“10億の企画”を通す戦略をゲームクリエイター松山洋が語る「実績を積むしかない。10年かけて10億のタイトルを立ち上げるつもりでやる」
昨年11月、「NARUTO-ナルト- ナルティメットヒーロー」シリーズや「.hack」シリーズの開発で知られるサイバーコネクトツー代表取締役社長・松山洋氏による著書『エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの-』が発売されました。
本書は、2006年に眼球摘出手術を受ける少年による、「『.hack//G.U. Vol.2 君想フ声』の続きを遊びたい」という望みを松山氏が知ったことをきっかけに、発売前のROMを直接届けに行ったという、ノンフィクション作品です。
そんな松山氏が過去に出演したニコニコ生放送から、Vジャンプ編集のサイトーブイ氏、ファミ通編集の世界三大 三代川氏、ニコニコ運営長の中野真氏を交えて、リメイク作『.hack//G.U. Last Recode』をリリースした経緯や、ゲームクリエイターが企画を通す為の方法論を語る様子をお届けします。
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思い出補正があっても、今PlayStation2のゲームって遊べない
(画像は株式会社サイバーコネクトツー公式サイトより)
松山:
ちょうど今年で15周年記念として(2017年当時)『.hack//G.U. Last Recode』というPlayStation4のゲームを2017年11月に発売しました。10年前のPlayStation2の「.hack//G.U.」をHDリマスターして、全3巻だったものに新しいVol.4のエピソードを追加しています。あくまでVol.4はエピローグなので短いです。
一応10年前に作品そのものは完結しているのですが、最後の忘れ物を取りに行くという話です。2年前に開発着手したのですが、今PlayStation2のゲームって遊べないですよ。思い出補正もあるんだろうけれど、当時のテンポの悪さ、それと戦って死んだらセーブしたところからやり直しなんですよ。10年前ならそれが普通だったんですけれど、今のPlayStation4のゲームで考えると、さすがに耐えられないですね。
(画像は公式サイトより)
その場でコンティニューするか、チェックポイントのところからやり直すとか。今は選択肢があるじゃないですか。そういう当たり前の部分をちゃんとやらないと「PlayStation2のときはこうだったから」というのは通用しないです。だからすごく直しましたね。アニメーションの速度もそうだし、アクションRPGなので殴ったり斬ったりしているときの手応えだったり、音の感じ、倒して得られる経験値の量とか、殴ったときに出るダメージ量。
昔は結構しょっぱいダメージ量だったりするんです。いくら序盤とはいえ、与えるダメージが2、3とかで、数字の分母が頼りないみたいな(笑)。もうちょっとやっている感が欲しいじゃないですか。その辺は、ほぼほぼ全部に手を入れました。10年前の思い出を持ったまま遊んでもらえると、割と快適に遊んでもらえるかもしれません。
(画像は公式プロモーション映像より)
サイトーブイ:
リマスターというと、それこそレンダリングだけみたいなことを思われたりしますが、それだけではなく完全に調整もしているということですよね。
松山:
完全にです。テクスチャの解像度も上がっていますし、ムービーもHD化まで全部やりましたので、本当にファミ通さんの方にいわれましたけれども「こんなに非の打ち所がない作品ははじめてですよ」って。
サイトーブイ:
誰だろう。
松山:
誰かはいいませんけれどね(笑)。今回はやりきりましたね。Vol.4が入っているよというだけではなくて、みなさんが期待している部分は、期待に応えられる内容になっていると思います。
ゲームの初期投資は、リスク的にどんどん広がっている
中野:
リメイクの作品はゼロから作るのと、どういう違いがありますか。
松山:
全然違いますよ。
中野:
全然違うと思うのですが、リメイクはリメイクならではの大変さがあると思います。
(画像はAmazonより)
松山:
思い出補正ってあるじゃないですか。お客様が当時PlayStation2ですごく遊んで「面白かった」と思ってくれていたとしても、現代で遊ぶと「こんな不親切だっけ?」というくらい不親切なので、その思い出にちゃんと対等に向き合わないといけないので、ほぼほぼ作り直さないといけないのが結構大変。
そもそもオリジナルをゼロから作るのと、HDリマスターって、開発にかけていいお金と時間がスタート地点から違うんですね。果たさないといけない責任も全然かわってくるので、オリジナルは……なかなか今はゼロからは難しいです。
中野:
売上とかも考えると……。
松山:
そうです。「売れるかどうかわからないけれど、とりあえず10億ください」って言っているのと同じだから。プロデューサーはサラリーマンなので、会社に対して約束しなきゃいけないのは、「10億を預けてくれたら、この企画で儲けてみせますから僕に投資してください」っていうのを会社と約束するわけじゃないですか。
その投資に見合うだけの説得材料を持って来い、というのが企画書じゃないですか。そしてビジネスプランという戦略用の紙が必要になってくると思うんです。「10億の投資を必ず回収できます」っていう説得力のある書類って、誰が書けますか。
世界三大 三代川氏:
10億を獲るためにはどのあたりまで必要なんですか。書類プラスアルファ版みたいなものを作るのですか。
松山:
ものによりますが、今は最終的な本開発といわれている、いわゆるプロダクションと呼ばれる開発があるのですが、それの前に行われるプリプロダクションと呼ばれている、ざっくりというと昔で言う1面が作られているみたいなものです。
要するに、もう作ったからゲームがどういうもので、どういう面白さがあるかというのが必ず確認できる。「よし、これはOK」「本開発に進もう」となる。
ところが10億の予算だとしたら、本開発にだいたい8億~9億、プリプロダクションに1億~2億。今はさらにプレプリプロダクションみたいなものを作ります。だって昔は1億だって、それで1本で勝負していたわけですから。最初に1000万とか2000万とかで、「1ステージ作らなくていい、キャラクターの体が豆腐みたいなものでもいいから、ジャンプアクションでこれが気持ちいいっていうところだけでいいから見せて」という感じです。
企画にかからなくても、今のテクノロジーで「本当にできる?」というところもあるじゃないですか。だからそれを説得する材料というのは、段階にもよるのですが、細かくしています。
サイトーブイ:
10億だったらそうなりますよね。1億、2億の段階で止める勇気も必要でしょうし。
松山:
そうですね。プリプロダクションで1億、2億かかるというのを信じてもらえるのも、会社だったりプロデューサーだったり信頼があるから「やってみろ」といってもらえるだけで、普通だったら「上限は5000万だよ」「潰すかもしれないのにそんな大金出せるかよ」といわれます。
もちろん潰す気はないですけれど、怖くてやってられないじゃないですか。ゲームは最初にかかる初期投資というのが、リスク的にどんどん広がってきているんです。私の知る限りだとコンテンツを売り出すという意味合いでいうと、漫画や小説というのは究極の個人作業で、最小単位で世の中に売り出せるコンテンツだと思っています。だから漫画って好きなんですよ。
ゲームはお金も労力もかかるとなると、だいたいどこの会社がやっても1人とかでは無理なんですよ。どこの会社も15人~20人でプリプロダクションを作ったりとかする。そうなると、その時点でそこそこのお金がかかるじゃないですか。