平野綾 「声優はアニメだけ出てれば」と言われないために。『ハルヒ』によってスターダムを駆け上がった後の役者人生における“逆境からのリスタート”【人生における3つの分岐点】
分岐点3:本格的なミュージカル進出で留学を決意
──激動の時代から「立ち止まって考える時間を作ろう」という考えに変わるまでには、何か気付きを得るような出来事があったのでしょうか?
平野:
念願の舞台のお仕事が入ったことが大きかったです。
──2011年に出演された『嵐が丘』でしょうか。
平野:
子役になった理由はミュージカルに出たかったからなので、『嵐が丘』のお話をいただいたときは「ついにこの時がきた!」と思いました。でも、そのときはまだビギナーズラックでなんとかなったんです。
考えが変わる本当に大きなきっかけは、そのあとにオーディションを経て出演することになった『レ・ミゼラブル』でした。
──『レ・ミゼラブル』では、何があったのでしょう?
平野:
その時点での自分の技術では、まったく太刀打ちできなかったんです。
独学でやってきたことが多かったので、ちゃんと舞台を学んでレッスンしてきた方々の中に入ると、あまりにも浮いてしまって全然勝負にならなかった。自分のやりたいことが表現できる程の技術もないし、悔しくて……。
『レ・ミゼラブル』でそれだけ悔しい思いをしていた後に、『レディ・ベス』という帝国劇場のミュージカルで、まさかの初主演が決まったんです。『レ・ミゼラブル』同様にオーディションで決まったのですが、まさかの大抜擢で……。宝塚出身の方々の華麗なドレス捌きについていくだけでも必死だったのに、唯一買われていた歌でも大きな壁にぶち当たって……。初演は、悔しい想いしかありませんでした。
これではダメだと思い、やはり一からレッスンをしっかりと受けて学び直そうと思ったんです。
──独学ではなく、初心に帰って学ぼうとされたのですね。
平野:
そうですね。『レディ・ベス』は初演の3年後に再演することが決まっていたので、3年間で出来ることはすべてやろうと思いました。
それで、レッスンに取り組むことの延長で留学を決めたんです。本場に行き、学ぶ為だけの時間を作ろう、と。それまでのお仕事は辞めさせていただいたり、お休みさせていただいて、何もツテが無いまま単身でニューヨークに行きました。
──平野さんほどのキャリアがあって留学というのは、とても大きな決意ですよね。
平野:
そうですね。だから、3つ目のターニングポイントは「本格的なミュージカル進出をきっかけに、留学を決意したこと」です。
──相当な覚悟がないと出来ない決断ですね。
平野:
日本に帰ってきたときに、仕事がなくなっていても仕方ないなと思っていました。でも、そうなったらまたイチから頑張ればいいし「実力があればチャンスは絶対に掴める!」と信じて留学しました。
──そもそも舞台の仕事を中心に据えたとき、声優としての平野さんのファンの中には、「もう違う業界の人になってしまった」という感覚を持たれた方も少なくなかったような印象があります。そこでさらに舞台でも厳しい状況に身を置いていた。平野さんご自身の心境はどうだったのでしょう?
平野:
声の仕事はずっと続けていたので、めちゃくちゃ寂しかったですね。
でも、事情を説明したところで、ファンのみなさんからしても困ってしまいますよね。だから、いまは何を言われても仕方ない、とにかく舞台で結果を残せばわかってもらえる……!、と考えるようにしました。だから何も、言い訳のようなことはいわない、と。
──なるほど。敢えて何も言わなかった。
平野:
『涼宮ハルヒの憂鬱』で「声優」と名乗ったときもそうでした。他の仕事に区切りをつけて「声優」に絞った。声優の仕事に対して失礼なことをしたくない、真剣に向き合いたいからこそ、そう思っていました。
舞台のスケジュールは数年先まで押さえられていて、作品に携わっている間は他の仕事をするのが難しい。専念するしかないんです。舞台の現場で「声優はアニメだけ出てれば」と言われないように、真剣に取り組んでいることを分かってもらう為にも、たくさん勉強しました。
キャリアを重ねて自由になった
──興味深いのが、「声優」と名乗り始めたときも、舞台を活動の主軸にされたときも、平野さんは覚悟を持って決断をされている。でも、気がつけばそれらのキャリアが融合したり、互いにいい影響を与え合ったりしておられるような。
平野:
それは時代の変化もあるのかもしれません。昔はもっと、アニメで私のことを知ってくださった方は、舞台には興味がなかったと思います。でも『ハルヒ』がブームを巻き起こした17年前よりも、今のファンの方々は情報をキャッチする力が、ジャンルを問わずに手広い。舞台の中でも、アニメとどこか世界観が通ずるようなものがあったり、ライブの良さに気付いて、反応してくださったりする。
あとは年齢かな。私が30代半ばになって、肩書やジャンルにとらわれない「なんだかよく分からないけれどもいろいろやっている人」の枠に入れたんだと思います(笑)。なんの仕事をしていても、最終的に平野綾だったら良いんです。
──ああ……年齢とキャリアを重ねて、自由になられた。
平野:
そういった感覚は強く持っています。ハルヒを演じているときから「早く30代になりたい」と口にしていたんです。いまが一番楽しくて、何の思惑やプレッシャー、負荷もなく、一番やりたかった舞台の仕事が出来ている。
でも、それも多忙な時期と全く仕事がない時期、両方を経験したからこそだと思うんです。あの頃を覚えていてくれる人、知っていてくれる人がいる。それだけで大きな支えになっています。
──これからも、他の仕事ももちろんですが「舞台俳優としての平野綾」「声優としての平野綾」どちらでのご活躍も楽しみにしております。
平野:
ありがとうございます。先日発表されましたが、秋に3年ぶりのコンサートがあります。しかも初のクラッシックコンサート!ミュージカルソングは勿論のこと、アニソンやJ-POP、ジブリメドレーまでセットリストに入れて、私にしかできない振り幅のあるコンサートにしたいと思っています。
来年にも「アニメと舞台の両方をやっているとこんなことが出来るんだ」と思っていただける展開があるので、ぜひ楽しみにしていただきたいです!
