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『ダンケルク』etc…アカデミー賞候補に実話モノが増えた理由を評論家が解説「実際に起こった事は映画化しやすい」

広く知ってもらうためにはエンターテイメントの力が必要

立川:
 映画では賄賂をもらおうと思っている人とかを直接的に描かずに、なぜ外側から映像化されたりするのでしょうか。直接起こった事件ではなく、外側から追いかけている人を主人公にしたりとか。

松崎:
 理由の一つとして、その事実だけを描いても劇的にならないからです。脚本というのは、人々が共感するような流れにしています。しかし実際の事件はそれが物語になるかどうかわからない。

 自分たちが事件に対して調べていく人がいたり、事件にかかわった人が真相を明かしていくとか、観客の代わりに物語を追いかけていくから見られるけれど、事実だけを見せても、果たして映画として面白いものになるかどうかという問題ですね。

 事実をそのまま見せるには工夫が必要だと思うんです。

笹木:
 たとえば『沈まぬ太陽』は、取材もされていて事実に基いているとは思うんですが、脚色もされているじゃないですか。あれはジャーナリズムなのですか。

松崎:
 ジャーナリズムになるのではないですかね。山崎豊子さんの作品は売れているけれど、意見は分かれます。時代に合わせて描かれたものが多いので、時代が変われば読まれない可能性も出てきます。

立川:
 ジャーナリズムによって描かれたものは時代によって評価が変わったりしますか。

松崎:
 そうですね。みんな熱があるうちは、いろいろな視点のものを描こうとするのですが、興味がなくなれば事実は忘れ去られると思いますよ。だって次から次に新しいニュースが出てきますからね。

 逆にそういうのを風化させちゃいけないというように、ドイツなんかは毎年のようにナチスの映画を作っているんだと思います。

立川:
 作り手側の目的としては、映画の内容が面白ければいいんですかね。

松崎:
 そうでもないんですよ。たとえばコスタ=ガヴラスの作品の『ミッシング』という映画があります。

画像は『ミッシング [DVD]』Amazonより。

松崎:
 この人は常に事実を映画化しているんですよ。『Z』『告白』『戒厳令』というギリシャの政情が腐敗している様子を撮った三部作があります。

画像は『Z [DVD]』Amazonより。

松崎:
 これはカンヌ映画祭で賞を取ったのですが本国のギリシャでは上映禁止になりました。つまり、告発したいために作った映画というのがあるんです。

 事実を積み重ねて再現ビデオのように映像を作ることによって、世界の人に知ってもらって、ギリシャっておかしなことになっていないか? と知ることになるのは、ジャーナリズム的だと思います。

スタッフ:
 世界の人に広く知ってもらうためにはエンターテイメントの力を借りないとだめだっていう話ですよね。

公開後、条約が変更に。ジャーナリズム的エンターテイメントがもたらしたもの

松崎:
 あと『ミッドナイト・エクスプレス』という作品はまだオリバー・ストーンが脚本家だった時代の作品です。トルコで麻薬を持って国を出ようとしたアメリカ人が捕まっちゃうんです。トルコは麻薬を持っていると重罪で、刑務所から出られなくなったという話です。

画像は『ミッドナイト・エクスプレス [Blu-ray]』Amazonより。

松崎:
 これも実際にあった話で、彼がいかにしてそこから脱出するかという話です。この映画をきっかけに海外で不当に逮捕された人の条約を見直すことになりました。

 これはまさにジャーナリストが取材をして文章を書いて世の中の制度を変えていくというのを映画でやったということです。

笹木:
 こうやって映画にすることによって、他の犯罪の抑止力になったりするという一役を買ったということですよね。エンターテイメントとしてのジャーナリズムの一つの形ですよね。

松崎:
 世の中には映画にそのようなことが必要あるのか? という人もいます。オリバー・ストーンは、映画の中にジャーナリズムを持ち込むのはよくないんじゃないかと、常にそこを攻撃されています。

 オリバー・ストーンと同時代にデビューしたキャスリン・ビグローという『ハート・ロッカー』でアカデミー賞を取った女性監督がいるのですが、彼女は最近『ゼロ・ダーク・サーティ』というオサマ・ビンラディンの暗殺を描いた実話ベースにした作品を撮っています。

画像は『ゼロ・ダーク・サーティ スペシャル・プライス [Blu-ray]』Amazonより。

松崎:
 オリバー・ストーンは主観的だといわれていますが、キャスリン・ビグローの作品はオリバー・ストーンよりも公平な視点でジャーナリスティックなものを、フィクションなんだけれども魅せる作品をこれからも手がけていくのじゃないかと思います。

立川:
 たとえば、ある事件が発生してから、それが映画化されていくまでにどれくらいの時間がかかるのですか。

松崎:
 いろいろですね。1年後すぐに映画化されたものあります。アメリカは早いんです。

 最近の映画で最後に写真が出てきて「実際はこうでした」みたいな映像は賛否両論あるのですが、アメリカの映画のすごいところは、遺族に許可を取っているところなんです。

 日本で少ないのは、それをやらないからなんです。ハリウッド映画はそこの手順をちゃんと踏めるというので、すごいなと思いますね。

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