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10年後の挑戦(都成竜馬五段)【叡王戦24棋士 白鳥士郎 特別インタビュー vol.15】

 6月23日に開幕した第4期叡王戦(主催:ドワンゴ)も予選の全日程を終え、本戦トーナメントを戦う全24名の棋士が出揃った。

 類まれな能力を持つ彼らも棋士である以前にひとりの人間であることは間違いない。盤上で棋士として、盤外で人として彼らは何を想うのか?

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 ニコニコでは、本戦トーナメント開幕までの期間、ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』作者である白鳥士郎氏による本戦出場棋士へのインタビュー記事を掲載。

 「あなたはなぜ……?」 白鳥氏は彼らに問いかけた。

■前のインタビュー記事
なぜ及川拓馬は子育てをしつつ強くなれたのか?【vol.14】


叡王戦24棋士 白鳥士郎 特別インタビュー

五段予選Bブロック突破者 都成竜馬五段

『10年後の挑戦』

 まさに、将棋を指すために生まれたような青年である。

 都成竜馬。

 竜と馬は将棋における最強の駒であり、また『都』というのは将棋盤の中央・5五の升目を意味する。『成』はもちろん、駒を裏返してパワーアップすることだ。
 四文字の名前の全てが将棋に関連し、連結した、美しいその名前に惹かれた人物がいた。

 谷川浩司九段。

 十七世名人の資格を持つ、不世出の名棋士である。
 都成の誕生日が1月17日……自らの人生観に大きな影響を与えた阪神淡路大震災の日であったことも、谷川が縁を感じた理由だった。
 谷川はその著書『ちょっと早いけど僕の自叙伝です。』の中で、とても嬉しそうに、都成竜馬という名の弟子を取ったことをファンに報告している。

 都成の経歴は輝かしい。
 小学生名人戦優勝。永世名人・谷川浩司の唯一の弟子。実家は宮崎県で乳業会社を営んでいる。
 おまけにルックスまでいい。従兄弟は海外で活躍する俳優だ。
 極めつけの伝説は、奨励会三段という立場で新人王を獲得したことだろう。史上初の事態であり、連盟がその対応を検討する必要に迫られたほどだった。
 だが……奨励会時代は16年の長きにわたる。
 同期の仲間たちが棋士になれずに去って行く中、都成は26歳の年齢制限【※】ギリギリで昇段を決めた。

※年齢制限
満21歳の誕生日までに初段、満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなかった場合は退会となる。ただし、最後にあたる三段リーグで勝ち越しすれば、次回のリーグに参加することができる。以下、同じ条件で在籍を延長できるが、満29歳のリーグ終了時で退会。 (日本将棋連盟・奨励会規定より

 もし私が、将棋を題材にした実写ドラマを作るのであれば、迷わず都成を主役にするだろう。
 それだけ彼の人生はドラマチックだし、華がある。

 本戦抽選会から数日後。
 インフルエンザに罹患して療養中の都成に、これまでと、そしてこれからのことを電話で尋ねた。

都成竜馬五段

──よろしくお願いします。

都成五段:
 あ……お願いします。

──ご病気にもかかわらず、インタビューを受けていただきありがとうございます。

都成五段:
 いえ、とんでもないです……。

──都成先生は、予選から勝ち上がっての本戦入りは一番乗りでした(9月3日)。そこから次々と本戦メンバーが決まっていったのですが、どういうお気持ちでその様子をご覧になっていましたか?

都成五段:
 もちろん他の方の対局は見てましたけど……ただ、自分が本戦に入った時点で、シードの方々とかも圧倒的に自分よりも上の方々ばかりでしたし……。

 だから、誰が上がってくるかは、特に意識はしてなかったですね。

都成五段の叡王戦本戦初戦の相手は郷田九段(インタビュー記事はこちら

──そうでしたか。本戦の相手は郷田九段に決まりましたが、いかがですか?

都成五段:
 どなたと当たっても厳しいと思っていたんですけど、やっぱり郷田先生は、自分が小さい頃からトップで指されている先生ですし。

 もちろん、東西が違うので初めて教えていただきますし。

 対局も、楽しみ……とは、素直に言えないですけど(笑)。はい。

──郷田先生といえば、都成先生のお師匠様である谷川先生とも鎬を削られたわけですが……。

都成五段:
 そうですね。

──そういう先生方とも戦うようになったということについて、どんな感慨をお持ちですか?

