はまだ挑戦者になれるかもわかりませんから(笑)。

──そういえば広瀬先生といえば王位戦がお強い、つまり夏に強い印象があったのですが。

広瀬八段:
 結果的にそうなってますね。

──今回は冬に忙しくなりそうな気配です。

広瀬八段:
 対局で忙しいのは、棋士としてありがたいことですから。やりがいはあります。

──下の世代が急速に追い上げてきている状況だと思うのですが、まだまだ強くなれると感じておられますか?

広瀬八段:
 急激に強くなったりすることは、ないとは思うんですけど……そうですね、戦い方だったり、引き出しは多い方がいいと思うので。そういうところも意識しながらやっています。

──戦法のバリエーションなどを増やす、ということですか? 振り飛車党だった広瀬先生が、居飛車も指されるようになった時のような……。

広瀬八段:
 と、いうか……やっぱり30代になってくると一方的に攻めて勝つみたいな展開にはなりづらいので、懐の広さを身につけるとか、そういうところですかね。

──髙見叡王の印象など、教えていただけますでしょうか。

広瀬八段:
 閃き型、という感じでしょうか。普通は思いつきづらいような手をよく拾ってくる印象があります。

──戦うとなれば、どんな対策を?

広瀬八段:
 やっぱりその閃きは注意しないといけないので。持ち時間を残しつつ……というところでしょうか。それは他の本戦出場者に対してもそうなんですが」

──竜王戦で挑戦者になられたことから、広瀬先生のインタビューというのは、これから世の中にたくさん出ると思うんです。

広瀬八段:
 はい。

──ですから今回、私のインタビューでは、将棋を知らない方にも興味を持っていただけるようなものにしたいなと。そこで、ちょっとうかがいたいことがあるのですが……。

広瀬八段:
 ええ。

──2017年の将棋年鑑でのアンケートに、会ってみたい有名人で『久保裕丈さん』と答えておられます。あれはやっぱり……。

広瀬八段:
 ああ。あれは『バチェラー・ジャパン』という番組があって……ご存知ですか?。

──恥ずかしながら存じ上げなかったので、1話だけ見ました。(Amazonオリジナル番組。第1話は無料で視聴できる)

広瀬八段:
 なんか、ドロドロした番組というか(笑)。

──そういう感想なんですか(笑)。

広瀬八段:
 最初はね。もともとあれを見てたのは私じゃなくて、妻なんです。

──ああ、奥さまが。

広瀬八段:
 こういう番組があるんだよって。第1話を見た時は、正直あんまり……すぐに見なくなるような番組かなって思ったんですけど。

 でも回が進んで行くごとに、結果も気になりますし。バチェラー役の久保さんの人格も素晴らしくて。そこに引き込まれて……っていう感じです。

 

 ここで『バチェラー・ジャパン』という番組について少し説明しておこう。
 全米で大人気の番組『The Bachelor』の日本版で、バチェラーと呼ばれる1人の独身イケメン男性が25人の美女の中から運命の相手を選ぶという、恋愛サバイバル番組だ。
 久保裕丈氏はその初代バチェラーであり、番組では毎回最後に久保がバラを渡すことで、勝ち残る女性が決まる。

──確かに久保さんは、バラを渡す相手にもそうなんですけど……むしろバラをもらえなかった人に対して優しく、スマートな印象を受けます。

広瀬八段:
 そうですね。第1話でもそうですし、回を重ねるごとにそこが際立ってきます。

──これから広瀬先生も、24人のうちの1人になって髙見叡王へのサバイバルを繰り広げるわけですが……。

広瀬八段:
 ははは。

──何か、そういった久保裕丈さんのスマートな振る舞いが、将棋に活かせたりするかなと思われたのですか? それで会ってみたいなと?

