【N高校】庵野秀明×川上量生による特別授業の模様を公開「受験勉強ってやりすぎると、バカになるんですよ。人間として頭が悪くなりますね」
受験勉強のやりすぎは頭が悪くなる!?
川上:
受験勉強ということで言うと、今になって良かったと思っているのが高校のとき、数学が得意だったんですけれど、大学受験の数学ってあまり勉強しなかったんです。それが今数学を勉強していて、あの時受験数学なんてやらなくて良かったなと思うんです。
受験勉強ってやりすぎると、バカになるんですよ。あれは絶対にやっちゃいけないなと思いますね。みなさんは絶対にやったほうがいいんだけど(笑)、あれに人生の時間を費やしてしまうと、人間として頭が悪くなりますね。そこは気をつけたほうがいい気がします。
川上:
人間の賢さと受験での点数って必ずしも一致しないんです。どういうことかと言うと、たとえば中学高校のときに仲の良い友人が10人くらいいて。僕は頭の良い子と付き合うのが好きだったんです。だから、僕の友達はみんな頭が良かったはずなんですが、その子たちって誰一人、大学を卒業しなかった。
入学したのが半分で、卒業したのがゼロ。みんな頭が良すぎたんですよね。クラスの中にいた、こいつは本当に頭が悪いなっていう子たちが大学に行って卒業した。頭が良すぎると、勉強の馬鹿らしさに気付いてしまう。
正確には勉強は馬鹿らしくないですよ、本当はやるべきなんだけれどパッと見、馬鹿らしいじゃないですか。それは正しいんです。本当はやっておいたほうがいいんだけど、そこまでは子どもたちはわからないから、やらないという選択をする。でもその子たちが頭が悪いか? と言われると、僕はそうじゃないと思うんですよね。
庵野:
馬鹿らしいと思ってやめてしまいました。
川上:
それであとで後悔することがあるんです。勉強しなかったみなさんはむしろ頭の良い人だと思うんです。逆にそれを信じてずっとやる人という人は、本当は頭が悪いと思うんですけれど、人生そっちのほうが成功するので、そのあたりの使い方を意識して考えていただいたほうがいいんじゃないかなと思います。
庵野さんも高校は全然勉強はしなかったですか?
庵野:
好きなところしかやらなかったです。数学Ⅰの確率とか、物理、化学、歴史も面白いことはやりましたけれど、それ以外は全部やらなかったです。
川上:
面白いところはやりますよね。
庵野:
面白いところだけチョイスして勉強すると、学期に一個は面白いところがあるので、そこで点数を稼ぐ。英語以外はそれなりに良かったんです。英語だけは単語を覚えてないのでダメでした。なんで綴りを一個間違えただけでダメなのか解せないです。
川上:
(笑)
庵野:
漢字もそうです。読めればいいと思います。ちょっと間違えたときに是正するのが人間じゃないですか。それが「×」ってなる。だから国語の漢字と英語の単語は大嫌いです(笑)。
川上:
実際に今なら間違えてもワープロが直してくれますよね。
庵野:
単語は辞書で引けばいいと思ってました。その頃から外付けに頼りっぱなし(笑)。今は日常会話だったら誰かが手伝ってくれます。アメリカに行っても、ヨーロッパに行ってもそこまでの不自由はないですけれど、唐突な会話が出てこなかったりすると、慣れしかないかなと思います。
僕は勉強は基本しなかったです。中学のときも一夜漬けでなんとかなるので面白くないんですよね。テストも減点式じゃないですか。結局、ミスをした人が弾かれる。面白いことをやっているというのは日本の試験では評価されないんですよね。ミスをしなければいいやと思ってしまうんです。
川上:
何の意味があるのかって絶対に考えちゃうんですよね。
庵野:
漢字の書き取りも正確に書けなくても読めればいいんじゃないかなと。進学校に入ってからの受験勉強には全然興味がなかったのでやらなかったです。麻雀のほうが面白かったです。
川上:
それってすごく正しいと思っていて、実際に社会で仕事をすると無駄なことをやっている人は負けるんですよ。無駄がないことをやっている人間しか勝たない。無駄だと思いながらも勉強をやって成績がいい人って弱いですよね。だけど受験勉強というのは勝者を振り分けるやつですから、割り切ってやるべきなんですよね(笑)。
庵野:
そういうものだと思ってやればいい。それにしがみつくとあまりよくないと思います。中学、高校が昔すぎてなかなか浮かんでこないです。
川上:
よく覚えてないですね。
庵野:
本当にアニメを作ったり漫画を描いたりばかりしてました。高校のノートが残っていて見たんですが、漫画ばっかり描いていて授業の書き写しがないんです(笑)。本当に漫画ばかりでした。
川上:
中学と高校時代は幸せだったんですか。
庵野:
どうでしょう。ずっと好きなことだけをやれているわけではないので。中学のときは軽いいじめもありましたので、ちょっと嫌な思い出もあります。
高校生の質問「学歴社会は続きますか」
司会:
話は尽きないと思いますが、生徒たちからの質問もあると思いますので、質疑応答に入りたいと思います。質問がある生徒はいませんか。
男子生徒A:
庵野さんに質問したいです。自分は映像に興味があるのですが、映像に興味を持ち始めたのは何歳くらいの頃からですか。
庵野:
