『クロノ・トリガー』テーマ曲は一度ボツになっていた!?――作曲家・光田康典が語るスクウェア名作RPGテーマ曲の誕生秘話
『クロノ・トリガー』『ゼノギアス』などのゲーム音楽を担当した作曲家の光田康典さんが『ゲーム界隈井戸端会議』に出演しました。
スクウェアに入社後、『ファイナルファンタジーV』の効果音を担当していた光田さん。光田さんが『クロノ・トリガー』の作曲を担当することになった経緯をVジャンプ編集のサイトーブイさん、ファミ通編集の世界三大 三代川さんに語ります。
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「僕はこのままでいいんだろうか」
光田:
効果音も大好きなのですが、僕はこのままでいいんだろうかという思いはありました。仕事はすごく楽しくて、一ヶ月に一回家に帰ればいいというくらい、会社で仕事をするのが楽しかったですね。近場の銭湯とかに行ったり、着替えも家に取りに帰るのが面倒なので一式持ってきて、完全に泊まり込みでした(笑)。
世界三大 三代川:
そのあとに作曲に携わるようになったのですか。
光田:
そうですね。会社が『ファイナルファンタジーⅤ』『ファイナルファンタジーⅥ』『聖剣伝説』などが大ヒットして、僕と赤尾(実)さんだけでは手に負えなくなってきたんです。僕も作曲家でやっていきたいという思いがあったので、坂口(博信)さん【※】に曲を書かせてくださいと直接いいました。
そうしたら「『クロノ・トリガー』という作品を企画しているので、それがもし正式に動くようになったら書けばいい」といわれました。それで、効果音やマニピュレーターが分業できるように僕の方でいろいろな人を手配しますといって、スクエアの中で効果音チーム、マニピュレーターチーム、サウンドプログラマー、作曲家という分業制がはじまったんです。
※坂口博信
『ファイナルファンタジーシリーズ』の生みの親。長年スクウェアの開発トップとして『FF』シリーズ、『クロノ・トリガー』などの制作を主導した。
『クロノ・トリガー』の打合せに鳥山明が…
光田:
僕は遠回しにやるのが好きではなくて、いいたいことがあればちゃんと本人にいわないと嫌なタイプでした。たぶん坂口さんは「何をしにきたんだ?」と思ったでしょうね(笑)。でもそこでいわなければ、今の自分もなかったと思います。いうのはタダですし、あとは怒られてすみませんっていうだけなので(笑)。
世界三大 三代川:
『クロノ・トリガー』のドリームプロジェクトはご存知だったのですか。
光田:
全然知らなかったです。
世界三大 三代川:
『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』が一緒になるというすごいプロジェクトでした。
光田:
あれはびっくりしました。まさかそんなゲームになると思っていなくて。
世界三大 三代川:
いつ気付いたんですか。
光田:
堀井雄二さん【※】と鳥山明さんが来られて全員でミーティングをしたときに、あれっ? と思いました。
※堀井雄二
ゲームデザイナー。『ドラゴンクエストシリーズ』のシナリオライターである。
光田:
鳥山明さんからイラストをいただいて、これを元にテーマ曲を書いて……ミーティングのときにカセットデッキを持っていって、鳥山明さんと堀井雄二さんの前で曲を聞かせたんです。
光田:
ミーティングのあとにプロデューサーの青木(和彦)さんから、「松任谷由実さんは300万人くらいの人が聞くだろ? 今回のプロジェクトは、それと変わらない人数の人が聞くから、そのつもりで曲を書いて」といわれました。そのときに、さっき聞かせた曲はボツなんだと思いました。
この曲はお蔵入りにしていたのですが、やっぱり最初に鳥山明さんのイラストをいただいたときにパッと出てきたイメージに一番近いので、忘れた頃にしれっとこの曲を持っていったんです。そうしたら最初にプレゼンしたはずなのに、これはいいね! っていわれました(笑)。
やっぱりゲームを作っていくうちに、だんだん『クロノ・トリガー』の世界観が構築されていくんです。そこではじめてメインテーマが流れてきたときにイメージが合致するんです。だから最初の何もない状態でプレゼンしてもポカーンとしちゃうから、忘れた頃にまた出す(笑)。
サイトーブイ:
その技は最近もやられたりするんですか。
光田:
よくやります(笑)。音楽の聞き方って、インドネシアやブラジルとか旅行に行って現地の音楽を聞くと、風景と音楽がマッチして気分が高揚するんです。そこでCDを買って帰って、家で一人でサンバを聞いても意外に盛り上がらない。それと同じで、みんなのテンションが同じ方向を向いたときに出すものを出さないとプレゼンは通らないですね。