都成五段:
 師匠がタイトル戦などで戦われた対局というのは、もう、ずっと見てきましたし……。

 そういう方と公式戦で対局できるのは、感慨深い……というのもあるんですけど。

 ただ、自分の実力では『教えていただく』みたいな感覚がまだ抜けない気がしています。

──都成先生の棋風は、基本的には振り飛車党? ということでよかったのですかね?

都成五段:
 んー……。

──対局を拝見していると、あまりこだわってはおられないようにも見えますが……。

都成五段:
 そうですね。あまり振り飛車党、居飛車党という括りには、こだわっていないというか。

──奨励会の頃から、独創的な『都成流』という戦法があるとうかがっております。独創性を追求しておられるのですか?

都成五段:
 どちらかというと、もともと、いわゆるガチガチの最新型といわれるものを指すのは、あまり好きではない……というか、得意ではないと言ったほうが正しいんですかね。

──得意ではない、というのか? 昔からそうだったのですか?

都成五段:
 もともとずっと振り飛車党だったんですよ。小学生から奨励会三段までは、居飛車は全く指さずに。

 振り飛車だと、わりと出たとこ勝負という感じにはなりやすいというのがあったんですけど。

 ただ……振り飛車で、ちょっと行き詰まってという時期が、三段であったので。

 そのときに試行錯誤して、居飛車を試して……今に至るんですけど。

──そうだったんですね。行き詰まって、というお話がありましたが、都成先生は10歳の頃に小学生名人戦で中村太地先生に勝って優勝され、奨励会に入られました。エリートコースのように見えるのですが……壁にぶつかったと思っておられる時期は、いつ頃なんでしょうか?

都成五段:
 壁ですか? うーん……。

──そういうのは、なかったですか?

都成五段:
 いや。もう壁、壁……壁しかなかったです(笑)。

──はははは!

都成五段:
 ふふふ。現在も壁、壁、壁って感じで(笑)。

 あんまり順調に来たって感じがしないので。壁というか……どちらかというと、順調に上がってきた時期というのが……。

──ない?

都成五段:
 棋士になって2年目ですかね。竜王戦と順位戦で上がることができたのは、自分の中では、実力以上の結果が出せたかな? というふうには思っているんですけど。

 しかし。そのあと負けが込んだ時期もありましたし……。

 基本的には……わりと、その…………ネガティブな、感じなので(笑)。

──そうなんですね(笑)。

都成五段:
 ふふ。常に壁を感じてます(笑)。

──都成先生は奨励会時代が16年間という長い期間にわたりました。気持ちが切れてしまった瞬間などは、あったのでしょうか?

都成五段:
 うぅー…………ん、そうですね。気持ちが……。

 やっぱり三段リーグという、自分にとって厳しい場で、(プロに)なれないんじゃないかと思ったり、現実逃避みたいなことは数多くありました。

 けど……気持ちが切れたというのとは、少し違うのかもしれませんね。

──そういう瞬間は、なかったということなんですかね?

都成五段:
 不安になったりしたことはありましたけど、いろんなことを犠牲……じゃないですけど、将棋にやっぱり懸けてきたので……。

 切れかけたことはあったと思いますけど。はい。

──完全に切れてしまったことは、なかったと。

都成五段:
 そうですね。

──切れかかってしまった時に、気持ちを引き戻すというか、繋ぎ止めることができた理由とは、何だったのでしょう?

都成五段:
 うぅー…………ん。

 ……………………何でしょうねぇ?。

 ただ本当に、最後の三段のリーグの時は……それまではプロになれなかったら終わりというか……極端な話、死ぬ、ような感覚でしたけど……。

 いろいろ考えて、最後は『なれなくても、一つの人生かな』と、いい意味で考え方を変えることができたかな、とは。

──気持ちをそうやって切り替えられるきっかけは何だったのでしょう? やはり新人王戦の優勝ですか?

