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コミケや二次創作ができなくなる!? 「著作権の非親告罪化」という大問題【山田太郎と考える「表現規制問題」第1回】

安倍総理の“フライング答弁”から事態は急転

山田:
 甘利大臣は、「一律に全てを非親告罪にしてしまえ、という議論はあまりよろしくないというところから共通ルールにしようと交渉している最中です」と答えています。下村文科大臣は、当時の議論の中で「一律に非親告罪化することは適当ではないという旨が文科審議会での結論において出されている」ということを自分の口からではなく、審議会の結論をなぞって答弁するにとどまりました。この段階では、ご両人ともあまり深刻には考えていないなぁという印象だった(苦笑)。その後一気に問題が急展開し、8月に解決の方向に向かっていことになるのですが、それが8月10日の安倍総理に対する質問です。参議院の決算委員会で質問したのですが、面白いことが起こった。

赤松:
 うんうん。

山田:
 いろいろと安倍総理に対して質疑通告を出していたのですが、 質問していないにもかかわらず最後に、「TPP交渉における著作権侵害の非親告罪化については、二次創作の委縮などの懸念も踏まえ、権利保護と利用促進のバランスを取りながら共通ルールの構築を目指し交渉に当たっております」というフライング答弁とも言える聞いていないことを答えてしまった! 答弁の後、安倍総理は笑って私の席まできて、「聞いてないのに答えちゃった」と恥ずかしそうに話してくれました(笑)。結果として、このフライング答弁を機に問題が解決に向かっていくことになるわけです。

智恵莉:
 なるほど~。

山田:
 あと、ここで大きな話題となったのは、「二次創作」という言葉が国会で出てきたこと!

赤松:
 (笑)

智恵莉:
 コミックマーケットにとどまらず、ついに二次創作という言葉まで飛び出した(笑)。

赤松:
 じゃあ次は「カップリング」とか言ってほしいなぁ!

山田:
 余談ですが、「コミケ」「二次創作」ばかりに注目が集まりますが、著作権の非申告罪化の問題ってビジネスユースのほうがはるかに問題なわけです。例えば新聞などでも「こう書いてありました」と、そのままコピーして引用してしまうことなどもあるわけで。この問題は、本来アニメやゲームだけではないんですよね。

赤松:
 TPP全体の問題の中の一部、さらにその一部である「二次創作」などの言葉がわーっと広がっていったのがスゴイですよね。

山田:
 国会議員が一人いれば騒げるし、一つのきっかけになるという事例ですね。

赤松:
 山田先生が騒いでくれたおかげでネットでは “TPP =コミケ”なんて誤解する人が出てくるぐらいでしたからね(笑)。

智恵莉:
 狭い認識になってしまったという(笑)。

山田:
 でも、それぐらいやらないと守れなかったという事態だったんですよね。「どうせコミケでしょ!? 別によくない?」というように規制される可能性があった。ところが方向転換した……あれほどまで関心の薄かったことに対して、なぜ急速に流れが変わったか? というと、ここがまさにネットを含めたメディアでも出てきていないところなんです。

赤松:
 ほうほう。どんなことが?

8月の答弁までに敷かれていた戦略の数々

山田:
 実は、8月までの間、私はTPPの担当交渉官と相当やり取りをしていました。私自身、この当時は農林水産委員を務めており、国会では農業関係専門で活動していた背景があります。農業とTPPの関係は深く、とりわけ関税の問題に関しては農林水産委員会として、ものすごく紛糾しているような状況でした。 私は参議院の農林水産委員会のオブザーバーとして理事会などに参画していたので 、政府とやり取りする機会が多かったんですね。その際、政府の方から実際に「どのような交渉になっているのか」ということを一部、説明を含むリークという形で聞かせてもらった。その中に、ある審議官がいて、驚いたことにたまたま彼が僕の高校の先輩だった! そんな人的なつながりもあって、彼が「山田さんには農業関係のことをリークするよりも、表現系の方がいいんだよね?」と言ってきてくれたんです。その方を介してTPPの交渉を進めるにあたり、意見のやり取りを裏側で行っていたという事実がありました。

山田:
 本邦初公開ですが、意見の交換を行った後にこちらのフリップにあるように、TPPの内容に注釈が付けられるようになりました。TPP本体があったとしても、注釈をつけることで留保ができたり、逃げ道を作ったりすることができるようになったわけです。どういう注釈をつければ、著作権の非親告罪化に対して、コミケが影響を受けないかという議論をしていたんですね。「故意によるもの」「商業的規模ではないもの」「原作物(原作者)などの収益に大きな影響を与えないもの」であれば、著作権の非親告罪ではなく、親告罪のままでいいのではないか……いうことが固まりつつあった。日本の法律というのは建築基準一つとっても極めて細かい内容に分かれています。

赤松:
 たしかに。

山田:
 諸外国とやり取りをする場合は注釈を付けないと、法律などの考え方がアタッチしません。この注釈に関しては、当時の官僚の方々が相当知恵を絞って、日本がTPPによって大きな影響を受けないように死に物狂いになって注釈をつけていた。TPPに参加する国の中で、最も注釈が多かったのが日本というくらいでした。作戦だったのかもしれませんが、海外の審議官が注釈が多くて読みきれないっていうぐらいです(苦笑)。結果的に、これが大きく効いてくることになるのですが、いわゆる海賊版以外は親告罪でいいと。つまり著作者が訴えなければ二次創作であっても問題なし。これまでと同じように扱うという流れになったわけです。

智恵莉:
 それはいつくらいのお話でしょう?

