【N高校】庵野秀明×川上量生による特別授業の模様を公開「受験勉強ってやりすぎると、バカになるんですよ。人間として頭が悪くなりますね」
カドカワが作るネットの高校、N高等学校の沖縄スクーリングにて、『エヴァンゲリオン』シリーズや『シン・ゴジラ』などで著名な映像作家・庵野秀明さんと株式会社ドワンゴの川上量生さんによる特別授業が実施されました。
特別授業では二人の中学・高校時代のエピソードが披露され、業界最前線の立場からN高生達へアドバイスを行いました。
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進学校に入学するも問題児扱いだった高校時代
司会:
きょうは庵野さんと川上さんに初めて沖縄スクーリングで授業をしていただきます。本題に入る前にまずお二人の高校時代の話を聞いてみたいと思います。庵野さん、中高時代はどういう生徒でしたか。
庵野:
中学のときは優等生だったんです。中学の勉強って一夜漬けでなんとかなるので勉強もそれなりにできつつ、あとは中二のときに『宇宙戦艦ヤマト』というテレビ番組にハマってしまいまして、それ以降はずっと『宇宙戦艦ヤマト』をカセットテープで録っていました。
お金がないのでそれを次の週には消さなきゃいけない。ですからそれまでに覚えられるだけ覚える。中学の記憶の大半は『宇宙戦艦ヤマト』のセリフと音楽です。
司会:
何か覚えているセリフは?
庵野:
今やると時間を食ってしょうがないので……。当時はこんなこと覚えても何の役にも立たないだろうなと思ってたんですけど、実際仕事でこんなに役に立っています。専門用語がスラスラ出てくるのは『宇宙戦艦ヤマト』のおかげです。中学のときに好きだったものが今につながります。
高校は地元では有名な進学校だったんですが、入ったところで「もういいや」って(笑)。入学式で「勉強をしない」って自分に誓ったんですよ。引き続き『宇宙戦艦ヤマト』を研究したり、部活は天文部と美術部でした。
庵野:
漫画とかアニメばっかりやってました。高校のときは進学校だったのでちょっと大変だったんです。問題児扱いです。進学校で勉強しないのは、人じゃないんですよ(笑)。先生にも叱られっぱなしで、しょうがなく勉強すると点は上がるんです。中間で上げて期末で落として平均的には赤点にならないようにする。
司会:
それはいい考えですね(笑)。
庵野:
調整していました。あとは麻雀ばかりやっていました。試験のときは早く帰れるからいいんです。「友達のところに試験勉強に行く」と親に言って、ずっと麻雀。
司会:
麻雀も頭を使いますからね(笑)。
庵野:
そうですね。高校生のときに一番ハマりました。アニメ、『宇宙戦艦ヤマト』、麻雀でした。あとは漫画ですね。
司会:
中高でハマったものがいきているんですね。
庵野:
運が良かったんです(笑)。
司会:
運も実力のうちですからね。それでは川上さんはどんな学生時代を送りましたか。
川上:
中学校は公立で高校は私立でした。当時はそれが普通だったんですが中学校はとにかく最悪で、学校でガラスが割られていたり……。クラスで、誰か1人日替わりでターゲットを決めて、みんなでボコボコにするという遊びが流行っていました。僕がターゲットになったとき、どうしても納得できなくて反撃しちゃったんです。
川上:
そうすると先生に怒られて、「相手も悪いけどお前も悪い」って言われました。なぜ悪いのか理解できなくて、先生に反論するんですけれど2、3時間くらい説教されました。今でもあれは一体何だったんだ? と長い間結論が出なかったですね。
子どものときって大人は賢いと思うじゃないですか。でも違うんですよ。大人ってたいして賢くないんです。先生には僕が知らない答えがあると思ったんですよ。でも、なかったですね(笑)。
単に先生はめんどくさかっただけ。両方共悪いということにして、この問題を終わりにしたい、それだけだったのが当時はわからなかったですね。
司会:
やられているときって、忍耐がつきますか?
川上:
つかないですよそんなの(笑)。でも「世の中の理不尽さになれる」という肯定的な考えだったらあるかもしれないですけれど(笑)。どっちかと言うと、特に必要なかったんじゃないかなと思います。
司会:
いろいろなことを経験してきたお二人です。今に続くことがいっぱいあると思います。ではここからはお二人にフリートークで授業を進めていただきます。よろしくお願いします 。
コミュ力を上げるのは“学生時代の片思い”
庵野:
好きなことってやってましたか?