広瀬八段:
 いやー。ただ単純に番組として楽しんでいたんですけどね。あれを見たからといって恋愛が上手になったとか、そういうことはないかと思います(笑)。

──なるほど(笑)。広瀬先生は麻雀の番組にも出られたり、先ほども漫画の監修の話などもありましたが、そういう将棋とは別の世界との繋がりを通して、何か将棋にプラスになるものを得ていると感じておられますか?

広瀬八段:
 そうですねぇ……自分は割と、将棋とその他で頭を切り換えてしまう部分はあります。

 ただ、麻雀に関しては、勝負事ということで将棋と通じる部分はあると思っていて。そういうところでは……意識はしていませんが、影響しているかもしれません。

──切り替えて集中するタイプなんですね。

広瀬八段:
 いわゆる、オンとオフを切り替えるタイプという感じでしょうか。

──『バチェラー・ジャパン』は奥さまの影響でご覧になられたとのことですが、やはりご自身としても、結婚して変わった部分があるとお考えでしょうか?

広瀬八段:
 そうですね。独身時代ではまず考えられなかったことでしょう。

──新しい刺激に満ちた生活ということでしょうか? 結婚生活は。

広瀬八段:
 刺激に満ち溢れていますね(笑)。

──その刺激や変化が、最近の好調に繋がっておられる?

広瀬八段:
 何かを大きく変えたというわけではないんですが、最近は成績もいいので……やっぱりそれは、結婚したおかげなんだと思います。

パスを受ける広瀬八段(白いユニフォームの選手)
(ニコニコ生放送で中継された盤外企画「【将棋棋士】東西対抗フットサル大会」より)

 対局の翌日、広瀬の姿は山形県天童市にあった。
 将棋の街・天童。そこをホームタウンとするサッカークラブ・モンテディオ山形は、数年前からホームゲームで将棋のコラボイベントを行っている。
 それは兄弟子である野月が、大事に大事に育ててきたイベントだ。
 残念ながら今年は欠席となってしまった野月だったが、誰よりも信頼できる弟弟子に、自分の代わりを託した。まさに『相手に不足なし』だ。

■関連記事:
【山形県天童市・将棋×サッカーコラボイベント】開催報告(日本将棋連盟)

 このイベントを取材し続けてきた将棋好きのサッカーライター・頼野亜唯子氏は、当日の様子をこう語る。

頼野氏:
 今回は、指導対局、特別公開対局、トークショー、将棋教室とぎっしりのスケジュールでしたが、合間の休憩時間にファン(サッカー将棋ファンに将棋オンリーファンが混じっている感じ)が先生方を囲んでサインを頼んだり一緒に写真を撮ったり。広瀬先生に限りませんが、みなさん終始にこやかに応じていらっしゃいました。こんなに気軽に棋士のサインをもらえていいのか?と心配になるくらいでした。

 公開対局は、将棋の駒形のピン(?)を倒すキックボウリングによって対局者と解説者を決めたのですが、広瀬先生はあえなく、一つも倒せずに佐藤慎一五段とともに解説に回りました。広瀬先生は佐藤先生から『昨日遅くまで対局だったから足が疲れていたんですよね』と慰められていました(笑)。

 

 佐藤は、「今日は野月さんがいないので、広瀬さんが代役として司令塔を任されています」
 とファンに向かって挨拶し、集まった人々を楽しませ、広瀬を慌てさせた。
 野月はさらに、対局が終わったその日の深夜、コラボイベントに集まったファンへのメッセージと試合展開・スコア予想を書いて広瀬に託していた。
 兄弟子に託されたメッセージを携えて、広瀬はイベントで多くの将棋ファン・サッカーファンと触れ合った。

 そして広瀬は叡王戦の本戦へと進む。
 将棋界を、災害に苦しむ北海道を盛り上げてほしいという兄弟子のメッセージを携えて。
『キミには才能がある』という、亡き恩師のメッセージを携えて。


 ニコニコニュースオリジナルでは、第4期叡王戦本戦トーナメント開幕まで、本戦出場棋士(全24名)へのインタビュー記事を毎日掲載。

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