山田:
 スケジュール的に言えば6月の段階でわりと固まりつつあったという感じです。私はそのことを知っていたので、8月の安倍総理に質疑をしたわけです。総理に質問できるというのは、最後のタイミングです。「TPPの影響を受けてしまうからごめんね!」って言われたらそれでおしまい。確実に総理の口から「大丈夫です」という言葉を引き出すためには、どのタイミングで総理に質疑をするか……それが8月の段階だったというわけです。そして、10月に大筋合意に至ったという次第です。

山田:
 とは言え、不安がないわけではない。条文(法文)に落ちたときに、変な法律になっていないかという恐れがある。法律のレベルにおいても、著作権の非親告罪化が二次創作、コミケに影響がないということを約束させることが重要。最後の段階では赤松先生にも登場していただき……おそらく赤松先生もその前の段階から自民党の先生方といろいろお話はしていたとは思いますが(笑)。

赤松:
 あともう一つ、著作権問題の非親告罪化は、TPP以外にも何度も日本に押し寄せている外圧なんです。以前にもありましたし、今回の件、そしてこの先また押し寄せるかもしれない。ですから、いろいろな人たちから言質を取り積み重ねていくと”いざ”というときに勝ちやすい。その都度、アナウンスしていく必要があると思うんですよね。

MANGA議連で馳文科大臣からお墨付きをもらうために!

山田:
 締めの部分も説明しておきたいのですが、マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟(通称・MANGA議連)というのがありまして、アニメーターの待遇改善とマンガ、アニメ、ゲームを守るためにナショナルアーカイブセンターを作ろうという二つの動きがあります。そこで私は事務局長代理を担当しているのですが、たまたま事務局長が出れなかったときに、私が代理として司会を担当する仕切れる機会を持ちました。馳文科大臣(当時)、会長の自民党・古屋圭司先生、コミケの準備会メンバー、様々な大物の学者・先生方、さらには閉ざされた国会内の議論で後で「言った言わない」というのは避けたかったのでNHKも呼んでおきました。

赤松:
 なんでいるんだろうと思いましたよ(笑)。

山田:
 いやいや(笑)。何をしたかったかというと、国会内における官邸と交渉官を含めた内閣府の動きとしては良い流れになったものの、いまいち文化庁が理解していないのではないか? という疑惑があったんです。

赤松:
 なるほど。

山田:
 文化庁の担当官を自分の部屋に呼んで議論をしたところ、「??」みたいな顔をしているわけですよ。これはやばいな、と。

赤松:
 TPPできちんとしたのに、国内法に落とし込むときに理解していないとなると、また問題が再燃化する可能性がありますもんね。

山田:
 この法文を作る担当が文科省の中の文化庁。そこに著作権課というのがある。ですから、著作権課がこの一連の流れを知らないのはよろしくないですから、森著作権課長以下数名を呼んだわけです。ところが、さきほど話題に上った審議官が出席者リストに入っていると思ったら入っていない(苦笑)。彼は先述した注釈などを交渉してきた人物ですから、この人が来なかったらせっかく交渉官として二次創作を守るために詰めてきた内容がおじゃんになってしまうかもしれない。そんなわけで慌てて前日に声をかけたんですよ(笑)!

赤松:
 そんなことがあったんですか(笑)!

山田:
 予定を全部変更して、MANGA議連に来てくれました(笑)。審議官としての交渉の過程を彼からお話ししていただき、馳さんに「二次創作の影響がないように」ということで、NHKもいる目の前で文科大臣としての正式に支持をしてもらったわけです。ここまでしっかり踏まえておかないと、動かないんですよね。(しみじみ)

赤松:
 はい(笑)。

コミックマーケットは「コンテンツのゆりかごである」

山田:
 1年かけて危篤寸前だったコミケ、二次創作の世界が息を吹き返すことができたのかなぁと。いろいろな人たちの努力もあり、自民党サイドには赤松先生も働きかけていたわけですから、皆が持てる力を総動員して、このような形になったと。実際に赤松先生はこういった動きの中で、どのような心境だったのですか?

赤松:
 この件に関しては、あまり利権が被っていなかったことも大きかったと思います。お上が規制したいのはエロ、グロ、暴力。著作権に関しては特にお金が回るものではないですから、議員の方々がすごく良心に従った判断をしてくれたと思っています。

山田:
 とは言え、放っておいたら解釈通りの勝手な条文が作られていた可能性があるから怖い(苦笑)。

赤松:
 そうそう! 興味ないんですから(笑)。

智恵莉:
 利権は関係ないけれども、そもそも認識がなっていない、と。

山田:
 ですね。権利者側、特に権利関係が強いアメリカ側からすればじわじわと締め上げておきたい部分はあると思う。あまりにも日本型じゃないというところがあったので、きちんと作っておく必要もあった。それがうまくいったケースですね。

赤松:
 もう一つ僕が言いたいのは、これまでは出版社がコミケや二次創作に関して無視を決め込んでいました。知ってはいるけどコメントはしない。文化審議会だったけかな? とうとう出版社がコミケに関して、「コンテンツのゆりかごである」と正式に言ったんですよ。あのときコミケの人たちがすごい幸せそうな顔をしていたんですよ(笑)。

山田:
 そうだよね。

赤松:
 それまでは見て見ぬふりをして、いないものとされてきた。でも、実際には新人作家たちのゆりかごであるというのは事実なんです。それを正式に言ってくれたのは、気持ちの良いことですよ。

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