スマホで撮影→即入金・質屋アプリ「CASH」創業者に、1日でサービスが停止した時の話を聞いてみた。「トラック丸一台分の荷物、どうすればいいですか?」
スマートフォンで撮影した商品を即座に査定し現金化するサービス「CASH(キャッシュ)」。6月のサービス開始直後わずか16時間で約3億6千万円がキャッシュ化されサービスは一時停止したものの8月にはサービス内容を修正して再スタートを切りました。
プログラマーの小飼弾氏がホストを務める『小飼弾の論弾』では、CASHのサービスを提供する株式会社バンクのCEO・光本勇介氏がゲストとして登場し、小飼氏と山路達也氏にCASHを生み出した発想やサービス停止当時の状況などを語りました。
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CASHのサービスとは――16時間で1万件超えの査定
山路:
光本さんは最近CASHというサービスを立ち上げられまして大変な勢いで話題になりましたよね。
小飼:
会社の名前がバンク。
光本:
バンクという会社です。
小飼:
「BANK」でバンクですよね。これは日本の商法は許しているんですよね。どういうことかと言いますと、例えば「◯◯銀行」というのを屋号に使うのは、本当に銀行業をやっていないとだめなんですよ。業種によっては「銀行です」とか「証券です」とか「◯◯生命です」というのは勝手に名乗れないんです。
山路:
しかし、あのソフトバンクというのがありますからね。
小飼:
そうなんですよ。だから僕はすごく引っかかるんですけどね。僕がなんでそんなところに引っかかったかと言いますと、かつて日本の商法ではアルファベットの屋号は使えなかったんですよね。カタカナ書きじゃないといけなかった。
山路:
最近、できるようになりましたよね。
小飼:
比較的最近できるようになったんですけど、もしそうだとしたらアルファベットで書かれた意味というのを見なくていいのかな、というふうに考えたんですけれど(笑)。
光本:
一応法務局で認めていただいて無事登記できました。
小飼:
特に文句は言われませんでした?
光本:
そうですね、すんなりと。
小飼:
確かあれは法務局ごとにユニークであればいいんですよね。だから別の法務局に行って同じ屋号申請をしたら通っちゃうということか(笑)。
山路:
いきなり裏ワザみたいなものが(笑)。まずはこのCASHというアプリ、こちらになるんですけれども。
小飼:
アプリだけなんですよね。
光本:
そうなんです、今は。
小飼:
そこもすごいですよね。僕のMacで画面だけお見せします。
山路:
これで商品を写真でパシャリと撮って、そうすると商品が査定されてすぐに名前通りキャッシュが振り込まれる。6月に最初に公開されたときは、ものすごい勢いで査定申し込みがあって、7000件でしたっけ……。
光本:
結果的には一万個以上のアイテムが送られてきましたね。
小飼:
自称iPadの醤油刺しとかも来ました?
光本:
全然来なかったです。
小飼:
醤油パックを写真にとって、「iPad」とキャプションをつけたら2万円振り込まれるとか(笑)。
山路:
ものすごく殺到したことで3億6千万円が現金化されたという、話を聞いているだけでキュンと内臓が縮まるみたいな話だったんですけれど、初日に一旦サービスを停止されたんでしたっけ?
光本:
そうですね。
山路:
それで「このサービス大丈夫なのか?」みたいなことも、いろいろなメディアで取り上げられたりしました。最初は「デジタル質屋」とか質屋的なことを言う人が多かったですよね。
光本:
そう言われることが多かったです。
小飼:
それはなぜかと言うと、商品を買い戻すこともできたんですよね。確か手数料が15%でしたか。
山路:
そういう意味で質屋というのはご自身では名乗られていないんですよね。
光本:
そうですね。
山路:
質屋は質屋で法律があるわけですもんね。
光本:
質屋としてやる場合はたぶん質屋業の免許を取らなくてはいけないと思います。
山路:
CASHというのは質屋とかではなく、言ってみれば査定などを極限まで簡略化した古物商だと思った方がいいですよね。
光本:
その通りです。すごく簡単に言っちゃうと即金の買い取りアプリですね。
小飼:
物が来る前に金が振り込まれるというところが一番新しいところではないかと。ただその15%手数料を払うと商品を取り戻せるというのがあったおかげで「質屋なんじゃないか?」というような見方も出て……でもそれはリニューアルのときになくしたんですよね。
光本:
そうですね。私たちは基本的に買い取った物をまた現金化して、仕入れた価格と私たちが販売した価格の差分をビジネスしていくモデルとしてやっていこうと思っておりました。
光本:
私たちはそもそもそれを仕入れてビジネスをする予定だったので、その機会損失分としてキャンセル手数料を15%いただこうと思って値付けしていたんですけれども、結果的にはそういった見方もできるんじゃないかというコメントはいただいていたのは認識しています。
翌朝、トラック一台分の物品がオフィスに……
山路:
ちなみに当日とかの混乱ぶりは、たぶん心臓にダメージがくるくらいの混乱があったんじゃないかと思うんですけれども、その現場の状況というのはいかがでしたか。
光本:
ありがたいことでもあるんですけれども、本当に私たちの想像をはるかに超えて話題にしていただいて使っていただいたので、当初に予定していたよりも、はるかに超えたお金が勢いよく出ていってしまいました。夜になったら落ち着くかなと思っていたんですけれども、夜になるごとにどんどん勢いを増してお金が出ていってしまいました。
光本:
お金もそうなんですけれども予算を超えていたのというのと、さっきお話をさせていただいたように10時にリリースして16時間後くらいのタイミングで、一万個くらいのアイテムが集荷依頼されていました。私たちは5人ぐらいの会社でしたので、それが自分たちのオフィスに届くというのがわかっていたので、これはもう……(笑)。
小飼:
トラックの絵が出てきましたよね、ホームページのリニューアルのときに(笑)。
光本:
止めないと物理的に私たち自身が回らないので、本当は止めたくなかったんですけれども止めざるを得なかったというのがあります。
山路:
翌日とかそれぐらいから荷物が届き始めるわけですよね。
光本:
なのでもう夜中の時点で集荷を止めて家に帰りました。次の日の朝早くに私の携帯が鳴って、運送会社の担当者の方の電話で「トラック丸一個分が今オフィスの前へ停まってるんですけど、これからどうすればいいですか?」っていうので次の日起こされました(笑)。
山路:
なんて言うか、飛び起きますよね(笑)。一瞬で目が覚めますよ。
光本:
結局、私たちもやってみなきゃわからなかったんです。そもそも、みなさんが送ってくれるかどうかもわからなかったんですけれども、その日以降からは、とにかく荷物が来まくってしまったのでサービスを止めていました。へこむ前にそれをこなしていくので精一杯な日々が10日とか二週間ぐらい続きましたね。
山路:
二週間ぐらいである程度何とかなった?
