『クロノ・トリガー』音楽担当・光田康典がスクウェア入社面接を振り返るーー植松伸夫に「お前それ禁句だよ」と言われた理由とは
「コンピュータに可能性は感じていた」
光田:
そこから東京の短大に入りました。そこではじめてエニックスさんで桜庭統のマニピュレーターの仕事をしたりしました。
短大の最後の1年で就職はどうする? という話になって、ちょうどエニックスさんで仕事をしていたときにファミ通さんの雑誌が置いてあって、師匠(山貫憲彦)がペラペラめくって見ていたんですが、スクウェアが作曲家の募集をしていたんです。
師匠に「ゲーム好きだし応募してみたら?」といわれて応募したんです。そうしたら面接までいって受かって、そのままスクウェアに入社しました。
もしあの場所にファミ通が置いてなければ……だからファミ通さんには頭が上がりません(笑)。
一同:
(笑)
光田:
そういう意味では運がよかったのだと思います。全くゲーム雑誌に興味がない師匠がそのページをめくらなければ、この話はなかったはずなので、本当に偶然ですね。
世界三大 三代川:
この時点では光田さんはゲーム音楽も好きな範疇に入っていたのですか。
光田:
入っていましたし、コンピュータの進化を見ていたら、ゲームはこれからすごいことになるなという予想はしていました。
サイトーブイ:
『ファイナルファンタジー』など、スクウェアのソフトは好きだったのですか。
光田:
最初、植松(伸夫)さん【※】と面接をしたときに、「『ファイナルファンタジー』はやった?」と聞かれたのですが、「やってないです、でも『ドラゴンクエスト』なら知っています」と答えました(笑)。
※植松伸夫
スクウェア初期作品(PCゲーム、ファミコン、ディスクシステム等)や『FF』シリーズの大半の曲、『クロノ・トリガー』の一部の曲など、約30作のゲーム音楽を手掛ける。
一同:
(笑)
光田:
僕、本当にそのときはわからなかったんです。
「じゃ違うゲームで何かやったことある?」と聞かれたので、「『クルーズチェイサー ブラスティー』とか『アルファ』とか、PCゲームはやったことがあります」と答えたら、「お前それは禁句だよ」といわれました(笑)。
一同:
(笑)
光田:
その面接の帰り道では絶対に落ちたと思ったんですが、あとで植松さんに聞いたら、それが逆に面白かったらしいです。そういうふうに植松さんにおおらかに見てもらえたから、よかったのかもしれませんね。
植松さんが走って僕のブースまで入ってきて…
世界三大 三代川:
面接以外でデモテープを送ったりしたのですか。
光田:
何度か送りました。
世界三大 三代川:
それが響きつつ、キャラクターも面白くてという感じだったのでしょうか。
光田:
どうなんですかね。当時、伊藤賢治さんと菊田裕樹さんがいたのですが、二人のキャラクターと被らないように選んだんだと思います(笑)。
世界三大 三代川:
入社してからは、最初はコンポーザー(作曲家)ではなかったんですよね。
光田:
そうですね。『ファイナルファンタジーⅣ』を渡されて、最初から最後までプレイしなさいといわれました。
だから最初の1週間はずっとゲームをしていました。それで、ちょうど『ファイナルファンタジーⅤ』を作っているので、それの効果音を担当してほしいといわれました。
光田:
オープニングの飛竜の鳴き声を作る過程で、当時は誰も鳴き声系は作れなかったんです。
ちょうど向かい側が植松さんのブースだったのですが、壁が薄かったので僕が作った飛竜の鳴き声が植松さんのブースまで聞こえていたんだと思います。植松さんが走って僕のブースまで入ってきて、「いまのは何だ!?」って(笑)。
光田:
「これは鳴き声だろ? そのままでいい」っていわれたのが印象に残っています。走ってきたので何事だと思っていたのですが、よくよく聞いたら何カ月も鳴き声が作れなかったみたいで、みんな試行錯誤していたみたいです。
当時FM音源でゴジラの鳴き声を作ったりしていたので、だいたいの音の感じがわかっていました。与えられた波形とツールで、こうすれば鳴き声っぽくなるだろうなという感じで作っていましたね。
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