都成五段:
 新人王戦はかなり前のことだったので。あまり、最後の期のときには、新人王を取ったからという意識はなかったですけど。

 やっぱり、現実的に物事を考えてみたとき。

──はい。

都成五段:
 いざ、年齢制限を迎えてみて。プロになれない……けっこうリアルなことを……『宮崎に帰るのかな?』とか、いろいろと考えてみると……。

 まあ、それはそれで。悪い人生じゃない、というのが(笑)。

──なるほど。

都成五段:
 もちろん、プロには、ずっと……目標にしてきたので。つらかった部分もありますけど。

 そういうふうに現実的に考えたときに、比較的『自分は恵まれている』と思えたのかなと。

──そういう気持ちの変化は、将棋にも変化として現れるのでしょうか?

都成五段:
 そうですね。それがかえって、変に現実逃避とかしなくなったので。たとえば……ゲームを(笑)。

──はい。

都成五段:
 10時間(笑)。

──はい(笑)。

都成五段:
 やるとか、そういうことはなくなったというか。しっかり朝起きて、将棋をやるという(笑)。

──ふふふ。

都成五段:
 生活をできて。悔いは残らないように頑張れたかな? と思いますね。その時期は。

──ただ、以前インタビューで『他の人は奨励会は二度と経験したくないと言うけど、自分はやり残したことがあるから、生まれ変わってももう一度チャレンジしたい』とおっしゃっておられました。

都成五段:
 タラレバですけど、もう1回チャレンジできれば、自分の頑張り次第ではもっと早くプロになって、もっともっと……。

 やっぱり、プロになる年齢とかも大事だったりすると思うので。自分に将棋の才能があるなんて全く思ったことはないんですけど、それでも、もっと頑張っていれば10代でプロになって、同世代で活躍している人がたくさんいますけど、そういう人たちのライバルのようなポジションでやれてたのではないかな、というふうに……思ったりは、します。

──でも都成先生も……今回の叡王戦で本戦に出ていらっしゃいますし、新人王戦で優勝できる人なんて数えるほどじゃないですか。そんな人が、そんな……。

都成五段:
 ……もちろん、自分の夢というか、目標としては……タイトルを目指したい、というか。

 取りたいというよりも、タイトル戦で戦いたい、という憧れに近い気持ちなのかもしれませんけど。プロとしては、そこを目指していかなければいけないと思うんですけど。

 ただ……プロっていっても、タイトルに、客観的な見方だと、タイトル保持者やタイトル経験者としてこれからタイトルに絡んでいける人と、そうではない人は、けっこうわかれているような気がします。言い方は難しいんですけど……。

 プロ間の評価とか、見てるファンの方々の評価とか含めて、タイトルに絡めるかどうかというのは、あると思うんですけど……。

 それを考えると……今の自分では、夢のまた夢。厳しい、とは正直思いますね。

──それは、回り道してしまった時間があるからなんでしょうか?

都成五段:
 それはやはり、どうしても大きいと思っています。

──それを取り返すことはできないんでしょうか? 難しいんでしょうか?

都成五段:
 やはり、かなり大変なことかな……と。

詰将棋の創作を趣味としている及川六段(インタビュー記事はこちら

──及川先生にお話をうかがったんです。本戦に出場する中で、詰将棋創作をされる先生方の、作品の傾向について。

都成五段:
 はい……?。

──都成先生は天才派だと。

都成五段:
 え? いや、お恥ずかしい(笑)。

──たくさん作品を創るわけじゃないけど、奇抜な、都成先生にしか創れないような作品だと。誰にも思いつかないようなものを創るという意識を常に持っておられるのですか?

都成五段:
 ああ……詰将棋を創る技術というのは、そんなにないというか。数も少ないですし。

 ただ、わりとそういう……構想とか一手を考えるのは好きというか。

 自分としては、そういう奇抜な手を入れたいというのが、こだわりとしてあるかもしれないですね。

──斎藤先生、藤井先生、都成先生の中では、都成先生が最も独創的だと。

都成五段:
 いやぁ……そういう作品、創れるように頑張ります(笑)。

 素材とかはけっこうあるんですけど。ただ、作品へと完成させるだけの技量がなかなか……あと時間がどうしても自分の場合かかっちゃうので。そんなに取り組めていないんですけども。

 でも、そう言っていただけると、なんか……ふふふ。光栄です。

──これは私の勝手な印象ではなく、及川先生がおっしゃったことですからね(笑)。ところで、詰将棋を創るようになったきっかけはあるのでしょうか?

