『クロノ・トリガー』テーマ曲は一度ボツになっていた!?――作曲家・光田康典が語るスクウェア名作RPGテーマ曲の誕生秘話
前代未聞! ゲームの完成が音楽待ちに…
サイトーブイ:
曲はすんなりとできたんですか。
光田:
全然です。2~300くらいのスケッチをしたんです。当時はネットワークのことがわかっていなくて、バックアップを取っていなかったんです。それでハードディスクがまるまる壊れて、スケッチしていた音がなくなっちゃったんです。それで結構精神的にやられちゃって、しかも締め切りも迫っていて、さすがにこれはまずいと思って毎日あまり寝ずに仕事をしていたら胃潰瘍になっちゃったんです。
それを見かねて植松さんが助っ人に入ってくれるということもありました。
世界三大 三代川:
以前の雑誌のインタビューで光田さんが答えているものがありますので読みます。
(インタビューを読む)坂口さんに「鳥山さんの絵を考えるな」「部屋に貼ってある鳥山さんの絵をすべてはがせ」といわれて、頭を切り替えて全然違う曲を作り直したんです。結局完成したのはアップギリギリ。
前代未聞の音楽待ちでゲームが完成しなかった。でも遅れただけのものはできたんじゃないかな。
光田:
音楽待ちでした。前代未聞ですよね。まあ怒られましたね。
サイトーブイ:
『クロノ・トリガー』は最初から音楽的な評価は高かったんですか。
光田:
よく聞かれるのですが、当時は今みたいにインターネットがなかったんです。評価というとデバックから上がってくるシートの中に感想欄があって、何人かの方が「音楽がすごく素敵です」というのはありましたね。
ゼノギアスで印象に残っている曲
世界三大 三代川:
質問を読みます。(メールを読む)『ゼノギアス』の曲の中で一番印象深い曲や一番苦労した曲は何ですか。
光田:
エンディングの歌ものはすごく苦労しましたね。何度データを捨てようと思ったか(笑)。
サイトーブイ:
納得がいかない感じですか?
光田:
何かピンとこない感じです。何回かやって、時間がなくってきたんです。あとはスタジオで注ぎ込んでいくしかないと思ってやったのですが、どんどん想像していたものに近づいてきたんです。
最後の最後、歌が入るまで、どうなるかわからなかったです。自分の技量では足りなかったので、いろいろなミュージシャンに相談したりして、そういう意味では思い出深い曲でもありますね。
平社員がやりすぎだといわれ「ファンの方に救われている」
光田:
そうやってやらせていただいたのですが、いろいろいわれました。今だからいえますが、一平社員の作曲家がやりすぎだと。声に出していわないのですが、回り回って耳に入ってくるんです。
僕はいいものを作りたい一心で、自分が目指している音楽を最後まで作ることが仕事で重要だと思ったので、何をいわれてもいいかなと思っていました。
サイトーブイ:
いろいろやると、そうやっていってくる人はいますよね。
光田:
いいんです。それによって変わっていくというのが重要です。最初に新しいことをやると、この業界に限らず大概叩かれるじゃないですか。
サイトーブイ:
それで悔しいと思う人も出てきて。
光田:
そうですね。相乗効果も生みますしね。互いに向上していくのが会社にとっても良いことだと思います。だから僕はいわれても何とも思わなかったです。
サイトーブイ:
その結果、今でもこれだけの濃いファンがいますもんね。
光田:
本当にファンの方々に救われています。これで評価が悪かったら散々なことをいわれていたんだろうなと思います(笑)。ファンの方の「感動しました」という言葉だけで、本当にやって良かったなと思いますね。
ー関連記事ー
『クロノ・トリガー』音楽担当・光田康典がスクウェア入社面接を振り返るーー植松伸夫に「お前それ禁句だよ」と言われた理由とは
ー人気記事ー
『ソードアート・オンライン』シリーズ恒例“アスナとキャッキャウフフ”シーンの企画書をゲームPが公開「生々しいことも書いてありますね(笑)」