川上:
僕は好きなことしかやらなかったですね。
庵野:
中学、高校で好きなことを見つけて、それを継続できるかを確認するような感じですよね。
川上:
「好きなことをやっている」って偽善ぽいと言うか、綺麗事っぽく聞こえる部分がある。何の役に立つんだろう? って思ってたんですが、最近結論が出ました。好きなことをやると、好きだから忍耐力が自然とつくんです。
庵野:
そうですよね。
川上:
世の中のたいていのことって結局努力できるかどうかで決まるから、好きなことをやっている人は、その後の人生で努力できる限界値が普通の人より増えるんです。それが一番じゃないかな、中身はどうでもいい(笑)。
庵野:
そうですね、スポーツでもアニメでも漫画でも。あとは何をやっておけばいいですかね……。
川上:
コミュニケーション能力って大事って言うじゃないですか。いろいろな会社でも言われると思うんですが、それをどのようにして上げるか。僕の中の結論なんですけれど、恋愛がいいな。それも片思いですね。僕の持論なんですけれど、若いうちに片思いをやるのがすごく重要。恋愛がうまくいっているやつはダメですよ(笑)。
人間って、基本的に自己中心的な生き物なんですよ。他人のことを思いやることができるというのが、人間としてすごく重要です。極端な例を言うと詐欺師は人の気持ちを思いやる人間にしかなれないんですよ(笑)。
川上:
だって騙すために相手が何を考えているのかをわかっていないと。人間にとって人の気持ちがわかるということは重要なスキルなんですが、どういうときに人間が他人の気持ちを思いやるかというと恋愛ですよね。それも成就しちゃダメ。成就すると自分のことしか考えないから。
成就しない恋愛って若いときにしか、できないと思うんです。年取ってやると犯罪になっちゃうじゃないですか(笑)。
庵野:
ストーカーみたいになっちゃいますね。でも成就しない恋愛だったら、アニメのキャラとなら成就しないですよ。
川上:
僕、アニメが社会的に悪いことをしていると思うのは、アニメのキャラが本当はどう考えているのかっていう結論が出ないんですよね。人間だったらそこで答え合わせができるじゃないですか。アニメは答え合わせをするためには、続編を作ってもらわないと(笑)。
庵野:
サザエさんなら大丈夫ですよ(笑)。
川上:
ならサザエさんに恋愛をすればいい(笑)。そういうバーチャルなものもいいですが、感情移入してその人の気持ちを考えることが、そのあとの人生にすごく重要なんじゃないかなと思います。そうでもしないと人間は自分のこと以外考えないですからね。
人の気持ちがわかる人が結局世の中では強いですよね。 綺麗事の部分もありますけれど、損得というのを考えても、やっぱり他人のことを考えるのが……。
庵野:
大事ですよね。コミュニケーションってそういうことですよね。想像したり、スキルを高めるには中高でのコミュニケーションというのは大きいです。
川上:
口でのコミュニケーションだけじゃなくて、文字を使うコミュニケーションも重要ですよね。LINEなどを使ってどういうコミュニケーションをとるのかも重要な気もしますし。作品を作るのも、世の中に対するコミュニケーションですよね。
庵野:
そうですね。作品を作ることでしか世の中とつながらないので、だから作品を作るっていうのがありますね。
庵野秀明「英語は絶対に喋れたほうがいいです」
庵野:
あと僕は唯一やっておけば良かったと思うのが英語なんです。中学一年のときに、最初の英語の先生がすごく嫌な感じで、先生の授業が大嫌いだったので僕は一生英語は勉強しないと思った。
川上:
英語を恨んでしまった(笑)。
庵野:
逆恨みなんです(笑)。英語は自分の人生になくても大丈夫だろうと思っていましたが、今は本当に喋れたら良かったと思います。英語は絶対に喋れたほうがいいです。これからの日本の状況を考えると英語だけはやっておいたほうがいいです。英語さえ覚えていればなんとかなりますよ。
川上:
だいたいそうですね。英語が重要であるにもかかわらず、日本では喋れない人がほとんどなので。
庵野:
英語が喋れるだけで就職が有利になりますからね。本当に英語だけはやったほうがいいです。つくづくそう思います。川上さんは喋れます?
川上:
僕は英語は根性英語ですね(笑)。喋れないってことなんですけれど(笑)。根性を出して喋っている感じですね。
庵野:
いいですね。
川上:
やったほうがいいですよね。プラスアルファというのが重要で、帰国子女って当然喋れるんですよね。日本の社会で強いかと言われると、実はそうではなくてやっぱりあるスキルを持っていて、プラス英語というのがすごく強いんですよ。単純に英語が喋れる人は通訳扱いされるんです。
道具みたいに思われることが多くて。実際に仕事を持っている人のプラスアルファの英語ってすごく強いですよね。これは英語だけじゃなくて、あらゆることに言えるんですが、プラスアルファは強い気がします。二つ持っているというのは強いです。一つだけだと競争が激しいと勝てないですよね。
川上:
どんなゲームであれ全国ランキングのベスト10に入るのは難しいと思うんですが、それは真剣にやっている人がいるからですよね。僕はたとえば数学を勉強しているんです。
大学の数学科の学生とかに比べたら僕のは大したことはないのですが、たとえば上場企業の経営者の中で、僕の数学の力はひょっとすると一番の可能性があると思っています(笑)。そういう立場にある人がやらないことをやると、プラスになりますよね。
庵野:
数学なんて役に立ちますか?
川上:
何が役に立つかですよね。僕、世界の秘密を知りたいんです。宇宙とは何か、時間とは何か。結論は出ないんですが。それについて書いてある本っていっぱいあるんです。でもそれって数学がわからないと内容がわからないんですよ。
庵野:
わからないですよね。ブルーバックスを読んでいたら、そこで挫折しました。数式が頭に入ってこない。
川上:
僕、それが今はすごくわかるんです。
庵野:
全然羨ましいとは思わないな(笑)。「良かったですね」、くらいはありますけれど(笑)。
川上:
ブルーバックスでわからない数式がわかるようになったんですけれど、わかってみたらあまり重要じゃなかったっていうのが、ほとんどだったんですよね。そこがわかっても、知りたいことが100あるとしたら実際には5くらいしかわかってなかった。
庵野:
数学Ⅰまでは楽しかったんです。数学ⅡBあたりから「これはもう自分の人生に関係ない」と思ったんです。
川上:
後悔しますよ(笑)。
庵野:
いえいえ、英語はやっときゃ良かったと思いますけれど、数学は未だに必要性を感じません。電卓ができた瞬間に暗算もいらないと。全部外付けにやってもらえばいい。そういう難しいものは誰かに教えてもらえばいい。結論だけ知りたいです。
川上:
数学って結論って何かというのがわからないですよ。世の中数学が嫌いな人のほうが多いと思いますが、もし数学をやりたい人は高校のときからやるといいです。大学まで待っているのは遅いです。