小学校ですね。映像というよりは、「ごっこ」なんですけれど、ウルトラマンごっことか、仮面ライダーごっことか。テレビの中で行われていることを自分で反芻(はんすう)するということですよね。それが高じて、自分でフィルムにしたいと思ったのが高校の頃です。
当時は経済力がなくて8mmフィルムだったのですが、カメラを手にできたのが高二だったので、自分で映像を作り始めたのが高校からですね。昔からテレビが好きだったんです。ですので、そういうものを自分でも作りたいというのは最初からあったかもしれないですね。
男子生徒A:
僕、映像を仕事にしたいと思っているので頑張ります。
司会:
ありがとうございました。他に質問ありますか。
男子生徒B:
夢って持ったほうがいいですか。
庵野:
ないよりあったほうがいいです。
川上:
(笑)。
男子生徒C:
N高等学校が開講して一年三カ月ほど。最初の頃から教育の方法なども変わってきていると思うんですが、高校生が不登校になってしまったりする人がいる中で、これからどういった高校生が社会に出ていくとお考えですか。
川上:
うーん……。僕らの時代と比べて今の時代は不登校も多いんですけれど、天才少年・少女みたいな人の割合が増えている気がするんです。スポーツの面でもそうですし、数学とかも。
逆に不登校と言うと時間ができるわけですから、それを使って今までの日本が見出してこられなかったようなすごい才能も一方では出てきています。悪いことばかりじゃないなと思っています。
男子生徒D:
今の社会は学歴が優先される時代だと思うんですが、少しずつ変わってきていたり、学歴だけでは判断できないものも増えてきていると思うんですが、これからそういった学歴をあまり見ない社会も出てくるとお考えですか。
川上:
ビジネスの世界にいると、学歴を見る人っていうのは業種によるんです。たとえばIT業界で学歴を気にする人はいないと思います。
出身や田舎が一緒というので盛り上がったりするのと、大学が東大だって言って盛り上がるのって同じくらいのレベルです。実際社会ではシンパシーや派閥ができる印象はありますが、人間の能力を判断するのに学歴を根拠にするのは、今の社会ではすごく減っていると思います。
一部には残っていると思いますが、もうなくなりかかっていると思います。
庵野:
アニメ業界も大丈夫です。初期はあったんですけどね。エリートが入ってきたり。
川上:
では、エリートが作るものがダメだったということなんですね(笑)。
庵野:
宮さん(宮崎駿)とかエリートですからね。そういう人が初期にいて、僕が入った頃とかは本当にめちゃくちゃでいい加減なプロダクションだった。
男子生徒D:
エリートの人が土台を作って、学歴とか関係なくいろいろな方が入ってこられるようになった業界なんですね。
庵野:
はい。アニメは面白いですよ(笑)。
“好き”と“得意”は違う――自分のプラスアルファを見つける
男子生徒E:
庵野さんに質問です。趣味をいつから仕事にしようと思いましたか。
庵野:
成り行きなので、全然そういうのがなかったんです。流れに任せていたらこういう仕事についていました。
男子生徒F:
プラスアルファの話で、基礎にするのは何がいいんですか。
川上:
何でもいいんですよね。単純に損得で言うと、競争する人がいなくて、でも世の中に求められている仕事というのは単純に得ですよね。さらには自分に得意なものがいいですよね。その中で選んでいく。得意というのは好きとは別ですよね。
自分は好きではないけれども、どうやら得意らしいというものが世の中にはあったりして、そういうのを好きになってみようかなとか。そういうのをすると、自分に合ってなおかつうまくいく可能性が高い、自分のプラスアルファを見つけていけるんじゃないかなと思います。
先生:
まだ質問したいと思うところなのですが、通学コースの生徒もこの授業を見ていまして、Slackで質問が来ています。(質問を読む)一日の中で妄想する時間、考える時間はどれくらい費やしていますか。
庵野:
考えたり妄想することが僕の場合は仕事になっているので、それをしていない時間以外は全部そうですね。一日何時間とかではなくて、車の運転をしているときも今なら大丈夫っていうときは考えています。トイレでもお風呂でもそうです。一人でいる時間はほぼそうです。
仕事もそれを考えるのが仕事なので、机に座って仕事をしている間はずっとそうです。一日何時間かわからないですが、仕事が忙しいときは一日18時間くらいはやっています。
川上:
似たような感じです。ミーティングで喋っているときは相手が喋っている話を聞かずに妄想したりしているので。
庵野:
会議中は多いですよね。
川上:
多いですよね(笑)。つまんねーなと思った瞬間に妄想がはじまってしまいます(笑)。
庵野:
つまんない映画もいいですね。つまんない映画を見ているときにブワーっと出てくる。
川上:
つまんないライブとかもいいですね。妄想に入るんですけれど、つまんないのって考える時間がいっぱいあるんですよね。つまんないやつでも連想するネタとしてはすごくいい(笑)。
庵野:
刺激になりますよね(笑)。
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