光本:
停止するまでの16時間分の取引分しかないので、それをどんどん消化していくのに二週間かかったっていう感じですね。
山路:
5人でそれは……(笑)。
光本:
アルバイトを一日10人ぐらい毎日雇って、ひたすらこなしたという感じですね。
山路:
倉庫とか借りて?
光本:
そうです。倉庫とか借りたり、いろいろな方のスペースを貸していただいたり……。
山路:
しかも品物は、例えば傷物かどうかとか、汚れがあるかどうかとか確かめなきゃいけないわけですよね。それってその5人のスタッフとアルバイトで全部やったんですか。
光本:
送られてきた物が正しいかどうかっていうのは、私たちじゃ絶対処理できなかったので、それを買い取っていただける企業さんに委ねていた感じですね。二次流通のプロフェッショナルの方にアウトソースした感じです。
サービスのきっかけは「少額資金の需要にカジュアルに応える」という発想
山路:
元々の狙いは、「物を売りたい」っていう人がオークションとかにかけたり、あるいは中古屋に持っていくような、そういう手間を肩代わりしますよみたいなところだったわけですか?
光本:
買い取りのサービスを作りたいとか二次流通のビジネスに興味があったとか参入したいとかっていうのでは全然なくて、私が一番興味があったのは「世の中に少額の資金ニーズっていうのが潜在的にものすごいあるんじゃないかな」っていうところです。
私が言う少額って1万円とか2万円っていうレベルなんですけども、実はこのニーズとか需要というのが莫大にあったとしても、需要に対して超スピーディーにハードルが低く、カジュアルに応えてあげられているサービスとか企業っていうのが実はないんじゃないかなと。
光本:
私は需要がすごくあると思ったので、この需要に対してものすごいスピーディーにハードルを低くカジュアルに応えてあげられるようなサービスを作りたくて、結果的に表現がああいったCASHという形になった感じですね。
山路:
古物商に参入するわけでも何でもなかったと。狙いとしてはグラミン銀行【※】的なものなんですか。
※グラミン銀行
バングラデシュの銀行。貧困層を対象に無担保の少額融資を専門にする銀行。
光本:
まあ……そうですね。
小飼:
別の言い方をすると、形の上では物を買い取るサービスですよね。
光本:
物を買い取るサービスです。なので即金でお金を供給してあげたり、少額の資金の需要を満たしてあげるためにはもちろん何かしらの取引が必要なので、そういった形で私たちはその方を信じてその方が申請してきた物をその瞬間に買い取って振り込んであげるっていうふうにしたんです。
小飼:
でも少額のニーズがあるって言ったときに一番頭に浮かぶのは少額を貸して利子をバッチリ取るような「お金を貸す」ことですよね。なんで貸し金ではなく物を買い取るサービスにしたんですか。
光本:
いろいろな理由があるんですけども、そもそも貸し金として貸し金業の免許を取ってお金を供給するためには、もちろん法律とか貸し金業のルール上いろんなプロセスを経なきゃいけなくて……与信を取らなきゃいけないんですよね。
なので「持ち家はありますか」とか「年収はどうですか」「家族構成はどうですか」とか「どこの会社に勤めてますか」とか、あとは本人確認書類を提出してくださいとか。それを踏まえた上でまた与信のチェックをしなきゃいけなくて……。
そういったいろんなプロセスとか、たくさんの情報を得た上で、この人は大丈夫と判断してお金を貸す。ただ私たちはさっきお話させていただいたように、ハードルを低くスピーディーにその需要を満たすことを実現したかった。貸し金の観点のルールに基づいてやると、私たちがやりたいような需要に対する供給はできないと判断したので、お金を貸す形はやめました。
山路:
人を査定するよりも物を査定する方が簡単っていうことだったりするわけですね。
光本:
そうですね。簡単に言うと、もしかしたらそうかもしれないですね。
山路:
決まったブランドの決まった物はある意味、価値が完全についているけども、人の信用力みたいな物を計るにはそれなりのコストがかかる。
光本:
その通りです。与信をチェックするってコストがかかるんですよね。コストもかかるし時間もかかるし、その分ある程度の金額を融資しないと……。なのですごい少額の融資はあまりないんですよね。消費者金融の1人あたりの融資平均はだいたい50万円ぐらいと言われているんです。
山路:
そんなものなんですか。
光本:
逆に私は50万円もあるのかと思うんです。少額の資金ニーズを持ってる人がたくさんいるのではないかなと思います。
小飼:
その十分の一でいいからすぐに欲しいような?
光本:
そうです。むしろ与信というプロセスも飛ばせたらもっと多くの方に求めていただけるようなサービスが作れるんじゃないかなとは思いました。