都成五段:
 詰将棋自体は、小学校のとき……奨励会に入るか入らないかの頃から、遊びで創ったりしてました。すごくしょうもない問題とかですけど。

 創ったりして遊んでたので、その頃からですね。で、奨励会の頃は、全くやらない時期とかありましたし。たまーにやってみると面白くて、その……夜更かししてしまったり(笑)。

──夜更かしをね(笑)。

都成五段:
 徹夜して1問完成して、とか(笑)。割に合わなかったんですけど……ずっと好き、ですかね。

──そうだったんですね。お師匠様に見ていただいたことなどは?

都成五段:
 見せられるほどの作品ができたら見ていただきたいんですけど……でも、なかなか、まだ……。

──投稿はしておられましたよね?

都成五段:
 詰将棋サロンには投稿したことがあります。詰将棋パラダイスにも出してみたいな、というのはあるんですけど、なかなか……中編とか、何本かあるんですけど。ちょっと、『うーん……』みたいな問題しか、まだできてなくて。

──ご自身の中で、納得できない?

都成五段:
 そうですね。いくらいい構想を思いついても、それを作図する力というのは、なかなか……。

 たまに斎藤くん(慎太郎七段)に相談したら、すごくいいアイデアをもらったり(笑)。

──なんと(笑)。

都成五段:
 そういうことがあるので、地道にやっていこうと。はい。

──お話をうかがっていると、自分に厳しいというか……。

都成五段:
 いや、自分には甘いです。

──では……言葉は悪いんですが、自己評価が低い、という感じなんでしょうかね?

都成五段:
 ああ、自己評価は低いですね(笑)。

──とはいえ、五段予選に勝って本戦に出場というのは、昨年の髙見叡王が辿ってきた道と重なります。

都成五段:
 あっ……そうですね。そういえば……。

──髙見叡王の誕生というのは、どうご覧になっていましたか?

都成五段:
 髙見さんとは東西が違いますし、年は離れていますけど、一緒に食事をさせていただいたりしていますから。素直に『すごいなぁ』と思って見てました。

 プロになったのもあちらの方が早かったですし。悔しいという気持ちはもちろんなかったですし……嬉しい、と言うと、ちょっと変ですけど……。

──祝福するような感じですかね?

都成五段:
 そうですね。ただやっぱり、髙見さんと金井さんの番勝負が決まったときには、お二人とも初めての番勝負というのがあったので……。

 努力していれば、きっとチャンスが……お二人は努力してチャンスを掴まれたので。だから、励みにはなりましたね。

 ただ自分は今……一回戦のことしか考えられませんが。

──でも、タイトル戦に出たいという夢は……。

都成五段:
 ……そうですね。持ってます。

師匠・谷川浩司九段の「歩々是道場」という揮毫が入った扇子を紹介する都成五段

──最後に、お名前のことについて……これまでも散々聞かれてきたとは思うんですが。

都成五段:
 そうですね。よく、名前負けしてるとは(笑)。

──いやいや(笑)。変な質問なんですけど、竜と馬だったらどっちがお好きなんですか?

都成五段:
 それ、子供の頃に考えたりしてました。

 竜だと、正式な名前は『竜王』じゃないですか? でも馬は『竜馬』なので。だから馬かなって(笑)。でも、まあ、特に……。

──好きじゃないと。では、一番好きな駒は何ですか?

都成五段:
 プロになってからよく聞かれるんで、いつも『香車』って答えてるんです。

──香車。

都成五段:
 理由付けをすると、やっぱり一番、取り残されてしまうことが多い駒……っていうことですかね。

──それが理由なんですか!?

都成五段:
 ちょっと、かわいそうな……(笑)。

──初めて聞きました、その理由(笑)。

都成五段:
 詰将棋的な理由だと、遠くから香車を打って中合いを出す、という問題を創るのが好きなので。解くほうは好きじゃないんですけど(笑)。

──取り残されて、かわいそう。だから好き! というのは……意外な発想です。

都成五段:
 かわいそうというか……取り残されちゃうこともあるけど、やっぱり、すごく活躍することもありますし。

 好きな駒、強いてあげるなら……香車が一番、ドラマがある人生を歩んでいるような気がしますけどね。

──ただ我々ファンは、ドラマチックという意味では、都成先生にこそそれを感じてしまうのですが……。

都成五段:
 ふふ。じゃ、そういうことで(笑)。

 ……都成のインタビューを終えた私には、もう一人、どうしても話を聞きたい人物がいた。
 竹内貴浩指導棋士四段。
 元奨励会三段。関西所属で、同期には稲葉陽八段と……都成竜馬五段がいる。
 杉本昌隆七段の一番弟子であり、つまりあの藤井聡太七段の兄弟子に当たる人物だ。
 現在は東海地方全域で将棋普及に携わり、コーチを務める名城大学将棋部を全国有数の強豪校に育て上げるなど、指導棋士になって順調に結果を残し始めている。