──いま、平野さんのキャリアで、そうした流れが来ているのかもしれませんね。昨年公開の『ミラベルと魔法だらけの家』も、ミュージカルでのキャリアと声優としてのキャリアが結びついたような思いで拝見しました。
平野:
あの作品では、ようやく夢だったディズニー作品に出ることが出来て、うれしかったです。
実は声優のお仕事をメインでやっていた時代にも、何回もオーディションを受けていたのですが、落ちているんです。その時にはやはり声の印象が強くて、声を聴いて他のキャラが浮かんでしまうのが厳しかったそうで。声優業からちょっと距離を置いて、舞台で培った技術を活かしたことで、その問題がクリアされた。少し回り道をしたら、正解にたどり着いたんですよね。
──どんどん夢をかなえてこられたわけですが、ここから先、さらなる未来の夢はありますか?
平野:
舞台をやり、声優をやり、歌手としても活動していて、海外の方にも情報発信できる立場にある人は、なかなかいないと思うんです。実際、海外のニュースで「ハルヒの声優が『レ・ミゼラブル』のエポニーヌを演じている」という記事を見かけたり。私にしかできないことはまだいっぱいこの世界にありますし、私自身、役者としても、「平野綾」という人間としても、やりたいことは尽きません。
ニューヨークに留学したとき、ボイストレーニングの先生に「人間は30歳で生まれるんだよ。それまでは、生まれるまでの前段階。そこまでにどれだけ準備をしたかによって、生まれてからの人生が決まる」と言われたのが、強く印象に残っているんです。私はそれでいうと、まだ4歳(笑)。いままでの経験を生かして、ここからどう進んでいくか。楽しみながら挑戦していきたいと思っています。
──今日は貴重なお話をたくさんありがとうございました。これからのご活躍を楽しみにしています!
2022年9月1日。平野綾さんが自身のブログで所属事務所の契約をを満了し、独立したことを発表した。
ブログには舞台の仕事や留学の後押しをしてくれた事務所への感謝と共に、「新たな環境でもひとつひとつの仕事に真摯に取り組み、日々感謝しながら私にしかできない表現を追求していきたいと思っています。」と書かれていた。
“平野綾にしかできない表現”。本インタビューで語られたように、子役・声優を経て舞台役者の道へと進んだ、唯一無二の人生を歩んできた彼女だからこその展開を見せてくれるはずだ。
平野綾さんの、まさに“人生の分岐点”を迎えたタイミングでインタビューさせていただけたことに心から感謝しつつ、これからの平野綾さんの活動を楽しみにしたい。
平野綾さん直筆サインをプレゼント!
インタビュー後、平野綾さんに直筆サインを書いていただきました。今回はこの直筆サインを1名様にプレゼントします!
プレゼント企画の参加方法はニコニコニュースTwitterアカウント(@nico_nico_news)をフォロー&該当ツイートをRT。ご応募をお待ちしています。
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— ニコニコニュース (@nico_nico_news) September 16, 2022
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▼インタビュー記事https://t.co/VJDwFwKCiM
締切:2022/9/23(金)23:59 当選はDMでお知らせします。 pic.twitter.com/T7vFKGCsl8
平野綾さん撮りおろしフォトギャラリー
インタビュー後、平野綾さんのフォト撮影を行いました。
記事とあわせて、ぜひお楽しみください。
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