 私が竹内と初めて出会ったのは、岐阜市で名人戦が行われたときだった。
 佐藤天彦名人に、同期の稲葉が挑戦。その対局の控室に、竹内はやって来た。
 同じく関西の奨励会三段だった池田将之氏が将棋世界で連載中の『関西本部棋士室24時』という記事で、私は竹内が年齢制限により奨励会を退会した、その顛末を知っていた。
 その連載の、その記事に激しく心を揺り動かされたことが、『りゅうおうのおしごと!』を書くきっかけになっていたから……。

 初対面の竹内に、私は自分の挫折を語っていた。法曹の道を志して12年間も大学に通った挙げ句、試験に落ちたこと。恩師の法律事務所で下働きをしながら作家として一本立ちできないまま、家族を立て続けに亡くしたこと……。
 初対面の男の言葉を、竹内は静かに聞いてくれていた。
 その後、竹内は私の取材を受けてくれるようになり、自身の奨励会時代のことや、将棋教室の運営について親切に教えてくれていた。

 だが今回、私は竹内に話を聞くべきか迷っていた。
 奨励会を退会せざるを得なかった竹内に、奨励会同期で、プロ棋戦で本戦に入った都成について尋ねるというのは……傷を抉ることになるのではないか?
 同じように竹内も、指導棋士という立場の自分がプロ棋士と同じ記事の中で何を語っていいのか、躊躇している部分があった。

 探り合うようにメールで連絡を取った私たちは、数時間後、電話で話をしていた。
 話題は、4年半前……奨励会を退会した竹内の、慰労会のことだった。

──池田さんの記事に載っていた集合写真があったじゃないですか。都成先生が、竹内先生にじゃれるみたいに、後ろからしがみついてて。

竹内氏:
 そうでしたね。はい(笑)。彼は人懐っこいタイプで……私は奨励会同期ですけど、少し年上なので。甘える、というか。

──あの時は、都成先生はもう早い段階から号泣だったと……。

竹内氏:
 そうですねぇ。先に泣かれてしまって……私は豊島さんとかと顔を見合わせて笑ってしまいました。『こっちが泣きたいわ!』って思いましたね(笑)。

──都成先生は本当に寂しかったんですね。

竹内氏:
 都成さんは、私が……生まれてから一番たくさん将棋を指した相手なので。

 ライバルでもあり……もう、戦友というか。一番仲いいし、一番負けたくない相手だったので。都成さんの勝ち負けを一番意識してました。『あいつが頑張ったら、俺も頑張ろう』みたいな感じで……。

 彼もそういうふうに思ってくれてたんだとしたら、自分がいなくなったことで、ライバルが急にいなくなったみたいな感じで……ちょっと、つらかったのかもしれませんけど。

──そうだったんですね……。

竹内氏:
 だから彼が四段に上がった時……最終日の前に昇段を決めたんですけど……関西将棋会館で昇段を決めたとき、自分も仕事をすぐ終えて駆けつけたんです。やっぱり、自分が昇段したくらいの嬉しさでしたから。

 自分が、夢を……達成したくらい、四段になれたくらい嬉しかったですし。だからプロになって活躍してくれてるのも、すごく嬉しいというか……。

──竹内先生からご覧になって、都成先生の将棋はいかがですか?

竹内氏:
 もう昔から自由にというか、自分の色がすごく出る将棋で。常にアイデアを持ってるんですよね。

 研究会もよくやったんですけど、いつも彼が新しいアイデアを出して来て、自分がどう対応するかという将棋になることが多くて。プロになってからも『都成流』という自分のアイデアを出してくれていってるんで、私は嬉しくて……。

 私からしたら、羨ましかったですね。『こんなに自分の色を出せるなんて』と。

──都成先生は、奨励会時代にした回り道を気にしておられるようでした。都成先生と一番多く、同じ時間を過ごされたのは、竹内先生だと思います。そのときの回り道というのは……本当に、取り返しのつかないものなのでしょうか?

竹内氏:
 ……たとえば、自分の話になってしまって恐縮なんですけど、そういう経験というのも、人生というか将棋を指すうえで決してマイナスにならないのではないかと思うんです。

 最近、瀬川さんだったり今泉さんだったり、もう一度プロを目指された方々の気持ちが……ちょっとわかるようになったというか。

 奨励会という場所から離れて、自分を俯瞰してみたときに、『ここをこうしたほうがよかったな』とか、身近な奨励会員の子たちを見てて『ここはもっとこうしたらどうだろう?』とか……合ってるかどうかはわからないですが、見えてくるものが出てきたんですよ。だからそれを試したいなという気持ちがあります。

 そういうことは、ちょっとたまに思うようになってきましたね。具体的にどう生きるかというと、難しいんですけどね(笑)。

──そうですね。難しいです。何が結果に繋がるかは……。

竹内氏:
 でも私は、都成くんたちにも言いましたけど……。

──はい。

竹内氏:
 自分ら30歳くらいですけど、今、彼らに挑戦しても勝てない。でもあと10年くらいしたら、プロになった同世代も衰え始めると思うんです。

 そのときに自分が、アマチュアとして全国で優勝して、プロ棋戦に出て、落ち目の彼らをやっつけに行こうとは思っていて。

──ええ!?

竹内氏:
 10年後に、都成くんが弱くなってたら、現役復帰した私がいっちょやってやろうかと。

 だから彼には叡王を取って、タイトル保持者として待ってて欲しいですよね!『10年後、倒しに行くから!』と。

──それは本当に……素敵な目標だと思います。本当に……。

竹内氏:
 将棋って、不思議で……最近、藤井さんの効果で『将棋を久しぶりに始めてみたんだよ』っていう人がたくさんいらっしゃるんです。そういう方々って、すごく楽しそうに指されていたり、『また感覚が戻ってきて楽しくなってきたよ』っていう方が多くいらっしゃるんですよ。

 だから何歳になっても強くなれるんじゃないかって。そういうのも人生の経験値なのかもしれませんけど、年代によって自分の良さを出して戦っていけば、強くなれるんじゃないかと思ってるんです。最近は。

──10年後きっと、もっと強くなれると。回り道は決して無駄じゃなくて、それを生かすことで、都成先生にだって……。

竹内氏:
 俺が倒しに行くぞ、と。実は、こっそり夢として思ってるんです。だからプロになった同世代の仲間たちには、今のうちにどんどん活躍しててほしいです。そうすれば……。

──箔が付きますからね(笑)。

竹内氏:
 ええ。倒したときにエバれるんで(笑)。

 

 ……竹内と話しながら、私は泣きそうになっていた。
 かつて竹内は私に、奨励会を退会になった直後の気持ちを語ってくれたことがあった。
 携帯電話を捨ててどこか知らない場所へ行きたいと思ったことを。
 絶対に将棋をやめてやろうと思っていたことを。
 指導棋士として活動を始めて、将棋の勉強を再開してからも、竹内は「今さら将棋が強くなっても、虚しいだけなんですけどね……」と寂しげに語っていた。
 その竹内が今、笑いながら夢を語っている。
 将棋の夢を。
 10年後に、もっともっと将棋が強くなっていたいという夢を。

 そしてその夢を語らせたのは……他ならぬ、都成なのだ。

 竹内は、こっそり胸に秘めていた夢を、インタビューで私に語ってくれた。
『叡王戦24人の棋士』を竹内は全て読んでくれていた。
 この発言が記事として世に出たらどう受け取られるか、将棋界に疎い私でも、さすがに想像がつく。
 だが竹内は全てを私に委ねてくれた。何を書いてもいいと。記事を事前に確認する必要もないと。

 だから私には義務がある。
 竹内の言葉を、そこに込められた想いを、熱を、夢という名の叱咤激励を……全力で記事にして届ける義務が。

 そして都成竜馬にも、義務がある。
 竹内に夢を抱かせた以上、彼はそれを果たさねばならない。

 叡王となって、10年後の竹内の挑戦を待つという、義務が。


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